6話
「はよー」
「あっ! 裕太戻ってきた!」
「マジだ! 裕太だ!」
教室に入ると友達が群がってきた。ありがとう友よ、俺は無事だ。
「裕太が生還した! よっしゃお前ら胴上げだ!」
それはちょっと恥ずいからやめて!
「あー、えっと、阿部ちゃんは……?」
「や、ここ数日見てない」
「まあ無理ないよなあ」
LIKEで教えてもらってたけど今回の事件の内容は大学中に広まってるらしい。まあニュースにもなったしな。
ちなみに高山の葬儀は俺が入院してる間に行われた。よりにもよって自分の娘が、しかもバラバラになった状態で死んだなんて、高山のご両親はどういう気持ちだろうな……。
ただ俺が見た雪谷の最後の晩餐、あれのおかげで阿部ちゃんは助かった。あのマニキュアを塗った爪が見えなければ、俺の判断は一瞬遅れてたと思う。
この能力がなければ阿部ちゃんはもちろん、今後も被害者が出てたかもしれない。かと言って山下さんが言ったように誇りに思うのは、ちょっと難しそうだ。
「あれ、阿部さん?」
振り返るとそこには阿部ちゃんがいた。クマもできてるし、憔悴してるように見える。そりゃそうだよな……。
「阿部ちゃん、おはよ」
「うん、おはよう。頭の怪我は平気?」
「大丈夫、ちゃんと縫ってもらったし」
「なら良かった。あのね、ちょっと話したいんだけど大丈夫? すぐ終わるから」
時計を見ると講義まであと20分。俺は頷いて阿部ちゃんの後ろを着いていった。
普段だったら茶化されて口笛のひとつでも飛んできただろうけど、さすがに今は状況が状況だ。みんな静かに見送ってくれた。
自販機で飲み物を買って、自習スペースの前のベンチに並んで座った。何話せばいいのかなあ。
「あのね、まずはお礼したくて。あの時日野くんが来なかったら、絶対殺されてたから。だからありがとう、本当に」
ああ、なんだかなあ。なんて言うか。ありがとうって感じの顔じゃないんだよなあ。どっちかと言うと泣きそうな。
「なんで雪谷先生があたしを殺そうとしてるって分かったの?」
「説明難しいんだけど、雪谷がどうこうってより、阿部ちゃんが今日死ぬって分かったんだよね。それで駆け付けたら雪谷がいてさ」
「あたしの死ぬ日、分かったの……?」
「まあ、直感みたいなもんだと思っといて」
釈然としないって感じだな。まあそうなるか。にしても阿部ちゃん、顔色も悪いし本当に大丈夫かな。
「阿部ちゃん。大丈夫ならいいけど、俺に言って気の済むことならいくらでも言ってくれていいよ」
俺がそう言うと、阿部ちゃんはばつの悪そうな顔で目を逸らした。
けどちょっとそのまま待ってると、阿部ちゃんはおそるおそるって感じで喋りだした。
「なんで、愛子は死んで私だけ助かったんだろうって」
「うん」
「もし、私が助かったのが偶然じゃないなら、どうしてなんだろうって」
「うん」
「……ごめんなさい」
阿部ちゃんは謝ったと思ったら俯いてしまった。
「もしかしてあたしが助かったみたいに、愛子も助かる方法があったかもしれないって。日野くんはその方法を知ってたんじゃないかって、もうどうしようもないのにそんなことばっかり考えてるの。あたしね、高校の時とか友達全然いなくて。愛子が話しかけてくれて、いろんなとこに誘ってくれて、それで友達も増えて」
……ああ、分かるよ。
みんな入学したてで緊張してる時、高山は遠慮なくいろんな人に話しかけてた。それで緊張が解けた人もいたし、高山はその場にいなくても共通の話題になった。
自意識過剰だけどそれだけ周囲を見てて、そのくせ流されない。勘違いしがちだけど前向きなやつだった。少なくとも、あんな死に方をする道理はなかった。
「ごめん、阿部ちゃん」
「ううん、あたしがそう思いたかっただけ。日野くんのおかげで助かったんだもん、感謝しなきゃいけないのに」
「違う、そうじゃなくて」
「え?」
