第九話 魔王軍幹部達
微妙に不機嫌オーラを纏った絵梨佳を引き連れて魔王軍本部へと到着する。
とりあえずヴィグルの執務室へと向かうと、そこにはヴィグル・ポチ・サクラ・エフィが待ち構えていた。
「おや?裕美様も御一緒でしたか?」
部屋に入って早々にヴィグルから声をかけられる。
何だよ?来ちゃダメなのかよ?ヴィグルのクセに生意気な。
「ヴィグルさん。何でアタシ達呼ばれたの?怒られるような事何かした?」
美咲のやつ、まだ説教されるとでも思ってんのかよ?馬鹿だろ?絵梨佳が蘇った事と、さっきまでの絵梨佳の会話で、何で呼ばれたのか察してなかったのかよ?
「心配しなくても大丈夫ですよ美咲さん。今日は絵梨佳さんに、魔王軍幹部の紹介を兼ねた顔合わせが目的ですから」
だよね。
幸ですら『やっぱりそうか』みたいな顔してるのに、直接聞かないとわかんねぇのかよ。
「では早速始めましょうか?まぁこの場で絶対に全員の名前を覚えなくてはならない、というわけではありませんので気負いしなくて大丈夫です。名前等は都度確認頂いても結構ですので、今日は何となくでも幹部の顔と名前を憶えておいてもらえれば、程度で……よろしいですか絵梨佳さん?」
ヴィグルのやつ、随分と激甘だな。
まぁほぼ初対面で、ここにいる全員の顔と名前を完全に一致させるのは難しいだろうから、そんなもんかもな。
「それでは、まず私から……魔王側近をさせて頂いておりますヴィグル・ヴィースと言います。基本は魔王様の代わりに実務と総軍の采配を行っております。魔王軍全体の動きを把握し吸い上げた情報の取捨選択をして魔王様に報告する仕事も行っております」
あ~……ヴィグルのフルネーム忘れてたわ。
まぁ覚えてなくても3年間どうにでもなってたんだから、今更覚える必要もないか。
そして、ヴィグルの自己紹介に続いて、四天王総括という立場上、ヴィグルに次ぐ役職持ちのエフィが自己紹介し、その後でサクラ・ポチと自己紹介したところで絵梨佳からツッコミが入る。
「あ……あの?ポチって……本名なんですか?」
だよね~……どう考えても偽名としか思えないもんね……っていうか人の名前としてコレでいいのか?って思うよね。
名付け親私だけど……
「やっぱりそう思いますよね?よくもまあ、こんな厳つい顔しといて『ポチ』とか恥ずかしげもなく名乗れますよねぇ?でも絵梨佳さん。可哀想ですからそっとしておいてあげましょう。あのオジサン馬鹿なんですよ」
すかさず幸が、絵梨佳と話すふりをしつつポチを挑発する。
毎度毎度何かにつけてケンカしようとすんなぁ……飽きないのか?
「ふむ……では『プリンセス・シャルロッテ』という名を名乗るのは恥じるべき事ではないのだな?」
「ひゃぶっぅ!!!!?」
幸の言葉に反応して、ポチが謎の名前を言った瞬間に、幸が意味不明な叫び声を上がる。
何かよくわからんが、一瞬にして冷や汗ダラダラになっているようだった。
「ん?よもや小娘……裕美殿に隠しているのか?」
私が不思議そうな顔をしているのを確認して、ポチは幸へと追い打ちをかけるかのように言葉を続ける。
「主人への報告義務を怠るとは、何とも不義理だな小娘。それでよく四天王が名乗れるな」
いつもなら、すぐに言い返したり、反論できずにキレだすかする幸だが、今回はまったく反応なく、時間がとまったかのように立ち尽くしていた。
何だ何だ?今回のポチの反撃は、そんな一発KOされるほどにダメージデカかったのか?
「な……なんで……アナタがソレを知って……」
ようやく絞り出した幸の言葉は、そんな程度のありふれた言葉だった。
「変身魔法を使っていても体形までは変えられていないようだな……バレバレだぞ。それと顔を隠していても周りの風景に場所を特定できる物が映り込んでいては意味がない。その程度の事もわからんとは……愚かだな小娘」
「いやぁ~~!!!?私の……私のちょっとしたオンライン上での楽しみだったのにぃ!?」
ああ……何となく察したわ……
つうかポチも、幸の行動を事細かに調べてるとかどんだけ幸が好きなんだよ?もうストーカー一歩手前まできてんじゃね?
まぁポチからしたら、お父さん感覚で、身元特定されるような物をネット上に上げるんじゃないって注意してるつもりなんだろうけど……
そんなポチの遠回しすぎる好意に、幸は気付く事なく完全にうな垂れてるけど。
「ええと……そこでうな垂れてるのが幸さんで、隣にいる金髪の子が美咲さんです。2人は一応魔王軍の幹部ではありますが、今は学生が本業ですので、アルバイトのような扱いになっています」
うな垂れた幸を無視するように、ヴィグルが幸と美咲の紹介を絵梨佳にしている。
ちょっとはかまってやれよ……
「裕美様に関しては、おそらく我々以上に知っていると思うので割愛させていただいて、とりあえずは以上で紹介は終わりですが、何か質問はありますか?」
「あの……お姉ちゃんの役職って……?」
あ、そうだよね。あきらかに重鎮みたいにこの場の居座ってるもんね、私。
実際はこの場で一番偉い『魔王』なんだけど、正体バラさない流れになってるし……どう説明するべきか?
「裕美様は魔王様のお気に入りです。我々とは命令系統を別にして動く魔王直轄の人員だと思っていただければ問題ありません」
なるほど。そういう設定でいくのね。ナイスアシストだヴィグル。
その説明に納得したのかどうなのかはわからないが、急に何かを考えこむ仕草をする絵梨佳。
「えっと……皆さんに質問があります。この中で魔王さんにイジメ……いえ、殺されたり殺されかけた経験のある人ってどれくらいいるんですか?」
いきなりとんでもない質問をする絵梨佳。
そして私とサクラ以外の全員が無言で挙手をする。
私は魔王当人だから除外するとして、サクラは初対面の時にいきなり殺害してるけど、おそらく突然すぎて覚えていないのだろう……って事を考えると、実質該当者100%じゃんコレ!?
この場での挙手率を見て、絵梨佳は怒りをあらわにする表情をして、手から血が出るんじゃないかと思えるくらい強く握りしめている。
「わかりました……それがわかれば私は十分です……ありがとうございました」
表情は笑顔になっているが、声のトーンは全然笑っていない感じだった。
何かもうこの先嫌な予感しかしないなぁ……




