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プロローグ&1話 現勝ち組と現負け組の再開

初めて書きました。ゴミです。すいません。

プロローグ 


人生なんてうまくいかなくて当然だ。だが、この世にはうまくいっているものといっていない者がいるという現実は存在している。

前者を勝者と呼び、後者を敗者と呼ぶ。敗者は、勝者に希望や夢を持っていないやつ、つまり負け組という考えを持たれてしまう。だが、そういうわけではない。


敗者は希望を持っていないのではなく、持てないのである。理由は簡単だ、その希望が叶う確率が勝者に比べて少ないと思い込んでしまうからだ。しかし、敗者が希望を持ってはいけないわけではない。この世界は夢や希望を持つことは自由とされている。そして、その夢に向かって努力することもまた自由だ。たとえ、一度それをあきらめたとしてもまた努力することは許されると思う。


今、俺はその分岐点にいる。


このままあきらめるのか、はたまた努力して探しに行くのか。その決断は未来に続くものかもしれないし、つらいことだらけになる決断かもしれない。

そんな分岐点が多くとも選んでいかなくてはいけないのが高校時代だと思っている。思春期というよくわからないものを持ちつつ、進んでいく道を自分自身で決めていかなければならない。


俺は一つ探し物を探している。それは、お金では絶対に買えず、努力をしたって手に届くかわからないという不確定要素満載のものである。


そんなものを探して何になる?と、思う人もいるだろう。確かに、そんなものを仮に探し出せたからと言って絶対にハッピーエンドになるとも限らない。


なのに、なぜそれを追い求めるのか。実をいうと俺にもよくわからない。直感的に思ってしまったからだ。彼女となら探し物が見つかるかも知れないと。


話は変わるが人には、いろいろなタイプがある。クラスをまとめるリーダーシップのあるやつ。人との距離をすぐに縮めてしまうやつ、人とのかかわりを嫌い一人なるやつなど様々だ。大体の奴が目の奥に何かを隠していると俺は考える。それを隠すために人はいろいろなタイプに分かれ、目の奥を覗きこまれないようにしている。


しかし、彼女は違った。彼女の目の奥は、何もなかった。ただ、必死に何かを探しているように見えた。俺は、その目に見覚えがあった。いつも鏡やスマートフォンの画面に映る自分の目と同じものだった。この時彼女に出会わなければ、俺のこの探し物は思春期の一時の感情だと思っていただろう。


彼女に会ってすべてが変わった。いや、何か違うな。


俺は彼女に変えられたのだ。


その彼女、


小林りさによって・・・・・・・


1章 現勝ち組と現負け組の再開


帰りのHRで担任に言われた通りに3階の一番隅の教室に来てみれば、後ろのほうに机や椅子などが並べられていた。

どうやら使われていない物置みたいな教室らしい。その前のほうに横長の机があり、そこに男子生徒が一人とテーブルの上に一枚の紙が置いてあった。


その内容はというと『部長 榛名涼太 副部長 北崎真由美 部員 赤木啓介 計3人 部活動頑張ってね~』

と、書いてあった。


えっなにこれ、やだこれ何かのドッキリですか?

いきなりのことに混乱するだけの俺は、椅子に座っている男子生徒に聞くことにした。


「ねぇ、なんで俺、この部活に入っているだけでなく部長なんかやらされているの?」


そう言って男子生徒、赤城啓介の顔を見る。反応がない。あれ聞こえなかったのかな?


くじけず俺は、もう一度聞くことにした。


「あのさー」


「だまれ」


「何でもないです」


あれ、なんか俺、命令されてない?俺部長なんだよね?立場逆じゃない?俺嫌われてる?


すると、ため息をつきながらめんどくさそうな顔で


「何どうしたの?」


答えてくれた。よかった、嫌われてはいないらしい。そうだよね、俺のこと嫌ってなんかいないよね。中学からの唯一の男友達だもん。ほんとに?


まあいいや、ともかく質問の続きをしよう。


「どうして俺部長なの?てか、この部活何するの?」


「いまさら何言いだすんだよ。お前が俺になんでもいいから部活動に入れておいてって言ったんだろ。あと、このことについては、犯人は俺じゃない。あいつだ。」


「あいつか・・・・」


あいつとは、俺らと同じ中学でこの高校に入ってもいつも話しかけてくる女子のことだ。


というかこの男子二人を動かすことのできるのは、一人しかいない。


戸がガラガラと開き一人の女子生徒、もとい今回の犯人の北崎真由美が入ってくる。


「よ~部長の榛名涼太君、部員の赤城啓介君お元気かね」


なんか、偉そうなしゃべり口調で来やがったな犯人。文句言ってやる。


「あ~ちなみに異論反論は受け付けないから」


先手打ちやがった。俺の性格わかってやがる。仕方がない、違う質問にしてやろう。



「この部活何て名前なの?」


「え~、ほんとに知らないの?」


こいつなめやがって知らないものは知らないんだよ、何も聞かされてないのだから。


「生徒問題解決部、略して生解部。これであっているよな、北崎さん?」

 当たり前のように啓介が答えた。


というか略し方エグくない?生解部ってなんだよ。超怖いよ。生物でも解剖するの?


「正解。そうこの部活は、生徒の抱えている悩みを聞いて、できるだけ解決する部活だよ」


なんだ、そのままの意味かよ。と無駄なことを思い一人でほっとしていると、ふと思った。


「でもなんでこの部活なんかに入ろうと思ったの?しかもなんで俺達までお前ならほかにも入れる部活あるだろ?」

「え~、それは、部員が誰もいなくて学校で自由にできる部屋がほしかったからだよ~」


なんて碌でもない理由なんでしょうこの子は!廃部寸前なら廃部にしとけよ。


「あ~、あと榛名のクラスの担任に言われたからだよ。あの人この部活の顧問らしいし」


あの女教師なにしてくれてんだ。しかもこの人の性格がわかり始めてくる一年の6月に言いやがってまさに策士だな。なぜそう思うのか少し説明しよう。


北崎は、いわゆる典型的なクラス委員長タイプで、啓介は無口で無愛想のないくせして一応クラス委員だ。つまり二人とも困っている人はほっておけないといういかにもこの部活にあっている性格をしているのだ。

このことをわかっていて話を持ち込んだとしたらあの教師恐るべし。今度から気を付けて接することにしよう。


何となくひと段落したところで俺は、後ろから椅子を持ってきて座った。それを見て北崎も椅子に座った。そうして訪れる沈黙。


ま、俺たちにはよくあることである。それが苦にはならないのが、俺がこいつらと仲良くしている一番の理由なのだ。ほんとこいつらと仲良くできてよかったわ~と、思いつつ暇なので持ってきた鞄の中にある本を探していると、突然、啓介がそういえばと言って俺を見てきた。


「涼太、クラスで浮いてるってホント?」


「それは違う、浮いているんじゃない誰もよって来ないだけだ」


「それを浮いているって言うんだよ」


「まあ、仮に俺が浮いていたとして一体だれがそんなことを啓介に教えたんだよ?


「涼太の担任」


「またあの人か!」


なに、あの人俺の個人情報売りすぎではないですか?ちゃんと俺に断りを入れてから言ってほしいんですけど。


「あーそれあたしも聞いたよ。6月にもなって榛名君クラスで友達が一人もいないの。どうにかしてくれないかな?って言ってきたよ」


「あの先生どんだけ俺のこと心配してんだよ」


「まあ新人の先生だし、しょうがないと思うよ、榛名の人を寄せ付けない能力は凄みを増してきているからね。あんたのクラスの女子から聞いたよ、始業式の自己紹介の話」


「いや、あれは普通にやっただけだって」


「あんたはそうかもしれないけど初めてあれを聞いた人は、だいたい変な奴だと思うでしょ」


北崎の言うと通り、少し変な奴だと思うことは自覚している。だけど、俺そこまで変ではないぞ。だって自己紹介の時言ったのは、


「24番の榛名涼太です。趣味は人間観察です。なので、皆さんのことを観察対象とするのでよろしくお願いします」


と、言っただけだ。確かにこれを言った後クラスが変な空気になったがそのあとは特に問題なかった。


話しかけても無視されるとか、裏でひそひそ悪口を言われてることは、知らなかったことにしよう。そうだ、もしかしたら悪口じゃないかもしれない!あれ、おかしいな、悲しくて泣きたくなってきた。


泣かんぞ、俺は!頑張れ俺、ファイト!何てどうでもいい自分に対する慰めをしている。てか、自分を自分で慰めるってどんな奴だよ。

一人でボケと突っ込みをしていると隣にいた北崎がごみを見るような目で俺を見ていた。


「あの、声漏れてるよ。榛名」


「えっ、あーそうですか。お見苦しいところをお見せしました」


そう言って、椅子から立ち上がり、一回お辞儀をしたあと、ニコッと笑い息を吸って大きな声で言った。


「だったら慰めろよ!」


「あーもううるさいわよ、榛名。慰めなかったのは悪かったけど、一人で自分の世界に入ってたし、申し訳ないかなと思ってさ、ごめんね」


「なんでいつも空気読めないくせにこういう時は読もうとするかな?こういう時こそ空気を読まず慰めるべきでしょうが!」


「そんなに怒らないでくれる?私だってあんたみたいな特殊な奴相手じゃなければ空気は読めるのよ!」


「お前言いやがったな。そうだ俺は特殊だ。だが特殊で何が悪い。みんな同じだったら怖いだろ」


「確かにそうだけど」


「だろ、つまりだな特殊っていうのはお前みたいな普通と呼ばれる人間の物差しで測った時に出るはみ出たやつらのことなんだよ」


「はあ?何言ってるの?」


確かに今のたとえは自分でもよくわからない。だが、ここで引いてしまえば負けを認めたことになる。なので、ここはもう少し粘ろう。


「つまりだな・・」


「涼太」


「なんだよ」


「落ち着け、お前がいくら話したって北崎にはわからないよ」


「赤城、それひどくない?私に対して」


「大丈夫だよ、北崎。俺も涼太の言ってることはわからないから」


「あれ、啓介は俺の味方じゃなかったの?」


「だれがいつ涼太の味方に付いたって?」


「いえ、なんでもないです」


啓介の奴笑ってやがった。これ以上言うとマジで怒るな。だてに中学から毎回怒らせてきたわけではないからな。


そうしてあたりが静かになった。それと同時に原因不明の笑いがこみあげてくる。俺は、


「ぷっははは」


と、つい笑ってしまった。


「ちょっと何笑い出してるのよ、榛名。」


「ほんとだよ、なんで急に笑い出したんだよ、涼太」


「いや、なんでもない」


ほんとに何でもないのだ。なんでもないこのフレーズが、この日常が俺は好きなのだ。俺はもう昔のようにはならないと決めたのだ。何の価値もないものをいつか壊れてしまうと分かったものを探すのはあきらめたのだ。


しかし、俺は彼女に会うとまた探しに出てしまうと思う。それほどに俺にとって彼女の存在はとても大きい。


だからこそ人間観察をして彼女と同じ目を持つ人がいないか探している。今のところはいない。だが、一つ問題があるのだ。それは、その彼女が俺と同じ学校にいるということ。


彼女に会わないためにはどうしたものか、幸いクラスも違うので会うことはないが、もし廊下ですれ違い話しかけられでもしたら、俺はどうなってしまうかわからない。あれ、俺の人生なんかしょぼくね?


