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なんか色々と不思議現象が起こっているっ!?

 百合、吸血?注意。

 ステラからの新しいを手紙を読みついでに、古い手紙も読み返していたら……


「なんて書いてあったの?」


 ホリィが横から覗き込んで来た。


「会いたいって」

「それは……すまないが、少し難しい」


 灰色の髪のにーさんが低い声で言う。


 別に、にーさん……シルトが悪いワケじゃないというのに、申し訳なさそうな顔をする。


 このヒト、優しいけど不器用なんだよね。ちょっとだけ、ウェンみたい。


「わかってるよ」


 あれから十数年、か――――


※※※※※※※※※※※※※※※


「さあ、どうする? 決めるのは、君だ。我が遠き姉妹よ。君の答えを尊重しよう。コルド」


 シンがオレへ訊いた。


 人間をやめるか、死ぬかを。


 そしてオレは、生きることを決めた。


 仮令(たとあ)人間をやめることになっても――――


 だって、オレのせいでホリィは人間でいられなくなったというのに。その原因のオレがホリィを残して死ねるワケがないじゃないか。


「…………」


 オレを優しく見下ろすアクアマリンに意図を告げようとしたが、声が出なかった。


 けれど、オレの意志を察したアクアマリンがふっと微笑み、ひんやりした手が頬へ。


 圧倒的な美貌がオレへ寄せられ、そのふっくらとした冷たい赤い唇が、落とされた。


 じっと見詰めるアクアマリンの瞳。そして、


「?」


 温かく、とろりとして少ししょっぱい液体が、口の中に流し込まれる。鉄錆のような匂い、の……


「……飲み込め」


 多分、これはシンの血液。


 透き通ったアクアマリンが見詰める。それに逆らわず、コクンと飲み込む。


「いい子だ」


 そう言って、また唇が塞がれる。ひんやりとして柔らかい、ぬるりとしたモノが口の中へ入って来て、舌が絡め取られる。

 ゆっくりと、とろりとした(ぬる)い液体が何度も口の中に注がれ、飲み下し、息継ぎで唇が離れ、また唇が塞がれ、シンの血液が流し込まれる。


 何度も何度も唇が塞がれ、離れてはまた塞がれる。とろりとした温かく、甘い(・・)液体が喉を通って行く感覚がして……


 やがて、とても眠くなった。


 そのまま目を閉じて――――


 ・・・・・・・・・・・・

 ・・・・・・・・・

 ・・・・・・

 ・・・


 目を覚ますと、知らない天井が目に映る。


「? ……ここ、どこ?」


 小さく呟いた掠れ声に、


「起きたか。我が姉妹よ」


 横から澄んだアルトの声が返る。


「……シ、ン?」


 声のした方を見ると、子供がいた。


 オレより少し年下の、スノウくらいの子供が椅子に座って、横になるオレを見下ろしている。


「ああ。おはよう、妹よ」


 淡い金髪のハニーブロンド、透き通ったアクアマリンの瞳、白磁(はくじ)の肌、滑らかな頬、ふっくらとした赤い唇、ほっそりした顎……圧倒的な美貌の、男の子の格好をした子供(・・)


「……いや、なんで縮んでるの?」


 最後に見たときのシンの容姿は、十代後半の女の人だった。


 けれど、今はオレよりも小さい姿。なのに、彼女(・・)がシンだと判る。


「体液と魔力を消耗したので、体積を減らした」

「は?」

「省エネというやつだ。もう少し成長した女の姿では、おちおち外も歩けんからな? 普段は大抵子供の姿をしている」

「いや、オレが聞きたいのはそういうことじゃなくて……人魚って、そんなことできるの?」

「個体差に拠る。言っただろう? 私は、人魚としての能力が他のモノよりも高いと」

「……ああ、アンタが凄いだけか」


 なんか、納得した。


「さて? どうだろうな。以前出逢った黒髪金眼のヴァンパイア殿は、年齢どころか、幾種類かの動物……それも小動物へも変わって見せた。中身が見たくなったので、是非とも解剖させてくれと言ったら、残念ながら断られてしまったよ。恩人であるから無理は言えなくてな? 惜しいことだ」


