十話
1913年1月、恒暖は高等小学校二年だ。1912年の春に入学してから一年が経とうとしている。1913年度中に卒業になるだろう。
ここで、皇族でありながら何故旧制中学校ではなく高等小学校に入学しているか疑問が沸くだろう。他の人に聞いたならば、
「皇族だからきっと高貴な理念があるに違いない!」
と答えるだろう。しかし、その答えは正解ではない。
むしろ逆だ。恒暖は
「早く卒業できてラッキー!海軍兵学校入学までの一年間どうやってすごそうかな」
などと考えているのである。
この皇族、安直すぎないか?
と皆が思われないよう黙っているだけである。
ただ、恒暖の名誉の為に言うならば、真面目な理由も含まれていることにも注意を向けてもらいたい。
具体的には兵学校に入学すると外部との連絡が遮断されてしまう為、それまでの間にどう行動すべきかの年表を天皇陛下に作成し提出するという活動を含んでいるからである。
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前述の目的の為に史実を見ながら
「1913年は何が起きるかな?」
と考えていると、重要な項目を見つけてしまった。そう、ステンレス鋼である。
ステンレス鋼は21世紀の一般人である我々ですら知っているほどの大変よく使われる鋼材である。
ただ、ステンレス鋼といっても複数種類があるが、基本3系統とその派生型に分けられるらしい。
オーテスナイト系ステンレス鋼
フェライト系ステンレス鋼
マルテンサイト系ステンレス鋼
↑これらを組み合わせたっぽいステンレス鋼
今回開発しようとしたのはマルテンサイト系ステンレス鋼である。その開発者はハリー・ブレアリーという英国人だ。
1913年8月にマルテンサイト系ステンレス鋼を開発したとされる。ならばこちらは組成がわかっているのだから、6月までに開発してやろうではないか。
でも自己開発するには設備が足りないから、どこか共同開発してくれる鉄鋼会社探さないと。6月末までに開発完了しなければならないということは期限が5ヶ月しかないのだが。
三菱系?除外するわ。何か合弁会社創られて主導権握られて吸収されたあと特許まで盗られそう。
三井は要考慮。系列になれば人の交流という面ではメリットがあるが、時期が悪い。この人たち右翼から暗殺されたり民衆から攻撃対象になったりしてるもん。
住友は知らね。社内規律多すぎんだろ。
まあその話は置いといて、その特許を申請したとならば莫大な特許収入が期待されると共に、日本の基礎工業力の工場にも役立つだろう。
提携する製鉄所は次回に発表します。