俺がうーんと悩んでいると


「ねぇ、大丈夫?」 


そう北崎に言われて俺はあぁと軽く返事をする。


「ほんとに?深刻そうな顔してたけど」


「あぁ大丈夫だ。わざわざ心配してくれてありがとさん」


「いや、別にいいんだけど、なんか意識が飛んでるように見えたから」


「おう、サンキュな」


なんだよ、北崎いい奴じゃんと思っているとそろそろ最終下校時刻に近づいてきた。俺が、帰るための支度をしているとコンコンとノックの音がした。


「涼太、客人だ」


「えっ、そういうのって部員がやるものでしょ?」


「俺一番遠いから無理」


「わかったよ、行けばいいんだろ行けば」


そう、文句を言いながらドアの方向へ歩き扉を開けた。


「はい、どちら様ですか?」


その時俺は、ポカンと口を開けたままその場に立ち止まることになった。なぜなら、驚いたからだ。


人間は、意外な人間や会いたくない人間に突然会うと驚きで固まってしまうというがほんとらしい。なぜなら今、俺は実際に会いたくない人が目の前にいるのだから。


「こんにちは。1年8組の小林りさです」


「なんで、お前がここにいる」


「なんでって、用があるからに決まっているじゃない」


そんなことを聞いているんじゃないと言いそうになったとき後ろから


「小林さんじゃん、久しぶり~」


「えぇ、久しぶりね、北崎さん。それに、赤城君も」


「久しぶりだな、小林。中3以来か」


「なになに、赤城あんた小林さんと知り合いだったの」


「まあ、いろいろあってな。なあ小林」


「そうね」


おいおい二人そろって俺を見るな。そんな視線を避けるため、俺は、話を元に戻す。


「で、なんか用事か、り――-小林」


「えぇ、そうよ。涼――榛名君」


おい小林、呼び方を前のままにしているんじゃねーよ。俺も間違えたけど。そして顔を赤らめるな。こっちまで恥ずかしくなる。


そんな俺たちのやり取りを不思議に思った北崎が啓介に


「なんか、あの二人変だと思わない赤城?」


と、ヒソヒソと話していた。てか、丸聞こえだよ。あいつ陰口のやり方知っているのかな?と思いながら北崎をにらんでいると啓介と目が合った。


啓介が「言ってもいい?」という顔をしているので俺は指で×を作って「絶対にダメ」と合図した。すると啓介は、うなずいて喋り出した。


「まあ、理由は知っているがいくらおまえでも教えられない。すまんな、北崎。なんなら直接本人たちに聞いてくれ」


何とかはぐらかしてくれたらしい。まぁさっきの俺と小林の会話を聞いて不思議とだけ思うのは北崎だけだと思う。


普通の人なら「お前ら付き合ってたの?」と、聞いてくる。さすがは、超鈍感女と言えるだろう。


だから啓介の好意にも気づかないんだよ。啓介もかわいそうなもんだな。この二人の関係がどうなるか気になるが今は目の前のことに集中しよう。


俺が話を切り出す前に北崎が「まぁいいや」と話し始めていた。


「ところで用事とはなんなの小林さん?」


「私この部活に入りたいの。いいでしょ、北崎さん?」


「私はいいよ。部員増えたほうが楽しいし、赤城はどう思う?」


「いいと思うよ。女子一人じゃ、バランス悪いしな。涼太ももちろんいいよな?」


この場にいる全員の視線が俺に向く。普通の人間は、ここでいいよと、言うはずだ。だが、


「俺は、嫌だ。こいつを入部させたくない」


「なんでだ、涼太?」


「言わなくたってわかるだろ、啓介なら」


「いや、わからんでもないが、依頼も来なさそうだし断る理由がない」


啓介の言い分は、もっともだ。でも、やっぱり小林が入るのは嫌だった。やはり小林の目を見ると何かに吸い込まれそうだった。また、あの二の前になるのは嫌だ。そう俺の心が言った気がした。


どうしたものかと考えていると、一ついい考えを思いついた。


「なあ、小林」


「何かしら、榛名君」


「この部活に入ってもいい。だが、一つやってほしいことがある」


「いったい何をやれというのかしら?」


「別に、いたって簡単なことだ。依頼を待ってこい。そしたら、晴れておまえは、この部活の部員だ」


「あら、榛名君にしては、簡単な条件ね。私のことよく知ってないのね」


「あーそうですか。では、学校屈指の美少女で、人柄もよく人望も厚いまるで勝ち組のあなたがなぜこの部活なんかに入部したいのですかね?」


「あら、私のことよく知っていたじゃない」


「そりゃ、いろいろあったからな」


「それもそうね」


「で、どうする。やるかやらないのか」


「もちろんやるわよ」


「よし、決定だな。明日から頑張って。では、今日は解散ということでいいか?」


「そうだな」


「そうだね、依頼も来ないようだしね」


「そうね」


やっとここだけ全員の利害が一致した。ほんと帰る時だけは素直だなこいつら。女子二人が帰ったところで啓介が口を開いた。


「そういえば、涼太にしては簡単な条件だったな。あんなのでよかったのか?お前としては、小林は来てほしくないはずだろ?」


「そうだな。啓介の言うとおり俺は小林には来てほしくないと思っている。だが、俺の提示した条件は、意外と難しいものなんだ」


「どういうことだよ、涼太」


「よく考えてもみろ。人間はいろいろな悩みを持っているが、それを親しい人や他人に言うやつはそんなにいない。それに、俺たちは高校生だ。人に自分の悩みを聞かれたくないと思う年頃だろ」


「確かに、この条件は難しいものだな」


「だから心配するな、啓介」


「相変わらず、恐ろしいほど頭が回るな」


いや、そういうわけではないと言おうとしたとき右手に何かを持っていることに気付いた。さっき北崎が帰るときに渡されたものだ。


「あのさ、啓介。一緒に鍵返しに行かない?」


「涼太一人で行って来いよ。校門で待ってるから」


「あーわかったよ」


というわけで、一人で鍵を返しに行くことになった。部室から職員室まではそう遠くない。3階から2階に下りて廊下のちょうど半分くらいのところに職員室のドアがある。


ドアをノックし、鍵を棚に掛けて職員室のドアを閉めた。下駄箱へ向かうためさっきの階段のところまできた。俺は、階段を下ろうとしたとき後ろから階段を下りてくる足音がした。ここの階段はあまり人が通らないため誰が来るのか少し気になった。だが、俺が振り向く前に


「榛名君、ちょっと手伝ってくれる?」


と、声を掛けられた。


声のする方向を見ると、重そうな段ボール箱を2つ持った若い女の先生がいた。


「高山先生、何してるんですか?」


そう言いつつ荷物を半分もってあげた。


「ありがとう、榛名君。少し運びものの頼みを受けちゃってね。多目的室まで運ぶのだけど手伝ってくれる?悪いね」


「いえ、問題はないですが、どうしてそんな重そうなのを一人でもっていたんですか?普通なら男性教員がやるものだと思うんですけど」


「いやーそうなんだけどね。なんか若手は、動くべきだとか何とか言われちゃって、まったく大変だよ」


そうやって、ニコッと笑うこの先生こそが俺のクラスの担任で、あの部活の顧問でもある高山裕子である。


この人は、俺の知るところいい先生の枠に入ると思う。面倒見がよく、クラスで浮きかかっている俺にすら救いの手を差し伸べてくれる人だ。


ただ、この人は頼みごとをされると断れないという今時あまりいない性格の持ち主である。あと、頭がよく切れるそれは怖いくらいに。なので、よく生徒から助けを求めたりされている。そんな人だからこそあの部活の顧問になったのかもしれない。


以上が俺の高山裕子に対しての観察結果である。と、心の中で無駄に論文みたいに結論づけていると


「どうしたの?そんなに考え込んで、何かあったの?」


と、話しかけられた。どうやら俺が急に黙り込んだのを心配してくれたのだろう。まあ、ここは返事しないと申し訳ないな。


「いえ、特に何も起こらず高校生活を送れると思っていたんですけどね。どこかの誰かの先生のせいで、めんどうくさいことになっているんですよ」


少し嫌味っぽく言ってしまった。怒られるんじゃないかと思って先生の顔を見たら別に気にしていない様子だった。


「部活の人間は君の親しい人をそろえたつもりなんだけど、それでもめんどくさいの?」


「いえ、そいつらのことではないです」


「じゃあ、誰のこと?」


「小林のことですよ。仕組んだのは先生でしょ?」


「なんで、ここで小林さんが出てくるの?」


「先生じゃないんですか、小林を入部させようとしたのは」


「違うわよ」


「・・そうですか」 


これは少し予想外だった。てっきりこの人の思惑だと思っていた。

なら、どういうことだ?あいつと俺はこの学校で一度も顔をあわせてないはずだ。それどころか、俺はあいつと昔、縁を切ったはずだ。


だったら、どうしてあいつは俺のいるあの部活に顔を出した?なぜ部活に入りたいなんて言った?そもそもこの部活があるなんて知らないはずだ。だって、今さっき復活した部活だ。


誰が小林に教えた?考えていると疑問は深まるばかりである。


先生の荷物を言われた通り、多目的室において帰ろうとした。時計を見ると啓介と別れてから十五分ほどたっていた。


急いで下駄箱で靴を履き校門のところへ行った。そこには、啓介の姿があった。どうやら本当に待っていてくれたらしい。


啓介に、一言「ごめん」と言って帰り道を歩き出した。少し歩いた後、啓介が口を開いた。


「ずいぶんと時間がかかったな。なんかあったの?」


一応心配はしてくれていたらしい。相変わらずそこらへんはお人よしだなと思う。


「いや、帰り際に運びものの手伝いをさせられた」


啓介が「そっか」と、言って話が終わってしまった。いつもなら別に問題はないのだが、今日は少し気になることがあった。


「なあ、啓介。なんで小林は、うちの部活に顔をだしたんだろう?」


「珍しいな、涼太がそんな質問するなんて。いつもなら自分で解決するのに。それほどわからないのか?」


確かに、俺がこんな質問をするのは珍しいのかもしれない。すると、啓介は、遠い目をして俺に言った。


「涼太には、わからないと思うよ」


「えっ・・・」


急に言われたので俺は少し混乱した。意味が分からなかったので俺は啓介に説明を求めようとした。だが、


「俺、こっちだから。じゃあな涼太」


と言われてしまった。よく周りを見るといつも啓介と別れる交差点に来ていた。


「もうここまで来てたのか。また明日な啓介」


そう言って啓介と別れる。あとは、家に帰るだけだ。ここからなら五分ぐらいでついてしまう。


家についたが、家族は誰もいない。両親は共働きで家にいないことが多い。この前帰ってきたのだって3日前だ。


仕事内容は、あまり聞かないというか親があまり話さないのだ。唯一聞いたのは「一応安定した給料が入る仕事についている。仕事の内容はあまり話せない」ということだけである。


おいおいこの家族大丈夫かよ。子供にも話せない仕事ってなんだよ。うちの親、警察かなんかなの?秘密捜査でもしているのですか?普通のサラリーマンじゃなかったっけ?とまぁ、こんな謎の多い人たちだが一応感謝はしている。ここまで俺を育ててくれたのだ。


だけど、少し欲を言えばもうちょっと俺とコミュニケーションとってくれればこんな性格にはならなかったと思う。あとは、姉がいるのだがあいつのことはよく知らん。


大学生らしいが同じ家にいるのにめったに会わない。ここ最近ではかれこれ2か月はあっていないと思う。姉は確か、理系だったはずだから研究で忙しいのであろう。


ということで家には誰もいないのだが、はてさてやることがない。飯もコンビニで買ったものを食べ、風呂も入り課題も終わらせた。


それでも寝るにはすこし早い時間だったので、スマホでゲームをしていた。


すると、急にメールが来た。こんな遅くに誰だよと思ったが、それは意外な人物からのメールだった。


メールの送り主の欄には『小林』と書いてあった。どうせ北崎あたりが勝手に教えたのだと思い、特に驚くことはなかった。そして、依頼を持ってくることは、無理だと判断したのだろう。


小林は律儀な奴だ。だから、断りを入れるメールが来るのも不思議ではない。


それにしては、いささか決断が速すぎると思う。まだ、数時間しか経っていない。もし、本当にあの部活に入りたいと思っているのなら、もう少しは頑張っているはずだ。


それなら、一体何についてのメールだ?考えていてもしょうがないのでとにかくメールを開いた。


この時、俺は二つの予想をしていた。結論から言うとこの予想は、一つが当たりでもう一つははずれだった。そのメールの内容は


『突然のご連絡申し訳ございません。小林です。メールアドレスは北崎さんから聞きました。それで本題ですが、依頼が見つかりました。なので、明日また部活にお邪魔させてもらいます』


