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4話

「遊園地って楽しいな」


「そうだな」


「男2人でも楽しいな」


「そうだな」


「別に彼女とじゃなくても楽しいな」


「もうやめて」


ポテト片手にコーラを飲む武田の目が死んでる。ピザ食べてる俺の目も多分瀕死だ。


遊園地は男2人でも楽しい。アトラクションは面白いし、飯も結構美味しい。縁日の屋台マジック的な感じで。


男デ◯ズニーとか普通にあるし、別に男同士で遊園地がつらいわけじゃない。ただ元々彼女と来ることを楽しみにしてたわけだ、武田は。


「彼女のため」から「チケットが勿体ないから」に成り下がった俺たちのこれは、ふと我に返ると妙に虚しい。


「俺トイレ行ってくる」


「おー」


彼女とだったら夜のイルミネーションまで楽しむんだろうけど、こりゃ夕方には切り上げて居酒屋コースだな。


あ、そうだ、久しぶりにクイッターに投稿するか。折角だしな、ピザの写真とか載せとくか。


こうやって、こう……あ、影入った。角度が悪いのか、照明がこっちからだからこうやって……あ、ブレた。まいっか。


よし、これで投稿してと。


「ん?」


今なんか、見覚えのあるものが映ってたような。


きのことサツマイモのクリームスープ、サーモンとマスタード、雑穀米に温玉、りんごとぶどうのケーキ。オーガニックカフェの季節限定のセットだ。


問題なのは投稿者だ。ユーザー名、あべゆー。つまり阿部ちゃんのアカウントだ。


「は、いや、なんで」


だって今日講義ないぞ、なんで大学行ってんだよ。なんで……いや待てよ。


昨日高山はなんて言ってた? そうだ、たしか「また明日」って言ってた。阿部ちゃんも高山も元から大学に来る予定だったのか。


『あたし2限休講になったから早めに食べちゃったんだ』


『2限はえーと……ああ、阿部ちゃん心理学取ってたっけ』


……あ。まさか。


大学の学生用サイトをチェックすると、補講の情報が出てる。11月19日2限、2号館304教室にて11月8日分心理学補講。


だあああもう、そういうことかよ! くっそ、油断してた!


「裕太ー、なんか今トイレにピ◯チュウいたんだけど」


「武田ごめん! 急用できた!」


「えっ」


ごめんな武田! お前との友情は大切にしたいけど、人命には代えられない!


俺はひたすら走った。遊園地から駅まで必死に走り、駆け込み乗車はご遠慮願いますのアナウンスの中電車に駆け込み、そわそわと落ち着きなく大学の最寄駅に着くのを待つ。


そうだ、今のうちに阿部ちゃんにLIKEしとかないと。


急にごめん、室内にいて。絶対に1人にならないで、理由は後で説明するから……よし、頼む、見てくれよ阿部ちゃん。


駅に到着したらまた全力疾走だ。変な目で見られているのは分かる、けど気にしてる場合じゃない。


と、着信? 誰だこんな時に……あっ。


『もしもし阿部ちゃん!』


『なに、どったの? なんかあったの?』


『阿部ちゃん今どこ?』


『大学の中だよ。今から3号館行く予定。よく分かんないけど、外に出なきゃいいんでしょ?』


『うん、頼むね!』


よし、良かったまだ間に合う。ああでも脇腹痛いししんどい、ピザなんか食うんじゃなかった。


大学に到着して3号館に向かうと、大きな窓から阿部ちゃんが廊下を歩いているのが見えた。雪谷先生と一緒か……研究室だな。よっしゃ、最後のダッシュだ!


「阿部ちゃ……」


廊下を歩く阿部ちゃんの横にいる雪谷先生の最後の晩餐が見えた。なんで今……?


肉だ。また生肉。今度は内臓、いやホルモン? 焼肉屋にでも……待て、なんで……。


なんで処理されてないんだ、この肉。


袋みたいな内臓に包丁が差し込まれて中身が出てくる。ぐちゃぐちゃの中身が零れるのが見えて、吐き気が這い上がってくる。

分かりにくいけど、米粒っぽいのとキノコ、鮭のピンク。多分ピザを完食してこれを見たら吐いてた。まさか。


2つの肺、胃袋らしい内臓、俺が最初に見たレバー、細くて長い腸。


なんで、人間の身体と同じ配置をしてるんだ。なんで……マニキュアを塗った手が繋がってる?しかもこれ、今阿部ちゃんが塗ってるのと同じ色だ。


そんで胃袋であろう内臓から出てきたのは、多分秋の欲張りセット。


まさか、いや有り得ない。そんなことができる人間がいるはずない。


「あ、日野くん?」


振り返った阿部ちゃんに呼ばれてはっと顔を上げた瞬間、とんでもないものが目に入った。俺は反射的に飛び出していた。


がぁん、とこめかみに激痛。視界が揺れてブレる。阿部ちゃんの悲鳴。嘘だろ雪谷先生、こいつ今、阿部ちゃんが後ろ向いた瞬間に殴り殺そうとしやがった……!


「なんですかぁ、邪魔しらいでくらさいよぉ」


もう一度手に持った壺で殴りかかってこようとした雪谷先生の腹に蹴りを入れて、俺は阿部ちゃんの手を取った。


「逃げるよ!」


頭がクッソ痛い、しかも視界がなんか赤い。目に血が入る。


「日野くんっ、ねえ、なんなのこれ!」


「いいから!」


「えっ、ちょっ、追い掛けてきてんだけど!」


「とりあえず外出よう!」


階段を駆け下りてもう一度振り返ると、雪谷先生も階段を降りようとしているところだった。


いくらひょろひょろでも男だ、阿部ちゃんの足だと追い付かれる。くっそ仕方ねえ、阿部ちゃんを先に逃して――


「あぎゃっ」


「えっ?」


足を踏み外した雪谷は、そのまま階段を転げ落ちた。


手をついたり顔を庇ったりせずに頭から落ちて、首があり得ない角度でひん曲がった。


阿部ちゃんの悲鳴をBGMに、俺はびくびくと痙攣する雪谷の身体を見て、ぼんやりする頭で考えた。


ああ、死んだわ、これ。

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