プロローグ
人というのは残酷だと思う……いや、断言できる。残酷だ。
他人が苦しむのを笑いながら見れるのだ。
理由は何なのはわからないが、中学に入学した私はイジメの標的になっていた。
いや、理由なんてなかったのかもしれない。
ただ何となく始まり、面白いから続いて、皆やっているからという理由でクラス全員が参加する。
最初のうちは抵抗していた。やり返しもしたのだが、いつの間にか団結していたクラス全員が、私を悪者扱いして教員に報告していた。
共働きで忙しい両親が学校へと呼び出され、私は両親の前でしこたま怒られた。
両親は「悪いのは私じゃない!」という私の言い分を信じてくれていたのだが、私が抵抗するたびに学校に呼び出されていた。
何度呼び出されるハメになっても、私を信じ続けている両親だったが、呼び出されるたびに疲れがたまっていく両親の顔を見る私の心の方が先に参ってしまった。
私の事を信じてくれる人が一人でもいてくれる。
その事を励みに、私はイジメへの抵抗をやめた。
しかし、抵抗をやめると、待っていたのはイジメのエスカレートだった。
抵抗しないとわかり、最高のサンドバックを手に入れたクラスメイト連中は、本当に限度というものを知らなかった。
私はいつもずぶ濡れ状態で授業を受けていた。
着替えれば、ボロボロの体操服。
ノートは全ページ黒塗りになっていて書き込むスペースは一つもない。
教科書に至っては原型を留めていなかった。
そして常に裸足。上履きはずっと行方不明で、新しいのを買っても次の日には姿を消していた。
ここまでくると、もう不自然すぎだ。
これでイジメはない、と言い張れるヤツがいたら眼球抜き取ってやりたい衝動にかられそうだ。
だが教師は、そんな私を見て見ぬふりをした。
学校という閉鎖空間をここまで憎んだのは初めての経験だった。
私の心も体も、もう限界だった。
そんな私を、学校内で助けてくれたのは、一つ年上の実のお姉ちゃんだった。
強い人だった。
何を言われても物怖じしないし、何をされてもケロッとしていた。
お姉ちゃんも、やり返したら両親を呼び出される事を知っていたので、決して反撃する事はなかったが、私がくじけそうになった時には、必ずそばにいてくれたし、自ら私の身代わりになってくれたりした。
そんなお姉ちゃんに、私は一度「もう私のために傷つくのはやめて!」と叫んだ事がある。
しかし、そんな私に向かってお姉ちゃんは「何が?言ってる意味がわかんねぇんだけど?」と答えるだけで、私を助ける行為を止める事はなかった。
そんなある日、私をかばったお姉ちゃんは、目に傷をつくり入院する事になった。
両目2.0あったお姉ちゃんの視力は、矯正しなければ日常生活に支障が出るレベルまで落ちた。
そして、そんな事があったにも関わらず、イジメを隠蔽していた学校側に私は絶望していた。
この学校の体質は、恐らく誰か死んで、明るみに出なければ変わる事はないのだろう……
そう、私が死なない限りは……
というよりも、もう私の心は限界だった。
両親だけじゃなく、どんどんボロボロになっていくお姉ちゃんを見たくなかった。
ボロボロになっても、何ともない表情を浮かべるお姉ちゃんを見るのが、もう辛くて辛くてどうしようもなかった。
気が付くと私は、学校の屋上のフェンスの外側に立っていた。
もう、いっその事派手に死んでやろう。そんな気分だった。
私は、何の躊躇いもなく、遺書を手に握りしめたまま、屋上から飛び降りた。
ごめんね……父さん、母さん。
今まで助けてくれてありがとう……そして、本当にごめんなさい……裕美お姉ちゃん……




