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“乙女ゲームの世界に転生した俺は、知らぬ間にシナリオを変えていました。”関連

乙女ゲームの世界に転生した俺は、知らぬ間にシナリオを変えていました。(レイリーナside)

作者: りんぐ

 


 レイリーナ・ジクマリン。


 それが私の名前です。私は【ゼクスィート王国】の大貴族、ジクマリン公爵家の長女として、この世に生を受けました。


 誕生時の記憶は当たり前ですが、全くありません。しかし、当時を知る古参の使用人に聞けば、私が誕生した時は両親共に、それはもう大層な喜びようだったそうです。なんでも、お母様は、中々お子を授かることができなかったそうで、私が誕生したのがお父様と結婚してから七年が経過してから、というのですから当たり前かもしれませんね。


 ですが、このことが私に悪い影響を与えました。私の両親を始め、使用人も含めて、私はそれはもう甘やかされて育ってしまったのです。何か欲しいといえば直ぐ様与えられ、気に入らないことがあれば直ぐさま解決されたり……。


 そして、出来上がってしまったのが高慢ちきな我が儘令嬢……。当時のことは私の黒歴史です。思い出すだけで顔から火が吹き出すほどに恥ずかしいほどの……。だって、世界は私を中心に回っていると本気で考えていたのですから……。


 そうした私に転機が訪れたのは私が八歳になった年のことでした。


 八歳になった私は、お父様に連れられて王城に向かいました。そこで出会ったのです。今までの私を大きく変えるお方に……。


 王城へと向かった私とお父様は、到着するや否や、とある一室へと向かいました。そこで待っていらしたのが【ゼクスィート王国】の国家元首であらせられるアレックス・ゼクスィート陛下と、そのお子、第二王子アルフレッド・ゼクスィート様のお二人です。


「よく来てくれた、ジクマリン公爵」


「……王命ですので。それで婚約はそちらの第二王子殿下というわけですか?」


「うむ。上から順に決めていくのが慣例なのでな。第三王子のアレクセイより先にこの子、というわけだ」


 この時のお父様は苦虫を噛み潰したような顔をしていたと記憶しています。第二王子殿下はその……五歳を過ぎたあたりから、王族らしからぬ言動と行動を取っていらしたようですので、お父様は私を第二王子殿下の婚約者にするのに不満や抵抗があったのだと思います。なんでも、二つ下の弟が物覚えが良く、比べられて育った結果、今の人格が形成されてしまったとか。


 しかし、当時の私も第二王子殿下とベクトルは違えど、愚かではありましたので、ある意味お似合いと言えたのかもしれませんね……。うぅ黒歴史を消したいです……。


「……分かりました。レイリーナ。挨拶をしなさい」


「はい。お父様。私はレイリーナ・ジクマリンと申します。以後、お見知り置きくださいませ」


 私は自分で言うのも難ではありますが、とても優秀でした。考え方は愚かではありましたけれど……。ですので、このような場では猫を被って、完璧な令嬢を演じることができていたと思います。


「綺麗なカーテシーだ。ジクマリン公爵は優秀な娘を持ったようだな。羨ましい限りだ。では、アルフレッド。お前も挨拶をしなさい」


「……アルフレッド・ゼクスィートだ」


「これから二人は婚約者か同士ということになる。仲を深めてきなさい。場所は……庭園がいいだろう。アルフレッド。レイリーナ嬢をしっかりと案内してあげなさい」


 国王陛下が第二王子殿下——アルフレッド様にそう言うと、彼は渋々といった様子で私の案内を始めました。



 ♦︎♦︎♦︎



「ここが庭園だ」


 アルフレッド様に連れられて着いた庭園はとても綺麗な場所でした。私が住む公爵家の庭園も素晴らしいものだとは思いますが、やはり王城の庭園ともなれば比べるまでもありません。それほどまでに洗練された素晴らしい庭園でした。当時の感動は今でもよく覚えています。


