・・、・・・?
ゆさゆさ、ゆさゆさと身体を揺さぶられる感覚。
「ん……ぅぐっ……!」
潰れた嗄れ声。
喉が、痛い。その痛みで目を覚ますと、オレを揺すっているのはステラだった。
「・・・!」
起きて、と口がパクパク。
眠い目を擦り、うんうん頷き……
「~~……っ!」
ぅう……欠伸でも喉に痛みが……
枕元に置いてある布を引っ掴み、一旦毛布に潜って首に巻いて顔を出す。
『どうした?』
ステラの手を取って聞く。
『起きて、朝』
「??」
朝? オレ、昨日からずっと寝てたのか?
それにしても、寝ているオレを無理矢理起こすなんて、ステラらしくない。首を傾げ、また聞く。
『どうかしたの?』
どこかムッとしたような顔での答え。
『首、包帯巻いて青い顔! 起きなかったら嫌だから、起こしたの!』
「・・・」
『ごめん。心配させて』
『本当に心配した! コルドの馬鹿!』
くしゃりとステラの顔が歪んだ。
「っ!」
マズいと思ったら、
「うあぁあぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!!!」
思わず耳を押さえる程の大音量。
直後、バタンとドアが開いて、
「煩っせぇっ!? なに泣いてやが……って、げぇっ、ステラかよっ!?」
怒鳴り込んで来たレイニーがぎょっと怯む。
「…あ~、あれだっ。泣かしたな、お前だろっ? 責任持ってなんとかしろっ!」
大音量の泣き声の中、その声に掻き消されないよう言い残して……逃げて行きやがった。
ステラは耳が聴こえない為、自分で声の音量調節ができない。よって、泣くときには、それはそれは力一杯の全力で泣く。家中どころか、外の通りにまで響く声で。更に厄介なことは、泣いているステラには、言葉が一切通じなくなることだ。
「……」
きっと、ステラが泣き止むまでは誰も来ない。多分、ホリィ以外の奴は……
大音量の泣き声に辟易しながら、よしよしとステラの頭や髪を撫でてあやす。
泣かしたの、オレだし……
「…………っ!?」
不明瞭な発音で名前が呼ばれ、泣いて体温の上がった熱い身体がぎゅうぅっ! と強くしがみ付く。
ごめんと思いながら、トントンとステラの背中や頭を撫で続け――――
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
「っ!」
ハッと目を覚ます。と、
「こ、コルドっ……お、起きた、の?」
頭上でギクリと強張るホリィの姿。
「・・、・・・?」
なに、してる? と。泳ぐ青灰色の瞳を睨み付け、声を出さずに口だけを動かして問う。
「あ……えっと、ほら? ステラがっ……その、重そうだから! どかしてあげようかな~? って」
挙動不審にホリィが言う。明らかな嘘だが。
確かに、重い。胸の上にステラの頭が乗っかっている。涙の跡の残る顔が赤い。
泣き疲れて寝てしまったようだ。オレも、あやし疲れて一緒に寝ていたらしい。
ステラを起こさないようそっと頭を下ろし、身を起こす。服もバンダナも濡れている。
「…………」
溜息を吐き、
「コルド?」
首元が隠れる別の服を取り出して毛布の中で、もそもそと着替える。
そして、気まずそうに顔を逸らすホリィに向き直り、その手を取る。
『なにしようとした』
ぴくりと震える手。
「だ、だから、ステラを、どけようとして……」
『嘘吐くな。首、触ろうとしたんだろ』
ホリィが目を伏せる。
『そういう悪巫山戯、二度とするな』
「巫山戯てなんかないっ!」
『じゃあ、なに? 嫌がらせ?』
「違うっ!? そんなんじゃ、ない……レイニーがっ、ウェンと話してて……コルドの怪我、すごく……酷いって。だか、らっ……」
伏せられた青灰色がキッとオレを見据え、
「見せて」
ホリィが言う。
『嫌だ。拒否する。出てけ』
取っていた手を投げ、拒絶を示す。
「嫌だっ! 見せて。お願い」
伸びて来る手を払う。
「コルドっ!!」
嫌だと、言っているのにっ!?
「っ……わ、るなっ!?」
傷んだ喉の、潰れて嗄れた声。
ハッとした顔が泣き出しそうに歪んだ。そんなホリィをバッと突き飛ばし、部屋を出る。
喉が、痛い。走って、
「なんだ? どうしたコルド」
ウェンの隣に逃げ込む。
『ホリィが、首見せろって言うから逃げて来た。嫌だ。アイツなんとかして』
「ったく、アイツは……」
苦々しい溜息。
「ステラは?」
『泣き疲れて寝てる。オレの部屋』
「……一応言っとくが、アイツも心配してんだ。お前が嫌がるのわかっててもな? だからそう、あまり邪険にしてやるなよ」
宥めるような低い声。ぽんと頭が撫でられる。
『わかってる。でも、嫌だ。こんなの、見られたくない。見せたくない』
こんなの、見たらアイツはっ……
『外、出てる。ホリィにステラのこと頼んどいて。目、冷やさないと腫れる』
「あ、おい、コルドっ!?」
返事を待たずに外へ出る。
足の悪いウェンは、追い掛けて来ない。オレを追い掛けられない。
読んでくださり、ありがとうございました。