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煌めきの姫君  作者: 龍崎美鳥
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第二章 セレス王国の謎

第二章 セレス王国の謎



「私は宿に残れと言うのですか!?」

 朝一番に響いた声は、ササラの物だった。

「だから、レイメイも傍についてて貰うって言っただろう? とにかく、もう少し情報を集めないと、お前を連れて行くのは難しいんだよ」

「で、でも……!」

 ササラが、朝に聞かされた事は、いきなりすぎるものだった。

 今まで、ずっと一緒に行動をしてきていたのに、キーアが居残るようにと告げたからだ。

 別に、レイメイを信じていない訳ではない。だが、それ以上に、ササラには強く思う事があるのだ。

「昨日、キーアやコウは、国がどうなっているのか分からないと言っていたではありませんか。私は確かに王位継承者ですが、お父様やお母様だけでなく、城の方々も、国民の方々も守る責務があります。何故、私を除外しようとするのですか? 納得がいきません!」

 ササラは誇り高い姫だ。そして、国の事を大切に思っている。きっと、良い女王になるだろう。それは分かっている。しかし……。

「気持ちは分かるが、今日だけで良いから、ここにレイメイと一緒に居ろ。一歩も出歩くな」

「姫様、コウやキーアには何か考えがあっての事だと思います。それに、長旅でお疲れでしょう。本日だけでも、お休みになられては如何でしょうか?」

 キーアの言葉に、レイメイもササラを宥めるように優しく語りかける。

 レイメイも、細かい事情は知らされていない。姫を守る騎士同士なのに、何かを秘密にされている事は、彼女にも不満があった。しかし、キーアもコウも、ササラを守る騎士である。自分にも言えない事情があって動く事があっても可笑しくはないと分かっている。姫を守る為なら、それ以上の追及をするのは無粋というものだろう。

「……でも!」

 そう宥められても、ササラは納得がいかない。本当なら、自分が一番知っていないといけないと、そう思っているからだ。それは、国を治める王族としては間違った考え方では無い。だが、今は、それに当てはめる訳にはいかないのだ。

 キーアはササラの頭を撫でる。

「レイメイも言ったが、お前、疲れているだろう? どちらにしろ、休まないと、この先もたないぞ? だから、休める時にしっかりと休め」

「……」

 ササラにも、それは分かっている。キーア達の様に、鍛え上げている訳ではない。疲れていないと言ったら嘘になる。しかし、ここで休んでしまったら、気持ちが弱くなってしまうかもしれない。それが怖かった。

「レイメイ。悪いが、ササラを無理矢理にでも閉じ込めておいてくれ。出来るだけ休ませろ。お前なら、ササラを支えてやれるだろう?」

「そこまで言うのなら、私も信用に応えるわよ。任せておいて」

 キーアの言葉に、レイメイは頷く。そして、ササラをベッドへと誘導した。

「姫様、これからに備えて休んでください。姫様が倒れてしまったら、何にもなりません」

 そう言われてしまうと、ササラも反論できない。いつまでも、気を張り続けている事が不可能な事くらいは分かっているからだ。……そして、自分が倒れてしまったら、元も子も無い事も。キーア達が、自分の為に守り、行動してくれている事が分かっているから猶更なのだ。

「……分かりました」

 ササラは諦めて頷く。今日は、体調の回復に努めた方が良いのだろう。ただ、ちゃんと休めるのかは分からないけれど……3人が自分の為に動いてくれているのだから、それに感謝しないといけない事も分かっているのだ。

「レイメイ、キーア、コウ、私の事を気遣って下さりありがとうございます。お言葉に甘えて、今日は休養する事にしますから、安心して下さい」

 ぺこりと頭を下げるササラに、レイメイは慌てる。

「姫様、私達は当たり前の事をしているだけです。そんな事をなさらないで下さい」

「それでも、お礼くらいは言わせてください。感謝しているのです」

 ササラが心からそう思っている事が3人にも分かる。だからこそ、この姫を支えたいと思うのだ。

「じゃあ、レイメイ、頼んだぞ」

「ええ。二人も気を付けて」

 ササラとレイメイを宿に残し、キーアとコウは街に出ていった。


「色々考えたんだけど、僕は王家について出来る限り細かく調べてみる事にする。怪しまれない範囲に抑えておくよ。……その分、情報量が減ってしまう事が痛いんだけどね」

「ああ、悪いな。ここにササラが居ると分かると危険だし、この街にも迷惑がかかる。それだけは避けたい所だしな」

 キーアの言葉に、コウは頷く。

「そうだね。キーアはどうするんだい? 僕とは別行動するつもりなんだろう?」

「ああ、そのつもりだ。……まあ、具体案は決まってないが、俺は俺で状況を目で見てくる」

「分かったよ、気を付けて。後、無茶はしない様に」

 コウに念押しをされて、キーアは苦笑する。

「分かってるって。じゃあ、夕方には宿に戻る形で良いな?」

「うん。姫様達に心配させない様に、ちゃんと時間を忘れない様にするよ。……僕は、それに関しては、キーアの方が心配だけどね」

「大丈夫だって。それじゃあ、宜しく」

「うん」

 二人は別れる。コウは、王立図書館と資料室へと。キーアは……コウが封鎖されているという国境境に行く事にした。



(……確かに、どこか異常だな)