俺は、その時かなり間抜けな顔をしていたと思う。なんだって、依頼が見つかっただって?ありえないだろだってこの数時間で依頼なんか見つかるわけない。


そもそも俺が条件を出したのは放課後だぞ。そんな短時間でいったいどうやって・・・?その後、いくら考えても答えは出なかった。

小林への返信には「了解」とだけ打ち込んどいておいた。そしてこの後の記憶がなくなった。


起きると朝の5時だった。普段起きる時間よりは1時間ほど早かった。


どうやらベッドの上で考え込んでいる間に寝てしまったようだ。夢でも見ていたんじゃないのかと思いメールを見る。夢ではなかった。


そこにはしっかりとメールのやり取りをした形跡があった。俺は現実を知った後、もう一度眠りについた・・。 


起きて時計を見ると6時だった。ベッドから出て朝食を食べ、着替えて歯を磨き、家を出た。少し歩くといつもの交差点に近づいてきた。


前を見ると啓介がいた。どうやら待っていてくれたらしい。


相変わらずガードレールに腰を落としながら缶ジュースを飲んでいた。


すると、啓介がこちらに気付き軽く手を挙げていた。それを見て俺も軽く手を挙げる。そして、二人そろって歩き出す。俺は、昨日の小林のメールの内容を話すべく口を開いた。


「あのさ、啓介。昨日小林からメール来て依頼見つけたって」


この時の俺は、少し舞い上がっていた。険悪な仲とはいえ女子からメールが俺にだけ来たと思っていたからだ。


「あーその話なら聞いてるよ。驚いたよな、あんな早く依頼を見つけるなんてどうやったんだろって思わないか涼太?あれっ涼太?なんでそこで突っ立てるんだ?」


「いや、なんか恥ずかしくなって」 


本当になんか恥ずかしかった。自分一人にきていると思っていた自分を殴りたい。


そうですよね、俺だけが部員じゃないもんね。この後、俺は「恥ずかしい」と連呼しながら登校した。


ちなみに啓介は俺の五メートル以上先を歩いていた。完全に他人ですよという距離の取り方だった。


学校につき靴を下駄箱に入れ上履きをだし自分の教室に向かうため一人さびしく廊下を歩いていた。


啓介は、委員会があるとかないとかで先にいってしまったので俺は、ほかの生徒たちの「今日の宿題やった?」や「今日の授業サボらない?」などという無駄話を盗み聞きしながら歩いていると後ろから背中をバシッとたたかれた。


「よー榛名。おはよう」


そう声をかけてきたのは、北崎だった。俺は「おはよう」とだけ言い去っていこうとした。だが、なぜかそいつはついてきた。


いや、ついてきた理由はわかっている。どうせ依頼が来たという報告とお前は来るよなという忠告だろう。


「ねぇ榛名。部活の依頼が来たってりさちゃんからから連絡があったよ」


お前ら下の名前でよぶほど仲良かったっけ?昨日の今日で友達とか恐ろしいな。あっそういえばあいつら中3の時同じクラスだったっけ。にしては、あまり話すとこ見たことないな。


まあ、女子にもいろいろあるのだろう。そんなこと考えていると、北崎は俺の返事をまたずに話してくる。


「今日はサボらず部活に来ること。わかった?」


俺は「おう」と言って北崎と別れた。


同じ一年でも教室は遠いのだ。北崎は、1年7組で俺は1年1組である。この学校は2階に1年のフロア、3階に2年のフロア、4階に3年のフロアと別れている。ちなみに1階は、理科の実験室などが入っている。


正門から入ってくると俺のクラスのほうが近場にあるのだが、裏口から入ると啓介のいる1年5組が近い。7組は5組よりもさらに奥に位置する。

ちなみに小林は1年8組であそこは成績優秀者が集まるクラス。いわゆる特進クラスというものである。


そんな無駄なクラスと学校紹介をしている俺はというと、自分の机に突っ伏して寝たふりをしている。


これがぼっちの日常行動である。まぁほんとのことを言うと話す相手がいないだけなのだが、それを考えたら周りでギャーギャー騒いでいるリア充に負けを認めるような感じがした。


人間の話すという行動は、コミュニケーションをとるための重要なツールではあるが、実際のところ高校生が話すとなるともう一つ意味が出てくる。


それは、クラス内の順位決めだ。話さないと俺みたいによくわからい奴というレッテルを貼られ、喋ろうとしてミスすると上の位には上がれなくなるという恐ろしいものである。


つまり、リア充という生き物は、精神を尖らせて空気を読みタイミングよく面白い話題を話さないといけない。


俺は、そんな生き方絶対に無理だ。そんなやつらの中に見知ってやつがいた。が、気にせずまた寝たふりを続行した。


6限の英語教員の渡辺の眠くなる授業が終わり帰りのHRになった。HRが始まっても相変わらず俺は寝たふりを行っていた。それは、高山先生も承知の上なので特に怒られることはない。


でも、一応は聞いてる風にはしないと。と思い高山先生の顔を見る。すると先生が深刻そうな顔をして俺を見ていた。ついに俺をろくでなし扱いにしようというのかと、思ったが先生の一言でそうではないことが分かった。 


「えっと、これから学級委員からお話があります」


クラス中がざわっとした。無理もないだろう。あんなに先生の顔色が悪かったのだから。


ざわざわしている中、一人の女子生徒が席を立ち教卓の前に立つ。言うまでもないうちの学級委員長だ。


「学級委員の吉河汐莉です」


そう言ってぺこりと一礼をするその少女は顔立ちもよく、細身で身長は俺と同じ165センチくらいの生徒である。品行方正で人望も厚く容姿もよいため男子からの人気があり、週に3回は告白されているらしい。


ここで委員長が「あの・・」と話し始めた。


「昨日の放課後に一昨日英語の授業で回収したノートを配っていたのですが、1冊足りませんでした。本当にごめんなさい。このことについては私が責任を持って探します。もし誰か知っていたら情報をくれるとありがたいです。」


正直言って彼女の責任感の強さには驚いた。普通なら大体こういうのは先生に任せるものだ。そんなことより俺は、1冊だけというところに疑問を覚えた。



そして、その疑問は委員長の一言で明確なものになった。うちのクラスの生徒が「誰のノートがなくなったんですか」という質問に委員長は


「今回無くなったノートは、榛名君のものです」


と、答えた。この答えがなぜ疑問に思ったのか、その理由は簡単である。

普通にありえないのだ。俺は、英語のノート集める係をやっていてノート回収時にクラスのノート全員分を集めたのだ。しかも名前順で。俺は、名前順だと真ん中あたりに来るのだ。普通なくなるのなら名前順の後ろや前の方の奴だと思う。


なんでよりにもよって俺なんだよと心の中では叫んでいたが、委員長に「ごめんね」と言われた時、俺は頬を染めて「いや、大丈夫ですよ。気にしないでください」と言っていた。


我ながらとても気持ち悪いと思った。それと男子、睨んでくるな。とてつもなく怖いから。俺が悪いわけではないから。


あと奥の方で何か書いてるやつやめろ、呪い殺す気か?そんな男子の視線に対してペコペコ頭を下げていると気づけばHRが終わっていた。


高山先生からは「ノートはそのうち返ってくるから別のノートで授業受けてもらっていい?」と頼まれ、俺は「別にいいですよ」と会釈をして教室を出た。

下駄箱の方へ向かって歩いていると後ろからぐいっと制服の襟元を引っ張られた。


「おい、涼太。部活サボる気か?」


そんな啓介の声で思い出した。そうだ依頼が来てたんだっけ・・。忘れてたといえば怒られそうなのでごまかすことにした。


「いや、覚えてるから。大丈夫だよ、啓介」


「じゃあなんで下駄箱に行こうとした?」



「靴持って部活行けば帰りに3階から飛び降りれば早く帰れるから楽かなと思いまして・・」


相変わらず、苦しい言い訳である。そんな嘘が啓介には通じるわけなく。


「涼太、帰る気だったよな?」


「はい、すいません」


結局ごまかしきれませんでした。てか、啓介のやつ部活に熱心になりすぎではないのかと思う。


だからと言ってこの疑問を聞くつもりはない。いくら中学からの仲だろうと親が仲良くしていようと聞いてはいけないところがあると思う。


今回みたいな好奇心や恋愛などの話は相手が話してくれるまで聞かないというのが俺の鉄則である。


そんなことを自分に言い聞かせている間に啓介は、俺を引きずって3階の空き教室まで連れて行った。もちろんそこが生解部の部室である。

部室に入るとまだだれも来ていないようだった。


「なぁ、啓介。ほかのやつらは?」


「北崎なら小林と一緒に依頼主のところに行った」


俺は、そうかと言って鞄に入っていた小説を開いて読んでいた。啓介はというと委員会の仕事をしているようだった。


二、三十分した頃、扉がガラガラと開き四人ほど入ってきた。一人目は北崎、二人目は小林、三人目は高山先生、ラスト一人は、見覚えはあるが名前がわからない。その子は、整った顔立ちに細身の身長は俺と同じくらいの女の子なのだがやはり名前が思い出せない。いや、正確にはよく知っているが、思い出したくないだけだ。全員椅子に座ったところで、その女子生徒は自己紹介をし始めた。


「初めまして、と言っても榛名君は初めてじゃないね。私のことわかる?」


「いや、わからん。俺のクラスの奴か?なら誰の名前も憶えてないぞ」


「えー、ひどくないそれ。学級委員の吉河だよ!」


「あーそんなやつもいたかもね。覚えてないや」

「それんなこと言うんだ…」


すると吉河がにやりと笑った。あいつまさか!


「久しぶりに会えたのにつれないことしないでよー」


「ちょ、お前何言ってんだ。俺とお前はここで初めて会った。いいな?」


あいつ言いやがった。啓介にも話したことないのに。その啓介は何のことだと首をかしげていた。まずいばれたらいじられる。話をもとに戻そう。


「で、こいつが今回の依頼人か、小林?」


「えぇそうよ。今回の依頼人は、あなたのクラスの学級委員の吉河汐莉さんよ。ところであなたたちはどういう関係なの?」


小林め。せっかく話を戻したのになんで掘り返すんだよ。まずい黙っていたら疑われる。と思い俺は口を開く。


「俺と吉河さんは・・・」


と、言いそうになったとき吉河が割り込んで。


「涼太と私は、結婚を誓った仲なの!」


そう言い放ったとき俺は額に手を当てため息をついた。そのあと俺と吉河以外が


「「「はあーーーーーー?」」」


といった。まあ当然だよな。この瞬間、俺の4年間隠し続けてきた秘密がばれました。


       ***


そのあと俺は、小林の質問に答えた。なぜか俺の前に椅子が並んでおり、左から啓介、先生、北崎、小林、吉河の順で座っている。ちなみに俺はというと立たされている。これから事情聴取とのことだ。自分のクラスでノートが一冊なくなったこと、そしてそのノートの持ち主が俺ということを話した。ほんとになんで俺のノートがなくなるのか疑問と文句がでるばかりである。


「それで?」


俺が事件の内容を話した後、小林が突然聞いてきた。ものすごい睨みながら。そういえばもう一つ質問に答えなきゃいけなかったっけ。


だが、断る。


俺は、答えたくないのだ。せっかくここまで黙ってきたのにここですんなり話してしまえば負けを認めた気になって腹が立つ。なので、ここは黙秘権を行使しよう。そうしよう。


「何のことでちょうか?」


やべ、噛んじまった。恥ずかしい。しかも、北崎笑ってるし。


「あくまで白を切るようね。仕方がないわね」


お、このまま保留になるのか。それが一番ありがたい。


「多数決を取りましょう」


残念。やはりうまいこと人生というものは運ばないということです。いい経験になりました。ちなみに多数決の結果は、言うまでもなく賛成派 四人、反対派 俺一人という悲しい結果になった。でも先生だけは、最後の方まで


「人には隠したいことがあるしそれを無理に聞くのは・・・」と悩んでくれていた。まあ結局賛成派に入ったわけだが。


そして今、俺は話さなくてはいけない状況に陥っている。正直言って話したくない。でも話さないとたぶん小林と啓介が喋るまで拷問をしてきそうだ。


なぜなら、口元は笑っているのに二人の目がまったく笑っていないからだ。まずいどうしよう。


「ほんとに言わなくちゃダメ・・ですか?」


そう俺が言い放った矢先。目の前に殺気?ぽいものが見えた気がした。やばい奴らの攻撃が来る、逃げろ!と思ったが、怖すぎて足が動きませんでした。


そして、怒涛の攻撃が始まる。


「ほーそんなことよく言えたもんだな、涼太。あきらめろ」


啓介は立ち上がり俺の方まで来てそう言った。あれ?そんなに怒ってない?さすが啓介、心が広い。なら小林も許してくれるだろうと思ったら啓介が


「この後、ガンバレヨ」


と、俺の肩をたたきながら言ってきた。その時の啓介の目は、とてもかわいそうなものを見る目になっていた。まさかと思い椅子に座っている小林を見ると目も口元も笑っておらず、まるで鬼のような顔になっていた。そこまで怒る理由はよくわからないが怖すぎる。


「あの顔すごいだろ。あれ見て怒る気なくなったわ」


そう付け足して自分の椅子に座る啓介。やめてくれ俺を一人にしないでくれ。あんなのとまともにやりあったら死んじゃう。


誰か俺に助け船を!と思い吉河を見る。すると、俺の視線に気づいた吉河は両手を合わせてごめんというようなポーズをした。                                                              


先生はというと、北崎と「少し運びものがあるんだけど」と言って一緒に教室から出て行ってしまった。


そしてついには、啓介と吉河までもが「ちょっとトイレ」と言って出て行ってしまった。ついに部屋には二人だけ。するとついに小林が口を開いた。


俺は何を言われてもいいように目を閉じ両手に力を入れ歯を食いしばった。そして、小林が椅子に立ち上がり俺の方に来た。


やばい、殺される。殺気が・・殺気ぽいものが・・・あれ、なくなってる?


