ヘタレな私が勇気をもって好きな人♀️に告白した結果
青井華・ももと中高一緒で今は同棲している。ももの事が好き。
信条もも・華と中高一緒で大学合格後にルームシェアを提案した。お調子者でバカなことばかり言っているが根は優しい。
「良いこと思い付いた!」
友人である信条ももが突然立ち上がり、前のめりになって興奮気味に顔を近付かせてきた。とてもいい匂いがする。シャンブーの匂いだろうか。
「近い」
「華、私良いこと思い付いちゃったんだよ!」
おい、私の話を聞けや。目を輝かせながら尚も顔を近づけてくる。内心ため息をついたが、続きが気になったので言葉にはしない。
「なに? 良いことって」
「よくぞ聞いてくれました!春から私と華は晴れて同じ大学に通う訳です。さぁ、そこから導き出される答えとは!?」
「えーと、二人とも合格できてばんざーい?」
手を上げて表現してみたが、ももは不満だったらしい。眉を寄せている。
「ちっがーう!その表現の仕方は可愛いけど違うの!」
「……じゃあ、なにさ」
「あ、ちょっと待って。まだ両手下げないで。撮るから」
さっとスマホを取り出すとすぐに連写音が響いた。この行動の早さをもっと他のことで活用できたらいいのになぁ。例えば待ち合わせしてるときに寝坊しないようにする、とか。
ま、ももには無理か。
「ん? 今バカにされた気がするんだけど」
「で、良いことって何なの」
いい加減両手をあげるのも疲れたので下ろしてももの言う良いこととやらを聞いてみた。
「もー、しょうがないなぁ。華には特別に教えてあげましょう」
「ははぁ、ありがたき幸せ」
「うむ。実はのぉ、わしの家からあの大学までは結構遠いのじゃ。じゃから朝早起きをして電車にのって通わなければならんのじゃよ」
「それは私も一緒」
「そ! そこからが私の凄いところなのじゃ!」
第一印象戻ってるぞー。可愛いから良いけど。ももは目一杯間をあけてから口を開いた。
「華、私とルームシェアしない?」
このももの提案から始まったルームシェア生活はもう一年も続いている。これって結構すごくないか?ももはともかく私は協調性がないと小さい頃から言われてきた。だから私は他人に合わせることができない自己中な人間なのだと自分で思っている。
だが、実際どうだ。家事の分担はきちんとしているし、喧嘩をすることもあまりない。
「私も大人になったのかなぁ」
「ん? どしたの急に」
寝転びながらスマホをいじっていたももが首を回して私に目を向ける。私もそうだが楽な格好をしているから寝転んでいると谷間がちらほらと見えている。もちろんそれに動揺することはない。過ごしてきた時間が長ければ長いほど慣れるのは当たり前のことだ。だから、生々しい胸の感触を肩とか腕とかに感じても全然動揺しない、ほんとだぞ。ほんとだからな。
「何でもない何でもない。ももには関係ない事だよ」
「んー、そう言われると聞き出したくなるのが人間の性ってもんだよねぇ」
ジーっと見つめられる。これは……言わないと引かないやつだ。
「言ってもいいけどしょうもないことだよ?」
「良いの良いの。気になっちゃったから教えて」
「私協調性がないってよく言われてたのさ」
「うん、知ってる。それ言ってたの私だから」
「でもこのルームシェアはかれこれ一年続いてるでしょ?協調性がなかったら一年も続くわけないよね?」
「確かに」
「ということは私にも協調性というものがついてきたのかなぁ、と思ったわけですよ」
「……それ私のまね?」
「当たり」
「私って華から見てこんな風に映ってるんだねぇ。なんだかバカっぽい」
「実際バカでしょ?」
「ふっ、華さんよぉ。そこまで言われたら流石の私でも怒るよ?」
「どうぞご勝手に」
「残ってる課題手伝ってあげないよ?」
「すんませんでした。謝るので残ってるレポート手伝ってください」
「素晴らしいほどの手のひら返しじゃのぉ」
「ふっ、私はつまらないことで意地を張らないようにしてるの」
「何かっこつけてるのかねぇ、この子は」
呆れ混じりの笑いになんだか私まで可笑しくなってきて薄く笑った。
