第十三話 ノゾミちゃん勧誘
「はいよ裕美ちゃん!中華丼とチャーハンにカレーと餃子2枚お待ち!」
ノゾミちゃんが熱くなっていたせいで、スッカリ忘れていたが、注文していた料理をおばちゃんが運んでくる。
「希美はどうするの?裕美ちゃん達と一緒に夕飯食べちゃう?」
「え?あ……じゃあ、食べるッス」
おばちゃんの乱入により、ヒートアップしていたノゾミちゃんのテンションが一気に下がる。
よくよく考えると、おばちゃん毎回のように、絶妙なタイミングで空気ぶっ壊しに来るよな……これは空気読んでるのか、それとも素なのか……謎である。
「それで……あの……希美さん、と呼んでもいいですか?」
タイミングを見計らうかのように、ここぞとばかりに絵梨佳がノゾミちゃんに声をかける。
「別にどう呼んでもらってもいいッスよ。あと敬語じゃなく、タメ語でいいッス」
ノゾミちゃんの「~ッス」って言うのはタメ語扱いなのだろうか?感覚がいまいちわからん……
「じゃあお言葉に甘えて……お姉ちゃんの話からすると、希美さん強いんだよね?」
「どうッスかね?魔力量でいえば、そんなに多くねッスよ」
たしかにそうだわな。前に比べれば強くはなってるけど、それでも元四天王連中と大差ない程度な魔力量だ。
つってもノゾミちゃんの場合、魔力量っていうよりも特殊技能的な能力と戦い方で、その辺カバーしてる感じだから、魔力の強い弱いで一概に判断はできない例だけどな。
「謙遜すんなよノゾミちゃん。魔法少女なりたて状態だった時に、一人で四天王のポチ・幸・サクラの3人同時に相手にして勝ってたじゃんかよ」
ノゾミちゃんの正当な評価を絵梨佳へと教えてやる。
っていうか口にしてみて思ったけど、ノゾミちゃんの戦力は魔王軍に欲しいな。
「いや、あれは3人とも油断してたから勝てたようなもんじゃねッスか!?それに気付かなかったかもしんねぇッスけど、あの後、私すげぇ満身創痍になってたッスよ」
ああ、うん……飛んで帰る魔力すらなくなって歩いて帰ってたもんね。知ってた。
「それでもあの3人を倒せるなんてスゴイよ希美さん!それだけ強かったら魔王さんともいい勝負したんじゃないの?」
ノゾミちゃんが想像以上の強さだと知ってテンションが上がる絵梨佳。
本当にわかりやすいな……ノゾミちゃんを魔王反乱軍に引き入れる気満々だな。
「いや、魔王とは結局戦わなかったんで、どんだけ善戦できたかはわからねッス」
「は?」
「え?」
私と絵梨佳で同時に変な声を出す。
「そんなに強かったのに戦わずに諦めちゃったの!?」
「いやいや!戦ったろ!?手も足も出せずにボッコボコになって逃げだしてたろ!?」
そして、私と絵梨佳で同時に叫びだす。
「何言ってんスか?ボッコボコにされた記憶なんてねぇッスよ。戦う意味がなくなったから戦わなかっただけじゃねッスか……まぁ魔王の強さがわかった今なら、どう頑張っても勝てなかっただろうなぁ~とは思うッスけど、戦ってたらちょっとくらいは善戦できたんじゃねッスか?」
何言ってんだノゾミちゃん?ついにボケたか!?
あ、いや違うか……本当に記憶が無いのか!
あの時ボコボコにしたのは、再生魔法を使ったせいで消滅しちゃった方のノゾミちゃんか!?
「ねぇ希美さん……それじゃあ今からでも、魔王さんに挑戦してみない?」
ほうほう、そうやって話を持って行くか絵梨佳。ちょっと強引じゃね?