「そんなに覚悟を決めなくとも私は怒ってないわよ。榛名君も馬鹿ね」


くすっと笑った彼女は、悔しいがものすごくかわいかった。久しぶりに見た彼女の笑顔を見て俺もほっとする。と同時に疑問も出てくる。


「ならどうして、怒っていたんだ?とても演技には見えなかったけど」


すると、突然小林がうつむき


「・・・・・と・・・だもん」


といった。実際ほとんど聞こえてこなかった。俺が「なんだって」と聞くと「なんでもないわ」と答え顔を上げる小林であったが、いったいなんだったのか俺にはわかりかねない。


わかっていたとしてもそれは言葉に出してはいけないものだと思った。そして俺はため息をついて、少し考えてどうしようか迷った後


「ただ、姉の彼氏の妹があいつだっただけだ」

その時、小林は少し悲しい顔をしていたと思う。多分、彼女は俺と吉河との関係なんて興味はなくてこの二人きりという状況を利用したかったのだろう。そして、その状況で聞きたかったことはもう聞けないと判断しはず、だから次に起こす行動は


「そう、では失礼するわ」


と、言って小林は教室を出て行った。まぁ、そうなるだろうな。


俺は、真実を話すべきか悩んだ。今の俺と小林が知っているであろう昔の俺の性格が変わった理由を。


彼女は、気づいていた。そして疑問に思ったはずだ。なのに、聞けなかった。それはなぜか、簡単なことだ。


啓介と北崎は、俺の真実を知っているから1つお願いをしたのだ。


それは、『変化する俺に疑問を抱かないこと』


これは小林対策。とまでは言わないが周りに察知されないようにするカモフラージュ。それを完遂するためには、真実は言わない方がよいだろう。


このことは、知ってしまったやつだけ知っていればいいと思った。


もし、彼女が知ってしまえば今の彼女はなくなってしまうから。あの笑顔にまた曇りを入れてしまうから。


すべてを失っても一人になっても見捨てられても俺は、陰から守り続けることを誓ったのだ。もうこれ以上俺のせいで彼女が傷つくのは、見たくない。


どうしても・・・


なぜここまで思っているのか正直よくわからない。


ほんとこいつと再開してからたった2日なのに疑問に思うことが増えた。でもこの疑問は、必ず答えがあると確信している。


まだ全貌も何も見えないけれど。それでも、俺の探している答えよりかはいくらかましだ。


***


小林が、教室から出ると啓介が帰ってきた。


「おい、涼太。なんか小林が、浮かない顔してため息つきながら、教室から出てきたけどなんかしたの?」


「いや何もしてない」


「そっか、でももう少し話してあげてもよかったんじゃないか?」


「聞いてたのか・・・」


「悪いな・・トイレ帰りに来てみたら聞こえてきたんだ。すまん」


「そういえば、ほかの3人は?」


「えっ、そこにいるけど」


「は?」


教室の出入り口付近に行ってみると教室の外にある段ボールが積みあがった場所に隠れている人の姿があった。


「えっと、お前ら何してるんだ?」


そこには、北崎、吉河、ついには高山先生までもが、隠れていた。まあ、3人もいるから隠れきれていなっかたけど。よかった~何も話さなくて。


もう今回の事件のせいで大変だし、あのノートないと今度の期末がやばくなる。


ほんとマジで。


この前、英語赤点だったんだよね~。はははは。


そんなことを考えながら自分の置かれている状況を冷静に整理してテンションが下がっていくと同時に隠れていた3人が物陰から出てきた。


「いやーその気になるじゃん」


そう言ったのは、北崎で。


「生徒のことを見守るのも先生の仕事です!」


と、高山先生は言う。そして吉河というと


「・・・」


といった感じで黙っている。さすがに自分も関係することだし反省しているのだろう。


俺は、このすべての反応に対応するのは面倒くさいのではあーとため息をついて教室に戻り 


「啓介帰るぞ~」


と言って自分のバッグと啓介のバッグを持って教室を出た。


その際、先生から「勝手に盗み聞きして悪いわね」と言われた。


謝るくらいならやるなよと言いたかったが、すごく泣きそうな目をしていたので言うに言えなかった。この人追い詰めるとすぐ泣くからな~。


俺は、「別に怒ってないですよ」と、言って一階の下駄箱まで向かった。


***


学校からの帰り道、考え事しているように見えていた啓介が口を開いた。


「お前、この件一人で解決しようとしてるだろう?」


「・・・ああ」


それはとても突発的で驚いたが、確かにその通りだ。相変わらず勘がいい。なので、こいつには、少し話してもいいのかなと思った。


「啓介」


「なんだ?」


「少し話がしたい。一旦お互いに帰宅した後、俺の家に来れないか?」


「ああ、わかった」


俺が家に帰った後、1時間ぐらいした後啓介が家に来た。ちなみに家には、誰もいない。親は相変わらず仕事で、姉は・・知ったこっちゃない。


「お邪魔しまーす」


そう言って啓介がリビングに入ってきた。


「鍵閉めてくれたか?」


「ああ。あと、今日泊めさせてくれない?明日休みだし」


「はあ・・別にいいけど。親と喧嘩したの?」


「いや、門限超えてるから泊まるなら行かせてやるって言われてさ」


「・・・まだ、だめなのか?」


「ごめん」


「いや、謝れることじゃない。むしろ俺が謝らなくちゃいけない」


俺と吉河に秘密があったように、啓介とも秘密を抱えている。そのせいで啓介は、門限も遊びに行ける範囲まで制限されてしまった。本人は、気にするなと言っているけどいつかは何とかしたいと思っている。かなり上から目線だが、これが俺の取らなくてはならない責任だ。啓介の親や俺の過去など解消しなきゃいけない案件は、増える一方だがまずは今の問題に集中しなくては・・・ちなみに今午後7時30分、そして啓介の門限は、午後8時。確かに泊まるとでも言わないと家から出してくれなさそうだな。


「そういえば夕飯は食べたのか、啓介?」


「いや、食べてない。なんか食べさせてくれないか?」


「カップラーメンでいいか?」


「おう」


そう言って俺たちは、夕飯を食べ風呂に入り寝る支度を整え俺の部屋へと来た。俺の家は、1階にリビングとキッチン、トイレと風呂があり、2階には俺の部屋と親の寝室がある。


「前に来た時と部屋変わってないな」


「だって使ってないし。というか、この前来たの2週間前だろ。親と喧嘩したとかで」


「あーそうだったな。そんなことより今回の問題について話さないか?」


「わかった。なら布団引いてから話すとするか。俺、床で寝るから啓介は俺のベッド使っていいぞ」


「悪いな」


布団を引いて何となく落ち着いた後、俺は啓介に今のところ知っていることを話した。 


「今回の件で、気になるのは3つほどある」 


「3つか。まあまああるな」


「まあ、聞けって。まず問題その1、なぜ小林ができてすぐの俺たちの部活にこれたのか。その2、どうやって小林の連絡先を吉河が手に入れたのか。その3、なぜ俺のノートなのか。まあこんなところだと考えている」


「確かに思い出してみるとそんな感じだな」


「で、ここからは俺の考えだが、この件には誰か同じ人間がかかわっている気がするんだ」


「つまり、俺たちの関係を大体知っていて涼太に恨みでもある人ということか?」


「さすが啓介、俺も同じ答えにたどり着いた」


「なら、そいつはいったい誰なんだ?」


「そこまでは・・・わからない」


情報が少なすぎると、言おうとしたがやめた。こういうと啓介がまた無理をしてしまうと思ったからだ。また無理でもされて何かあった日にはただ事ではない。

突然、黙ったことで啓介が不審がっている。やばい追及される。何か言わないと・・・・


「あと、俺が啓介たちを頼らず一人でやろうとしたのはだな・・・・」


そう言ってる最中、俺の携帯が突然なった。時間は午後9時、啓介は隣にいるし北崎はもう寝てる時間だろうしいったい誰からだ?と、思ってメールを開くと差出人の欄に『小林』と書いてあった。


メールの内容は

『夜分遅くにすいません。あの、これから会えませんか?』


というものだった。この時間帯で意味ありげな文章から察するに何か今日中に言いたいことがあるというだろう。このメールを啓介に見せると「俺、先に寝てるから今から小林さん呼んでリビングで話せばいい」と言ってくれた。


なので、


『わかった。外は、危ないから俺の家でもいいか?もちろん迎えにも行く』

 と返信すると1分ほどで


『わかりました。では、家で待ってます』


と返ってきた。俺、あいつの家1回しか行ったことないんだけど道わかるかな・・・・


そう思いつつ自転車に乗って家を出た。はたして俺は無事にたどり着けるのだろうか。


***


そんなことを思っていたのだが、意外にもちゃんとたどりつけた。まあ、小林の家がほかの家よりも大きいこともあり見つけやすかった。もともと同じ中学だしね。小林の家の門まで行くと小林がいた。


「こんばんは」


そういった小林の服装は、ワンピースとサンダルという軽装だが、その中にも女の子らしい感じがした。ワンピースから出る脚はすらっとしていて服の袖から出る腕は透き通るように白くてきれいだった。俺は、少しの間、目が釘付けになっていた。


「どうしたの?榛名君・・・じゃなくて涼太君?」


そういう小林は、ニコッと笑いながら俺のもとに近づいてきた。というか近すぎやしないか。

髪からはいい匂いがするし、これ以上俺をドキドキさせてどうするんだ。


「いや、その・・・こんな時間に家出てきていいのかなと思ってさ」


「そこは、問題ないわ。あなたの家に泊まるから」


「はい?」


何言ってんだこの子は、俺の家に泊まるって言ったか?いやいや無理だろ。啓介もいるし。


「それは・・・」


「だめかしら?」


その上目使いは反則だろ。やべぇ断れない。


「えっと、そのだめってわけじゃないけど・・・」


そう言うと小林がにこにこしだした。おお、これはかわいいですね~。すると、自分の顔が緩んでいることに気が付いた。あっ、いつもの顔に戻った。もうちょっと見たかったな~。


「なら、行ってもいいかしら?」


「啓介もいるけど大丈夫だよな?」


すると、空気が凍った気がした。原因は、小林の機嫌が悪くなったからだ。


「えっと、なんで怒っていらっしゃるんですか?」


「怒ってる?この私が?ありえないわよ。そういえば赤城君とは、仲がいいものね」


どんどん彼女の機嫌が悪くなる。どうにかしなくては・・・



「今回は、遊ぶために啓介を呼んだわけじゃないんだよ。今回の依頼の件について話していたらお前から連絡が来たんだよ」


「そう、大体の状況はわかったわ。なら、今日は仕方ないわね」 


おっ、このまま自分の家に帰ってくれるのか。


「赤城君がいても気にしないわ。行きましょう」


だめでした。このまま帰ってくれることじゃないのね。


「わかった。じゃあ行くか小林」


「・・・」 


「小林?」 


「・・・」 


「小林さーん?」


反応がないし次第に頬が膨らんでいっている。俺まずいこと言ったかな?


