第十五話 激おこノゾミちゃん
放課後。
美咲と幸を連れて、ノゾミちゃんの家へと向かう。
と、いうのも『学校終わったらウチに来てほしい』というメールをノゾミちゃんから受け取っていたからである。
用件はわからなかったので、1人で行くつもりだったのだが、暇を持て余している美咲と幸にしつこく言い寄られたので、仕方なく同行を許可し3人で向かった、という流れである。
「ほらほら、来てやったぞぉ。私を呼び出した指名料は高ぇから気を付けろよ」
いつもの店ではなく、ノゾミちゃんの部屋へと直接訪れ、勢いよくドアを開ける。
冗談交じりな発言をして入っていったものの、そこにはマジメな表情をしたノゾミちゃんと、腕にあて木をつけて包帯グルグル巻きで、泣きそうな表情をして正座している真衣ちゃんがいた。
あ、コレ……ギャグかますような場面じゃなくて、もしかしてけっこうマジなやつ?
よく見ると真衣ちゃんの頬は腫れ上がっており、鼻に詰められたティッシュには血が滲んている。ついでに言うと、歯も欠けているようだった。
うん、見ててすげぇ痛々しい。
「ど……どうしたんですかコレ?何があったんです?」
「アレ?もしかしてコレ、アタシ達は来ない方がよかったやつ?」
美咲と幸も、その異様な場面を見て、空気を察して若干引いているようだった。
「いえ、美咲さんと幸さんだったら、別にいてもらっても大丈夫ッス。とりあえずは、このクソ武本について裕美さんと話したかっただけなんで、来たんでしたら、一緒に話を聞いててほしいッス」
うーん……何かよくわからないけど、どうやらノゾミちゃんはお怒りの御様子だな……ホント何があった!?
「あ~……えっと……とりあえずどういう状況だコレ?真衣ちゃんの状態とか、ちょっと転んじゃいました、って感じじゃないケガしてるように見えるんだけど」
「ちょっと頭きたんで私がやったッス」
私の問いかけに、「それが何?」くらいな感じでノゾミちゃんが即答する。
いや、ホントどういう状況だよコレ!?
「今日、武本に妹さんの事色々聞いたんスけど、妹さんって私と同い年だそうじゃねッスか……4年前に死んでて、最近復活したから見た目が幼かっただけって聞いたッスよ」
そういや、その辺の詳しい話はノゾミちゃんにしてなかったな。
んで、あきらかに絵梨佳と真衣ちゃんが知り合いっぽい感じだったから、どういう関係なのかを真衣ちゃんに問いただしたって流れだったのかな?
「で、死因はイジメによる自殺。そしてイジメの原因はコイツらしいじゃねッスか!ホント、胸糞悪いッス!だからボコボコにしてやったんスよ。もちろん本気でやったら殺しちゃうんで、死なない程度に手加減したんスけど、そのせいで余計にストレス溜まったッスよ」
まぁノゾミちゃん生身っぽく見えるけど、実際は変身した状態と同じで魔力持ちだから、本気になったら生身じゃ相手死んじゃうよね。
それはともかく、まさかの私が知らなかった新事実はあきらかになったなぁ……
「何?イジメの原因って真衣ちゃんだったの?」
「裕美さん知らなかったんスか?コイツのせいで妹さんの人生滅茶苦茶になったんスよ!人一人の命を奪ったくせに、コイツは魔法少女なんてやりながら、恥ずかしげもなくのうのうと生きてやがったんスよ!よくもまぁ生きてられるッスよねぇ?武本には生きる価値なんてもんは存在しないはずなのに、何で死んでねぇんスかね?とっとと首でも吊って死ねばいいと思うんスけどね?」
喋りながらどんどんヒートアップしていくノゾミちゃん。
ソレを聞きながら、大粒の涙をボロボロとこぼしながら「ごめんなさい……ごめんなさい……」とひたすら繰り返す真衣ちゃん。
放っておいたら脱水症状にでもなるんじゃね?ってくらいに涙と一緒に鼻水まで垂れ流しているせいで「ごめんなさい」の言葉も、ほとんど何を言っているのかわからないような単語になっている。
新事実を知って、本来だったら私も怒りをあらわにするべきなのだろうが、ドン引きするレベルでノゾミちゃんがキレまくってるせいで、正直どう反応するべきか悩んでしまっている。
「泣いてる暇があるなら、早いとこ遺書でも書いてくんねッスか?いつまでもオマエが生きて呼吸してんのは空気の無駄遣いなんスよ。謝って許される事と許されない事があるって理解してるんスか?イジメって行為で他人の人生奪っておいて、謝るだけで許されるって本気で思ってるんスか?馬鹿なんスか?許されたいなら死んで詫びたらどうッスか?」
あ~ノゾミちゃんノゾミちゃん……たぶん「イジメ最低!」って説きたいんだろうけど、もうノゾミちゃんの行為が、真衣ちゃんイジメになってるぞ。
まぁ喋りながら、どんどんヒートアップしちゃってるんで気付かないんだろうけど……
「とりあえず落ち着けノゾミちゃん……たしかに真衣ちゃんはイジメに関わってただろうけど、イジメにあってた絵梨佳当人が『復讐する気はない』って言ってたから、もうそれくらいで許してやれって、な?」
それに、当時私が絵梨佳のイジメをかばっていた時に、私にまでちょっかい出してきた奴等は覚えている。
たぶん絵梨佳イジメの主犯格はソイツ等だったんだろう。そして、そこに真衣ちゃんは加わっていなかった。
ちなみに、その主犯格と思われる連中は、私が密かにつけて自己満足していた『後でぶっ殺すリスト』に名前が載っていたため、私が魔王になった後で、密かに復讐済みだ。
さすがに殺すわけにはいかないと思っていたので、魔法でちょちょっと寝ている間に見ている夢に干渉して、毎晩のように『ビルの屋上から落ちて、即死できずにもだえ苦しむ』という夢を永久ループで見続けさせたところ、ノイローゼになって精神を病んでしまっていた。
死んだ絵梨佳の怖さを少しでも思い知らせようと思ってやったのだが、今考えるとちょっとやりすぎだったかもしれない。
「はぁ……魔王様も随分と丸くなったもんッスね」
微妙に納得してない感じではあるが、私の言葉を聞いて、ノゾミちゃんによる真衣ちゃんイジメはいちおうは終了したようだった。
「まぁともかく、ここからが本題ッス。裕美さんに伝えておきたい事があるッス」
随分と脱線してたなぁ……
「昨日、魔王への反乱軍から裕美さんが抜けたら私も抜けるって言ったッスけど、それ取り消しッス。私は常に妹さんの味方でいる事にしたッス……もし裕美さんと敵対する事になったとしても、私だけは妹さんの味方でい続ける事に決めたッス!」
……マジか!?何かノゾミちゃん、変なスイッチ入っちゃってない?大丈夫か?