「は?今からッスか?」
意味がわからずに不思議そうな顔をするノゾミちゃん。
そりゃあそうだよね。それが正しいリアクションだよ。
「あのね、私達、魔王さんが間違った道に進まないように……他人の事を少しは思いやれるような人になってもらうために、魔王さんに戦いを挑もうと思ってるの……そのためには希美さんみたいに強い人にも協力してもらいたいの!」
熱弁する絵梨佳だが、ノゾミちゃんの表情は完全に呆れている感じだった。
うん、そうだよね。気持ちはよくわかる。
「私達……ッスか?」
ノゾミちゃんの視線は私へと向けられる。
ああ……その呆れた表情は私に対してなのね。
『意味がわからないんスけど?何がどうしてそんな事になってんスか?』
ノゾミちゃんからの念話が届く。
安心してくれノゾミちゃん。私もさっぱりわからない。
『そもそも何で、魔王と戦う事が、裕美さんが他人を思いやる人間になる事に繋がるのかが意味不明ッス。ってか裕美さんが他人を思いやる心を持つとか、ゾウリムシが人類以上の知恵を持つくらいの奇跡じゃねッスか?』
『オイオイ……いくら奇跡が起きてもそんな100µm程度のサイズしかない単細胞生物に人間以上のサイズの脳が収まりきるわけねぇじゃんかよ。もし、そのサイズの脳が収まりきる体になったら、もうそれゾウリムシじゃなくて別の生物じゃ……って、私が他人を思いやる心を持ったら、それはもう別の超常生物に進化してるって言いたいのか!?つまり私は、あとは他人を思いやる気持ちさえ持てば、人類を超越した神の様な存在になれるって言いたいわけだな!!』
『長々と説明お疲れ様ッス……ボケに対してボケを返してくるのやめてくんねッス』
随分とあっさりしたツッコミだなぁ……せっかくボケ返ししてやったっていうのに。
「まぁその魔王と戦う連合に裕美さんがいるなら、私も加わってもいいッスけど……裕美さんが抜けたら私も抜けるッスよ。それでもいいなら協力するッス」
私との念話中、考えてるフリしていたノゾミちゃんは、いつまでも黙っているわけにもいかずに絵梨佳へと回答する。
まぁ私の正体も性格も知ってればそういう対応にはなるわな。
このよくわからない『魔王討伐連合』に私が加わってる事を考えたら、普通に断ったら私にいちゃもん付けられる可能性あるし、だからといって、私が抜けても加わり続けてたら、それは私に対する敵対行動と同義だ。
つまりは、常に私にくっついて陣営を変えていれば、余計な苦労はしなくて済むってわけだ。
面倒臭がりなノゾミちゃんらしい対応だな。
「ってかこの魔王反乱軍には武本も入ってるんスよね?大丈夫ッスか?幸さん相手に戦わずにビビってたレベルなんスよね?」
まぁそうだわな。真衣ちゃんの力量は、なんとか前・四天王連中を倒せるレベルだから、今の魔王軍レベルで考えると、ちょっと戦力不足感はあるかもしれない。
「そ……そうだよね?私……戦力になってないよね?……足手まといだから抜けた方がいいよね?」
あ、真衣ちゃん逃げ出そうと必死になってる。
そりゃあ私の正体に気付いてるわけだしね。
今の状況って、現状をさっぱり把握できてない真衣ちゃんからすれば、『変装した魔王が隣にいるのに、皆気付かずに、魔王を倒す計画を立ててる』って風に見えるだろうから、怖くてしょうがないよね。
「そんな事ないよ真衣。それに、私の言う事何でも聞いてくれるって約束したじゃない?」
そして、そんな真衣ちゃんを逃がそうとしない絵梨佳。
前門の魔王後門の絵梨佳って感じか?
知らなかったのか真衣ちゃん……大魔王からは逃げられないんだぞ。
ってか絵梨佳、穏やかな口調で笑顔だけど、微妙に目が笑ってない気がするんだけど?
やっぱ、実はイジメられてた事恨んでるだろコレ?




