ぃ、犬~~っ!?
ホリィの手を引いて、家に帰った。
玄関を開けると、
「おかえりっ、ホリィっ!」
と、スノウのお出迎え。
「うん、ただいま」
「っ!」
瞬間、笑顔だったスノウの顔がさっと青ざめ、
「いっ、イヤーーーっ!?」
甲高い悲鳴を上げてパニックで泣き喚く。
忘れていた……
「スノウっ!?」
「どうしたドチビっ!?」
「なにがあったっ!?」
慌てるホリィ、そしてレイニーと杖を突いたウェンまでが玄関口に出て来た。
「ぃ、犬~~っ!?」
オレの背後のシルバーグレイの狼犬を指差して、ぷるぷると震えるスノウ。
スノウは、犬が大嫌いなんだ。
「なんだ、ソイツかよ……」
事情を知っているレイニーの溜息。
「デカっ!?」
ホリィは今、ファングに気付いたようだ。
「……おい、コルド。なんでここに犬が? 今すぐ元の場所に戻して来い」
低い声で、冷ややかにオレを睨み付けるウェン。
「その犬、チビが預かったんだよ」
「は? どういう意味だ? ……いや、その前にホリィ、スノウ泣き止ませろ。煩い」
「わかった。ほらスノウ、行こ」
こくんと頷いたホリィがスノウを抱き上げて奥に連れて行った。
「で?」
ウェンがギロリとオレを見下ろす。
レイニーが事情を説明。
世話も餌も不要なことと、一日辺りのファングの預り金額を聞き、家の中に上げないことを絶対条件として、ウェンが了承した。
家に入れないのは最低限の条件だが、餌代が掛からないのも割と重要なポイントらしい。
「こんなデカい犬、預り賃よりも餌代の方が高かったら意味が無いからな」
との呟き。
まあ、うちにはそんな余裕無いから当然だが。
「その犬、コルドの言うことは聞くぜ? 飼い主が、そう命令してたからな」
そういえばファングは、レイニーの言うお手やお座りなどは無視していたな……?
「なんでコルドが?」
「さあ? 飼い主曰く、この犬がチビを気に入ったんだとよ。あと、飽きたら消えるだろうから、それまで我慢しとけってさ」
「……ふ~ん、いいのか? コルド」
「……飼い主に文句言ったら、所詮動物のすることだから気にするな、だと」
少し困るが、メリットがあるならいいと思う。
「そう言われっと、なんも言えねーしさ? 預かるっつー名目で金も入ンだし、いいだろ?」
レイニーが言う。
「……中には絶対入れンなよ」
「わかってる」
「スノウにも近付けンな。煩ぇ」
「一応、言ってみるよ」
多分、ファングは聞いてくれるだろう。
あの銀灰色の毛並の狼犬は、とても賢いから。
※※※※※※※※※※※※※※※
暗い場所。
水気の少ない乾いた空気に、埃っぽい匂いが漂う。空気の乾燥は喉や肌には悪いが、居心地自体はそう悪くない。
道端よりはマシだ。
閑かな場所はいい。
目を閉じて、ゆっくりと考える。
私は今、探しモノをしている最中だ。
この街へは、偶々立ち寄っただけ。
しかし、異端を狩ってほしいという依頼が来た。
神に遣える者からの――――
まあ、探しモノのついでにと軽く引き受けた。
最初は吸血鬼で、次が人狼。
さあ、次はなんだ? 次は、なにを殺す?
……全く、神を畏れない異端者共には、ほとほと呆れ返ってしまう。
そういう彼らへ、私が制裁を与える。
この私が、異端審問官だ。
神を畏れぬ者には罰を、か・・・
「くっ、ふ……ふふっ、ははっ、あははっ……ハハハハハハハハハハハハハハハっ!!!」
考えているうちに、段々と堪え切れなくなり、暗い中に嗤い声が響いた。
とても滑稽で、とても馬鹿馬鹿しい。
「……ああ、全く……」
本当にこの街は、嗤える程に愉しいな?
思わず、歌い出したくなりそうだ。
読んでくださり、ありがとうございました。