 そして、ここで出会ったのです。私を大きく変えてくださったあの方に……。


「兄上?」


 突然、そんな声をかけられた私が声がした方を向くと一人の少年がいました。


 その少年は第三王子殿下アレクセイ・ゼクスィート様でした。


「アレクセイか。何をしているんだ?」


「ただの散策です。兄上は……あぁ、そちらのご令嬢が兄上の婚約者殿ですか」


「初めまして。私はレイリーナ・ジクマリンよ。あなたが第三王子殿下ね。私をエスコートすることを許可するわ」


 時間が遡れるなら当時の私をひっぱたいてあげたいと思うくらい愚かでした……。ええ。もう愚かすぎて絶句してしまいます。当時の私は、大人の前では完璧に猫をかぶりますが、子供相手だと相手が偉くてもそんなに変わらないだろうとの思いがあったのです。つまりは、この上から目線の傲慢な態度が私の素だった、というわけですね。


「初めまして、レイリーナ嬢。私はアレクセイ・ゼクスィートです。よろしくどうぞ」


「?!」


「? どうされました?」


「な、なんでもないわ!」


 しかし、そんな態度の私に、アレクセイ様は人好きのする笑みを浮かべながら答えてくださいました。今思えば、これが初恋だったのかもしれません。今まで、私のあの態度で接した子息子女は嫌そうな顔を浮かべながら渋々と挨拶を返しているというのが丸わかりでしたから。そんな中にあって、アレクセイ様は言わば異質な存在だったわけです。そんな方に興味を持つのは単純な幼児の思考では当たり前だったのかもしれませんね。


「しかし、その言葉遣いはいただけませんね。あなたにはもっと相応しい言葉遣いというものがあります。それを実践すれば、あなたはより美しく、そして魅力的な女性になるでしょう。私が教えて差し上げます」


 ですが、アレクセイ様は優しく接するだけでなく、しっかりと諌めてもくださいました。


「え? は、はい……」


 そんなアレクセイ様の他の子供たちとは違う態度に。そして、今まで感じたことのない知らない感情に戸惑い、しどろもどろになってしまったのは今では良い思い出です。


 そして、この日以後、私とアルフレッド様、そしてアレクセイ様の三人で頻繁に顔を合わせるようになりました。当時のアルフレッド様は、アレクセイ様と比べられることを嫌っておいででしたが、アレクセイ様自身に対しては特段何かを思うことはなかったようですので、はたからみれば普通の中の良い兄弟に見えていたかと思います。仲が悪くなったのは、アレクセイ様が留学する少し前あたりからですが、その話は置いておくとします。


 さて、そんな風に顔を合わせた私たちですが、これ以後も度々三人で会うようになりました。その時に行われたのは遊びだけでなく、言葉遣いと考え方の勉強会も並行して行われました。無論、教師役はアレクセイ様です。


 アレクセイ様は当時から、ご自分のことを少し優秀な程度だと言っておりましたし、現にその程度の能力を周囲に示しておりましたが、実のところはもっと優秀です。いらない混乱を避けるために能力を隠していただろうことも今の私には分かります。真の能力を知っているのは私と王妃様、国王様、あとは……宰相閣下くらいでしょうか? アレクセイ様は優秀なんですけれども、偶にポロを出すことがあるのです。ご本人は気がついていないようですが。


 まぁとにかく、そうして始まった勉強会でしたが、私はアレクセイ様と同い年というのもあり、教えていただくのに大した抵抗もなかったのですけれど、二つ年上のアルフレッド様は違いました。年下の弟に教わるのが我慢できなかったようで、すぐにどうかに行ってしまうのです。


 アレクセイ様はそんなアルフレッド様を見て、仕方がないな、と妙に達観しているかのような視線をお送りになっていました。そして、そんな勉強会の後はアルフレッド様が合流して庭園や部屋で遊ぶ。


 そんな生活をアルフレッド様が学院に入学するまでの五年間続けていました。


 この五年の間に私の言葉遣いや物事の考え方は矯正され、今の私が出来上がりました。アレクセイ様には感謝しかありませんね。


 本当はこの後も引き続き、勉強会をしたいとの思いはあったのですが、婚約者がいる者が婚約者以外の男性と会うのは外聞が悪いのです。仕方なく、泣く泣く、諦めました。こうして、アレクセイ様との繋がりをなくしてしまった私は、ようやく自分の恋心を自覚いたしました。私はアレクセイ様に恋をしていたのです。


 “会わなくなって初めて気付く恋がある”と何かの本に書いてありましたが、本当にその通りですね。まぁ、当時の私にはアルフレッド様という婚約者がいましたので、どちらにせよ、その恋心は封印しなければならなかったのですが……。