いや、でも本当にすごいことだと思うんだよね。私、結構自己中だし人の迷惑なんてあんまり考えてこなかったから。
(相手がももだからなのかなぁ)
うん、その可能性は十分にあり得る。仮にもも以外とルームシェアしたら一週間以内にトラブルが起きる気がする。家事の事とか色々でもめるんだろなぁ。
「いやぁ、ほんとにももがルームシェア提案してくれてよかったわ」
「お、何だ何だ急に。変なものでも拾って食べちゃったのかね?」
「誰が食べるか。もー、本気で言ってるのに茶化さないでよ」
こういうところがももの悪い癖だ。真剣に話そうとすると茶化して話をそらそうとする。ももは真面目な話をするのが苦手らしい。というか真面目な話をしているときの空気が嫌みたいだ。だから自分から場の空気を変えて居心地のいい空間を作っているっぽい。それは普段ならまたいいけど、真剣に話していることを茶化されるのは苛つくものがある。
「ごめんごめん」
「……ももの晩御飯の野菜炒めだけピーマン多くいれてやる」
「ええ!?それはやめて!」
「好き嫌いはいけないのですよ、ももさん。絶対残したらダメだからね」
「うぅ~……」
へにょへにょっと机に額をつける。形勢逆転だ。
ももは大抵のものなら何でも食べれる。だが、ピーマンだけは嫌いなようでいつも綺麗に肉と分けて最後に鼻をつまみながら飲み込んでいる。その時のももってマジでかわいいんだよ?飲み込んだあとに涙目になってて、結構な頻度でその顔が見たくなるからピーマンを使って料理してたら「鬼!」とか言われるんだけど。
ももいわくあとから来る苦味に耐えられないらしい。ももはコーヒーに砂糖七杯、多ければ十杯いれるくらいの甘党だ。本人はそれでも苦いと言っているが。
「華の鬼ぃ……」
瞳を潤ませての上目遣い。うん、これは結構くるものがある。よくぞやった、私。えらいぞ。さぁ、ももの可愛い反応も見られたし、さっさと課題終わらせて野菜炒め作ろう。もちろんピーマン入りの。
………………
…………
……
「あ、そういえば信条さん、合コンに行ってお持ち帰りされたんだってね」
いつものように授業を受けて休憩時間にのんびりしていると友人である二ノ宮陽葵が爆弾を投下してきた。
私は陽葵が何を言っているのか理解できなくて数秒思考を停止いた。
(オモチカエリ……?モモガオモチカエリ……?)
「おーい、戻ってこーい」
「はっ、危ない……。一瞬宇宙が見えた気がする……」
「おー、それは貴重な体験じゃん。良かったね」
「そんなことどうでもいいの!」
「いや、自分から言い出したんでしょ」
「ももが合コンにいった?お持ち帰りされた?なにそれ!どういうこと!?てか誰に!?」
「そこまでは知らないけど結構イケメンだったって言ってたよ」
「誰が!?」
「本人が」
そ、そんな……。
いつの間にそんなことになっていたのか。というかどうして私じゃなくて陽葵に話したの?可笑しくない?
目の前にいるチャラチャラしてる女より先に私に言うべきじゃない?だって一緒に住んでるし、中学からずっと一緒の私にまず伝えるでしょ普通。
「おい、今失礼な事考えただろ」
「どうしていかにも尻軽でチャラチャラしてて口が緩そうな陽葵に言って私には言ってくれなかったのよぉ、もも……」
「これ怒っていいよね?これで怒らない奴なんていないよね?ねぇ?」
「どうしてなのぉ、ももぉ……」
「よーし、一発で許してあげる。なに、私は優しいからそんなに強く叩いたりしないよ」
「ももぉ……」
「ふん……っ」
悲しみに浸っていたら頭に強い衝撃が走った。
「っ いったーい!!何すんのさ!」
「自分の名誉を傷つけられちゃ黙ってらんないでしょ」
「はぁ? 私がいつ陽葵の名誉を傷つけたわけ?」
「今さっき。あんた信条さんの事となると回りが見えなくなる癖直した方がいいよ。じゃないと友達なくすよ?」
「そんなこと言われたって……」
「それによく言うじゃん。重い女は嫌われるって。気を付けないと信条さんから離れちゃうかもね~」
え、ももから?
