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バンシーに死を。

 流血、グロ注意。

 不快に思うような表現があります。

 横たわる喪服は、周囲の闇よりも深い色。

 その喪服の上で祈るように組まれた両手と、上に乗った顔の青白さがうかがえる。


 その閉じた両目には、なにも映らない。

 その閉じた唇は、なにも語ることはない。


 小柄な影が仰向いた痩せぎすな薄い身体の足元へしゃがみ込み、


「・・・大変だったな?これは・・・」


 しわの刻まれた老婆の顔を、正面から(・・・・)まじまじと眺めて言った。その唇が、うっそりと弧を描く。


「・・・悪趣味な」


 硬質な低い声が吐き捨てた。


 痩せぎすな身体には水分が少ないのか、くび元から流れ出る血はそう多くない。


「…バンシーに死を…」


 笑みを含んだ澄んだアルトの呟きに、


「行くぞ」


 硬質の低い声が言う。


 捨て置かれた老女の足元には、アルトの呟きと同じ、かすれた血文字が残される。


※※※※※※※※※※※※※※※


 翌朝の新聞。


 奇怪な遺体、三度みたび発見っ!?


 三人目はバンシー?


 仰向けで両手を組んだ喪服の老女。その胸の上には、両目の目蓋まぶたと口が縫い付けられた老女自身の頭が乗せられていた。足元には、『バンシーに死を』という血文字が残されていた。


 バンシーとは、泣き叫んで死を告げる女の妖怪のことだ。被害者の老女は、家族を相次いで亡くしたことから精神を病み、街を徘徊しては行き会う人に死を告げていたという。


 尚、残された文面は前回、前々回の犠牲者のときと同じ文面で、犯人は同一人物と見て・・・


※※※※※※※※※※※※※※※


 同日。朝。


「…………っと、なんか言いなさいよっ!?」


 朝っぱらから…ぎゃんぎゃん騒ぐ甲高い怒鳴り声が、非常に五月蝿うるさい。


「・・・」

「聞いてるのっ! 昨日ホリィ、ずっとアンタのこと探してたんだから!」


 毛布にくるまるオレを、ぎゃんぎゃんとうるさく見下ろすのはスノウだった。


「・・・」


 人は眠いというのに・・・


「ケンカだかなんだか知らないけど、どうしてコルドはそう冷たいのよっ!」


 スノウの甲高い声が響く。


「ホリィがかわいそうじゃない!どれだけコルドのこと心配したと思ってるのっ! ホリィにちゃんとあやまりなさいよねっ!?」

「・・・はふゎ~」

「ちょっ、人が話してるのにあくびっ? っていうか、なにまた寝ようとしてんのコルドっ!?」


 頭から毛布を被って、スノウに背を向ける。


「っ…!! コルドがそんなだからっ…そんな風に冷たいからきっと、コルドの親はコルドを捨てたのよっ!?」


 スノウが叫んだ瞬間、ドタドタと足音が響き、バタン! と乱暴にドアが開いた。


「朝っぱらから煩っせえっ!? クソドチビがっ!! 手前ぇは言っていいことと悪いことの区別も付かねぇのかっ!? ああ゛っ!?!?」


 乱入して来たレイニーが、スノウの胸ぐらを掴み上げて怒鳴り付ける。

 ビリビリとした本気の怒気だ。


「ぅっ…」


 あ、ヤバい。そう思ったら、


「・・・うわ~~~んっ!? レイニーが怒鳴ったぁぁぁ~~~っ!!!!!」


 案の定スノウが泣き出した。余計に煩い。


 これじゃもう、二度寝どころじゃない。ったく…


「ドチビ手前ぇ、泣きゃいいとでも思ってンのかっ!? ああ゛っ!? コルドっ、お前も、言いたいことあンならちゃんと言えっ!!」

「・・・ンなの別にどうでもいいよ。っていうか、煩いし。早く放したげなよ」


 ビービー泣き喚くスノウが心底煩い。


「あのなっ、お前がなんも言わねーからこのクソドチビが調子こくんだろっ!?」

「・・・レイニーにスノウも、朝っぱらから人の部屋で五月蝿いんだよ。出てけ」

「コルドもレイニーも大っ嫌いっっ!!!」

「ああ゛? 手前ぇはコルドに謝ンのが先だろっ、クソドチビがっ!!!」


 キレたレイニーに、益々泣き喚くスノウ。


「はぁ・・・」


 仕方ないので、枕元に置いてあるスカーフを首に巻き、部屋を出る。


「あっ、おいコルドっ!?」

「・・・付き合ってられるか」


 コツ、ひたと独特の足音。杖を突いて部屋の近くまで来たのはウェン。


「・・・朝から煩っせぇ。響くんだよ」


 低い声。物凄く不機嫌そうだ。きっと、ステラ以外にはみんな伝わっているだろう。


「…そうだね」

「…平気か?」


 険のある目が見下ろす。別に睨んでいるワケじゃない。近眼なだけだ。


「なにが?」

「…お前が気にしないなら、いい」

「オレはそんなに繊細じゃないよ。っていうか、オレじゃなくてレイニーが怒ってるし」


 ひた、コツと近寄って、骨張ったウェンの手が頭をぽんぽんと撫でる。


「…黙らせて来る」


 と、通り過ぎ…


「お前ら朝から煩っせぇんだよっ!! 少しゃ静かにできねぇのか馬鹿共がっ!!!」


 デカい雷が落ちた。


「うわ~~~~~~~っ!?」

「悪ぃな、このクソドチビだろっ!?」

「お前の怒鳴り声は煩ぇんたよっ!」


 そして、廊下の端でこそこそとうかがう影。


「・・・なに? なんか言いたいことあるなら、出て来れば?」

「・・・怒ってる? コルド」


 ぼそぼそとホリィが言う。


「別に」

「だって、昨日は口利いてくれなかったし・・・それに、今もスノウが・・・」


 しゅんと項垂うなだれて顔を上げないホリィ。


「昨日はそういう気分だっただけ。喋ってないのはホリィだけじゃないし。それに、どうせ今の、聞いてただろ」


 ウェンとの会話を。


「ぅ…ごめん」

「アレ、ビービー煩い。どうにかして来て」

「うん! わかった!」


 バタバタと駆ける足音。

 しばらくして、泣き声が止んだ。

 読んでくださり、ありがとうございました。

 第三の事件です。

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