四話
「私、母が亡くなったのに嬉しいんです。」
その女性の見た目は40から50といったところか。少しふくよかな感じで頼りになりそうな第一印象であった。
母がなくなったのに嬉しい、か。確かに一般的ではないのかもしれない。そしてそこに少し甘い匂いを感じている私がいた。
「私はね母の介護をするのが苦しかったんです。母はもう二年寝たきりで、ボケてしまって、自分の娘もわからなくなってしまって、私なんでこんなこと毎日やってるんだろってずっと思ってました。
でもそれが今日やっと終わりました」
私はどこか常識的な理由に少し失望を覚えた。さっきの甘い香りはもうなくなっていた。
「でも周りには喜んだとこ見せれないから、必死に落ち込んでるふりして凄い苦しかったんです。
母が嫌いだったわけじゃないです、むしろ良いお母さんでした。元気な頃は、ですけど。
特に亡くなった今だからはっきり、産んでくれて、育ててくれてありがとうて心の底からいえるきがします。」
「こんな私はおかしいですかね?」
彼女は尋ねてきた、彼女はどっちを求めているのだろう。わかるよって共感して欲しいのか、あなたは異常だよ、って罰せらたいのか。それとも意味もなく尋ねただけなのか。迷ったけど私は思ったことを素直に口に出した。
「毎日そんな介護とかしてたらそりゃ親でも嫌いになりますよ、だから二年も頑張ったあなたは凄い偉くて、その台詞を吐く資格があると私は思いますよ。」
親でも嫌い?親だったら好きで当然?自分の吐いた言葉に、自分が何かに縛られている感じがして鳥肌がたった。
「ありがとう、なんか救われた気がする」
彼女は私の様子に少し怪訝な顔をしながらも凄い嬉しそうな顔をして去っていった。
私は鳥肌がたった自分を必死に抱きしめ真っ白な椅子の上にちょこんと座った。縛られてるって何だろう、自由って何だろう、自由、じゆう、ジユウ。
真っ白な空間に私はどこか優しく包みこまれているきがした。