 そして、恋い焦がれていたアレクセイ様には会わなくなって二年後。私も学院へと入学する年になりました。


 私は優秀なアレクセイ様に感化されて勉強の方も頑張りましたので、かなり上位の成績で入学できました。ちなみにですが、主席入学者は私の実家と同じ公爵家の者で、優秀な文官の父を持つニコラウス・バーナード様でした。私が受けた入学前のクラス分けテストは、その方に一問差で負けてしまったようです。少し悔しく思ってしまいますね。定期テストでは負けないように、しっかりと勉強することにいたしましょう。


 さて、そんな私ですが、入学する学院は【ゼクスィート魔法学院】といいます。


 王都中心部にある王城に隣接する形で作られた学院で、この国の貴族なら絶対に入学しなければなりません。この立地になった理由は、入学する王族の護衛が便利だからだそうです。


 この学院は創立から二百年世界的に見ても、歴史が古い部類に入る学院です。基本は貴族のみの学院ですが、平民の方でも成績が良ければ入学できます。平民の方が入る場合には、難しいペーパーテストで良い成績を残し、且つ、剣もしくは魔法で良い成績を残さなければなりません。しかし、一度入学してしまえば授業料は無料の上、学食も食べ放題という特典がついてくるそうなので、毎年かなりの数の平民の方々が受験されるそうです。


 本来ならアレクセイ様も入学するはずだったのですが、アレクセイ様のお母様、つまりは王妃様が隣国——【センバール皇国】への留学を勧められたそうで、そちらの学院に行くことになったとアルフレッド様経由で聞きました。この時にはアルフレッド様とアレクセイ様の関係に大きな溝がありましたので、アルフレッド様がアレクセイ様のことを嫌々話してくださったのを覚えています。


 アレクセイ様が一緒でないのが非常に残念ではありますが、それでも学院での生活は非常に楽しみです。


 そんな形で学院への想いを馳せていると、やがてアルフレッド様が迎えに来てくださいました。


「行くぞ」


「はい」


 そして、私はアルフレッド様と彼の侍従、私専属の侍女とともに公爵邸の門を出、学院へと向かいました。



 ♦︎♦︎♦︎



 学院の門をくぐると、まずその敷地の広さに私は圧倒されました。


 私が入学した【ゼクスィート魔法学院】は魔法教育の水準が世界でも屈指だそうで、世界中から学生が集まるそうです。そのため、必然的に敷地も大きくなっていき、今の形が出来上がったとか……。


「何をしている?」


「いえ、申し訳ありません」


 アルフレッド様に促されるままに再び歩を進めていきました。すると、アルフレッド様の真ん前、校舎に入る手前の位置で、令嬢と思しき女子学生が体勢を崩されました。アルフレッド様はなんだかんだ言ってもお優しい心をお持ちですので、手を伸ばしてその方を助けておりました。


「ありがとうございます! 私、少し鈍臭くて……。助けていただき、本当にありがとうございました!」


「いや……次からは気をつけることだ」


「はい! 失礼いたします!」


 今思えば、この出来事も彼女・・の計算のうちだったのかもしれません。私には知る由もありませんでしたが……。もし、この時に彼女に警戒心を持っていれば、のちの結末はまた違うものになっていたのでしょう。しかし、当時の私は、愛想の良い貴族令嬢だな、という程度にしか認識しておりませんでした。


 そうして始まった学院生活でしたが、特段語ることはありません。授業内容はなんと言いますか……いえはっきり言えばアレクセイ様との勉強会の方が有意義でした。テストでは一問差で、またニコラウス様に敗れてしまいましたけれど……。


 そんな形で日々の授業で復習をし、テストをそつなくこなしていた私ですが、ある日、変な噂を友人の一人から聞きました。なんでも、私が男爵令嬢の一人を影でいじめているとか。


 全く身に覚えのないことで、事実無根です。公爵家の令嬢である私の不名誉な嘘の噂を流すなど、処罰対象とされる案件です。いったい誰からそんな噂が流れたのでしょうか?


