第十四話 実質1人の反乱軍
心配だ……魔王への反逆を企てている絵梨佳を、一人魔王軍本部に置いておくのは心配でしょうがない。
いや、魔王への反逆に、魔王当人である私が参加してる時点で、魔王軍の瓦解とかはまったく心配はしてないんだけど、私に黙って反乱軍への勧誘とかして、絵梨佳の立場が悪くなったりするのが心配だ。
まぁサクラあたりなら、喜んで勧誘に応じるとは思うんだけど、うっかり、私に忠誠を誓っちゃってるポチとかに声かけちゃったりしたら、ポチ怒り出すんじゃね?
ヴィグルは……声かけられても動じる事はないだろうけど、その一言で色々と察して、私に向かって「全部知ってますよ」オーラ全開でニヤニヤした笑みを向けてくるだろうから、その辺も勘弁願いたい。
とにかく何だ?学校にいる時間が本気で落ち着かない。
「どうした裕美?朝から何かソワソワしてるけど……おしっこか?我慢しないでトイレ行った方がいいぞ」
ああ……私の心配をよそに、美咲は朝っぱらから馬鹿な発言しかしねぇな……
「ちげぇよ!?べつにトイレ行きたいわけじゃねぇっての……つうか朝からお前の相手は疲れるからほっといてくれ」
面倒臭いので適当にあしらっとく。
「……え?ソワソワしてるのにトイレ行きたくない?そして放っておいて欲しい?……まさか!?既に漏らしてんのか裕美!!?」
どうしてそうなる!!?
大丈夫か!?コイツの頭の中、本気で大丈夫なのか?脳にウジ虫とか湧いてない!?
「ええ!?そうなんですか裕美様!?大丈夫ですか!?下着濡れたままだと風邪ひいちゃいますよ!私の下着でよかったら使いますか!?」
「よくねぇよ!!使わねぇよ!!ってか何パンツ脱ごうとしてんだよ幸!?何で私がお前の使用済みパンツ履かなきゃなんねぇんだよ!?つうかお前等そろいもそろって脳みそ溶けてんじゃねぇのか!?」
ダメだコイツ等……2人とも頭蓋骨の中にぬかみそ詰まってやがる。
「じゃあ何でソワソワしてたんだよ!?」
美咲から普通に質問がとんでくる。
そうだよ。最初から、そういう普通に質問してくれればいいんだよ。アホな一言を追加するからツッコミに余計な体力を使うハメになるんだよ……
まぁ別に隠すような事でもないんだから、普通に質問されれば、私だって普通に答えるっての。
そんなわけで、色々巻き込んでいる、絵梨佳による魔王への反乱計画を2人に説明しつつ、暴走して魔王軍内で反乱軍勧誘をしまくったりしないかを心配している事も付け加えて説明する。
「たしかにポチあたりに声をかけてしまったりしたら、色々と面倒臭い事になりそうですね……それはともかく、一番言いたい事を言ってもいいですか裕美様?何で魔王反乱軍に魔王当人がいるんですか?」
ほんとにねぇ……何でいるんだろうね?何か気が付いたら勝手に参加させられてた感じなんだよね。
その辺は絵梨佳の自己中っぷりが発揮されたって事なのかな?
「ってか何で反乱?ちょっと話し合えばいいって考えはないの?まぁ裕美の妹だから、何かあったらまず暴力で何とかしようって考えになるのはしょうがないかもしんないけどさぁ……」
また何か余計な一言が追加されてたような気がしなくもないが、その辺は聞かなかった事にして、やっぱ普通に考えれば、『まずは話し合おう』って意見が出るよね?
「話し合いを避けたのは『魔王が人の意見を素直に聞くとは思えなかったから』だそうだ」
「「ああ……」」
ん?何で2人して納得してんの?しかもハモってるし。ここ「そんな事ないよ!」って絵梨佳の考えを否定するところだぞ。
「ちなみに私が反乱軍に入ってるのは成り行きって感じか?私が魔王だって言うタイミングを逃してたら、どんどん話が変な方向に進んでいって、今更バラすにバラせない状態になった感じだな」
「あ~……裕美って変なところで墓穴を掘るの好きだよな」
それを美咲に言われるのは心外だなオイ。
「それにしても絵梨佳さんは、魔王としての裕美様の強さを知ってるんでしょうか?知っていたら、とてもじゃないですが逆らおうって気持ちはわかないと思うんですけど……」
「何か、勝つつもりはないらしいぞ。逆らう事で『皆、アナタの考えにはついていけない』をアピールして、少しでも人の心を理解してほしい……とか何とか言ってたな」
「「ああ……」」
だから何でそこでハモるんだよ!?
そこで納得されたら、まるで私が『人の心を理解できない酷い人』みたいな感じになっちゃうじゃんかよ!?
「ところでお前等は、絵梨佳から勧誘されたらどうすんだ?たぶん勧誘される可能性かなり高いぞ」
私がそう言うと、2人は少し考える素振りを見せる。
まぁ本人を目の前にして、「参加する!」とか即答はしにくいわな。
「そうだなぁ……アタシは、ガチな裕美と戦うのは本気で怖いから嫌なんだけど、裕美が参加してる間は形だけでも反乱軍に加わっててもいいかな?そっちの方が面白そうだし」
適当な理由だなぁ……まぁコイツの場合、最近は若干吹っ切れてはきてるだろうけど、相変わらず魔王にトラウマ持ってるから、そんなこったろうと思ったけどな。
「私も美咲さんと同じですかね。いざとなった時、裕美様と戦わなくてもいいなら、絵梨佳さんの誘いを断るのは可哀想ですしね」
つまりは、2人ともノゾミちゃんと同じ意見って事かな?
それを考えると、実際に私と戦う事になったら、魔王と対峙するのは絵梨佳と真衣ちゃんだけって事なのか?
……いや、真衣ちゃんのビビりっぷりを見ると、対峙した瞬間に泣き崩れそうだから、実質戦うのは絵梨佳だけ?
意外と人徳無いな絵梨佳……魔王以下って結構やばいぞ絵梨佳。
「なるほどな……まぁ絵梨佳から勧誘がきたら適当に相手してやってくれ」
私はそう言って話を切り上げ、ゆっくりと席を立つ。
「どうした裕美?」
「ん?次の授業始まる前にトイレ行っとこうと思っただけだよ」
何でトイレ行くのを、いちいち美咲に報告しなくちゃならないんだよ?少しは察しろよ。
「あ、私のパンツ使いますか裕美様?」
「だからいらねぇよ!!?」
だから何で私が漏らした事になってんだよ!?
直接口に出さないと理解できないのかコイツ等!?
っていうか、仮に漏らしてたとしても、幸の使用済みパンツは本気でいらないからな!




