やっぱりオレは、この人が好きだ。
「リーシュは、精神的に少しおかしくて……コルドちゃんを、虐待してたんです。それがいつからなのかは、コルドちゃんにもわからないくらいで……あたしが気付いたのは五年前。リーシュが、自分の部屋でコルドちゃんの首を絞めているのを見て、止めたんです。それから、気を付けてはいたんですけど……」
ぎゅっと、オレの手を握るローズねーちゃん。大丈夫、という意味を籠めて、ねーちゃんの手の甲を軽く叩く。
頷いたねーちゃんが、また口を開く。
「数ヵ月後、リーシュがいきなり狂ったように笑い出して……コルドちゃんを殺した。自分はこれからどうすればいい? なにでこの鬱憤を晴らせばいいのかと叫んで…それから、息をしてないコルドちゃんを見付けて介抱していたあたしに、コルドちゃんを返せと殴りかかって来て……彼女は、そのときの騒動が原因で、女将さんに追い出されました」
初めて聞く下りもあったが――――
人一人殺しかけておいて、自分の鬱憤はなにで晴らせばいいのか?とは、壮絶な程に自分勝手で自己中心的。本当に怖過ぎる女だ。
余談だが、そのときの介抱が人工呼吸。
リーシュが言っていた、ローズがオレにキスをして……というのが、このこと。それがオレのファーストキスだったりする。
ローズねーちゃんには後で謝られたが、そんなのとんでもない。息が止まっていたんだから、的確な処置だ。不可抗力。感謝に尽きる。
まあ、意味もなにもわかっていなかったけど。
そしてこれは、まだいなかったスノウ以外の兄妹が全員知っている。まあ、どこまで知っているかは、確認したことないけど・・・
「それはまた…………」
薄味な顔が盛大に引きつる。
あの女の異常さにドン引いているようだ。
「……リーシュは、どうなりましたか?」
ローズねーちゃんがライを真っ直ぐ見詰める。
「……殺人未遂及び、傷害罪で逮捕されたようです。けれど、阿片中毒でまともな取り調べが困難な状態だと聞きました」
「っ、阿片……」
「!」
阿片っ!? もしかして……いや、もしかしなくても、お薬がどうのって言っていたのは――――
あの女、本っ気でヤバ過ぎ! オレをヤク漬けにする気満々だったのかっ!?
「…………」
恐ろしい。恐ろし過ぎる。異常者め……
思わずねーちゃんの手を強く握る。
「コルドちゃん……大丈夫よ」
そっとねーちゃんの手が頬に添えられ、
「もう大丈夫だから。大丈夫なの」
額にそっと落ちる柔らかい唇に、目を閉じる。
「リーシュの言うことなんて、全部全部間違ってる。コルドちゃんは可哀想なんかじゃないし、コルドちゃんを好きな人はいっぱいいるわ。ホリィちゃん、ステラちゃん、スノウちゃん。ウェンとレイニーは素直じゃないけど、ね? 無論、あたしも。コルドちゃんが好きよ? 大好き」
ロザンナの柔らかい声。
あの女の、甘ったるくて爛れそうな程に熱い、強烈な猛毒は強くて――――
まだじくじくと胸が痛むけど、やっぱりオレは、この人が好きだ。
ローズが……ロザンナが殺されなくて、どうにか助けることができて、本当によかった。
つぅと水滴が頬を滑り、ぽたりと落ちた。
「コルドちゃん……」
目元が優しく拭われる。
「……っ」
ぐっと涙を拭い、熱っぽい手を取る。
『ロザンナ姉ちゃんが助かって、本当によかった。目を覚ましてくれて嬉しい。生きててくれて、ありがとう。大好き』
「っ、ありがとう……コルドちゃんっ!」
ぎゅっと抱き締められる。
なんていうか、ガラじゃないことを言った。かなり、恥ずかしい。顔熱いし……
「…………」
「あたしもっ、コルドちゃん大好きっ!」
少女めいた妖艶な美貌が泣き笑いに崩れる。
「はぁ~……」
ま、いいか。大好きなローズねーちゃんが嬉しいなら、オレはそれでいいや。
読んでくださり、ありがとうございました。
リーシュは実は、本当にコルドが大好きで、心からコルドを愛しています。
けれどそれは、非常に歪んだ狂愛です。
コルドに同情し、憐憫して共感し、その境遇を貶め、憐れみながら嗜虐することで『わたしはコルドちゃんよりは可哀想じゃない』と自分を慰め、その自我を保っていた憐れな女です。
ちなみに、コルドの養子縁組みの予定をことごとく潰していたのもこの女です。
こんなヤバい女が周囲に現れて騒ぐと、養子縁組みの話が立ち消えるのも当然でしょう。