オレは神なんか信じてない。
不快に思うような表現があります。
虐待注意。
※35話目の「起きてロザンナっ!?」の後にここから読んでも繋がるので大丈夫です。
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オレは、神なんていう胡散臭い存在を信じてない。
十年程前の、とある氷雨の降る寒い日。
首を切り裂かれた赤ん坊が捨てられていた。
寒い日だったことと、発見が早かったことが幸いして、その赤ん坊は助かった。
凶器は鋸のような刃物で、ぐちゃぐちゃの傷は縫合が難しく、その首には醜い疵痕が残った。
首の左側から喉に向かって走る醜い疵痕。
この傷の後遺症なのか、オレは言葉が遅かった。
泣きも喚きもしない子供だったという。
七、八年前にはもう、恍惚とした顔で愛を語り、オレの首を絞める女を見上げていた。
やがてオレが言葉を話し始めると、リーシュはオレにこう言った。
「ねぇ、コルドちゃん。私との秘密を誰にも言っちゃ嫌よ?」甘ったるい声で、「最近、コルドちゃんに妹ができたのよね? 確か、ステラちゃん……だったかしら? 耳の聴こえない、可哀想な女の子なのよね? コルドちゃんの代わりに、一緒に遊んでみたいわね♪」
笑顔を浮かべながら、
「でも、もちろん私が一番に大好きなのは、可哀想で可哀想で可哀想で可哀想なコルドちゃんだから、安心してね? 変わらずに愛してるわ♥️コルドちゃん」
愛おしそうに目を細めて。
そして、五年程前。オレは、この女に絞め殺されかけた。その騒動で、この女はババアの娼館から追い出されて、オレの前から消えた。
――――筈、だった。
なのに、今。ローズねーちゃんが襲われ、倒れたローズねーちゃんへ止血していたオレの背後から首を絞めている、甘ったるい声の女がいる。
「愛してるわ♥️愛してるの♥️私よりも惨めで可哀想なコルドちゃんが大好き♥️」
息が、できない。
頭が痛い。
視界が、どんどん暗くなっ……て行く……
「………………」
オレは神なんか信じてない。
だけど、誰か……助けてよ。
腹を刺されて倒れてるロザンナを、助けて。
神がいないなら、悪魔でも化け物でもなんでもいいから、オレの大好きな人を助け、て――――
「……っ……かっ、ハッ!!!! ヒッ、くっ……ガハッ!?」
ドッと気管に空気が流れ込み、一気に流れる血流。ゲホゲホと盛大に咳き込む。
「………っ!?!?」
「っ、ハッ……ハッ、ハッ、っっ……ハァっ、ハァハァ……はぁっ……はぁ……」
「……み、……ぶかっ!?」
ドクドクと煩い鼓動。遠かった耳が、漸く周囲の音を拾い始める。
「君っ、大丈夫かっ!?」
パラパラと落ちる冷たい雨、硬い石畳。
鼓動に合わせてガンガン痛む頭、ゼェゼェヒューヒューと耳障りな呼吸音、ひりつく喉、熱い首。
そして、
「っ……ねー……ちゃ、はっ?」
背中を撫でる腕にしがみつく。
「君のお姉さんか? 彼女は大丈夫だ。応急処置がよかった。充分助かる」
「……ホ、ント?」
出たのは、いつものハスキーよりも酷い、潰れたような嗄れたダミ声。
「医者を呼んだ。もうすぐ来る。もう一人の彼女も気絶しているだけだ。それより君は、どうしてこんなところにいる? コルド」
名前を呼ばれ、気付いた。この人は、険しい顔をした神父服の――――
「……ラ、イ?」
「……今は、いい。喋るな」
苛立たしげなテノール。
少しして、医者と警察が来た。
気絶していたリーシュはそのまま逮捕。
ロザンナと見習いの娘、オレは病院に運ばれた。
病院で雨に濡れた服を着替えた後、診察を受けて、傷だらけの首を手当てされた。
その後、泥のように眠りに落ちた。
ファングは行方不明。
読んでくださり、ありがとうございました。