想像してみる。私に愛想つかせて荷物をまとめ、家を出ていくももの姿を―――
「うぅ……ぐすん…………」
「うわ、何急に泣いてんの? 引くわぁ……」
「ひ、陽葵のせいでしょ! ももが私に罵声を浴びせて冷たい目して家からで出ていく姿を想像したら泣けてきて……ぐすん……」
「そんなリアルに想像せんでも……信条さんからルームシェア提案してきたんでしょ?」
「ぐすっ……うん……」
「ならそんな簡単に青井のこと嫌いになったりしないって……たぶん」
「あー!今たぶんって言った!たぶんて言ったー!慰めるなら最後までちゃんと慰めてよ!最後にたぶんなんて曖昧な言葉付け足さないでよ!」
「注文多いわ!肯定も否定もできるわけないでしょ!長い付き合いのあんたが悩んでるんだから、私に信条さんの気持ちなんて分かるわけないじゃん。結局信条さんのことは信条さんにしか分からないってこと」
「そんなこと分かってるよぉ~……分かってるけどさぁ~……」
ももが私に何も言ってくれなかったのがショックで午後の授業が受けられそうにない。いや、受けますよ?受ければ良いんでしょこんちくしょう!
「ももぉ~……どうして私を置いて先へ進んでしまったの?」
「何いってんの……」
バカを見るような目で陽葵が私に冷たい視線を送ってくる。
「そんな目で見るなよぉ……こっちとら陽葵みたいに安心できるほど好かれてる自信無いんだってぇ……」
陽葵には恋人がいる。それも女の子の恋人だ。二個上の先輩で大学の入学式の日にサークルの勧誘に追われていたところ助けてもらったのが始まりだったらしい。そこで陽葵がその先輩に一目惚れして一年間根気よくアプローチをし続けていたら、やっとのことで最近付き合うようになったらしい。
陽葵はチャラチャラした外見に反してめちゃくちゃ真面目で一途だ。暇があれば先輩との惚気話を聞かされる。先輩はあそこがかっこいい。あんなところが素敵、とまぁしつこいくらいに言ってくる。
「でも付き合ってても色々あるんだよ?まぁ、告白もできないヘタレなあんたよりはましだけど」
「ヘタレじゃないし!告白だって何度もしようとしたし!」
「でもできなかったと」
「うっ……だ、だって告白して断られでもしたら今までの関係じゃいられなくなるんだよ?そうなったら私……っ」
「まぁ、私たちと違ってそっちは一緒に住んでるわけだからね。そう簡単に告白はできないか」
「そうなの!だから私はヘタレじゃない!」
「ヘタレかどうかは置いといて、このままじゃ他の人に取られちゃうかもよ?結構人気あんだからね、信条さん」
「え、うそ……」
「いや、嘘じゃないし。何で信じられないって顔してるの?」
「え、だってももだよ?あのももだよ?」
「どのももかは知らんけど人気あるのはマジだからね。信条さん面白いし、困ってる人がいたら率先して助けにいってるの見たことあるもん。それで人気ないわけないじゃん」
「あの人タラシぃ~!!」
「この前なんて危うく先輩をタラシこまれそうになったんだからね。だから、信条さんには収まるところに収まって欲しいわけ」
「私を応援してくれてたのはついでだったってわけだ」
「まぁね」
「くぅ~、正直なやつめ。でも嫌いじゃないよ、陽葵のそういうところ」
「え、何急に。ごめんなさい、私にはもう心に決めた人がいるので……」
「変な解釈しないでくれる?」
「ま、冗談はさておき、忠告はしたからね。後で後悔しても知らないから」
「わかってるよ……」
◇
陽葵にも言ったように告白は何度もしようとした。だが、そのすべてを我が想い人である信条ももはスルーしてきた。いや、スルーというか気づいてくれなかった。
「私ももが好き!」
「何だ何だ急に~?私も大好きだぞい!」
一回目の告白は友達の好きだと思われてこんな感じで終わった。まぁ、仕方ないと思う。同性の友達に好きって言われても気づくわけないよね、うん。そう解決したのはいいが、問題はここからだ。
「もも!付き合って!」
「いいよ。どこの店行くの?ついでに服屋寄っていい?ジーパン買いたくてさ」
二回目の告白も失敗。
「ももの味噌汁が毎朝食べたい!」
「味噌汁かぁ~。即席の味噌汁でいいならいつでも作ってあげるよ。」
返しがおかしい。次。
「私の隣でずっと笑ってて欲しい!」
「ずっと笑ってるの?それ不気味じゃない?」
確かに、と思ってしまった。はい、次。
「月が綺麗ですね」
「え、月なんて出てないよ?大丈夫?勉強しすぎて疲れてるんじゃない?」
心配された。
このようにももは私の告白に気づかないのだ。
私の告白の仕方も悪いと思うけど、どうして少しも意識してくれないのか苛立ちを覚えてしまう。だって、最近では朝起きるのが苦手なももを起こしにいってるんだよ?健気すぎでしょ、私。
「ただいまぁ~」
ももが帰ってきた。しかめっ面の顔をほぐしておかえりー、と言おうと思って玄関の方へ首を回すと驚くべきものが目に入ってきた。
(あ、あれは…っ!)
