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1話

俺、日野裕太はどこにでもいる普通の大学生だ。


しかし現在死にかけている。何故かと言うと交通事故に遭ったからだ。おもくそトラックと衝突しました。なんてこったい。


救急隊員らしき人たちが俺に呼びかけているのは分かる、何言ってんのかは分からないけど。


視界が徐々に白く染まっていく。ああ、死ぬのか俺。やだなあ、明日人生初の合コンに行く予定だったのに。


「めんご」


真っ白い視界の中に、ひょっこりと老婆が入ってきた。いや誰だよこのババア。


「実はあたくし神というやつなんですけどね、手違いであなたを殺しかけてしまいましてね」


「は?」


「本当はねー、車はあなたじゃなくて電柱にぶつかるはずだったのよ。死ぬのは運転手のはずだったんだけどもね」


この展開どっかで見たことあるよ?


そうだ、同じゼミの山下のラノベ。何なのこれ、死ぬ間際に見る夢なの?


で、こっから異世界に転生するってやつ。たしか凄い能力とか貰ったりするんだよな。


「お詫びと言ってはなんだけど、能力ガチャ回さないかしら?」


「ガチャ? え、ガチャ?」


「そう、ガチャ」


「普通にチート能力貰えるんじゃなく?」


「死んでしまったならそれくらい差し上げたいけど、あなたは死んでいないから。ごめんなさいね、そう簡単に超能力者みたいな人を出すわけにもいかないじゃない?」


「それはまあ、たしかに」


「けど安心して! 何かしら当たるようにはなってるの。さあ、1回どうぞ」


煙と共に目の前に懐かしのガチャガチャボックスが現れた。うわ、こんなん回すの中学生以来だ、懐かしい。


出てきた緑色のカプセルを取り出すと、中には紙が入っている。これに能力が書いてあんのかな。えーと……。


「はい、Rが出たわよ」


「えっ、レア?」


「あなたが引いたのは、その人の最後の晩餐を予知する能力です!」


「え?」


「いやだからRで、その人の最後の晩餐、厳密には人生の最後に食べるものを予知する能力。あくまでも予知だから、ちょっとした行動で変わったりするみたいよ」


……ああ、そういえばソシャゲに課金したことあるけど、使い物になるのはSSRとかURで、Rは実質ハズレみたいなもんだった。俺は思わず叫んだ。


「なんでやねん!」


叫んだ瞬間、そこは既に白い空間じゃなかった。まったく見覚えのない……病院?


「裕太……?」


名前を呼ばれてそちらを向くと、そこには涙を浮かべる母ちゃん。そして妹。


あ、そう言えば交通事故に遭ったんだった。


「裕太! 自分のこと分かる? 痛いとこない?」


「お母さん落ち着いて! こういう時はナースコールでしょ!」


どうやら俺は頭を強く打って、3日間意識不明の重体だったらしい。左腕の骨にヒビが入ってたけど、幸いそれ以外に大きな怪我はない。


検査とかで1週間だけ入院してすぐに退院できることになった。いやまあ良かった、事故だろうが病気だろうが講義と単位は待ってくれないしな。


にしても母ちゃんはともかく妹は終始冷静だった。元から結構ドライだし、いつも通りどうせ家でポテチでも食ってたんだろうな、こいつ油物好きだし。


まあ、さすがのこいつも最後の食事は梅粥とかなんだろうけど……ん?


んん?


「お前らさ、最後の晩餐って何がいい?」


退院後、固定された左腕のまま退院して大学に行き、学食で生姜焼き定食を頼んだ俺は、よく一緒に飯を食う友達に訊いてみた。


ちなみに俺の定食は同じ学科のタケシが運んでくれた。ありがとうタケシ。


「やっぱTKGとかじゃね」


「俺納豆派」


「分かる、あと味噌汁な」


「海苔も欲しい」


あー、やっぱみんなそんな感じだよな。俺はご飯に海苔の佃煮がいいな。


死刑囚は最後の晩餐の希望がを聞いてもらえるらしいけど、ほとんど米と味噌汁だってどこかで聞いたことがある。


えーと、実際の最後の晩餐は……武田が魚と米、佐藤はラーメン……いや、違うなこれ、にゅうめんだ。 


タケシは……何だこれ。袋に入った液体の袋にカタカナで色々書いてある。数値に内容量にカロリーと生産者名……株式会社ターミナルライフ工場。


もしかしてタケシ、お前の最後の晩餐はドラッグストアとかで売ってるような健康食品的なもの……?


「なあ、株式会社ターミナルライフって知ってる?」


「知らん」


「何それ」


俺はスマホで株式会社ターミナルライフを検索した。


食品会社っぽいな、えーと、経腸栄養剤、特殊食品、人工能動流動食……あれ、これってまさか。


俺はふと、同じ病室にいた爺さんのことを思い出した。回っていない舌で干し柿が食いたいとずっとぼやいていた爺さん、鼻から管を入れられてそれで食事を摂っていた。


そしてさっき見たタケシの最後の晩餐の袋には勾玉みたいなマークがついてた。そうか、あれ肝臓のマークだ。


タケシの最後の晩餐は、鼻から入れられるあの液体ってことか……タケシお前……。


「おっつー、今昼?」


「あっ、阿部ちゃん」


デニムのショーパンにパーカーとスニーカー、ショートヘアの活発系女子、目がくりくりしてて猫みたいだ。彼女は同じ学科の阿部結衣ちゃんだ。


あー、やっぱ可愛いな阿部ちゃん。清楚系とかセクシー系とかいろいろいるけど、俺は活発な阿部ちゃんが最高に可愛いと思ってる。


ボーイッシュだけどマニキュア塗ってたり、可愛いピアス着けてたり、さりげない女の子らしさがこう……キュッとくる。


合コンなんか行こうとしたけど、やっぱ阿部ちゃんが彼女になってくれることを夢見ちゃうんだよなあ。まあ意気地なしだから告白どころかデートにも誘えないんだけど。


「阿部ちゃんはもう昼食ったの?」


「あたし2限休講になったから早めに食べちゃったんだ」


「2限はえーと……ああ、阿部ちゃん心理学取ってたっけ」


「うん。それで愛子とオーガニックカフェ行ってきちゃった」


「オーガニックカフェ? ああ、そういや最近近くに新しい店ができたとか聞いたな、それのこと?」


「そうそれ! 結構良かったよ、ほら」


阿部ちゃんのスマホの画面には、よく分からない色々な西洋野菜を使った大きなサラダプレートだとか、お洒落な一口サイズのサンドイッチとかが表示されている。光とか角度とかが計算された状態で撮られている。女の子ってこういう写真にこだわるよな。


にしても野菜たっぷりだよな、女の子ってこういうの好きだよな。女の方が寿命長いのも納得だわ。


そういや阿部ちゃんの最後の晩餐はどんななんだろうな、タケシみたいなのだったらちょっとショックだわ。


でもこんな健康的ならきっと大丈夫……ん? え?


「……このお皿って、店のマーク入ってんだね」


「そうなの! 映えるよねー!」


嘘だろ、おい。なんで?


阿部ちゃんの最後の晩餐は、写真と同じマークが入った皿に盛られたサラダ。きのことサツマイモのクリームスープ、サーモンとマスタード、雑穀米に温玉、デザートにリンゴとブドウのケーキがついている。


間違いなく今日阿部ちゃんが行った店の料理だった。

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