「・・・りさ」


「はい?」 


「りさって呼んで昔みたいに」


あーそういうことね。


「いやです」


「なら、いいわ」


おっ、素直に聞いてくれた。よかった~。


「吉河さんに『榛名君に家に連れ込まれそうなの助けて』ってメールするから」


それは、まずい。かなりまずい。そんなこと言われたら俺の人生が終わる。


「待ってくれ小林。話し合おう」


「私、小林じゃないです」


「お前、小林だろ」


「あー吉河さんにメールしちゃいそうだわ」


「あーわかったよ。・・・・りさ」


「はう」


小林の顔が湯気が出るくらい真っ赤になっていた。大丈夫かこいつ。自分で言ってきたくせに照れるなよ。こっちまで恥ずかしくなる。そんな空気が気まずかったので


「行くか、りさ」


「ええ、行きましょうか」


あっ、普通に戻ってる。


小林の家から出て歩きながら、俺は話すタイミングをうかがっていた。ちなみに、なぜ歩いているかというと、最初は二人乗りしていこうかとも思ったのだが、小林が「それはレベルが高すぎるから無理」という意味の分からないことを言ったので自転車は手押で押しながら歩いている。


「どうしたの、涼太君?挙動不審よ」


俺が後ろを歩いている小林のことをちらちらと見ていたのがばれていた。


「あっ、えっと・・・りさの親御さんにはなんて言って家を出たの?」


「・・・」


そういった瞬間、俺たちは歩く足をとめた。そして、無言が続いた。俺は、とても卑怯なことをしている気分になった。小林が関係していて関係していない小林の親御さんとの約束。俺が負わなくてはならない責任。俺は今になって自分がやっていることに罪悪感を覚えた。――引き返すなら今しかない。


俺は、小林の回答を聞かずに口を開いた。


「やっぱり、帰ら――」


「嫌よ」


俺が言い終わる前にそのまま言わせるものかと遮られてしまった。しかし、俺は続きの言葉を紡いでいく。


「俺は、お前と一緒にいてはいけないんだ。それを今思い出した。だから、戻らないか?」


これはただの自己満足だと思った。自分の決めた掟に背かないように必死に抵抗して本当の気持ちを押し殺して、そうすることで彼女を守ったのだと自分に言い聞かせたかった。


だが、帰ってきた返答は俺の期待していた答えとは全く違っていた。


「それは、お父さんとの約束のこと・・・なのかしら?」


「なんで・・・知っているんだ。そのことを」


俺は、明らかに動揺していた。この約束は、あの事件を解決した時の代償だった。このことを知っているのは、解決に努めた事件の元凶の俺と被害者の二人のみ、その時小林はその場所にいなかったはずだ。まさか――。


「赤城君から聞いたの」


やはりそうだったか。


あの事件の被害者――啓介だったか。でも、それは少しおかしい。なぜなら、啓介には、話した後のメリットが一つもない。


あいつは、自分の自己満足で動く俺とは違う。啓介が話すということは、誰かのためになると考えてのことに違いない。では、その誰かとは誰なんだ・・・。


そんな試行錯誤しているとき、小林がそれからと言いながら話し始めた。


「私が聞いているのは、約束のことだけ。そのほかのことは知らないわ。まだ、何かありそうだと思ったけれど、赤城君に『それ以上聞きたいなら涼太に聞いてくれ』って言われてしまったわ」


俺は、その言葉を聞いた途端、啓介がメリットを与えたい『誰か』に気づいてしまった。


それはきっと――俺だ。


啓介は、小林に教えることで俺になんかしらの変化を求めている。その何かは、あいつに聞かないと分からないのだろう。なら、俺は目の前のことに集中しよう。


小林が、返答を求めている目をしている。わかってるよ。お前が聞きたいのは『それ以上』のことだろ。でも――


「だめ・・・なんだ。まだ、教えられない」


「なんで・・・なんでよ。私は、あなたたちの事件と遠からず関わっているわ。

なら、あのことの内容も結果も聞く権利が私にはあるでしょ」


「そう、お前にはその権利がある」


「なら――」


「だからこそ、話せない。目の前の事件が解決するまでは」


「なんでよ」


小林は、怒っていた。それは、顔を見て一瞬でわかるように。頬を赤くさせ、唇かみしめながら。目には涙がたまっていた。俺は、それを見てつい本当のことを言いそうになった。話せない理由はそこじゃないんだ。

本当は、君を――。


***


路上でさんざん話した後、小林は静かに歩き出した。


「帰るのか?」


「そんなわけないじゃない。お父さんに友達の家に泊まりに行くって言ってしまったわ。いまさら帰れるわけないじゃない。それに、あなたには何のリスクもない。違う?」


さっきはあんなに怒っていたのにまだ俺といたいと言うのか・・・。それほど大切な話があるのだろう。まあ、乙女心はよくわからん。


「わかった。なら、行くか」


「ええ」


そんなこんなで俺たちは、十五分ほどで俺の家についた。


あの後俺たちは、何も会話をすることなく、歩いていた。何か話した方がいいのかもとは思ったのだが、俺にそんなコミュニケーション能力はなかった。あと、あの後に何か無駄な中身のない話をするのがとても嫌だった。それは小林も同様だろう。


「お邪魔します」

 そう言って、靴を脱いで持参してきたであろうスリッパをだし一歩進んだ後、振り返り靴を整え玄関の隅に置いた。さすがお嬢様。礼儀までしっかりと教え込まれている。


「ただいま」


俺は、そういって靴を脱ぎっぱなしのまま廊下で立っていた小林を追い抜きリビングに向かった。


廊下を歩いている最中後ろを振り返ると小林が俺の分の靴まで整えてくれていた。何ていい子なんだ。学校中の男子が惚れるのも納得できる。


リビングに入る扉を開けるとさっきまでいた啓介はいなかった。


「赤城君は?」 

 あとから入ってきた小林が質問してきた。


「ああ、もう寝てるんだろ」


「そう」


リビングには、テレビとテーブル、そして少し大きめのソファーがある。並び順は右からテレビ、テーブル、ソファーといった感じだ。


俺は、小林にお茶出すためリビングを出てキッチンに向かう。その途中少し啓介のことが気になったので二階に上り、俺の部屋の扉を開けた。


すると、啓介はベッドで横になりながらゲームをしていた。


「まだ、寝てなかったのか」


今の時刻は、夜中の十時半。啓介は、いつも寝ている時間のはずだ。


「お前の元カノがお前の家に来るんだ。見張りだよ、見張り」


そう言って、啓介は俺にスマホの画面に映っている動画を見せてきた。


「お前、これ・・・」


啓介が見せてきた動画の中には、俺の家のリビングとソファーに座っている小林の姿があった。こいつ部屋にカメラを仕込みやがった!


「俺、そんなに信頼ないの?」


別に俺は、ここでいかがわしいことをするつもりはない。いや、ほんとだよ。そこまでの度胸と根性はない。


そんなことをさもわかっているかのような顔をしている啓介は、首を横に振って


「いや、涼太のことは心配してない」


「どういうことだ?」


「これ以上は言えないな。自分で考えろ」


こいつスゲー笑ってやがる。つまり、小林がなにかしようとしているのか。まさか・・・。


「あいつ、俺の秘蔵DVDの隠し場所がリビングにあると知って・・・」


そう答えた途端、啓介がものすごくがっかりしたような目をしている。あれ、俺間違えたのな。でも、それしか思いつかない。気になるな~。


すると、啓介は、ため息をつきながら


「もういいよ。やっぱりお前は、苦労する人生を送りそうだな」

 なんか、ものすごくあきれられた。そのあと、啓介は少し真面目な顔になって


「ところで、なんで俺のところに来たんだ。涼太」


そう言われて本題を思い出す。


「啓介。小林にあのこと話しただろ」


その時の俺の声は、少しイライラした声音になっていたと思う。啓介は、少し驚いた顔をしていたが、すぐにいつもの顔になって


「もうばれちゃったのか。早かったな」


「なんで、話したんだ」


「今聞くってことは、迎えにいったときに何かあったのか」


そう言いながらにやりと笑う啓介を無視して話を進める。


「今は、俺が質問してるんだ。答えろ」


俺は、啓介がこの後何を言うのかわかっていた。こいつが、はぐらかすということはたぶん――


「いや、おもしろそうだったから。それ以外に理由がないのはお前も知っているだろ」


やはり、そうだったのか。それなら――


「まだ何か隠してるよな。啓介」


こいつがはぐらかすのは、何か裏で動いているということ。もしくは、何か問題をかかえている。なぜ、わかるのか。それは、こいつとは、中学からの付き合いだからというくだらない理由だが十中八九間違っていないと思う。


「さすが、涼太。お前には隠し事ができないな」


「もう、あの時のようなミスはしたくないからな。で、俺になにかできることはないか。できるだけのことはしてやれるつもりだ」


そう言ったとき、啓介はさわやかな笑顔を浮かべて


「ありがとう。でも大丈夫だ。俺だけで何とかできる。もしだめだったら助けてもらおうかな」


「わかった。でも、無理はするなよ」


「ああ」


そのあと、啓介はいつもの顔に戻ったが、何かすっきりしたような感じがした。勘違いかもしれないけど。


俺は、啓介に「盗聴するのはいいけど入ってくるなよ」と注意して部屋を出た。


***


俺は、階段を下りてキッチンに行きお茶を用意してリビングに向かう。リビングのドアを開けると小林がいるのは当たり前なのだが――あっ寝てる。


「おーい、小林さーん。起きてくださーい」


病院でナースに名前を呼ばれる風な感じで言いながら小林の肩を揺さぶりながら起こそうとしたんだが・・。


「起きないな」


こいつぐっすり寝てやがる。しかし、やっぱりよく見るとかわいいよな。きれいに整った輪郭に長い艶やかな黒髪と時々見せる笑顔にドキドキした。いい夢でも見ているのだろうか。


そんなことを思いながら気が付いたら自分の右手の人差し指で小林の頬をつつこうとしていた。俺は、急いで右手を引っ込めた。危ない危ない、危うく犯罪者扱いされるところだった。啓介に。あとでごまかさなくては。


とりあえず俺は、テーブルの下にあるタオルケットを小林にかけてお茶をキッチンに戻すためにリビングを出た。ついでに頭を冷やすため風呂に入った。


風呂から上がってリビングに戻ると小林は、起きていてテレビを見ていた。


「起きたのか」


「ええ、ごめんなさいね。寝てしまって。あと、布団ありがとう」


「気にするな。誰でもソファーでくつろいでいたら眠くもなる。俺は、そのせいでよく学校に遅れているからな」


「胸を張って言えることではないわよ。それ。でも、あなたらしいわね」


くすっと笑いながら言ってきてくれたのでさっきまでも重かった空気がとても柔らかくなった気がした。これなら本題に入れそうだ。だが、その前にやることがある。それは――


「なあ、りさ」 


そう言いつつ、俺は小林がいるソファーに近づき隣に座った。


「なによ」


そう言って頬を赤く染めながらそっぽを向く彼女の肩を掴み、顔をこちらに向かせお互いの顔と顔とを向い合せた。彼女の肩がプルプルと震える。俺は、安心させるように肩から手を離した。そして俺は、さらに顔を近づけてある頼みごとをする。


「なあ、りさ――」


俺は、とてもドキドキしていた。ここまで異性と近づくのは何年ぶりになるだろうか。ついつい俺の体温も熱くなってくる。小林も同じような感じだった。


そして俺は、喉元に出かかった言葉を発する。

「飯、作ってくれない?」


そう切り出した刹那――ソファーに置いてあったクッションが突然飛んできた。俺は、回避することも出来ずそのままくらう。そして、俺の顔面にクリーンヒットをかました枕は宙を舞い床に落ちた。


「痛いな~。何すんだよ」


俺は、枕を投げた犯人――小林にそう告げた。すると彼女は、顔を真っ赤にしながら


「それは、こっちのセリフよ!いったいにゃにをしてくれたのよ!」


あれ、今こいつ噛まなかったか。そう思い小林の顔を見ると――とても怒っていた。肩はプルプルと震え、顔はそっぽを向いているが、目は確実にこちらを睨んでいた。やばい、殺される言い訳を考えなくては。


「いやいや、これには深いわけがありましてね」


「こんな犯罪まがいのことをしてまだ言い訳をするのね。通報するからちょっと待ってて頂戴」


「ほんとすいませんでした。警察だけは勘弁してください」


言い訳なんて一つも出てきませんでした。この後、小林を落ち着かせるのに十五分ほどかかった。


「・・・」


小林を落ち着かせた後、また沈黙が訪れた。俺は、あまり沈黙の時間を悪いものとは考えないが、さすがに今回ことは俺が悪い。どうにかして話をしようかと考えていたら俺の腹がグーッと部屋中聞こえるほど鳴った。すると、小林はため息をつきながら


