なにが気に食わない? コルド。
家に帰ると・・・
「・・・朝は、言いすぎた。わるかったわね」
玄関で、ムスっとしたスノウが言った。
「あっそ」
「なっ、なによそれっ! 人があやまってるのにっ、なんなのそのタイドはっ!?」
「如何にも渋々。嫌そうに謝られてもな? どうせ、ホリィに言われたんだろ」
「っ…」
詰まるスノウ。図星だ。
「嫌なら謝らなければ?」
別にオレは、本当になんとも思っていない。今更あんな、スノウが言うような幼稚でヌルい言葉程度では、傷付かない。
・・・もっと、ずっと毒々しく、強く抉るような、身の内をズタズタに苛む呪いのような言葉を、オレは知っている・・・
それに比べれば、全く取るに足らない。可愛らしくも馬鹿馬鹿しくて、くだらない幼稚さ。心底どうでもいい。
「人がせっかくあやまったのにっ!?」
ツン、と袖が引かれて手の平に指が走る。
『スノウ、なんて言ってるの?』
『一応、謝ってるつもりみたい。ホリィに言われて、嫌々ながらにね』
『それ、謝ってるの?』
『本人はそのつもりみたい』
「・・・・・・」
呆れたような視線を注ぐステラに、
「なによその顔っ! 二人でコソコソして感じわるいったらないわ!! 言いたいことがあるなら、口でちゃんと言いなさいよっ!?」
馬鹿なことを抜かしたスノウ。
「…お前、いい加減にしろ」
低い、ざらついた声が出た。
「な、なにがよっ!」
「今朝、レイニーに言われてたよな? 言っていいことと悪いことの区別もつかないのかって。もう忘れたのか? 今朝のことも覚えてられない程、お前は馬鹿なのか?」
怯むスノウを、強く見下ろす。
「あ、あたしバカじゃないもんっ!」
「じゃあ、性格が悪いんだな?性格ブスと馬鹿なら、まだ馬鹿の方がマシだ。耳のこと知らないで言うなら未だしも、知っててああいうこと言うお前は最低だ」
「っ、くっ…」
みるみるうちに涙が浮かぶスノウの目。
「泣けばいいと思ってる? 泣けば許されると思ってるなら、益々最低だ」
「うっ…あ、あたし…わるくないもんっ!」
「だから性格ブスなんだよ、お前は」
「コルドがイジメる~~~~っ!?」
とうとうスノウは大声で泣き始めた。
「あ~あ、五月蝿ぇ」
甲高い泣き声に顔を顰める。
『もしかして、泣かした?』
『ムカついたから』
『珍しい。コルド、いつもは面倒だって言って喧嘩しないのに』
『偶にしてる』
『コルドが怒るのが珍しい』
一応、オレだって怒るときは怒るし。
『そう? あ、ウェンが来る』
コツ、ひたという独特の足音。
「なんなんだ今日はっ! びーびーびーびー泣き喚かせやがってよっ!?」
険のある目付きがオレを見下ろす。
「謝ったよな? スノウは、お前に。謝った筈だよな? なにが気に食わない? コルド」
「誰かに言われて嫌々謝られてもな? それにコイツ、ステラに、言いたいことがあるなら口で言えって言いやがった」
淡々と話す。オレの言い分を。
「…ったく、本っ当に懲りないよな、お前は! 今朝レイニーに怒鳴られたクセに、今になって、別に怒ってなかったコルドを怒らせやがってよ? 馬っ鹿じゃねぇか? スノウ」
低い声でスノウを見下ろすウェン。オレの主張が通ったようだ。
そして、益々大きくなるスノウの泣き声。
『ウェン、怒ってる?』
『呆れも半分以上』
『なんで?』
『スノウが馬鹿だから』
『ふ~ん。ま、頭は悪いよね』
「…ったく、泣きゃいいと思いやがって…コルド、ステラにホリィ呼ばせろ。で、お前は暫く部屋すっこんでろ。出て来るな。お前がいるとややこしい」
「…わかった」
『ウェンがホリィ呼んで来いって』
『わかった』
※※※※※※※※※※※※※※※
夜中にそっと庭に出る。
しんと冷えた空気に、植物の吐き出す呼気が混じった緑の匂いがする。
夜は、蒼い。空を黒く感じない。月や星が出ていれば、そんなに暗いとは思えない。物の輪郭や、ある程度の色の判別ができる。
でも、それはおかしなことらしい。
夜は暗く、視界が利かないのが常識。
泥棒や、夜に外で働く人達がこんな風に夜目が利くという。主に、悪いことをしているような人達だ。
今のところ、悪いことをするつもりは無いが…
銀灰色の毛並が、月光を反射してぼんやりと浮かび上がる。こんな時間になんの用だ? というように頭を起こすファング。
「ちょっと、お願いがあってさ・・・君に」
読んでくださり、ありがとうございました。