 そして、そんな噂とともにもう一つ気がかりな噂も耳にいたしました。それは、アルフレッド様と、彼の側近の方たちが一人の男爵令嬢にうつつを抜かしている、というものです。この噂は信憑性がある噂です。現に、私自身も何度か親密な雰囲気を醸し出している彼らの様子を目にしております。


 しかし、いくらアルフレッド様がそのような状況にあろうと、私は大して傷つくことはありませんでした。やはり、私の心はあの方の——アレクセイ様のことを思ってしまうのです……。もし、アレクセイ様が私の婚約者で、今のアルフレッド様と同じような状況にあったらと思うと嫉妬心から何かしたかもしれませんけれど。


 ですが、アルフレッド様のことを思っていなくとも、私は彼の婚約者です。貴族に生まれた以上、好きな方に嫁げないという覚悟はできております。それ故に、私はアルフレッド様の婚約者として、そして貴族令嬢たちの上に立つ者として男爵令嬢の方——ラナ様には度々注意いたしました。残念ながら、一向に治る気配はなく、“そんなこと言うなんてなんてひどい!”などとトンチンカンなことを言って、一向に聞いてくださりませんが……。


 無論、アルフレッド様にも注意いたしましたが、こちらはけんもほろろに、“俺の交友関係に口を出すな!”との一点張り。私はどうすればよかったのでしょうか? この場にアレクセイ様がいらっしゃれば、と何度思ったことか。


 そんな中で学院に通い続け、一年が経過しました。


 あっ、そうでした。最後のテストでは学年一位の座を手に入れました。悔しそうに私を見るニコラウス様の顔を見て、ついほくそ笑んでしまったのは内緒です。


 そして、今日は三年生の卒業パーティー。つまりは、アルフレッド様の卒業式です。通常なら卒業生は婚約者を連れて参加するのですが……この日アルフレッド様が我が家に来ることはありませんでした。近頃は学院でお会いしても嫌な顔をされるばかりで、良くは思われていないと理解していましたが、まさかパーティーのエスコートをすっぽかされるほど嫌われていたとは。ですが、参加しないわけにはいかないので、エスコートなしで向かうことにいたしました。


 そうして参加した卒業パーティーでしたが……予想外の事態が発生いたしました。それは、


「レイリーナ・ジクマリン公爵令嬢! 貴様が行ったラナ嬢に対する様々な嫌がらせや所業は看過できるものではない! よって貴様との婚約を破棄する! そしてラナ嬢、ラナ・ボーヴィル男爵令嬢との婚約をここに宣言する!」


「……」


 言葉が出ませんでした。今のような公式の場(・・・・)で、それを言うことの意味をしっかりと理解しているのでしょうか? ……いえ、理解していたら言わないでしょうね。


「なんとか言ったらどうなのだ!」


 あら? どうやら怒っていらっしゃるご様子。では、私の意見を述べるといたしましょう。


「では二言ほど発言させていただきます。まず、婚約破棄の件。私は特段構いません。謹んで婚約破棄の件を了承致します」


 元々、アルフレッド様には恋愛感情を持っておりませんでしたしね。それにこんなに嫌われていては結婚したとしても、それ以後の生活は互いに苦しいだけでしょう。ここは了承しておくに限ります。このような公的な場で婚約破棄が告げられた以上、私が了承すれば破棄する方向で話はまとまるでしょうし。ですが、不名誉な話だけは挽回しておかねばなりません。


「そして、次にですが……先ほど嫌がらせや許されないほどの所業と仰っていましたが、それは一体なんのことでしょう? 確かに私は貴族令嬢としてあるまじき行動を取っていたラナ様に何度か注意したことはございますが、そのことでしょうか? そのことを仰っているのでしたら、私が責められるいわれはないと存じますが?」


 ラナ様はその……貴族の令嬢にあるまじき立ち振舞いを多々しておりました。言い方は悪いですが、婚約者のいる殿方を多数侍らしたり、はしたないとされている行為、例えば走ったりなどですね。そんな行為を平然と公衆の面前でしておりました。また、お茶会やパーティーでも、淑女教育を受けた方とは思えないような振る舞いをしておりました。それらの行動を上の地位にある者が注意するのは、して然るべき行動ですので、それを攻められる謂れは全くありません。


