第十二話 KY絵梨佳
「何で裕美さんと武本が一緒にウチに来るんスか?二人どういう関係ッスか?それとコッチのちっさい子は誰ッスか?」
ノゾミちゃんから矢継ぎ早に質問が飛んでくる。
ちっさい子ってのは絵梨佳の事かな?でも見た目が中学一年生だけど、ノゾミちゃんの同級生だぞ。
まぁともかく、ノゾミちゃんちに飯食いに行く途中だった事もあり、半泣き……でもないな、全泣き状態だった真衣ちゃんに、絵梨佳が「色々と話し合いがしたいから一緒に行こう」とか誘ったせいでこんな事になっている。
いやぁそれにしても……
「へぇ~……真衣ちゃんの名字って『武本』っていうのかぁ」
さすがは同じ学校に通う同級生だ。私が知らなかった情報を持っているとは……
「よく、その程度の関係性で、一緒に食事しに来たッスね……まぁ裕美さんの神経の図太さを知ってはいたッスけど、犯罪はもうちょっと隠そうとしてほしいんスけど……」
毎度の事ながらコイツは何を言い出すんだ?何が犯罪だよ?これだからサイコパスは……
「何で真衣ちゃんと、ノゾミちゃんちに飯食いに来る事が犯罪なんだよオイ?」
「え?誘拐とか拉致して来たんじゃないッスか?ソッチのちっさい子含めて……まぁ裕美さんはサイコパスなんで、犯罪を犯罪とも何とも思ってないかもしれねッスけど、誘拐は立派な犯罪なんスよ。ちゃんと覚えといた方がいいッスよ」
これはアレか?「そうだったのか!?知らなかったよ!」とかのっかってボケた方がいいのか?それとも普通にキレる感じでツッコミ入れるべきなのか?判断に迷うな……
「あの……お姉ちゃんのお友達ですか?私、妹の大間絵梨佳って言います」
私が判断に迷っていると、絵梨佳がここぞとばかりに自己紹介をし始める。
何という空気を読まないボケ殺しだ。
「あ、裕美さんの名字って『大間』って言うんスね。初めて聞いたかもしれねぇッス」
そうくるか!?
さすがはノゾミちゃんだ!1つボケを潰されたくらいじゃめげないんだな!よし、ここは私も乗っかってガッツリとツッコミを入れてやろうじゃないか!
「知らなかったのかよ!?でもこれで、私が真衣ちゃんと一緒にいても問題ない事が証明され……」
「あの!お姉ちゃんと仲が良いみたいですけど、どういう関係なんですか?」
ボケ殺しぃぃ!!?
空気読んで!?私まだ喋ってる途中!?
『裕美さんの妹っていうわりにはなかなかのボケ殺しッスね……まぁ自己中って面を考えればソックリかもしれねぇッスけど……』
念話で言いたい事を伝えてくるノゾミちゃん。
うん、気持ちはわかる。
『前に話したろ?似てない妹がいる、って。ともかく、絵梨佳が言いたい事を聞かないと、満足に無駄話すらできなさそうだから、早いとこ絵梨佳の用件を聞いとこう』
『そうッスね……さっきから微妙に肩透かしくらってるみたいで、微妙にやりにくくてしょうがないッス……』
ノゾミちゃんと念話で作戦会議をちゃっちゃと済ませる。
まぁ絵梨佳がどんな話をしたいのか何となく予想はできるが、とりあえずは話を進めてやるか……
「あ~……絵梨佳。コイツはノゾミちゃんって言って、魔法少女の一人だ。たぶん、魔王軍にとって歴代で一番厄介だったヤツだな」
たぶん絵梨佳が聞きたかった事を答えてやる。
「ちょ!?裕美さん!!?武本もいるのに、魔法少女の事を……!!?」
即ノゾミちゃんからクレームが入る。
「……だってよ真衣ちゃん」
私は、一言そう言い、真衣ちゃんの肩をポンポンと優しく叩く。
真衣ちゃんは一瞬ビクッとするが、黙ってポケットから変身アイテムを取り出すとテーブルの上にそっと置く。
あ、ちなみに、ココに来る途中の道中で、絵梨佳に聞こえないような音量で、真衣ちゃんから「あの……お姉さんの声……すごく……聞き覚えがあるんですけど……」と言われたので、念話で『絵梨佳に私の正体バラしたら、前の時よりも面白い幻覚みせてあげるからね』と優しく伝えておいたところ、何故か私に絶対服従するようになってしまっていた。
「コレって!?……まさか武本も!?」
テーブルに置かれた変身アイテムを見てノゾミちゃんが驚きの声を上げる。
「そういう事。ちなみに真衣ちゃんの方が、魔法少女としてはノゾミちゃんより先輩だから、ちゃんと敬語使えよ」
「そッスね。裕美さんを倒せるようだったら敬語使ってやってもいいッスよ」
おそらくノゾミちゃんは、冗談のつもりで絶対に不可能な事を例に挙げたのだろうが、それを聞いた真衣ちゃんは身体をビクッと震わせ大粒の涙を浮かべだす。
どんだけ魔王にトラウマ持ってんだよ!?ってか魔王に対してトラウマ持ってる奴多すぎじゃね!?
「ってちょっと待つッス!?幸さんがウチの学校にカチコミしてきた時、魔法少女なのに無視決め込んでたんスか!?」
そういやそんな事もあったなぁ……
「サチさん?って誰?」
だよね。名前言われても知らないよね。
「羽女ッス!」
久々に聞いたなその呼び名。それで通じんのか?
「あっ!あの時!!」
おお!?通じてた!?
「いや……あの時ちゃんと対処しようと思ってコッソリと変身はしたよ!でもサーチしたら私より魔力強かったし、どうしようか迷ってたら、希美が変身して飛び出してったから……だから私は……」
「って私が魔法少女なのも知ってたんスか!!?」
「ご……ごめん!黙ってた方がいいかと思って……」
「言えよ!!せめて『私も魔法少女だよ』くらいは言えよ!!私一人だけ何も知らないとか馬鹿みたいじゃねぇッスか!!?」
揉めてんなぁ……ってかノゾミちゃんがこんなに叫んでるの、ノゾミちゃんが魔王軍と敵対してた時以来かもなぁ……いや、魔王公式ファンクラブのホームページのトップ画像に自分が映り込んでるってのを知った時も叫んでたかな?
基本はクールにサイコパス発言してるだけだから、ちょっと新鮮だな。
それはそうと、さっきから絵梨佳が何か喋りたそうにしてるけど、ノゾミちゃんの剣幕に負けて引き下がってる感じだな。
ボケ殺しの絵梨佳でも、この辺は空気読むんだなぁ……




