第九話 魔王様は仕事をさぼりたい
それはまさに唐突だった。
夜に自分の部屋でテレビを点けっぱなしで、ベットの上で寝転がってボーっとスマホを眺めていた。
そろそろテレビからニュースが流れるといった時間に、ヴィグルが部屋にやってきた。
「美咲さん達が来ていたせいで、報告を忘れるところでしたが、とりあえず先に結果だけを言いますと『半分は魔族は関係ない』です」
「…………はぁ?」
過程を言え、意味がわからん!
『警察によると、名誉魔族による犯行とみて捜査に乗り出していますが、当の魔族側は犯行を否定しております』
ふいにテレビから聞こえてきた声に振り向く。
そこにはテロップで『ビル建設現場破壊・犯人の容姿は人間』という文字。
「はぁ!?」
こんな事すれば、私に何されるか理解してない馬鹿がまだいたのか?
「さっき言ったのはコレの事?ヴィグル、説明!」
私はベットから起き上がり、椅子に座り足を組み、ヴィグルを見下す。
「はい、本日正午頃ビル建設現場で働いていたドゥールが何者かに襲われ負傷しました。抵抗し交戦になり、その巻き添えで建設中のビルが倒壊した模様です」
ドゥールって確か魔王軍四天王の一人だよな?幹部じゃん!?何?負けたの?
「犯人は?」
「目撃者の話では、容姿は魔族というよりは人間に近かったため、警察は眷属による犯行と見ているようです」
「で?実際は?」
「眷属でも魔族でもありません。もちろん過去に裕美様に敗れた魔法少女の誰か、というわけでもありません」
じゃあ、他にウチの幹部をあっさり倒せる奴なんていんのか?
「この事件の少し前に、魔力観測をさせていた私の眷属が時空の歪みを確認しています」
「異世界から別の魔族が来たって事?」
「魔族ではありませんね。どうやら我々が使っていた異世界転移魔法と同等の魔法で、今まで観測した事のなかった異世界から何者かがやってきたようです。そして、その異世界からの来訪者の容姿は人間寄りだったようです」
で、そいつの強さは魔王軍幹部以上って事か。
「やってきたのは一人?」
「少なくとも観測できたのは一人です。仮に、その異世界の住民の目的が我々の時と同じような侵略だった場合、どの程度の戦力で攻略できるかを判断するための偵察なのかもしれません」
厄介だなぁ……そんな奴にフラフラされたら、正義感たっぷりな幸がちょっかい出すに決まってる。
そしてお節介焼きの美咲に巻き込まれて私にも火の粉が飛んでくるパターンのやつだろコレ。
「それとニュースにはなっていませんが、ドゥールの他にも5人ほど魔族が路上で襲われて負傷いたしました」
通り魔もいいとこだな。
魔族同士のいざこざは、人間が巻き添えくらわない限りは、基本人間側はノータッチである。
まぁ身内のゴタゴタは身内で何とかするからほっとけ、ってな要求を人間側にしたんで、そのせいでニュースにはならないんだろうけど……
「いずれも時空の歪みがあった地点から一定方向に向かって5㎞程の距離で、その圏内で魔力の高い順に襲われています」
「一定方向って事は何か目的でもあんのかね?何か心当たりある?」
「裕美様です」
……は?
「犯人が向かってる先には裕美様が通う学校があります。おそらくですが、現地にやってきた時サーチ魔法か何かで、近隣で一番魔力値が高い相手を確認し、そこに向かいつつ、ついでで魔力の高目の連中を襲っているのだと思います」
それって……もう嫌な予感しかしないぞ。
「今は消費した魔力の回復のため、どこかしらで休眠していると思われますが、本日と同時刻から行動を開始すると仮定しますと、明日の13時半過ぎくらいには裕美様の学校に到着すると思います」
どうすんだよソレ!やばいじゃん!
「えっと、あ……明日は私、ちょっと重めな女の子の日なんで学校休みます」
嫌な汗が止まらない。
「裕美様、部下の敵討ちを期待しております」
やだよ!絶対爆発する目に見えてる地雷を、何で好んで踏みにいかなきゃならないんだよ!
「あ、そうだ!明日はドゥールのお見舞い行かなきゃ!」
「魔族の自然治癒力舐めてはいけませんよ?回復魔法と合わせて既に完治してるんで安心してください」
ちきしょう……どうしたらいいんだ?
「裕美様、魔王軍に逆らったらどうなるか教えてあげましょう!」
何だその親指立てるポーズは!お前そんなキャラじゃないだろ!
こいつ私がうろたえるの見て楽しんでるだろ?
ちきしょう!あの指折りてぇ!
「ちなみに裕美様。普段通り生活して、学校にも通常通り通いたいから、魔王としての仕事したくないと言ったのは裕美様ですよね。学校への登校を拒否するという事は、明日は普段私が代わりにやっている魔王としての責務を果たしてくれるという事ですよね?」
………
……
…
「学校行ってきます……」
ヴィグルの予想が外れて、明日異世界人が来ない事だけを祈ろう……