「俺さ、大したもんじゃないけど実は超能力があるんだ。その人が人生の最後に食べるものが分かるっていう。阿部ちゃんはオーガニックカフェの期間限定のセットだった。だからクイッターでそれを投稿してんの見て、今日死ぬんだって分かったんだ」
阿部ちゃんが変な顔してる。まあ、変なこと言ってるやつって感じだよなあ。
けど分かる、阿部ちゃんは俺を疑ってはないし、馬鹿にもしない。
「なのに俺はよりにもよって、高山の最後の晩餐は見てなかったんだ。あの講義の後、呼び出されて殺された高山の最後の食事は、多分秋の欲張りセットだった。もし見てたら、なにかしらやりようがあったかもしれないのに」
人生で初めての感覚だ。多分こういうのを無力感って言うんだろう。阿部ちゃんを助けようとして、助けられた。なのに達成感もなにもない。虚しい、すごく虚しい。
この能力がなければ阿部ちゃんはもちろん、今後も被害者が出てたかもしれない。あのマニキュアを塗った爪が見えなければ、俺の判断は一瞬遅れてたと思う。
だから高山の死は決して無駄じゃない。そう思うしかない。それ以外にどうしようもない。そんな風にしか報われない。ごめん、ごめんな高山。ただそれでも、それでもやっぱり、阿部ちゃんまで殺されなくて良かった。
「んー、AかBか……」
券売機の前でタケシが唸ってる。日替わり2つあるから悩んでんだな。
Aはミックスフライ、Bは天丼。ガッツリだな。タケシの最後の晩餐は相変わらず肝臓のマークがついた液体の袋だ。
「焼き魚定食に野菜サラダで」
「ジジイかよ。せっかくミックスフライと天丼があんのに」
「タケシもそういうのにした方がいんじゃね。そしたらいいことあるかもな」
「いいことってなんだよ」
「人生最後の食事が、液体とか制限されまくりの病院食じゃなくなるかもしれない。最後の晩餐は米と味噌汁がいいからな、やっぱ」
「考えてること完全にジジイじゃん」
タケシは結局ミックスフライ定食の食券を買った。やれやれだぜ。
「あ、腕まだ治ってないのよね。今持ってくから」
「あ、平気っすよ。これくらいなら片手でも」
「あたしが運ぶんで大丈夫ですよ」
振り返ると阿部ちゃん。手には食券を持ってる。
あの事件から仲良く……かは分からないけど、話をすることが多くなって、学食とかで鉢合わせるとトレー持ってくれたりするようになった。
「阿部ちゃんは何にしたの?」
「トマトパスタ。先食べなよ」
「んー、でも空いてるしすぐ来るでしょ、待ってる」
阿部ちゃんは優しいけどたまに辛辣なこととか、肉がそんなに好きじゃないこととか、夕方から週1で習い事してることとか、今まで知らなかった面を知ることができた。少しでも腹を割って話せたからかもしれない。しようと思ってた告白はもう少し落ち着いてからにしようと思う。
とりあえず、阿部ちゃんの顔色は悪くないし、飯もちゃんと食えてるらしい。
「あたしね、最後の晩餐はご飯と、あと豚汁がいいなあ」
突然そんなことを言われて、俺は阿部ちゃんの最後の食事を見た。あ、惜しいな。豚汁じゃあないな。まあ概ね叶ってはいるけど。
「惜しい、豚汁じゃなくてなめこの味噌汁」
「そっかあ、まあ上々だよね。あたしなめこも好きだし」
「豆腐も入ってる」
「そうそう、あたしなめこのお味噌汁には絶対木綿豆腐入れるんだよね。良いね、多分最期は何でもない日常の中なんだろうな。良い終わり方な気がする」
微笑まれてドキマギしつつも、俺もぎこちなく笑い返した。そこで阿部ちゃんの番号が呼ばれた。
俺は自分の最後の晩餐は分からない。だからとりあえず、いつ最後の食事になってもいいように、しっかり味わって食べようと思う。
そんなことを考えながら、阿部ちゃんと揃って目の前の食事に手を合わせた。
「いただきます」
これにて完結です。ご拝読いただきありがとうございました。管理栄養士が思いのままにチート能力なろう小説を書いてみたらこうなりました。
休憩時間に簡単に書いたものなので、文字数も少なく結構ライトになりました。
みんな野菜食おうぜ。