ももが気合いをいれるときに着る勝負服!?どうして今日着てるの!?も、もしかして……。
(もしかして合コンの時の男と何かあったんじゃ!)
サーっと血の気が引いていく。
「もぉ、お腹ペコペコだよぉ~。ねぇ華。冷蔵庫に入ってるモンブラン食べていい?」
「あ、うん……」
「やっりー!ありがとね」
嬉しげに冷蔵庫からモンブランを出しているもも。普段なら可愛いなぁとか思っていたんだろうけど、今はそんなことを思うほど心に余裕がない。
早くどうして勝負服なんかを着ているのかを聞き出さないと。
モンブランを片手に私の右斜め横に座った。フォークでモンブランをすくいあげて大きく口を開け、その中に放り込んでだ。
「んぅ~ん!最高!」
「ね、ねぇ、もも」
「ん? どった?」
「な、なんでその服着てるの?今日って何か重要な事ってあったっけ?」
多少不自然だったとしてもいい。なぜ勝負服を着ているのかを聞き出すのが第一目標だ。
「んー、重要なことって言ったら重要なことかなぁ」
「え、何々?彼氏とデートでもしてきたの?」
釜かけだ。ここでももが恥ずかしがったり、いい淀んだりしたらビンゴ。ももに彼氏ができたってことになる。さぁ!どうだ!
「ん~、どうだろうねぇ~」
なぜかすごいご機嫌だ。こ、これは誤魔化した……?おいおい、待てよ。てことはももには彼氏がいるってことじゃないか……。いつの間にそんな相手が……。というかどうして私に言ってくれなかったの?私ってそんなに信用されてない……?
だめだ、泣きそう。
私の長年の片想いってこんなところで終わっちゃうの?
そんなのって無いんじゃない?
「は、華……? どしたの? 感情が欠落したみたいな顔して」
「……お風呂入ってくる……」
「え、あー、うん……。行ってらっしゃい……?」
首をかしげて何もわかっていない様子だ。
無心で服を脱いでシャワーを浴びる。すると自然と涙が流れてきた。無意識に出たものだから止めようと思っても止められない。私はシャワーを浴びながら涙を流し続けた。
はぁ、なんでももを好きになっちゃったんだろ……。もっと、こう……私のことを理解してくれて鈍感じゃなくてタラシじゃない人を好きになりたかった……。そんなことを言ってもどうにもならないのはわかってる。わかってるけどやるせない気持ちで心がぐちゃぐちゃだ。
一杯一杯で頭の中ぐちゃぐちゃなのに……それなのに―――
諦めるっていう選択肢が浮かんでこない。
こんなに切なくて、もものせいで泣いちゃってるのに全然浮かんでこない。
だってももの口から彼氏ができたった聞いてないじゃないか。
(そうだ、まだ彼氏がいると本人の口から聞いていないんだ)
まだ希望を捨てちゃダメだ。
悪あがきと分かっていても、往生際か悪いと分かっていても諦めてたまるもんか。
もう私にはチャンスは残ってないかもしれない。だけど、どうせ失恋してしまうなら告白してからでもいいじゃないか。それでももとの同居生活がなくなっしまっても良い。このまま気持ちを伝えられなかったら何百倍も後悔するはずだから。
髪と体を拭いて服を着て浴室から出る。ももはソファーに寝転んでスマホをいじっていた。
「も、もも……」
「んぅ~? なにぃ?」
「あ、あの……私……」
言え、言うんだ。ももが好きだって。付き合ってって。恋人になってって。
誰かに取られる前に伝えなきゃ。そう思っているのに上手く声がでない。声が震えてしまっている。
「……今日の晩御飯何がいい?」
私のヘタレぇぇぇぇぇ!!
