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エピローグ

「大漁、大漁っと」


 教会内の壊れた石膏像から大量の『石』をうきうきと回収しているフィオナにグスタフが冷たい視線を投げる。


「そういう姿勢でいいんですかね? あれはどうするおつもりで?」


 グスタフは教会内の惨状を示した。

 三体の石膏像のうち一体は台座から外されて砕け散り、残り二体も頭部が大きく破損している。十字架には律師が磔にされたままだし、バルタザールの台座にも律師の死体。


「律師の『石』は持って帰ってもいいかな。お金になるし」


 ナイフを取りだしてくるりと回転させてフィオナが言う。血が飛び散らないように布で押さえた上で手早く死体の咽喉を切り裂いてサクッと『石』を取りだす様はまさに盗賊以外のなにものでもない。


 教会の中央部分は爆発でもあったように床が抜け、巨大な空洞が晒されている。教会には地下があり、そこには何かが封じられていたようだった。

 しかし今はそこには何もない。


「彼らはなにがしたかったんでしょうね」

冒険者(私たち)を雇ったのはここまでの護衛が目的だったと思うよ。最低限で充分だったんだと思う。時間を浪費したくなかったんじゃないかな」

「神の子羊を見立てて殺人をしたのは」

「聖人気取りじゃないかなぁ。神の子羊を特別視しすぎてるみたいだったし。自殺を禁じてる割に人身御供になるのはむしろ推奨してるきらいもあるからキリスト教ってほんとアレだよね」

「メルキオール像に石が閉じ込めてあったのは」

「術式って維持が難しいんだよね。無人ならなおさら。たぶん石膏像の中に別の魔術環(ネットワーク)の構成要素である『石』を蓄積することによって教会の魔術環(ネットワーク)のリソースが強化されていくのを阻害しようとしたんじゃないかな。今回はトリスもネットワークの形成に苦労していたみたいだし」

「結局あれは何だったんでしょうかね」

「邪神かなぁ……」


 数刻前、カインが像を破壊した途端に床が抜けて、光の鳩の大群が現れた。鳩の大群はフィオナとグスタフの視界を塞ぎ祭壇を埋め尽くしたかと思うと、ふいに消え失せた。


 そのときにはもう北の袖廊の突き当りにある出入り口と、西端にある入口は大きく開かれていた。

 得体の知れないなにかを目覚めさせたあと、カインもトリスもさっさと逃げ出したようだ。レベッカの姿もない。


 祭壇の上にはアレックスが倒れていて、彼女自身がまるで聖餐そのものであるかのように見えた。


「そいつ、生きてる?」

「死んではいないようですね」

「……死ぬとわかっていて子供を放置していくのもなぁ……」


 子供、というのはこの場合、成人式を迎えてない『石』なしのことである。冒険者なら野垂れ死にしても、寺院に『石』を持っていけば礼金がもらえるので放置していてもいつか生還できるだろう。

 しかし『石』なしならば死はそのままの意味で死だ。

 相手が『石』持ちならばいくらでも残忍に振る舞えるフィオナでも、『石』なし相手は寝覚めが悪い。


「かといってそいつ、危険物だしなぁ……」


 フィオナもグスタフも黄金の鳩の大群が祭壇の、すなわちアレックスの上で消えるのを目の当たりにしている。アレックスは『咒』とは系統の違う魔術式も使っていた。


「邪神憑きかぁ……なんだろうね、あれ。鳩は『聖霊』の化身だとは言うけれど、聖霊の化身が生贄を要求するなんて禍々しさ大爆発なんだけど。まぁ魔女狩りだの異端審問だのおよそ人間に思いつける禍々しいことをやり尽くしている宗教だけどさ」

「邪神憑きでも『始源の竜』よりは言葉が通じそうですがね」

「『始源の竜』、ね。あんなに弱かったなんてガッカリだよね」

「その弱い竜を目前にしてほぼ全滅の憂き目に遭うわ、『石』すら取れないわ貴方にもガッカリですが」

「あー、レベッカがいれば邪神憑きでも手綱が取れそうなんだけどなぁ……」

「あなたはまた……トリスさんで大失敗したことをお忘れですか」

「う」


 回収した石すべてを皮袋に入れて、フィオナは円柱に貼り付けられた画鋲を手にする。裏に返すと細かい『咒』の術式が書き付けられている。


「見てよ、これ。トリスらしい神経質な術式だよね。こんなに細かく書かなくてももっと簡単に『電』『通』とでも書けばいいのに」

「その組み合わせは縁起が良くない感じがしますが」

「そう? あー、ほんとトリスも惜しいことしたよね」

「惜しかったですか? 全然脈がなかったですよね」

「惜しいの意味が違う」


 フィオナは何かを思いついたようにさらさらと札に一文字『眠』と書き付けて、ぺたっとアレックスの額に貼った。


「これはまた雑な」

「まぁ、人里まで起きなきゃ邪魔にもならんでしょ」

「誰が運ぶと思ってるんですか」

「グスタフだよね。あ、もうちょっと術式足して軽くしておくから安心して」

「ここが『咒』効きが悪い地域だってお忘れでは?」

「大丈夫、君なら出来る」


 フィオナはグスタフの肩を叩くと、荷物をまとめて立ち上がった。


「それにしても帝国の皇子、思ってた以上にアレだねえ」

「アレですねえ……アレとは?」

「トリスの周囲は人材豊富だね、ってこと。あいつさ、教会中に張られていたなんかよくわからん魔術環(ネットワーク)に干渉していたの、気付いてた?」

「いいえ」

「そっかー。けっこうなリソースを横取りしてたんだよね。埋もれてるときは弩級だった邪神が、出てきてみれば黄金の鳩にランク堕ちしていたの、あいつのせいだろうなぁ。あれはあれで魅力だよなぁ……」

「あなたは他人に魅力を感じる前に、ご自分の魅力をどうにかしたほうがいいのでは」

「そうね。為政者としては致命的だよね」

「もう少しそのしょーもない頭の良さを他人を大事にする方向に使えば即解決すると思うんですがね」


 グスタフもアレックスを担ぎあげる。思った以上に軽く感じて、術式を確認するが、『眠』の文字が書かれた雑な札しか見受けられない。


(気のせいか……)


 アレックスの手首の十字架が黄金色にきらりと光った。

この話はn7226fxの書き直しです。現時点では主に犯人側の動きにあまり納得がいかないので、も少し書き直します。

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