第十七話 裏切りのサクラ
それはいつも通りの通学路。
寒さのせいで布団から出るのが遅れたせいで、遅刻気味な時間ではあるが、もう「少しくらい遅刻してもいいや」と若干あきらめ気味にゆったりと歩いていた。
いやね、多少遅刻したところで、今まではマジメに登校していたんで、別に出席日数が足りなくなるわけでもないし、焦る事なんて何もないからと思ってはいたんだけど……
「……いてっ!!?」
突然額に物凄い衝撃を受ける。
衝撃を受けた部分に手をそえてみると、うっすらと血が滲んでいた。
変身前とはいえ、私の自動防壁ぶち抜いてくるとか、これ完全に命狙ってるだろ!?焦る事なんて何もないとか思ってる場合じゃなかった。
ってか、変身前の私の防壁を抜いてダメージ加えられるヤツなんて、この世界には数えられる程度しかいない。
6人……いや、絵梨佳が加わった事を考えると7人かな?……あ~、そう考えるとそこそこいるな。
すぐさまサーチ魔法で周りを見てみると、犯人と思われる反応が木陰に隠れていた。
「ッチ!……不意打ちでもこの程度しかダメージないなんて……ホント、アンタどういう魔力してんのよ?」
私の視線が自らの方を向いた事で、発見された事を察し、木陰からゆっくりと姿を現しながらぼやきだす。
「どういうつもりだよ?今の攻撃、私じゃなきゃ死んでたぞ……サクラ」
木陰から出て来たのはサクラだった。
ヴィンテージ物っぽい擦り切れた感じのジーンズを履き。擦り切れた部分の隙間から見えるのは地肌ではなく、黒っぽい生地が見えているので、中にタイツかレギンスでも履いているのだろう。上半身は厚手のコートを着込み、首にはマフラーを巻き、頭部はニットの帽子、そこから暖かそうな耳当てが飛び出している。
……って、いくら今が真冬とはいえ、重装備すぎるだろオイ!?
動きにくくね?どう考えても今から戦闘しようって格好じゃないだろコレ!?
「問題無いわよ。アンタ以外を攻撃しようとは思ってないし、殺すつもりで放った一撃だったし……もっとも、本気でアンタを殺せるとは思ってなかったけどね」
何かとんでもなく物騒な事言ってんなコイツ。
「サクラ……大丈夫か?よだれ垂れてるぞ」
「垂れてない!!」
うん、いつも通りな反応だ。
別に洗脳とかされて私の事襲ってきたってわけじゃなさそうだな。
「待ってサクラさん!何でお姉ちゃんを襲ってるの!?」
サクラから遅れる事数分。絵梨佳が息を切らして走ってくる。
「何でって?……魔王を倒したいんでしょ?」
「倒したいってわけでもないけど……でも、それで何でお姉ちゃんを攻撃するの!?」
ああ、成程……何となく話が読めたぞ。
絵梨佳のやつ、魔王反乱軍にサクラも勧誘したな?
忠誠心の薄いサクラを選んで声をかけるあたり、いちおう人を見る目はあるのかもしれないな……
まぁともかく、勧誘されたサクラは、しめたとばかりに普段のウップンをはらすチャンスを得て、絵梨佳の静止も聞かずに即行動して、絵梨佳はそれを必死になって追いかけてきたって感じかな?
馬鹿だな絵梨佳……追うなら変身してからじゃないと、魔力持ちのサクラには追い付けないだろうに……その辺も経験が足りないせいなのかな?
「いい?魔王は滅多な事じゃ人前に姿を見せないの。そんな魔王を引きずり出すには、アンタの姉を追い詰める必要があるのよ」
何やら色々と絵梨佳に説明するサクラ。
うん、言ってる事は間違ってはないな。
私の正体が魔王だって事を絵梨佳に言わないで説明してるあたり、いちおうは空気を読んでるのか、サクラのちょっとした優しさというか配慮なのかはわからんけど。
「わかったらアンタも変身して協力しなさい!流石にコイツの相手を私一人でするのは無理よ」
サクラに急かされて、絵梨佳は物凄く申し訳なさそうな顔でチラチラと私の方を何度か見ると、意を決したかのように魔法少女の姿へと変身する。
まずいな……
変身してない私の魔力はサクラと同程度だ。
サクラ一人なら戦い方次第で何とかできるだろうけど、そこに戦闘経験がほぼ無いに等しいとはいえ、魔力量が変身前の私より大きい絵梨佳も加わるとなると、変身しないと負けるんじゃないか私?
でもなぁ……絵梨佳の前で変身して魔王だってバレると、非人道的な事しまくってたのが私だって知られて、姉としての信頼が完膚なきまで地に落ちるだろうから、それは避けたいんだよなぁ……姉としての無意味なプライドってだけなんだけどね。
『いいのかサクラ?私は魔王軍の最高位にいるんだぞ?その辺わかってて私に逆らってんのか?』
『そ……それが何だっていうのよ!』
とりあえず現状好戦的なサクラを説得してみようと、サクラへと念話を送ると、サクラもそれに対して念話で返答してくる。
『オマエの人事権……魔王軍をクビにする権限が私にはあるって事だ……再就職にアテはあんのか?ホームレス生活に戻らないといいなぁ?サクラ……』
『なっ!!?ぐぅぅ……ひ、卑怯な手を……』
『フハハハハ!何とでも言うがいい!貴様に給料を与えるかどうかの最終的な決定権が私にあるという事実は何も変わらないのだからな!』
「ごめんお姉ちゃん!今すぐ魔王さんをここに呼んでくれれば私達お姉ちゃんに危害を加えたりしないから!お願い!降参して!」
って……ええええええぇぇ~~!!!?
折角サクラの説得に成功しそうだったのに、何でこの子やる気になっちゃってるの!?
念話か!?念話で会話してたのがまずかったのか!?
いや、それにしたって少しは空気読めよ絵梨佳!?オマエの隣で、サクラ追い詰められたような表情になってただろうが!?
どうする私!?どうやってこの場を切り抜ける?
………………
「わかった絵梨佳……魔王呼んできてやる……サクラもそれでいいか?」
「うん!」
「へ?」
私の言葉を聞いて、満面の笑みを浮かべる絵梨佳と、不思議そうな顔をするサクラ。
そんな二人の表情を確認して、私は転移魔法を発動させた。
…………
……
「あれ?裕美様……今日は休みなのかと思ってましたよ。何かあったんですか?」
転移した先の学校で、幸に話しかけられる。
「ただの寝坊だ。気にするな」
「寝坊って……もう1限目終わってるぞ……遅刻なのに堂々としすぎだろ裕美」
そして私と幸の会話に横から入ってくる美咲。
いつも通りな学校でのやり取りだ。
ふふ……
ふははははは!!
馬鹿共め!『魔王呼んできてやる』とは言ったが『今すぐに』って誰が言った?
とりあえず無事に逃げられて一難去ったんで、この時間を有効に使って対策でも考えておくかな?
貴様等は寒空の下、私が学校終わるまでずっと待っていればいい!
あ、でも可哀想だから絵梨佳には後で軽く謝っておこうかな?
サクラは……どうでもいいや。