「冷蔵庫に材料はあるかしら?」


「・・・えっ作ってくれるの?」


正直言って作ってくれるとは、微塵も思ってなかった。そのせいか俺の声音が少し高くなった。


「ほんとに作ってくれるのかー。これはありがたいな」


「あなた、ほぼ一人暮らしでしょ。自炊はしないの?」


「えっと、そのめんどくさい」


「あなたって人は・・・」


あきれられてしまった。まあ、学校一の美少女にご飯を作ってもらうんだ。罵倒されようが、あきれられようが屁でもない。


小林をキッチンに連れて行き食材や、調理器具のある場所を教えてリビングに戻る。俺は、ソファーに座り啓介に話した推理をもう一度見直すことにした。


「どうにも、引っかかるんだよな」


そう、言葉に出るほど俺は悩んでいた。考えているだけでは頭がパンクしそうなので、紙とペンを持ってきてテーブルの上に書き留めた。その詳細はこんな感じだ。


『一つ、なぜ小林ができてすぐの俺たちの部活にこれたのか。

 答え、誰かから聞いたから。その誰か→不明

 二つ、どうやって小林が吉河の連絡先を手に入れたのか。

 答え、これも誰かの差し金。

三つ、なぜ俺のノートがなくなったのか

 答え、俺をターゲットにしたて上げるため。それはなぜか→昔のことが関係?』


と、なっている。こう書き出してみるとやはり圧倒的に情報量が少ない。でもまあ、この状況をどうにかするために小林を呼んだのだから何かしらの進展はあると思いたい。


***



「お待たせ」


そう言ってリビングに入ってきた小林は、手に持っていた皿と箸をテーブルの上に置いた。それと同時に俺は、置いてあったペンと紙をテーブルの端に移動させた。するとそれに気が付いた小林が


「何、書いていたの?」


と、聞いてきた。まあ別に隠すようなことでもなければ、あとで見せようと思ったものなので素直に紙を見せつつ説明する。


「状況整理、みたいなことしてた」


「そう」


小林は、俺が見せていた紙を手に取ってじっくりとみていた。



「まだまだね」



その一言に俺はとても驚いた。そして反射的に


「どういうことだ?」


俺の声のトーンはかなり下がっていたように感じた。だが、そんなこと気にも留めていない様子で小林は、不敵な笑みで


「いつか、わかるわよ」


たった一言ですべてを語ったようだった。まるで、すべて知っているかのように。


「いつかっていつなんだ」


そう言葉にしたとき少し踏み込みすぎたことをしてしまったと思った。小林が、いつかわかるというのなら本当にいつかわかるのだろう。彼女が間違ったことを言ったことはない。ただ、一つを除いては。このことは、あとにしよう今は、小林に訂正と謝罪をしなければ。このままあの笑みを見続けるのは心臓に悪い。そう思い言葉を発する前に


「ふふふ、いつかっていつでしょうね」


はぐらかされた。まあ当然と言えば当然か。それよりと、小林が続けて話す


「難しい話をする前にご飯を食べましょうか」


そう言ってニコッと笑う小林にさっきのような薄気味悪さはなかった。俺は、そのことに安心し、箸をとり食べ始めようとした。


「サラダうどんか・・・。ずいぶんと庶民的なものを俺でも作れる」


「あら、そんなこと言ってもいいのかしら、後悔しても知らないわよ」


料理に対して後悔も何もないだろ。ものすごく自信たっぷりに言う小林に少し違和感を感じながら俺は、箸でうどんと野菜を一緒に取り、口に運んだ。うちの冷蔵庫から作るあげたものだ。味は俺と同じくらいだろ。まあでもあんなに自信たっぷりだし一応はほめて――


「・・・美味すぎる」


俺は、そのあと一言もしゃべらずに五分ほどで平らげた。どんな味だったかというと説明することも許されないそんな感じの味だった。ほんと美味すぎ。だが、ここまで美味いと疑問も湧いてくる。


「隠し味に何か入れたのか?」


そんな質問をさも来ると分かっていたかのように人差し指を自らの口元にあて


「それは、秘密です」


語尾にハートでもつきそうな感じで言われてしまった。これ以上は聞けないな。


そんな感じで夜食を食べ終え時間はちょうど夜中の一時を回った。普段ならこのくらいで眠くなるのだが、状況が状況なだけにまったくもって眠くない。啓介は――もう寝てるだろ。さすがに。なら――


「眠くないのか?」


俺の隣でテレビを見ている小林に聞いてみた。


「別に平気よ。あと二時間はいけるわね」


ものすごく強い口調で言われてしまった。だったら――


「本題に入るか」


「そうね」


 食べた食器をキッチンに行って片づけたついでにコーヒーをいれ俺は、リビングに戻ってきた。


「コーヒーでよかったか?」


そういってコーヒーを小林に差し出す。


「ええ、ありがとう」

 受け取ってくれた。良かった~。何も聞かずに持ってきたから不安だったんだよ~。


「おう」


安堵を隠すように俺は、元気よく返事をした。


コーヒーを置き、テーブルを挟んで反対側――小林と対面する形で俺は座った。


「さて、始めるか」


この一言を起点にお互い真面目な顔になる。俺は、もう一度今回起きた事件についてと俺が思っている今回の問題点を書いた紙を見せながら話した。


「ここまでで、お前が話せることあるか?」


そう質問してみたが、返答は、絶対に


「あるわよ。そのためにここに来たんだから」


それなら――


「話してもらえるか?」


わかったわと言って小林が話し始める。


「ちょうど私がはじめてあなたの部活に行く一時間前ぐらいに私にメールが届いたのよ」


そう言いながら、自分のスマホを俺に見せてきた。そのメール内容は『お前の元彼(榛名)が部活に入ることになったらしい。なので、見に行ってほしい。場所は、校舎三階の一番隅の教室だ』というものであった。なるほど、これで一つ目の疑問が解決した。ちなみに


「誰から送られたか、わかるか?」


「わからないわ。このメアド知らないもの」 


メールの画面をスワイプしながら呪文のように書いてあるメアドを見せてきた。確かに知っているメアドだったら差出人のところに登録した名前が出るしな。これは、本当にわからいようだ。あと、と言いながら小林は話を続けた。


「あなたから『やってほしいこと』を頼まれた後、また同じメアドでメールが来たのよ」


さっきと同じようにスマホを見せてきた。内容はというと『依頼がほしいならこのメアドに連絡するといい』だった。


「それでね、この文章の後に貼ってあるメアド吉河さんのものなのよ」


なるほど、確かに吉河のメアドに似てるな・・・って、あれ?


「なんで吉河のメアド知ってるんだ?」


俺は、ここだけが気になった。すると、小林はさも当り前のように


「私と吉河さん、昔、一度会ってるのよね」


「えっなにそれ俺聞いてないんだけど」


小林と吉河、面識合ったのか。にしては、あまり話してる風はなかったな。


「つまり、その時に吉河とメアドを交換したということか」


「ええ」


まあ、どういう経緯で交換したのかは、聞かないことにしよう。というか、眠くなってきた。


そろそろ話をまとめてしまおう。頭が回らなくなる。


「今回の事件の犯人、めんどくさいからⅩとするか。そのⅩが俺のノートを盗み、小林にメールを送り俺と接触させた。今のところ整理できるのはこのぐらいか。そのほかに何か話せることはないか?」


「ないわよ」


そうか、ここまでか。しかし、問題点その一とその二がわかっただけでも大きな収穫だ。やはりその三については、Ⅹ本人に聞かないと分からないか。だが、これで犯人の正体が多少わかった。


Ⅹは、同じ中学出身で俺たちと関わりがある人物。それでいて小林のことが好きだった奴。あれ、そうなると犯人の特定は難しくなるな。


だって、小林モテまくってたし、俺は俺で事情はともあれ友達多かったし。やばいな振り出しに戻りそうだ。


「よし、寝るか」


もう頭が回らなくなってきた。瞼も重いし。そういえば、小林の反応がないな。そう思いソファーの方を見ると・・・寝ていた。


「・・・またか。二時間はいけるって言ってただろ。まだ一時間しか経ってないぞ」


俺は、二階から布団を持ってきて小林にかけた。まあ、もう起きることはないだろ。もう夜中の三時過ぎだしな。俺も寝るか。よし、俺の部屋は――啓介が使ってるから親の部屋に行くか。そう思って小林を見る。相変らずかわいい寝顔だな。そこでふと考える。


「客人をソファーで寝かせるのはまずいよな」


俺は、小林を抱き上げ、姉の部屋へと運びベットに寝かせてタオルケットを掛けて部屋をでた。実を言うとかなり筋力はない方なのだが、それでも小林は楽に運べた。道中、小林の髪からのいい匂いや柔らかい肌の感触にかなりドキドキしたが、眠気によって紛らわされた。そのあと、俺は親の部屋に行き布団に入った。いろいろなことがあったせいかすぐに眠れた。

いつになったら、俺のノートは帰ってくるのだろうか。もうすぐ期末試験なのに・・・。


***


 朝起きて目が覚めて時計を確認するとちょうど朝の六時、いつも学校があるときに起きる時間だ。習慣とは怖いものである。せっかくの休みなので二度寝でもしようかと思ったが、客人がいることを思い出した。


なので、一応この家の者として客人はもてなすというよくわからない使命感にかられた俺は、布団から出て階段を下り朝食を作るためキッチンへと向かった。


さすがに、俺以外起きておらず一階は、鳥の鳴き声が聞こえるぐらい静かだった。朝食を三人分作り終えてちょうど時刻は七時、出来上がったのをリビングに持っていきテーブルの上に置いた。


朝の一仕事を終え、ソファーに座りテレビをつけて朝のニュースを見ていると上からダンダンと階段を下りる音がした。音が鳴りやむと五秒後にリビングのドアが開かれた。


「おはよう。昨日は何時に寝たんだ?」


朝の挨拶&少し嫌味も込めて聞いてみると


「夜中の一時だ。ほんとお前らは見てて飽きないわ」


そう言って目をこすりながら俺の隣に座った啓介は、テーブルの上に置いてあった朝食に反応した。


「おー、今日の朝ごはんはサラダにトーストにウインナーと目玉焼きですかー」


そうグルメリポーター風に言った後、いただきますと元気よく言って食べは始めた。

十五分ほどで食べ終えた啓介はいつも通り可もなく不可もなくだなと言い残し食器を片づけにキッチンへと向かった。


それにしても普通という感想をもらうと、作った方としてもがっかりするべきなのか、普通でよかったと喜ぶべきなのかいまいちよくわからないものである。


戻ってきた啓介と一緒にスマホのオンラインゲームで遊んだあと、テレビゲームをした。


時刻は九時半、俺は疑問に思っていたことを口にする。


「小林、起きてこないな」


隣でテレビを見ている啓介も同意見のようで


「そうだな。涼太、起こして来いよ。飯が冷めちまう」


俺は、もうとっくに冷めてるよと言い残しリビングを出た。


これは、家の者としての義務であって決していかがわしいものではない啓介に反発すると何言われるかわかったものではないからなと自分に言い聞かせながら二階の姉の部屋へ行った。


やっぱりさっきの嘘です。いかがわしい気持ちありました。だって、小林の寝顔とか超見たいもん。


そんな、素直な気持ちを隠しながら部屋のドアを開けるとまだベットで寝ている小林の姿があった。髪やタオルケットは乱れておらず、俺が寝かせたときの状態のまま小林は寝てる。


礼儀や人当り、さらには寝相までよいとは、さすがお嬢様と言ったところか。


ベットに近づいて小林に朝だぞと言いながら肩を揺すった。


「ん・・・もう朝なの?」


寝ぼけているのか口調がいつもと違う。なんというか・・・ものすごくかわいいです。


「ああ、朝飯できてるぞ」


俺は、赤くなっているであろう頬を隠すようにそっぽを向いた。先に行ってるぞと言って俺は、部屋を出た。


リビングに戻ると啓介が俺のスマホを持っていた。


「電話が来てたぞ」


お前に電話が来るなんて珍しいなとか余計なことを言いながら渡してきた。俺は、電話の履歴の一番上の名前を見て驚いた。この人が電話してくるということは――


「誰からだったんだ?」


驚いた様子が気になった啓介が聞いてきた。俺は動揺しながら


「あ・・・姉貴だ。たぶん、帰ってくる・・・三か月ぶりに」


うちの姉は電話とメールを目的を分けて使っている。電話はさっきの通り、帰るよーというメッセージでメールは俺に送る場合、必要なものもしくは忘れものをとある人の家に送らなければならない。