「え、私に決めさしてくれるの?」
ももは驚いたように目を大きく開けた。
え、そこ!?
そこなの!?
違うのでしょ!あんたも少しは気付いてよ!雰囲気出てたでしょ!?そういう雰囲気が!
「……うん、今日は特別」
「まじで!? じゃあ、あれ! 煮込みハンバーグが食べたい!」
「……わかった」
何がわかった、だ! そうじゃない。そうじゃないでしょ?!告白するって決めたのにへにょってどうするの!?
(私のバカぁ……)
心の中で涙を流した。自分のヘタレぶりに嫌気がさす。
(いや、まだ時間は残ってる。今日中に告白するってことにしよう)
そうだ。そうしよう。
絶対に告白してみせるぞ!
「ふ……ふふ……ふふふ…………」
「うわぁ、なんか変なモードに入っちゃってる……」
ももが引いた顔をしているが気にしない。そんなことを気にしてはいられない。煮込みハンバーグを手際よく作る。ハンバーグだけじゃ物足りないので卵焼きも作った。
そして二人一緒に食べ始めた。最近起こった何気ないことを話し合って、笑って、いつの間にか食べ終わっていた。
寝るまでの時間は課題を終わらすことに費やす。いつもと変わらない。
「変わらなすぎるでしょぉ!!」
「うわぁ!な、なに!?どしたの!?」
「ごめん、なんでもない」
「そ、そう?ならいいんだけど……」
やばい。このままでは本当に告白できなくなってしまうかもしれない。もうこのままでいっかなって気持ちになりかけてる……!
早いとこ告白しないと手遅れになってしまう。
よし、少し探ってみよう。陽葵が言っていたように本当に合コンに行ってお持ち帰りされたのか聞いてみることにした。
「そ、そういえば、友達から聞いたんだけど、ももお持ち帰りされたってほんと?」
なるべく怪しまれないようにと思っていたがどうしてもどもってしまった。でも、そんなことももは気にしていないようだ。
「あー、あのこと。ほんとだよ」
「へ、へー……」
「お持ち帰りって言っても何もなかったんだけどな」
「ど、どゆこと?」
「いやぁ、人数がたりてないって言うから合コンに行ったんだけどさ、そこにも私みたいに人数合わせで呼ばれた男子がいてね。その子帰りたそうにしてたし、私も帰りたかったから一緒に抜け出そうって提案したの」
「そ、それだけ……?他に何かなかったの?こう、色々と……」
「無いに決まってるじゃん。抜け出したあとすぐ別れたし。あの子彼女いるって言ってたから私には興味なかったと思うよ。真面目そうだったし」
な、なんだぁ~……。
そんなことだったのか。日葵のやつ、脅かしやがって。
「てっきりその男としたのかと思ったじゃん……」
「あはは、するわけないじゃん。初対面で知り合ったばっかりなのにするなんてビッチじゃんか」
けらけらと笑っている。まぁ、そうだよね。ももだもんね。
(よかったぁ……)
……いや、でも待てよ。安心するのはまだ早い。
「じゃあなんで勝負服なんて着てたの?」
「あー、あれね。あれはずっと相談に乗ってた友達がついに告白するって言うからなんだかこっちが盛り上がっちゃって……」
「え、それだけ?」
「うん」
恥ずかしそうに頭をかいている。
え、まじでそれだけなの?
私なんで泣いちゃったんだろ……。
「てか、急にどしたのさ。もしかして私が男としたと思って寂しくなったとか? ってそんなわけ「うん……」……へ?」
し、しまった。ついポロっと本音が出てしまった。
ももはキョトンとした後、にかっと笑った。あ、これからかわれるやつだ。
「そっかそっかぁ~。寂しかったのかぁ~。いやぁ、モテる女は辛いねぇ」
「ち、違うし!そんな、寂しいなんて……」
「あれれれれ~? お顔が真っ赤ですぞ、華さん」
「~~~~っ!!」
だ、誰のせいだと……!
