表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/61

こういう話はもっと怖がれっての。


 大通りを見渡せる場所。


「ったく、遅ぇンだよ。チビが」


 待ち合わせ到着で早速噛み付かれる。


「そうか? 時間の指定はなかったぞ」

「あ? 昼前っつっただろがよ? 昼前」

「太陽はまだ、真上じゃない」

「っるっせぇな。俺待たせンな。チビが」


 この程度はレイニーの挨拶みたいなもの。聞き流せばどうということはない。


「早く来たって暇なだけだろ」

「だから、手前ぇがなかなか来ねぇから俺が暇してたンだっての」

「はいはい」


 とはいえ、レイニーよりも早く来てたら来てたで、「ンな面したガキが一人で同じ場所に長時間うろちょろしてンじゃねぇ」とか言うんだろうし……全方位に悪態を吐かずにいられないというのも、なかなか面倒だと思う。


 ちなみに、ンな面というのは、綺麗な顔という意味だそうだ。昨日の子は……あの顔は別格だが、オレは観賞に耐えうる顔をしているらしい。あと、ホリィも。


 ホリィは世間的には、綺麗がちょっと崩れた感じの愛嬌が可愛い系という評価らしい。


 オレは綺麗系なのだそうだ。ま、顔が良くて得したことはほぼ無いが。


「さっさと見ろよ」

「んー」


 レイニーに促され、昼時で人通りの多くなった大通りを見下ろす。


「……あっちから歩いて来る労働者風の二人組と、角で酒持ってる奴、道に座ってる浮浪者も、多分ヤバい人」


 普通の人に紛れているヤバい人を、なんとなく見分けることができる。


 一応、身寄りの無い孤児の必須スキルだが、うちの中では多分、特にレイニーとオレがそういうことに敏感なんだと思う。


 レイニーは、三歳くらいで院長に拾われたらしい。土砂降りの雨の中、それもかなり酷い状態で。


 殴られて(あざ)だらけ、そして栄養失調で痩せた身体。(くら)い瞳で言葉も上手く話せなかったという。オマケに、名前まで無かったらしい。虐待と育児放棄。


 およそ三歳にしてゴミを漁っていた子供は、その場で院長に拾われ、土砂降りの雨にちなんでレイニーと名付けられたという。


 そんなレイニーは、他人の悪意と害意に敏感だ。危なそうな奴も、なんとなく判るという。


 オレもまあ、虐待されたからな。勿論、家でや院長にではない。


 数年前まで、ババアが世話している女達の中に(たち)の悪い……というか、ガチでヤバい女がいた。


 小さい頃、その女にねちねちといびられたのだ。あの女は首を絞めるのが好きで――――一度、マジで死にかけた。


 呼吸が止まって息を吹き返さないオレに、その女は半狂乱になって騒ぎを起こしたらしい。

 別のねーちゃんに人工呼吸をされて息を吹き返したが、その騒ぎで虐待が発覚。それでその女は、ババアのところを追い出された。


 以来、オレもヤバい奴がなんとなく判るようになった。


 全く(もっ)て自慢できない経緯だ。


 スノウ以外はあのことを、みんな知っているし。


「チッ……やっぱ増えてやがるか。あの高利貸し、結構な因業(いんごう)爺だったからな」


 レイニーの舌打ち。


「一応、警官も増えてんじゃね?」

「まあな」

「……どっちも捜査中ってやつ?」


 殺人事件の。


「……どっちも動いてやがるクセに、まだなんもわかってねぇらしいぜ? 普通なら、とっくに参考人くらい見付けてねぇとおかしいンだ。街の人間…堅気の奴なら、警察に。裏の奴なら、犯人は殺されても文句は言えねぇ。それが嫌なら、警察に保護を求める筈だ。それなのに、両方が探しているにも拘わらず、まだ情報さえ流れてねぇ。誰かが庇っているか……」


 レイニーは言う。


 掏摸(すり)師だけあって、横の繋がりがあるのだろう。ちなみに、レイニーが掏摸師だと知っているのはオレとホリィだけ。そして、ホリィが美人局(つつもたせ)をしているのを知っているのも、オレとレイニーだけだ。


 他の兄妹は、レイニーとホリィがそれぞれ便利屋をしていると思っている。あまり家から出ないウェンとチビ共に無駄に心配を掛ける必要もないからな。


 あの高利貸しは、かなりあくどいこともしていたようだ。死んで喜ぶ者は多かったが、裏では困る者も少なからずいたらしい。


「庇っているにしても、そういうきな臭い話はどこからか流れて来る筈だが……それも流れねぇ程の箝口(かんこう)令でも敷かれてンのか? ま、高利貸しと犬食いの浮浪者を()った奴は同じだって話だがな?」

「……殺されたのは吸血鬼と人狼の化け物だって、あの馬鹿馬鹿しいやつか?」

「お前、ガキのクセに()めてンのな? こういう話はもっと怖がれっての」

「怖いのは人間の方だろ」


 一番上までボタンを留めた服の上から首を撫でると、


「……ま、お前はそうか……」


 レイニーが嫌そうに顔を(しか)めた。

 お前は、と言うレイニーも多分オレと同じだろう。


 架空の化け物なんかより――――オレ達は、人間の方が余程怖い。


 読んでくださり、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