 いきなり解剖させろと申し込むとか、しかも恩人にって……コイツ、ヤバい奴だ。


「…………アンタって、マッド?」

「ふむ……なぜかそう言われることは多いな」


 不思議そうに(まばた)いたアクアマリンが、


「それより、具合はどうだ? 痛い場所は? 気分が悪かったり、腹が減っているということは?」


 じっと観察するような視線へと変化する。


「…………大丈夫、かな?」

「そうか。それはなによりだ」


 ふっと上がる口の端。


「あの、さ……ホリィ、は?」

「右手を上げてみろ」

「? ……あ」


 言われた通り右手を上げると、腕がやたら重く感じて、白い手がくっ付いていた。オレの手よりも一回り程大きい子供の手に、右手が握られている。


 よく知っている、何度も繋いだ手だ。


「君の傍を離れようとしなくてな? そこで寝ている」


 ホリィの顔を見ようと身を起こそうとして、身体が重いことに気付く。力が入らない。


「失血が酷かったんだ。傷は治っても、造血速度が追い付かねば貧血のままだ。無理はするな」

「失血? ……傷?」

「ああ。刺されただろう? 右肩を。動脈が切られていてな。大量出血した。そして少し前、君が仮死状態から脱したのでな。そろそろ目を覚ますやもしれぬと、観察していた」

「ああ……うん」


 仮死状態。それで、オレは――――


「傷はもう治した」

「え?」

「ただ、その分体力を消費している。もう少し寝ているといい。目を閉じろ」

「?」

「…………悪いが、古疵(ふるきず)は治してやれなかった。消してやりたがったのだがな? 許せ。妹よ」


 あ、れ? なんだか、眠く……


 そっと、首が撫でられたような気がして――――


 ・・・・・・・・・

 ・・・・・・

 ・・・


「……ん……ぅ?」


 ぱちりと目を覚ますと、


「っ!? コルドっ!?」


 目の前に青灰色の瞳とソバカスの散った驚き顔。次いで、その顔がくしゃりと歪み、ぱたぱたと熱い雫が落ちて来た。


「……ほ、りぃ?」


 名前を呼んだ瞬間、ハッとしたようにホリィがオレから目を逸らしてパッと駆け出し……


「っと、どこへ行くつもりだ? ホーリー」


 丁度部屋へ入って来た灰色の髪の長身の男が、サッとホリィを捕獲した。


「っ! は、なしてよっ!?」


 ジタバタと暴れるホリィをあっさりと制し、逃がさないようひょいと小脇に抱える男。


「暴れるな。病み上りの奴の前だぞ」

「っ!」


 (たしな)められたホリィが、ビクリと震えて大人しくなる。けれど、オレの方へは目を向けようとしない。


「起きたようだな、コルド。調子はどうだ?」


 気安い感じで灰色髪のにーさんが、オレへ手を差し伸べつつ聞いた。


「悪くない、かな? けど……にーさん、誰?」


 このにーさんと会った覚えはない。けれど、なぜか知っているような気はする。


 差し出された大きな手を取ると、ひょいと起こされた。にーさんを見上げる。


「ああ、俺はシルトっていうんだが……お前には、ファングって名乗った方がわかるか?」


 それ(・・)は銀灰色の毛並みで、蒼い瞳の狼犬の名前。


 そして、目の前の彼は灰色の髪(・・・・)蒼い瞳(・・・)をしている。


「…………ファング?」

「ああ」

「にーさん、犬なの?」

「犬じゃねぇ、狼だ。間違うな」


 ムッとしたような低い声。


「え、と……ごめん」

「いや……」

「ああっ、駄犬が女の子イジメてるっ!?」


 挑発的に響くテノールがした。この声は……


「誰が駄犬かっ、この淫魔が!」

「淫魔言うな、駄犬! っていうか、アンタはデカい上に無愛想なんだから、あんまりコルド()を怖がらせないでよ」

「ぅ……いや、それは、すまん」


 いちゃもんを付けるライから目を逸らし、オレへ謝るにーさん。この二人、仲が悪い……のかな?