「ぷっ、あははは!」
「笑うな!」
「だ、だって……くっ、あははは!!」
このぉ~……!
そこでふと我に変える。誤解も解けたことだし、私が焦ってももに告白する理由もなくなった。だけど、これからいつどこの誰がももに言い寄るかもわからない。今、告白するべきではないだろうか。
(するべきだろうなぁ)
今回みたくならないように告白して恋人になりたい。もし断られても陽葵のようにへこたれず、アプローチをかけ続けていれば報われるかもしれない。前例がいることだし、いっちょ頑張りますか。
今度はヘタレるなよ、私。
「も、もももも……もも!」
……。
最悪だ。これはあり得ない。まじなんなの? 私って告白の前に何かしでかさないと生きていけない生き物なの?
「はい、いつもより三倍ももってますが何でしょうか」
ももは目尻にたまった涙を人差し指で拭いながら話を聞く姿勢になった。変に思われていないことに安堵し、ももの神対応に感謝した。
「あ、あのさ、私とこ……ここここい……っ」
「こい?」
恋人に……っ!
「こ、ここでクイズです!」
「お、唐突だな」
私のアホぉ~……。
陽葵、訂正するよ。私はどうしようもなくヘタレだったみたい。
「で、クイズって?」
「わ、私には好きな人がいます。その人とは誰でしょう!」
「え、好きな人いるの!?聞いてないんだけど!」
「だ、だから今言ったじゃん。で? だ、誰だと思う?」
「え、教えてくれないの?」
「教える……けどこれはクイズなのでももが正解するまで終わりません」
「そんなの無理ゲーじゃん!」
確かに。
「じゃ、じゃあ、十回。十回言ってそれで当たらなかったら答えるから」
「よしきた!絶対当ててやる!」
そうしてももは思い付く限りで私と関わりのある男子の名前を言っていった。中には聞き覚えのない人の名前も含まれていたが、たぶんどこかで会ったことがあるんだろう。覚えてないけど。
性別からして違うんだけどなぁ。
いや、もしももが男だったらそれはそれでありだけど、私が好きになったのは女のももだから男になったももを好きになれるかは別問題だけど。
「くそぉ~!全然当たんない!華と仲いい男子なんてそんなにいないからすぐ当たると思ってたのに!」
「悲しい事実をさらっと言わないでくれる?」
「うーん、あと一回しか残ってない……」
スルーされた。
「あの子でもなくてあの人でも無かったし……」
「ギブアップ?」
「ちょっと待って!当てる!当てるから!」
腕を組んでうねりながら考え込んでいる。
私はというと結構緊張していた。
こ、これでもう逃げられなくなっちゃった……。ももは私が好きな人を言うまで引かないだろうし……ええい!いい加減腹くくれ!正直にならないと。私はももが好き、私はももが好き。私はももが好き。私はももが好き。
まずは正直に自分の気持ちを伝える。絶対に伝える。
「あーもうわかんない!ヒントちょうだいヒントぉ~」
「ひ、ヒント……?」
「うん。例えばその人の外見とか性格とか」
「え、えーっと、外見は可愛い、かな」
「え、意外。華って可愛い系が好きなんだ。じゃあ年下とか?」
「ううん。同い年。背は私より少し低くて、お調子者でバカなことばっかり言ってくる子で、でも良いところもあって優しくて困ってる人がいたら自然と助けられる子なの。今日知ったことなんだけど人タラシみたいで結構人気あるみたいなんだよねぇ。だからちょっと焦っちゃってて」
「ベタ惚れですな」
「ま、まぁね」
あんたのことだっての。
「うーん、同い年でお調子者で華より背が低くてバカなことばっかり言ってる……これだけだったら私みたいだね。なーんて「せ、正解……」……ふぇ?」
「わ、私の好きな人はもも……です」
「え? は、え……? え、あ……えぇ?」
「私はももが好き」
私のその一言にももは固まった。と思ったら、みるみる顔を赤くしていった。
私?
