コルドのバカっ、イジワルっ!?
ライと別れてから、図書館へと向かうと・・・
見覚えのある奴が、見覚えのある連中に囲まれて、人気のない方へと歩いて行くのが見えた。
「ったく、仕方ねーな」
後を追うと、
「………さ、金欠で困ってんだ。言ってる意味、わかるよな? 痛い目見たくなきゃ、出せよ」
やっぱり、カツアゲ。
男子学生三名に囲まれたチビは、青い顔。
「そこの、トーマス・シモンズ及び取り巻きの二人。久し振りだな」
背後から声を掛ける。多分、この男子学生のリーダー格はそんな名前だったと思う。
「お前は…レポート代行の」
「こんなとこで学校サボってカツアゲか?」
「コルドっ!?」
涙混じりの甲高い声。
「だから頭悪ぃンだよ。アンタらはさ?」
「コイツっ!?」
オレの言葉に気色ばむ三人。
「ヤだな? 別に喧嘩は売ってねーよ。ホントのことだろ? オレの書いたレポートでA判定。留年だっけ? 免れたんじゃなかったか?」
顔を歪める三人の男子学生。
「・・・なんの、用だ? お前が」
トーマス? が口を開く。
「それ、オレの弟。手、出さないでくれる? そしたらまた、レポート書いてやってもいい。嫌ってンなら・・・ま、自分でガンバレ」
「っ・・・行け」
「どうも」
三人をすり抜け、震えるスノウの手を引いてゆっくりとその場を離れる。
「ふぅ・・・」
危なかった。二人ならなんとか相手にすることもできるが、三人なら完璧ボコられる。短絡的に殴り掛かって来るような馬鹿じゃなくて助かった。
「ふぇっ…コルドぉ~」
えぐえぐと泣き出したスノウが、
「こわ、か…った~」
抱き付こうとするのを頭を掴んで阻止。
「スノウ。泣くのはいいが、くっ付くのはやめろ。離れろよな」
「ぅう~…ヒドい~」
「だってお前、鼻水付けるし。汚い」
「コルドのバカぁ~~!」
「はいはい。帰ンぞ? バカスノウ」
小さな熱い手を引いて歩く。
スノウの泣き声がえぐえぐからぐずぐすに変わった頃、ポツンとスノウが言った。
「…レポートって、なに?」
「学校の宿題のこと」
「しく、だい?」
「面倒だが、提出サボったり出来が悪かったりすると進級できない…らしいぞ?」
学校行ったことないから知らないが。
「・・・なんで、コルドが?」
「割と稼げるんだ。図書館いると、ああいうバカ、結構多いからな」
「ふ~ん」
値段は敢えて設定しない。ソイツ自身に、そのレポートに、幾ら出すかを決めさせる。価値を。
それにしても、オレに簡単に解けるレポートが、学校に通って勉強している奴らに解けないというのは、とても不思議だ。
まあ、そのお陰である程度稼げるんだが。
暫く歩いて、スノウが落ち着いたようなので切り出す。
「お前さ、なんの為に笛持ってんの? ああいうバカに絡まれたら、デカい音出してとっとと逃げろって、教えたよな? ホリィもレイニーもさ」
「…忘れてた」
「今のはオレにもなんとかできたけど、単に運が良かっただけだ。いつも都合よく助けが入るワケじゃねーんだ。確り覚えて、ちゃんと自分で実行しろ」
「・・・」
繋いだ手が、ぎゅっと握られる。
「……ごめん」
「オレに謝られてもな?」
「…うん。ごめん。昨日…ケンカしたのに、助けてくれて、ありがとう」
スノウにしては素直な謝罪とお礼の言葉。
「別に。幾らアホでも一応妹は妹だから」
放っとくのも寝覚めが悪い。
スノウは好きじゃないが、別にヒドい目に遭えばいいと思うようなこともない。
それなりに元気でいればいいと思う。バカと性格ブスはいい加減に直してほしいが。
「コルドのバカっ、イジワルっ!?」
「はいはい。それだけ喚けるんなら、もう大丈夫だよな? まずは顔洗えよ。普通の顔が、腫れて不細工になる前にな」
近場の井戸を示す。
「っ! コルドなんか大っ嫌いっ!!」
「いいから顔洗えって。後で目ぇ腫れて痛くなって、開かなくなっても知らんぞ?」
「ぅう~~~洗うわよっ!?」
手が乱暴に払われ、スノウが井戸に向かってぷりぷりと歩いて行く。
「ホリィはやさしいのにっ!?」
バシャバシャ顔を洗いながら、
「どうしてコルドは……」
スノウはぶちぶちと愚痴を零す。
「イジワルでヒドいこと言うのよっ…なんでホリィは、こんな冷たい奴…」
イジワル、ヒドい、冷たい。
どれもよく言われる言葉だ。
スノウがそう思うなら、そうなんだろう。
スノウを家に送り、また外へ。スノウがする筈だった買い物に代わりに行くことにした。
「悪いね。スノウが怖がるからさ」
玄関を出て言うと、銀灰色の尻尾が一揺れ。ファングには、スノウを助けに入る前に、少し距離を取ってもらっていた。
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