親に送るときは近況報告とかに使うとか言っていた。


「茉子さんか~会うの久しぶりだな。俺たちの入学式以来か」


わくわくしながそう話す啓介が少し意外で


「うちの姉に会ってなんか面白いことでもあるのか?」


気になって聞いてみたが答えは単純だった。


「だってあの人の昔話や愚痴を聞くの楽しいじゃん」


ものすごいいい笑顔で言われてしまった。その笑顔には性格の悪さがにじみ出てるように感じた。昨日の小林といい、今の啓介といい俺が関わったことで何か性格の変化を生じてしまったのならかなり申し訳ないと思っている。


かなり自意識過剰な奴だと思われても仕方がないが、意外と本当のことだ。あの事件さえなければ啓介は、もっと友達もできてもっと自由に生きられたのではないのか。


あいつさえいなければ――あいつが俺の親友でなければ何もかもうまくいっていたはずなのに俺との関係も忘れてほかのもっと性格の良くて何もかもうまくいっている、そんな人間と仲良くなっていれば、後ろを振り向くこともなく後悔も絶望もしないそんな素晴らしい未来が待っていたのではないのか。


俺は、こいつの先に進むための妨げになっているのではないのか。だとしたら俺は、今からでもこいつと――


「卑屈になってるぞ」


そう言われて現実に帰ってきた気がした。啓介を見ると申し訳なさそうな顔をしていた。


「ああ、ちょっとな・・・」


俺は、この先のことが言えなかった。なぜなら、たぶん啓介は今俺の思ったこと話せば、すべてしっかりと聞いてくれるであろう。そして、そのすべてにお前の責任ではないよと優しくフォローしてくれるから・・・


俺が言うか言わないか悩んでいるとはあと啓介がため息をついた。



「どうせ、俺にお前がいなければ、俺は幸せだったんじゃないか。ならいっそのこと今から縁を切ってしまおうかとでも考えていたんだろ?」


ほぼあたっていたことに俺は驚きを隠せなかった。そんな顔を見ながらあのなあと言いながら


「それくらいは、わかる」


そう言った啓介は、少し誇らしげだった。俺は、素直にうれしかった。普通の奴なら「大丈夫だよ」とか「気にしなくていいよ」とかあまり確実性のないこと言ってくる。


でも、啓介は違った。たった一言、その一言だけで俺を納得させるほどの時間や信頼がそこにはあった。フォローなんて生ぬるい。その言葉は、明らかに本心だと、そう感じられた。


少し心が軽くなったことにより冷静さを取り戻してきた俺におはようと声をかける一人の少女の姿があった。もちろんこの家に今いる女子は小林だけだ。


「いつからそこに・・・」


やばい、さっきの会話聞かれたのか。啓介もなんかおろおろしてるし、まずい!


「今さっきよ、なんか二人の話声が聞こえたけど何の話していたのかしら?」


よかった~聞かれてはなさそうだ。俺と啓介は、お互いに目を合わせうなずいた後


「いや、姉貴が帰ってくるって話したら啓介が喜んじゃって」


「ああ、茉子さんとは仲がいいしな。ついはしゃいじまったよ」


小林は、あごに手を当てて少し考えた後、何か納得して俺たちの方を向いた。


「あなたたちが何か隠しているのはわかったわ。でも、お姉さんが帰ってくるのは本当のようね」


あっれ、半分以上ばれてませんか?絶対こいつ聞いてただろ。そう思い小林を睨みつけたが、朝食でも食べようかしらと言いながらソファーに向かった。


啓介は、小林が来たとたん俺、涼太の部屋戻ってるわと言い残し行ってしまった。


あいつ、ばれてると思って恥ずかしくなって逃げやがった。なんだよ、俺も逃げたかったのに置いてきやがって、こういう時の感情もわかってほしいものだな・・・。


小林が、朝食を食べ終えて食器を片づけた後、お互いに夜中に話し合った時の位置に座った。特に話すこともなくだからと言って突然席を立つのも不自然なのでスマホのゲームをしながら暇をつぶしていた。


小林はと言うと何か考え事でもしているかのようだった。暇だし聞いてみるか


「何、考えてんの?」


不意に俺が声を発したものだから小林はふえと間抜けな反応をした後、えっとねと言いながら


「今回のことについて考えていたのよ。あと、あなたのお姉さんのこと。どこかで聞いた名前なのよ」


前者については、今のところ現状では答えは出ないということに行きついた。それは、小林もわかっていることだと思う。そうすると、一番気になっている部分は後者だと考えられる。でも、うちの姉なんか目立つことしてたのか。

俺と同じ高校ってことは知っているが、あとのことは特に知らないからな~。いつも家にいなかったし。小林はうーんと悩んだあとはあとため息をついて


「だめだわ。全然思い出せない」


珍しく悔しがってるな。ここはフォローしなくては


「まあ、会えば思い出すだろ」


「そうね」


そういってお互い黙り込む。またさっきの静けさに戻った。時計を見ると時刻はちょうど十一時だった。姉から電話が来たのが十時半くらいで、いつも電話するときは最寄り駅に着いた時だからバスで帰ってくるとするともうすぐ帰ってくる時間だろうか。家の鍵でも開けておいてやろう。どうせ鍵持ってないだろし。


家の鍵を開けてリビングに戻って十分ぐらいした後、ガチャと音がして、ただいまーと間の抜けた声が聞こえた。あっ帰ってきた。


俺がリビングのドアを開けると目の前に姉がいた。身長は、俺と同じくらいで顔立ちは俺よりもずっと整っている。とても姉弟とは思えない。服装は、かなり動きやすさを重視した感じだった。


「おかえり、あと久しぶり」


姉は、俺にただいまと言いながらリビングに入ると異様な光景を見たような顔をしていた。正直この後の展開は予想できる。 


「涼太が・・・啓介くんでも真由ちゃんでもない。しかも、超美少女の女の子を家に連れ込んでる!」


やっぱりそうきたか。そういえばこの人、俺と小林が一年間付き合っていたことを知らなかったんだ。そういえば、その時、大学受験とかで俺と話す暇もないくらい忙しそうだったし。

「なになに~。お姉ちゃんが知らない間に彼女でも作ってたの~?」


俺は、さらに質問してくる姉に今紹介するから待ってろと言い、小林を姉の目の前に立たせた。


「紹介する。同級生の小林りさだ。今、俺のクラスで問題が起きたので手伝ってもらってる」


姉は、納得いったような顔をした。と、思ったのは束の間でまたいつもの声音で小林を指さしながら


「涼太は満足そうだけど、そっちの彼女は不満そうだよ」


小林の方を向くと――なんか怒ってました。さっきの紹介がいけなかったのかな?あいついつも顔固いから怒ってるように見えるだけだな。うん、そういうことにしよう。


俺の中でひと段落つけて全員分の飲み物を取りに行こうとドアノブに手を掛けたとき小林がくちを開いた。


「さっきの紹介には、誤りがあるわよね。りょ・・・う・・・た・・くん?」


「はっハイ!謝りだらけですんませんした!」


ドアノブにかけていた手を一瞬にして離し、そのまま流れるように正座をし、手を膝の前に出して頭を下げた。ちょうど土下座の体制だ。


あーまずい、どうしよう。正直何が癪に障ったのか一ミリもわからん。元カノって言うのもむこうに悪いし俺の好きな人ですっていうのも公開告白になって死にたくなるしどうすれば・・・。


誰か助けを!と思い頭を少し上げて啓介を見る。なんとスマホゲームに夢中だ~。あいつに助けを求める俺が馬鹿だった。姉はと言うと腹抱えて笑ってます。俺が、もうだめだとがっくりしていると今現在この状況を作り出した張本人からいかにも冷たく恐ろしい声音で


「誤りだらけだったのよね?早く訂正したらどうなのよ」


おっとこれは死亡フラグと言うやつなのでは・・・。とにかく今は、何か言わないと殺される。思い出せさっきの俺の発言を、そして考えろ何がいけなかったのかを。そこから編み出せ小林を怒らせず、姉に馬鹿にされない回答を今すぐに!


俺は、珍しくいつも使っていない脳をフル回転させ現状を打破する答えを考えた・・・よし、これならいける!


そう確信して言葉にした。


「えっと、小林さんとは割と仲のいい友達です」


これでどうだと思い小林を見ると


「まあ、それくらいでいいでしょう」


良かった~。何で怒ってたのかはいまだによくわかんないけど同級生から仲のいい友達に変えて正解でした。というか、そんなに俺と友達でいたいのか別に同級生でも差支えないだろ。


どうせすぐ関わらなくなるんだから、昔と違って。


俺の答えを聞いて満足したのか小林は、あの、もしかしてと言いながら姉に近づいた。


「うちの高校の生徒会長やってました?」


はあ?何うちのこんな碌でもない意味不明な行動ばかりする奴が元会長なわけ・・・


「お~よくわかったね。やってたよ。会長」

えっちょっと待てということは――


「大学受験で忙しくしてるって言ったのは・・・」


「あーそれ嘘。ちょっと学校でいざこざがあってね」


陽気に話す姉だが、俺にとっては驚きものである。


確かに、そんな様子は確かにあった。よく文化祭の資料や体育祭の資料持ってたし夏休みなのに制服着て出かけてたし。まさか、生徒会に入っていてしかも会長だったとは。


驚いて声も出ない俺をそっちのけで小林は興味津々な様子で


「そのいざこざって例の自殺未遂事件のことですか?」


その瞬間、姉からいつもの笑顔が消えた。


「その話、知ってたんだ・・・」


そう言った姉は、どこか遠い目をしていてまるで過去の自分を見つめているかのようだった。


その様子を見て、さすがに小林も姉の雰囲気を察したのか


「すいません。聞いてはいけない話だったようですね」


すると、姉は申し訳なさそうにする小林の姿を見て、またいつもの笑顔を作りながら   


「いいの、気にしないで。少し昔のことを思いだしただけだから」


小林は、ほっとした様子を見せた。それのおかげかは知らないが場の空気が少し軽くなった気がした。


この自殺未遂事件とは、あくまで聞いたことしかないがざっくりいうと昔、一人の生徒がいじめにあっていてあるとき自殺しようとした。しかし、生徒会会長、副会長の手によって自殺は未遂で終わり、いじめをしていた犯人もあえなく退学。


その成果がたたえられたのかは知らないがその時代の生徒会はかなり権力があったという。


例えば、その力を使って新たに部活を作り、部員がいなくともその部を永遠に置いておくことをしたとかしてないとか。そんな話を思い出しているとふと引っかかりを覚えた。


「なあ、姉貴」


「なあに?」


俺は、そこで意を決して聞くことにした。


「もしかして、姉貴が作った部活っていうのは・・・」


そういったとき姉はクスリと笑いながら


「生徒問題解決部、通称生解部。今、涼太も入ってるんじゃないの?」


「なんで、わかるんだ」


姉は、によによしながらそれはね~と言った後、すっと笑顔が消えまるですべてを見通したような声音で


「何となくだよ」


俺は、初めて自分の姉を怖いと思った。この後の起きること全部がこの人によって操られているかのような。そんな恐怖を覚えながらもう一つ質問をした。


「姉貴が会長なら副会長ってまさか・・・」


こんな姉を支えられる人間はこの世で一人しかいない


「信司君だよ」

俺は、やっぱりかと言ったが、小林と啓介を見るとまだわかってないようなので


「吉河の兄貴だ」


そう言うと、二人とも理解できたのか、あーと声を漏らした。


***



吉河信司――年齢は、姉と同い年で姉の彼氏である。性格は、一般的で表が優しくて裏が怖いというものである。ただ、この人の場合、裏が怖すぎて中学までは友達が一人もいなかったとか。


高校に入って一か月ぐらいした頃、この人――信司さんは、姉と出会った。その経緯としては同じクラスの信司さんがずっと一人ぼっちでかわいそうと思った姉が話しかけたことによるものだったらしい。


そこから二人は、よく話すようになり時々二人で遊ぶような仲になったそうな。姉は、暇さえあれば俺に信司さんのいいところ話したり、信司さんと電話していた。こんな二人が付き合わないわけはなく・・・ちょうど高校二年の五月ごろ、付き合い始めた。


時々、喧嘩もしていたようだが別れる素振りは全くなかった。姉の当時の同級生たちからおしどり夫婦とまで呼ばれていたらしい。信司さんの友達がいないという問題も姉のおかげ?で解消し、今では同窓会に呼ばれるほど良好な関係を築き上げることに成功したらしい。


