三話
その男の子は黒いランドセルを背負っていた。この真っ白な部屋に黒のランドセルはどこか異質で少し浮き上がってるように見えた。
私は小学生に来て欲しくはないなと思いつつも彼が話始めるのを待った。
「僕ね、友達のカードとっちゃった。めっちゃ強いやつ。」
彼はぼそっとつぶやいた。私はそういえば小学生の時はそういう事件がよくあったなと思った。目を閉じて伏せて、誰にも言わないので手を挙げてください。担任の先生がよくやってたっけ。子供だってばかじゃないからこっそり見てるに決まってるのに。あの無能な担任の先生の顔がぼんやりと思い出され少しイライラした。
「僕もそのカード当たったからつかってるだけだよって言った、証拠もないのに人を泥棒扱いするなんて最低ってその友達を悪者にしちゃった。」
小学生の世界って時に大人の世界の何倍も残酷だな、と感じた。そういえば私もそろそろ友達の綺麗なボールペンが無償に欲しくなって、盗んじゃったことあったっけ。忘れられていた、罪が1つ掘り起こされる。あのボールペンはどうなったんだろう、欲しいからとったはずなのに、そのあとの記憶はどこにもない。
「僕はどうしたらいいの?」
彼は困ったように尋ねた。あの無能な担任ならこういうんだろう、自分のしたことをしっかり説明した、心の底から謝ればまた仲良くなれるよ。
そうなる可能性はゼロではないのかもしれないけど、本当の泥棒が泥棒ってバレたら生きていけなくなるしその責任はアドバイスした人はとってくれない。
だから私はこう言った。
「さぁ、正解なんてないんじゃない?」
私の突き放した言い方に、彼は一瞬喉を詰まらせ、泣き出した。私に罪悪感はわかない。ただ、うるさいなとイライラした。
その黒いランドセルは相変わらずひどく浮いていた。彼は泣き疲れたのか寝てしまった。寝ているランドセルの隣で砂時計が落ちきった。
彼がいなくなった後で私は少しだけ正解について考えてみたが、結局わからずに、掘り起こされたものを自分の中に埋め戻した。