 ですので、そうした私の一連の注意を指して仰っているのでしたら、それはお門違いというものです。


「貴様はラナ嬢を通路で転ばせたり、教科書を切り裂いたり、靴を汚したり、飲み物をかけたりしたのだろう! 挙げ句の果てには階段から突き落としたそうではないか!」


 あら、注意のことではないようですね。


 アルフレッド様の話によれば、私はとても酷いことをしたようです。程度の低い虐め内容ではありますけれど。……私が本気で虐めようと思えば、そんなものでは済みませんよ? ふふふふふふ。


 ……おっと、いけません。ブラックな私が出てきてしまいました。私はどうやら思っていた以上に苛立っていたようです。気を鎮めて猫をかぶり直すといたしましょう。


「……私はそのようなことは断じてしていないと断言いたします。何かの間違いではございませんか?」


「とぼけるな! ラナ嬢が貴様の階段から突き落とされた際に逃げ去る貴様の姿を見たと言っている! 大方、俺の気を引こうとでも思ったのだろう! 今までの嫌がらせも貴様だったのだろう!」


「階段から突き落とされた事件はいつのことですか?」


「昨日だ!」


 はい? 昨日ですか? この方はいったい何を言っているのでしょう? 本当に呆れてしまいますね。というか。今アレクセイ様が吹き出しましたね。この茶番を見て楽しんでいるのかもしれません。あの方は面白いことが好きですし。ですが、いただけませんね。ええ、いただけませんとも。今度個人的に会う機会がありましたら一言文句を言ってやりましょう。


 ですが、まずは目の前の問題を解決せねばなりません。


「そうですか。ならば、それは私ではございません」


「嘘をつくな!」


「嘘ではございません。私は昨日は王城に出向いておりましたので。確認でしたら、簡単に取れると思いますよ?」


 あっ、ラナ様の顔が青くなっていますね……。もしかして自作自演ですか? ひょっとして、学院で流れていた数々の不名誉な噂は彼女が流したのかもしれませんね。


「ぐっ。だが、嫌がらせの件はどうだ!」


「どうだと言われましても……。私はやっていないとしか言えません。殿下は何かしらの証拠があって仰っているのですか?」


「貴様の他に誰がいる!」


 子どもかッ! っていけません。おほほ。つい、ツッコンでしまうところでした。


「……証拠はないのですね。まぁ当然といえば当然ですが」


「今すぐラナ嬢に謝る「やめんか!!!」父上?!」


 あっ。国王様のアレックス・ゼクスィート陛下が登場いたしました。タイミングといい、パーティー会場に隣接された個室から、一連の騒動を見ていたようです。


「アルフレッド。お前には失望した。沙汰は追って伝える。今は別室に控えよ」


「しかし!」


「くどい! 王命が聞けぬのか!」


「わ、分かりました」


「この者たちを連れて行け!」


 アルフレッド様と、彼の側近——アーレイズ侯爵家の三男であるレクター・アーレイズ様、ボストン伯爵家の次男であるダニエル・ボストン様、ターコイズ子爵家の長男であるマシュー・ターコイズ様の三人と、ラナ様——ラナ・ボーヴィル男爵令嬢は肩を落としながら騎士に連行されていきました。


「レイリーナ嬢。この度は愚息がすまなかった。今回は席をはずした方が良いと思うが、どうする?」


「はい。私もこの状況でパーティーに参加するのは遠慮願いたく存じ上げます……」


 流石に、こんな騒ぎの当事者であった私が、落ち着いた状況でパーティーを楽しめるわけもございませんので、陛下のお言葉に甘えることにいたしました。


「うむ。では、帰りの馬車を手配しよう。……皆のもの! 此度は愚息が場を乱したことを詫びよう! これより存分に楽しんでくれ!」


 そして、私は我が家へと戻ることになりました。



 ♦︎♦︎♦︎



 婚約破棄事件から三日が経ちました。この間に私とアルフレッド様との婚約は無事? に破棄されました。お父様も元々、この婚約には反対でしたので嬉々として手続きに取り組んでおられました。その過程で、陛下が、私の婚約について意見を、つまりは新しい婚約者は誰が良いか? ということを聞いてくださりました。どうやら可能な限り最大限の便宜を図ってくださるようです。そこで私はかねてからの望みを一つ叶えていただこうと、とある方の名前を上げたのです。