 つか、ライが神父服着てないの初めて見た。


「いや、にーさん別に怖くないから。ウェン……うちの一番上の兄貴のがもっと目付き悪ぃし、レイニー……二番目の兄貴のがガラも悪いしさ?」

「あぁ……確かに」


 ぼそりと呟くにーさん。そういえば、ファングのときに、レイニーとウェンとは対面していたな。


「で、なにしてるの? アンタ達は」

「ああ、コルドが起きたんだが、その途端コイツが逃げようとしてな? 捕獲した」

「ふ~ん……」


 と、ライがニヤリと笑った。


「いいんじゃない? 放せば?」


 そして眼鏡を外し、


「は? おい、ライ」


 にこりとオレへ手を伸ばす。


「?」


 現れたのは、鮮やかなエメラルドの瞳。


「ね、コルドちゃん(・・・)て呼んでいい? ホントはボク、ずっとコルドちゃんて呼びたかったんだ」


 眼鏡を外すと、ライの雰囲気が一変した。薄味な顔の造作が変わったワケではないのに、なぜか雰囲気が急に色っぽくなった……ような気がする。変なの。


「別にいいけど?」

「ありがと。ボク、君のこと好きなんだ」


 熱い手が頬へ触れ、


「?」


 その反対の頬へ、チュッと落ちる唇。


「っ!?」

「というワケで、逃げたい誰かさんの代わりに、ボクがコルドちゃんの面倒を看るから、放していいよ」

「は? いや……」

「駄目っ!? コルドは僕のなんだからっ!?」


 大きな声でホリィが怒鳴った。


「ハッ……馬鹿か、君は。逃げようとしたクセに。挙げ句、出した言葉は独占欲丸出しの嫉妬か? そんなことよりも先に、君には言うべきことがあるだろ」


 冷ややかな怒りの(こも)るテノール。そしてホリィを見下すように鮮やかなエメラルドがゆらりと(きら)めいた。


「っ!」


 ビクリと震えるホリィ。


「ほら、降ろしなよ」

「お、おう」


 ライに言われ、シルトがホリィを降ろす。


「……コル、ド、ごめっ……」


 ぽろぽろと涙を流してホリィが謝った。


「僕、ずっと……コルドの、ことっ……」

「ああ……そういえば、そう(・・)だったな」

「! ごめっ、なさっ……」


 オレが……ずっと隠していたことが、ホリィにバレたんだ。


五月蝿(うるさ)いぞお前達。病院では静かにせよ」


 そして、呆れたようなアルトが割り込んだ。


「あ、シン様。こんにちは。コルドちゃんが起きましたよ? 大丈夫そうですか?」

「ああ。おはよう、妹よ」

「え、と……うん。おはよう?」

「調子はどうだ?」

「あ、うん。悪くない」

「そうか。それは重畳(ちょうじょう)。……では、退()け。邪魔だ。ラファエル」

「はーい、シン様」


 ライが素直に退くと、シンがオレの側へ。


「さて、妹よ」


 するんと頬へ伸ばされる小さな手。まだ、オレより小さい。なのに……


「妹って……?」

「? 君はもう、血を分けし我が妹だ。飲め」

「へ?」


 近付くアクアマリン。すっと塞がれる唇。


「コルドっ!?」


 驚愕したようなホリィの声。


 柔らかい感触。そして、とろりと流し込まれる温い液体。逆らわずに、コクンとそれを飲み込む。


「よし、いい子だ」


 細められるアクアマリン。


「! コルドにっ、なにしてンのアンタっ!?」

「? 血液を飲ませただけだが? それにしても、君へ口付けをするのは倒錯的な気分になるな」


 なんでもないようにシンが言う。


「倒錯的って……女同士だから?」

「その辺りは特にどうも思わんが、君の容姿は私の弟と似ていてな? 特に、その瞳の色がそっくりなんだ」

「弟……いるんだ?」


 しかも、オレに似たって……いや、オレの方が弟さんに似てる、のか?


「弟さん、女顔なの?」

「ああ。愛しき私の弟は、見目麗しい。君よりも華やかで、より気品に満ち溢れているがな? まあ、そんなことは、後程幾らでも語れよう。これから我らは、(なが)時間(とき)を共にする。それより、起きられるのであれば、家族へ別れを告げておいで」


 優しげな言葉に、ドキリとした。


 そう、だ。オレは、もう……


 あの家では暮らせない。


 ウェン、レイニー、ステラ、スノウ……


 兄妹達とは、もう一緒にはいられない。


 ローズ……ロザンナとも――――


※※※※※※※※※※※※※※※


 それから、慌ててホリィと家へ帰って――――


 オレは一週間も寝ていたようで、帰ったらホリィ共々ウェンとレイニーにしこたま怒られた。そして、ステラとスノウにも大泣きされた。


 色々と熱烈で、情熱的で、物凄く大変だった。


 なんでも、オレとホリィは薬物中毒者の乱闘に巻き込まれて頭を強く打ち、入院していた……ということになっていたようだ。


 頭を強く打っているから、検査の為と事情聴取の為に入院が長引いた……とかなんとか。


 それが、完璧なでっち上げ……ではない辺りが、なんとも言えないと思う。


 数日前の新聞に拠ると、阿片を横領していた警察官が、薬物中毒者と揉めて乱闘。双方共に、手足が粉砕される程の激しい怪我をしていたとかで、鋭意捜査中とのこと。

 ちなみに、彼らの手足は再起不能な程の損傷で、横領警察官も含め阿片中毒だった彼らは、薬物中毒者の更正施設行きだそうだ。教会が彼らの更正へ、全面的に協力するらしい。


 すごい辻褄合わせだ。


 そして、その事件が切っ掛けで、オレの家族だと名乗る金髪碧眼の美女(・・・・・・・)が現れ、オレを引き取りたいとの申し出が来ている。ということになっていた。


 なんでも、その女性は貿易会社を起こす為にこれから外国へ渡るという。


 一人が寂しいなら、ホリィも一緒に、とのこと。


 色々と超展開が繰り広げられられて――――


 なんか色々と不思議現象が起こっているっ!?


 そして、オレは――――


 家族と、大好きな人達へ別れを告げた。

 読んでくださり、ありがとうございました。


 まあ、あれです。得意の・・・

 コルドが死んだと明記した覚えはありません。冷たくなったと表現しただけです。

 実は仮死状態でした。


 少しは安心されたでしょうか?

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