第八話 トラウマスイッチ
「裕美様の妹さんなんですか?あまり似てはいないんですね」
魔王軍本部へ向かう道すがら、まったく事情がわかっていない幸が色々と聞いてくる。
ってかコイツも『あまり似てない』とか言って、私の顔面レベルの低さを遠回しに馬鹿にしてんのか?ケンカ売ってんなら3割引きくらいで買ってやるぞコラ。
「はい、昔からよく言われます。私もお姉ちゃんみたいにカッコよく生まれたかったんですけど……残念です」
は?絵梨佳も私を馬鹿にしてんのか?コレってアレだろ?『私もブサイクに生まれたかったのになぁ~美人に生まれちゃって嫌だなぁ~いやぁ残念残念(笑)』って感じな煽りだろ?面白れぇ!コッチのケンカは4割引きで買ってやるよ!
「おい裕美……さっきから顔がすげぇ事になってんぞ……」
私の心情を察したのか、隣を歩く美咲から小声で注意が入る。
いかんいかん……感情を抑えられずに、うっかり顔に出てしまっていたようだ。
「どうせアレだろ?いつもの『自分以外全員敵に見える系のネガティブ思考』で、2人の会話に裏があるとか勝手に妄想してたんだろ?」
エスパーかよ!!?
普段、馬鹿で空気読めないくせに、何でそういう変なところには敏感なんだよ!?
「そういえば、さっき『生き返った』って言ってましたけど……その、こんな事聞いてしまっていいのかわかりませんが、亡くなってしまっていたんですか?」
私の心情は無視され、幸と絵梨佳の会話は続いているようだった。
「えっと……事故があってちょっと……」
絵梨佳は死因をぼかして幸の問いかけに答える。
そりゃあ自殺したなんて言ったら、空気重くなるもんな……いちおうは考えて喋ってるのか?
にしても、あの時はホント色々酷かったからなぁ……
ある意味学校単位でのイジメだ。
当時から友達いなくて、誰かに何かやられても、コッソリと自己満足のためだけにつけていた『後でぶっ殺すリスト』に名前を書くくらいで、特に何も気にしない私が、バレないようにコッソリとかばってたりもしたが、絵梨佳のやつ日に日に弱っていってたしなぁ……
絵梨佳のやつも、死ぬくらいなら学校なんて行かなきゃいいのに、何を意地になってたのかわからないが、毎日休むことなく学校に通っていた。
そして、転校する手続きを両親が色々やってる最中に起こった自殺だ。
この時は、何とも言えない敗北感?絶望感?とにかくそういった暗い感情で満たされて押しつぶされそうになった気分だった。
そういえばこの辺からだったかな?私が、自分から死を選ぼうとする奴どころか、自傷行為をする奴にまで、異様な嫌悪感を抱くようになったのって?
「事故……ですか…………」
幸も一言つぶやくだけで、空気を読んでそれ以上追及する事はなかった。
まぁ事故っていっても色々あるだろうしな。
交通事故にあったとか、何かの事件に巻き込まれたとか、誘拐されて殺されたとか……
死因はいくつか想像できるだろうが、どれもろくな死に方じゃない事はたしかだろうしな。
「そ、そういえば!魔王さんってどんな方なんですか?」
若干重い空気になったのがわかったのか、絵梨佳も無理矢理話題転換をする。
「私、復活した時に一度会っただけで、まだどんな人かもよくわかっていないんです。……多忙な人で、あまり会えないって聞いてるんで、もしよかったら教えてください!」
その瞬間、幸と美咲の視線が私に集中する。
こっち見んな!金取るぞ!
「ちなみに絵梨佳ちゃんから見て、どんな印象だった?」
面白い話題が出て来たと言わんばかりに、美咲が真っ先に絵梨佳の質問に食いついていく。
「ええと、そうですね……お姉ちゃんに似てる人だなぁ~って何となく思ったのが第一印象かもしれません。もちろん見た目じゃなくて、雰囲気的なものがですけど」
大正解だ絵梨佳。
だって当人だし。
「そうですね。その印象で間違ってないと思いますよ。裕美様と同じで凄く優しい人ですよ」
何故か幸が満面の笑みを浮かべて即答する。
やめろよ、照れるじゃん。
「え~!?優しいかぁ?アタシなんていきなり上半身吹っ飛ばされて殺されたあげく、しばらくの間パシリ同然の扱いされてたぞ」
「……え?」
横入りしてきた美咲の言葉を聞いて、絵梨佳の顔色が若干曇る。
確かに事実だ。事実なんで口をはさめないけど、今絵梨佳の前でそれ言わなくてもよくないか美咲。
せっかく私の印象最高状態なのに、わざわざ落とさなくていいじゃねぇかよ……いや、美咲の場合、純粋に、ありのままの魔王像を印象付けようとしているだけなのかもしれない。
でも、パシリにしてたのは、最初の1年くらいまでで、そっからは今と同じような関係になったんだから、もう時効だろ?
「さっちゃんだって、最初2・3回ボコボコにされて殺されかけてたじゃん」
そういやそうだったなぁ……私に突っかかってきた時や、ポチが来た時や、正体バレた時とか……そのあたりでボコボコにしたっけなぁ~懐かしいなぁ……
ってそうじゃない!何か段々と絵梨佳の顔から笑顔が消えてきてる気がするんだけど!?
「で、でも美咲さん!私が死にかけた時、助けてもくれましたよ!……その結果こんな姿になっちゃってますけど」
「その死にかけの原因作ったのも魔王当人じゃん。しかも、ついこの前も、かなりゲスいやり方で殺されてたじゃん」
「う……たしかに、この前のアレはさすがの私も泣きそうになりました……」
そこで折れるなよ幸!もっと私への愛を貫き通してくれよ!!
つうか何が『さすがの私も』だよ!お前しょっちゅう泣いてんだろうが!!
「お姉ちゃん……お姉ちゃんも魔王さんに、何かやられたりしたの?」
突然私へと話を振ってくる絵梨佳。
っていうか、言葉に怒気が多分に含まれてない?
「いや、私は別段何かされたって事はないぞ」
まぁ……当人だし……自分で自分をイジメる趣味はない。
「この2人が言ってる事は事実なの?」
何故か私に確認を取ってくる絵梨佳。
「あ~……うん……まぁ……何だ?えっと、だいたい合ってるかな?」
違うよ。とか嘘つきたかったんだけど、後でバレた時の私の信用がガタ落ちしそうだったので、少し曖昧な返事をしておく。
というよりも、幸と美咲の『事実だろ?』と訴えかけてくる視線に耐えられなかった。
「私!魔王さんの事見損なった!!」
突然絵梨佳が叫びだす。
「平気で他人を傷つけるなんて最低だよ!イジメなんて……イジメなんて最低な行為だよ!!イジメなんて……最低な人がやる事だよ!!」
ご……ごめんなさい!
「魔王さんの事、お姉ちゃんに似てるからって無条件で信頼しすぎてた!お姉ちゃんは……私のお姉ちゃんはイジメなんて最低な事絶対にしないのに!!」
すまん絵梨佳!オマエのお姉ちゃん最低な事しちゃってるよ!?
しかし、まさかこんな所で絵梨佳に変なトラウマスイッチをオンにしちゃうとは思ってもいなかった……
たぶん美咲は、ある程度の所で『魔王の正体はお前の姉ちゃんだぞ』ってバラそうとしていたのだろう……今更言うに言えなくなったため、スゴイ複雑そうな表情になっている。
っていうか、魔王のイメージ低下については、どうしてくれんだよオイ!?