私はすでに顔を熟しすぎたリンゴみたいに赤くしている。
「わ、私ぃ!?」
「うぅ~……そ、そうだよ。私はももが好きなの!ラブな意味で!ずっと前から恋人になりたいと思ってた!いい加減気付いてよ!」
「へ、あ、そ、そんな急に……てか、あれ全部私だったの?美化しすぎじゃない?」
「しすぎじゃない!いつもは自分のこと自分で誉めまくってるくせにこういうときだけ自分をけなすのやめてよ!こっちが恥ずかしくなってくるじゃん!」
「い、いや……あれは冗談で……。そういうノリってあるじゃん……?」
「私はノリじゃなくて本心だからね!?」
「あ、はい……。ごめんなさい……?」
「何で謝るのさ……」
「いや、何となく……?」
「もぉ、なんでこういうときまで茶化してくるのよぉ……」
まったく、雰囲気ってものを理解してなさすぎる。ほんとにバカなんだから。
まぁ、こんな奴を好きになった私もバカなんだけどね。
◇
私、信条ももは今年で20歳になるピチピチの女子大生である。
成績は中の下。容姿は平凡、だと思う。マクドのアルバイトをしていて何処にでもいる一般人といった感じの私だが、一般人が経験することはできないであろう出来事に直面している。
なんと中学、高校と一緒でルームシェアをしている青井華に好きだと言われてしまった。ラブな意味で。いや、さすがの私も告白されたことは何度かあるよ?でも女の子からは無かったんだよなぁ。
これはどう返せばいいんだろう。
ふざけてる雰囲気はまったくないし、マジなんだろう。
大学の女友達に女の子が好きな人とか女同士で付き合ってる人をみたことはあるけど私には関係ないことだとばかり思っていたから戸惑いを隠せない。
華の事は好きか嫌いかで言えば好きだ。でもそれが恋愛感情なのかは分からない。
というかなんで私なんだろ……。華はモデルみたいに綺麗で料理は美味しいし、将来華と結婚する人は幸せ者だなぁって思ってたんだけどその相手が私なの?身の丈にあってなくない?私何処にでもいる庶民だぞ? 凡人だぞ?
(ってそんなこと言ったら華は怒るんだろうなぁ)
ほんとどうしよう。返事は……しないといけないよね。
もし……もし私が断ったら華はこの家から出ていくのかな……。
それは……いやだな……。
「もも……?」
黙り込んでいると不安げに瞳を揺らしている華と目があった。
今、答え出さないといけないのかな……。
出さないといけないんだよね……。
でもなぁ~、急に好きって言われてもどう返したら正解なのか分からない。
数分悩んだ末にひとつの結論が出た。
「えーっ、と……華?」
「は、はい」
「好きって言われて嬉いんだけどさ……そのぉ、私そっち方面には疎くてよく分かんないんだわ」
「……うん」
どんどん華の顔が曇ったいく。
華にはそんな顔してほしくないけどこればかりは仕方ない。事実なんだから。
「だ、だから……っ。 お試しで付き合うってのはどうでしょうか……っ!」
「うん……うん?」
「華の事は好きなんだけどそれが恋愛感情なのかって言われたら良く分からないし、だけど華がこの家から出ていくの想像したら嫌だって思ったから。だからお試し期間で付き合ってみない?それで色々考えるから。華のことどう思ってるのか、とかさ」
「え……」
「それでもいい?」
「わ、私はいいけど……ももはいいの?私と付き合うの嫌じゃないわけ?」
「え?……嫌、とかじゃないかな。実感わかないけど嫌悪感とか全然ないし、相手が華だからなのかな?」
「っ!?」
「ん? 顔赤いよ?もしかして照れた?」
「うっさい!」
あ、マジなんだ。うわぁ、耳まで真っ赤。
私なんで華の気持ちに気づかなかったんだろう。めちゃくちゃ分かりやすいのに。
まぁ、とにもかくにも私に人生初の彼女が出来てしまいました。
お試しのだけど。
「これからよろしくね」
「う、うん……」
手を差し出して握手した。儀式みたいなものだ。
さて、私はこれからどうなってしまうのだろうか。
この恋人関係はうまい方に転ぶのか。それとも悪い方に転ぶのか。それは分からない。
ただ今言えるのは私は華と離れたくないと思っている。今はそれだけで十分だと思った。