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オレはね、本当に心配してるの!

 人に拠っては不快かもしれません。

「言い難いこと?」

「ちょっと、ね…ねーちゃん、夜中出掛けてるでしょ? 月に何度か」


 高級娼婦として、ではなくて、ひっそりと隠れるようにして、夜中に出掛けていることがある。


「・・・知ってたの?」


 困ったような、悲しそうなねーちゃんの顔。


「家の前、通って行くから」

「暗いのに…よくあたしだって判るのね」

「オレ、夜目利くから。灯り持って外歩いてるねーちゃんの顔、見えた」

「そう…それで?」


 ねーちゃんの声が、硬くなる。


「今、夜出歩くのは危ないよ。特に、ローズねーちゃんはやめた方がいい」

「どうして?」

「人、殺されてるから」

「…そうね。でも、大丈夫よきっと」

「大丈夫じゃない。殺されてるのは、化け物の噂があった人ばかりだ」

「化け物の噂って?」

「吸血鬼、人狼、バンシー。みんな、夜から朝方にかけて殺されてる。ローズねーちゃんも、あるでしょ。サキュバスだっていう噂」


 ふっ、とねーちゃんが艶笑。


「…なぁに? あたしが、淫魔だって言いたいの? コルドちゃんも、あたしのこと・・・」


 するんと白い手が頬に伸び、


「男相手に、こんなことしてるから?」


 唇が塞がれた。


「んっ! ちょっ、ねーちゃ…んっ!?」

「…んっ、ふっ」


 鼻にかかった吐息、青灰色の瞳が妖しい色を帯びてふっと微笑み、閉じた。


「んんっ!?」


 いつものように触れるだけのキスじゃない。ぬるりとした熱い舌が口の中へ。舌が強引に絡め取られ、口の中をローズねーちゃんの舌がうねうねと動き回る。


「…はっ、ぁ…ん、ぅ…」


 息苦しさに目眩めまいが、ぞくりとした痺れに似た震えが、背筋に走る。こんな、のっ…


「っ…ダっ、メっ!?」


 ぐいっとローズねーちゃんを引き離し、


「んっ!?」


 つぅと繋がる唾液を荒い息で拭う。


「ハァっ…ハァ…ふっ、…っ…」

「っ…嫌? あたしが、汚れてるから?」


 怯えたように潤む青灰色を見据える。


「違っ…」


 息が詰まって、大きく深呼吸。


「ふぅ…違う! ローズねーちゃんは、ロザンナ姉ちゃんはちゃんと人間だろっ! っていうか、人の話聞けよ! 全くもうっ・・・」


 びっとねーちゃんの鼻を摘まむ。


「なっ! コルドちゃんっ!」


 ムッとした抗議の声を無視。

 オレだって偶には怒るんだ。それに・・・


「別にロザンナ姉ちゃん、汚れてないし。オレはね、本当に心配してるの!」

「コルドちゃん・・・」


 ぽたりと落ちる熱い雫。ねーちゃんの頬を両手で挟み、青灰色をじっと見詰める。


「これは、真剣な話だからちゃんと聞いて。今まで殺されているのは、人間だ。化け物の噂があるだけの、人間。評判は悪かったけどね」

「・・・」

「多分、みんな夜の間に殺されてる。お願いだから、夜の外出はやめて。ねーちゃんになにかあってからじゃ、遅いんだ」

「…コルドちゃん」


 ねーちゃんに、そっと抱き締められる。


「ごめんなさい…無理矢理、キスして」

「…いいよ。でも、少し苦しかった」

「…そういえば、コルドちゃんが顔真っ赤にするのはなかなか貴重よね?」

「今の…初ディープなんだけど?」

「あら? ファーストキスのときは確か…意味がわかってなかったのよね?」


 両方ローズねーちゃんに奪われるとは・・・いいのか? オレ・・・

 まあ、ファーストキスはあの女に殺されそうになって、ローズねーちゃんに助けてもらったときの人工呼吸だから、不可抗力というやつ。

 意味とか以前の問題なんだけどね?


「それにしても、意外ね? てっきり、ホリィちゃん辺りともう経験済みだと…」

「? なんでホリィと?」

「ん~…なんでかしら♪」


 クスリとイタズラっぽい笑み。


「ホリィちゃんじゃないなら、ステラちゃんとって感じかしら?」

「普通のキスならされたことあるけど?」

「あらあら♪」

「二、三年くらい前に…ステラが本読んで、好きなら唇にキスするんだって、勘違いで」

「勘違い?」

「そ。恋愛感情と親愛の情ってのは別物だろ? うち、みんな被害に遭ったから」


 ウェンもレイニーもホリィもオレも。スノウは…ステラを嫌っているから、別だったか?


「勘違いだってわかった後、ステラ泣き出してさ。家族だからノーカンにすればいいって宥めたんだ」


 今は普通に、頬とか額にして来る。


「…今の、ノーカンにしておく?」

「・・・あんな濃いの、忘れらんない」


 キス自体の経験も少ないというのに、あんな濃いのがオレの初ディープ・・・


「ふふっ♪嬉しい♥️」


 可愛らしく微笑むローズねーちゃん。


「・・・ローズねーちゃんて、幼児嗜好ロリショタ?」

「違うわ。コルドちゃんが、好きなの。大好きよ」

「あのさ、ねーちゃん。オレ」

「いいの。別にコルドちゃんとは寝たいと思ってないから。あ、でも…数年後、コルドちゃんがどうしてもって言うなら、歓迎よ♥️」


 ぽっと頬を染めて恥ずかしげなローズねーちゃんに、首を振る。


「言わない言わない」

「あら、残念…」


 まさかとは思うが、ローズねーちゃん…本当にそういう趣味が・・・?


「ンなことより、さっき言ったこと、絶対に忘れないで」

「…わかったわ。夜は危ないのよね?出歩かないわ。一人では」

「・・・そう。わかった」

 読んでくださり、ありがとうございました。

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