とまあ全部姉から聞いた話なんだが、よく二人と関わっている俺からすると十中八九間違ってないのだと思う。


この話を啓介と小林にした後、姉にこれであってるよなと確認すると「あってるけど、はずかしいな~」と言って照れていた。啓介はほーと何に納得したんだかわからないがそんな表情をし、小林はいい話ねと言って目をうるうるさせていた。えっ今の話の中で感動できるところあった?俺にはよくあるラブコメのどんでん返しがない版みたいな話だなと思ったんですけど。

そんな感じで姉の彼氏の話が終わって、俺は飲み物を出し忘れていたのを思い出しリビングを出た。


四人分のコップとお茶の入った水差しをトレイに乗せ俺はそれを運んでリビングに戻ってきた。するとテーブルを囲むようにして三人が何か話していた。


「何話してるんだ?」


そう聞きながら俺は、コップにお茶を入れて配っていった。


「今回の事件についてだ」


平然と答える啓介に俺は一瞬流されかけたが少し低い声音で


「いや、何勝手に話してんだよ」


そう言ってみたのだが、啓介には全く通じず、いつもの何か企んでる顔になって


「だって、面白そうじゃん」


ほらまた言い出した。まったくこの子は!口癖になってきてるんじゃないよな?その場合すぐに修正してやろ。それはともかく、確かにほかの人の意見は必要だししかも俺の姉だ。何かしらヒントをくれるのではないかと思っているのも否定できない。なので、俺は、はーとため息をついて


「どこまで話したんだ?」


微妙に納得できないが話を続けさせた。


姉に、今回のことについてまず何が起こったかを話し、吉河も関わっていることや俺の推測を話した。すると姉はうーんと悩んだ後、少し真面目な表情になって


「確かに涼太の推測は、的を得ている気がする」

 俺は、少し安心した。しかし、姉はでもと言って話を続けた。


「まだなんか見落としてるような感じもする」


あくまで推測だけどねと言って姉は、スマホをポケットから取り出しメールをし始めた。相手はたぶん信司さんだろう。


俺たちに降りかかってきた事件は、この後三人でずっと考えても答えは出ず、犯人もわからなければ動機もわからない。唯一わかっているのは、同じ中学だった奴というだけだった。


たった一冊のノートのためだけにこんなに考えさせられるのはバカバカしいと思ったが、それほどいろいろなことが混ざり合っているわけで解決するころにはどんな結末が待っているのか少し楽しみにもなってきた。


俺は、また明日と言って啓介と小林を見送るついでに俺はとある人のアパートに向かった。そこに着いてあの人の住んでいる部屋のドアをノックするとはーいとけだるげそうな声とともに出てきた。


「久しぶり、信司さん。突然で申し訳ないんだけど元親友が俺に喧嘩売ってきたからあと三日で解決できるいい方法おしえてくれない?」


信司さんは、突然変なことを言い出した俺を不思議そうに見てから何かを理解したかのような表情をしてから、まあ上がれよと言って部屋に入れてくれた。俺は、お邪魔しますと言って部屋に入りあたりを見回す。


「相変わらず何にもないな・・・」


ほんとにこの部屋人が生活してるの?と思うほど片付いている。部屋の奥に進んでリビングには、テレビとテーブルのみで右に進むと寝室にはベットと勉強机、入口付近にあるキッチンはよく姉が使うからなのか生活感のあふれたものだった。


とても二人では住むには狭すぎるのではないか?と信司さんに聞くとそれはもう少ししたらねと言ってはぐらかされてしまった。

 信司さんに言われてテーブルの近くで座って待っているとコップを二つ持ってきた。その一つを俺に渡した。中を見るとコーヒーだった。もう一つのコップをテーブルに置いた後、そういえば美味い煎餅買ったんだよとか言って寝室からせんべいを一袋持ってきてパーティの時みたいな開け方をして俺にまあ、つまめよと言って渡してきた。


俺は、なんで煎餅にコーヒーなんだよと思ったが気にせず煎餅を食べコーヒーを飲んだ。あれ、意外とあってる。煎餅はいわゆるザラメ煎餅でかなり甘かった。その甘ったるさをかき消すようにコーヒーの苦みがきている。うま!と声を漏らした俺にドヤ顔しながらだろーと言ってきた。


そのあと、お互いにひとしきり食べた後、信司さんのさてという言葉で場の空気が変わった。


「さっきの話詳しく聞かせてもらおうか」


俺は、今回の事件について姉に話したように事件の内容と俺の推理を話した。


「なるほど、確かに的を得ているようで得ていない感じだな」


やっぱりこの人も同じ意見だった。そして信司さんは、それでと話を続けた。


「確か、お前の元親友っていうのは・・・あいつのことか」


俺は、その質問に答えたくなかった。俺はあいつを親友だと思っていた。実際、仲は良かったし、よく遊んでいた。


でもそれは、ある目的があってやっていたことだと気が付くと納得がいった。あの男は、中学時代の俺と仲良くなりたかったんじゃない。その時の俺と一緒に遊びに来た女子と仲良くなりたかったのだ。


あの男は結局俺の――中学時代の俺の地位と名前を利用していただけの奴だった。そして、啓介の自由を奪った人間であり、俺の本性を見破り俺をどん底にまで突き落とした奴である。

 その男とは――柳樂 敦。現在俺と同じ高校の同じクラスメイトである。


「ああ、そいつだよ」


「なら、なんでそいつが犯人だと分かったんだ?」


その理由は――


「俺が、クラスで孤立しているからだ」


そう言うと信司さんは頭に?が付きそうな顔をしていた。そのあと、わからん説明してくれと言ってコーヒーを飲んだ。俺も同じように飲んだ後、ではと言い話し始めた。


「まず、うちのクラスに同じ中学の奴はあいつしかいない。そして俺は、あのクラスの奴らと話したことが一度もない。なのに、ノートが盗まれた。しかも、俺の不得意な英語のノートをだ。そう考えると答えはおのずとでる」


言い終えた後、信司さんは少し納得のいってないような顔をした。


「英語のノートは偶然なんじゃないの?」


その質問は、来ると思っていた。なので、あらかじめ考えていた答えを言う。

「それは、ない。だって、あんたの妹が『放課後ノートを配っていたときに気付いた』って言っていたんだから」


あーといて納得してくれた。だが、信司さんはでもと言って食い下がってくる。


「そういうことと仮定すると汐莉が嘘をついていることになるぞ」


「そうなるな」


すると、少しムスッとした顔になった。あ~怒ってるな~。ということは、まだ理解していないようだ。


「別に俺は吉河が悪意のある嘘をついたとは思ってないですよ」


そういうと、納得して怒った顔からいつもの優しい顔になった。そして、俺の言いたいことをすべて理解してもまだ少し納得がいっていないようで


「でも、そうすると・・・」


ここまでたどり着いた人にしっかり説明しなくてもいいだろう。


「そう、まだ一つだけ足りない。だけど、そう難しくはない。違いますか?」


信司さんは、そこは別にいいんだと言った後、そうじゃなくてと言って話を続けた。


「それは、仮設であってもしそうでない可能性も――」


「もしはないです。これは、あいつを理解した俺だから出せる答えです」


信司さんの言葉をさえぎって話してしまったが本人はあまり気にすることなく、次の話しへと進めた。


「そこは、分かった。なら、どうしてここまでわかったのに俺のところへ来たんだ?」


それはと言った後、俺の頭の中には二つ答えが出たが、俺は――


「この後、どうやってあぶりだすか。そして、今後関わらないようにさせるにはどうしたらいいのか。それを聞くのが、今回ここに来た本当の理由です」


ここで二つ話すのも無駄だと判断した。


本当の理由は違う。本当はただ――


「なるほどね。なんか少し試されてた気分だけど、俺好みだ。いい方法を教えてやる。ズバリ言えば『脅迫』だ」

 楽しそうにそういった信司さんまるで悪知恵を働かせる子供のようだった。『脅迫』という言葉を聞いて何となくはどうすればいいかわかったが、具体的なところは何もわからなかったので


「で、どうすればいいんですか?」


そう聞くと信司さんは、まずと言って俺を指さした。


「お前の元親友は――柳樂は何をされると動揺する?」


俺は、その質問に時間をかけることなく答える。


「自分の描いたシナリオに予想外のことが起きたとき・・・ですかね」


確かにあいつは、予想外のことに対して弱い。つまり、柔軟性がないということだが・・・


「でも、今回それに関しては、武器にはなりえないかと・・・。だってあいつのシナリオの中には、俺が答えを導き出すことも入ってる。だからこそ正面突破で行くしかないのでは?」


そういうと甘い甘いと言って馬鹿にされた。なんかむかつくが続きが気になるので黙っていた。


「お前は、昔から筋道を順番通りに立てすぎだ。今回重要なのは、答えから逆算することだ」


「なるほど・・・そういうことか」


ほとんど理解できた。それをやればあいつは動揺するだろう。ただ・・・


「俺の持っているカードの中でそれができるものはあるんですか?」


信司さんは、自信たっぷりに

「もちろんある。一人だけいるだろう。お前の過去や柳樂との関係をまったく知らない。しかも、確実に頼んだら実行してくれそうな人が」

「あーあの人か」


***


 俺は、信司さんからまた知恵を貰い、家に帰った。家のドアを開けると玄関で姉が仁王立ちで待ち構えていた。


「遅い!何やってたの?」


この怒り方、お袋に似てきたな。一応心配してくれていたのか。すると、姉はにやりと笑い。


「どうせ信司のとこでしょ~。今回の事件の手伝いしてもらったとかじゃないの?」


あれ、めっちゃバレてません?この人には、隠し事は通じないというのか・・・。


俺は、観念してお手上げのポーズをとった。


「その通りです。まったくなんでわかったんだよ。携帯も置いていったのに」


姉は、すごいでしょ~と言った後、俺に自分の携帯のメール画面を開いて見せてきた。


「信司から送られてきたんだ~」


画面を見ると送り主は信司さん、本文は『お前の弟、今から帰る』だった。まるで業務連絡のようだがこれのおかげで俺の行動は丸わかりだ。こうなるとまずいな・・・姉に俺の本心がばれる可能性がある。あの人に金握らせて黙ってもらえばよかった。


そう思いながら俺は深いため息をついて自分の部屋に踊ろうとしたが、やはり姉にまだ話があると言われてリビングに連行された。


リビングのソファー近くの床に正座させられ、姉はソファーに座ってテレビを見ている。


「で、どうなのよ?」


姉は、にやにやしながらこっちを向いて聞いてくる。あっこれ何言っても無理だ。姉には勝てん。俺は、大きく息を吸ってはあ~とため息をついた後、


「話せばいいんだろ。わかったよ」


俺は、姉に信司さんと話したことをすべて伝えた。今回のことについては、もう喋ったのでその解決方法やなぜ俺が一人で行ったのかを包み隠さず話した。


「ふーん、そういうことね。まあ信司が考えそうなことだけど今回はそれが最善策かな」


姉は、でもと言って話を続けた。


「涼太の本心は違うんじゃないの?」


やっぱりバレてる。言わなきゃダメか・・・。


「あいつらには迷惑かけられないからな」


その時、姉が突然立ち上がり俺の方まで寄って来てしゃがみこみ、俺の瞳の中を覗き込むかのように迫ってきた。姉は、何かを探るような・・・とても真剣な表情をしていた。


「それは、違うんじゃないの?」


その声音にはいつもの軽い感じはなく、かなり重たいものだった。そのせいか俺は、答えに詰まった。


「えっと、俺は・・・」

 この人は俺の知らないことを知っているようだった。でも、その答えを聞くにはあまりにも空気が重たすぎて、どう言葉を紡いだらいいかわからなかった。


そして、お互いに見つめあったまま沈黙が訪れた。時間にして一分程度、それでも俺にはもっと長い時間がたったものと思わせた。


「まだ、早かったかな」


この一言で沈黙の空間は破られ、俺はなぜだかわからないが少しほっとした。そのあとは、お互いに何も話すことなく夕方になった。


夕飯を食べ、風呂に入り歯を磨き、明日使う授業のノートなどを鞄に入れた後、信司さんに言われた通りのものも入れ、俺はベットの上に横たわった。


時間はちょうど夜の十時、寝るにはまだ早かったので頭の中で整理をすることにした。小林のこととか、姉の言っていたこと、信司さんのアドバイスなどを考えているうちに一つ疑問に思ったことがあった。


「どうして、敦は今俺に接触してきたんだ・・・?」


思わず声に出てしまったが、考えても答えが出ないので、本人に聞くことにしよう。


なぜなら、三日後にはすべてが解決し、過去を過去として見ることができるのだから・・・

 

***

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