 今日はその方とお会いし、新しい婚約を締結するために、場を設けていただきました。その方が、婚約を承諾していただけたら、という条件付きではありますが。


「父上。なにかご用で……しょう……か……」


 そして、現れました。私の思い人であるアレクセイ・ゼクスィート様が……。


「うむ。よく来た、アレクセイ。お前の婚約者が決まった。お前の婚約者はレイリーナ嬢だ。お前が了承すれば、だがな」


 た、単刀直入ですね、陛下……。いきなり本題とは。


「はい?! なぜですか?!」


 アレクセイ様が驚いていらっしゃいます。まあ、当たり前ですね。だって三日前まで私は、アレクセイ様のお兄様の婚約者だったのですから。アレクセイ様にとっては、まさしく寝耳に水な話でしょう。


「……殿下。我が娘では不満ですか?」


「滅相もない。今のはつい驚いてしまっただけですよ。しかし、急ですね。それにその……よろしいのですか? あんなことがあったのに、また王家に、というのは……」


「……娘が殿下との婚約を望んだのですよ。新しい婚約者は誰が良いか、と聞きましたらね。娘はどうやら、昔から殿下のことを好いていたらしいですよ?」


「?! お父様! それは言わない約束では!」


 なんでそれを言ってしまうのですか! 秘密だと言っておきましたのに!


「あっ、すまんすまん。つい、な」


 つい、ではありません!


「そういうことだ、アレクセイ。良かったじゃないか。お前もレイリーナ嬢を好いておっただろう?」


 って、えっ? アレクセイ様が私を好いている? 本当ですか?!


「?! 何故知っているのですか?!」


「お前、レイリーナ嬢がアルフレッドと婚約したと知った日、死にそうな顔していたではないか。あれで気づかん親はいない。その後に持ち込んだ縁談は、取り付く島もなく悉く蹴っておったしな」


 もし、アレクセイ様が私をその……好いてくださっているのでしたら、それに勝る喜びはありません。これは勇気を出して尋ねてみることにいたしましょう。少し怖い気持ちもありますが。


「……アレクセイ様。今のお話は本当ですか?」


 聞いてみたのですが、反応がありません。私が婚約者では、やはり不足なのでしょうか? もしかしたら、愛する人と一緒になれるかもと思ったのですけれど……。そんなことを考えていると、段々悲しくなって涙が出てきました。


「……アレクセイ様。もし……もしお嫌でしたら断っていただいて構いません。私は元よりアレクセイ様が了承していただいた場合は婚約したいとの申し出をしただけですので」


 ああ、この気持ちは成就できないのですね……。


「私は、いや俺はリーナのことが好きだ。どうか俺と結婚してほしい。どうだろうか?」


「?!」


 えっ。そうだったのですか?! は、早くお返事をしなければ!


「はい! 喜んで!」


 うぅ。嬉し涙が止まりません。


 こうして、アルフレッド様に婚約破棄された私は大好きな人の婚約者に相成ったのでございます。


 そして、この婚約から二年と半年後。私はアレクセイ様と式を上げました。その後、領地を陛下より賜ったアレクセイ様は、ダーウェン公爵家を興し、領地にて様々な急進的な政策と事業を行われました。すると、瞬く間に領地が富んでいきました。すごい手腕です。私も微力ながらお手伝いさせていただきましたので、詳細はある程度存じ上げていますが、やはりアレクセイ様は天才としか言えませんね。あんな政策や事業は普通なら思いつかないでしょうから。


 そして、領地経営が一段落した頃のことです。アレクセイ様が子供が欲しいな、とこぼしておりました。私も同様です。


「子供ができたら第二のリーナを生み出さないように、時には厳しく接していかないとな、リーナ」


「?! 忘れてください! あれは私の黒歴史ですから!」


 思い出させないでください! それは思い出すのも恥ずかしい黒歴史なんです!


「ははは。我が儘で傲慢だったあの時のリーナも、今思えば可愛らしかったけどな」


「アレク様の馬鹿ーッ!」


 もう! もう! アレクセイ様の意地悪!


 つい、叫びながら攻撃してしまった私は悪くないと思います!


 ……ですが、こんな風な関係は、どこか心地よく、嬉しく感じてしまう私がいます。黒歴史で弄られるのは不本意ですけれど!


 まぁ何はともあれ、私は今とても幸せです!



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