 キーアは、身を潜めながら国境境の警備の様子を調べていた。

 確かに国境境には検問があるし、簡単に国同士を渡れない様にしてある。そして屈強の兵士達が揃っている場所だ。

 だが、異様なのは……国境境にある検問にいる兵士達が、全てカミラ国の兵士達だという事だ。本来なら、一緒に護るはずのセレス国の兵士達がいない。

 それも影響しているのだろうか、カミラ国の兵士達はセレス国への通行は、どんな相手であっても一切許していないのだ。

(考えられるのは、腫れ物に触って被害を受けない為か、侵攻相手の侵入をカミラ国からは許さない為か……今回の侵攻に一枚噛んでいるか、って所か。まだ、決めつけるのには早いが……)

 カミラ国の兵士達は、国境に近寄る人々に、セレス国には行けない事を伝えている。何故かと問われると『国からの命令だ』と答え、更に追求されると言葉を濁しながら『これ以上は答える事が出来ない。だけれど、国境を越える事は許されないし、国家への反逆行為になる』、そんな言葉を伝えている。『反逆行為』、そう言われてしまうと、多くの人々は引き下がるしかなく去っていく。武力行使をしようとする者は、実力で上回る兵士達に捕らえられてしまっていた。

(確かに、何かしら上からの命令が出ている事は間違いないな。その命令を下す事になった経緯が分かれば助かるんだが……こればかりは難しいな。忍び込んだり、兵士達に紛れ込む事は出来なくも無いが……今はうかつに動けない)

 何かがあるのが分かっていながら、その原因が掴めないのは、とても歯痒い。だが、実力行使に至るのであれば、もっと情報を集める必要がある。しかし、ここの兵士達の様子を見ていると、どうやら細かい事情は知らない様なのだ。恐らく彼等にも疑問がある様にさえ見受けられる。だが、上層部の命令は逆らえないのが兵士というものである。

(後、凄く考えたくない状況なんだが……)

 キーアは再び視線を検問所に移す。検問をしているのはカミラ国の兵士だけで、セレス国の兵士はいない。……そして、カミラ国からセレス国へ入ろうとする人々はいるが、セレス国からカミラ国に移動しようとする人々がいない事だ。つまり、国外に逃げる事は出来ない状況下にあるという事になる。

 セレス国は周囲の国からも完全孤立している可能性が高い。友好国がこの状態なら、他の国に期待する事は難しい。勿論、確認する必要はある。全てがそうだと判断するにはまだ早い。とはいっても、他国の様子を知るには手が足りないという現実がある。恐らく今、自由に動く事が出来るのは、自分とコウ、レイメイくらいだろう。

(そうだ、ここには上官はいる筈だ)

 兵士達を纏めている存在が居ない訳がない。少なくとも、兵士達よりは情報を知っているだろうし、重要な手がかりを持っている可能性も有りうる。

 問題は、直接交渉出来ない事だ。しかし、慎重になりすぎて手遅れになっても困る。

(しかし、自分で人様にまで言った手前、無茶は出来ないしな。忍び込む手段はまずとれないし、ここで見張る位しか出来そうにないな)

 ……状況によっては、じっとしていられる自信が無い自覚がある分、面倒な事態に改めて溜息がでるのだった。

(……ん?)

 兵士の方に、明らかに風格の違う兵士が現れる。恐らく、上官。また、都合の良い所に来てくれたものだ。話が聞こえる様にと、キーアは静かに移動をする。

「怪しい者は来ていないか?」

「はい、主に訪れるのは行商関係の者達ばかりです。中にはセレス国の親族に会いたいとやって来る者もいますが、強行される事態も起きていません。そして、セレス国側から入国を求める人間は現れません」

 兵士の報告に、上官は少し安心した表情を見せたが、直ぐに表情を引き締める。

「セレス国の姫は行方をくらましているそうだ。この関所に現れる可能性は十分ある。くれぐれも気を緩ませない様に。何か起きたら、直ぐに連絡を寄越す事。分かったな?」

「はい! 承知しております!」

 そのやり取りを聞いていたキーアは深い溜息をついた。

(やっぱり同盟国も噛んでいたか。しかし、これは国に戻るにも案を練らないといけないな……)

 これ以上、収穫は無いだろう。

 キーアはそう思って帰ろうとしたのだが、気になる言葉が耳に飛び込んできた。

 上官の話を聞いた後の、兵士達の気の緩んだ話し声。

「……なあ、本当だと思うか?」

「ああ、天空の姫君の話だろう? ……まあ、逃走されているみたいだから、少し真実味があるかもしれないけどな」

「でも、昔からある御伽噺だろう? 何度も読んだよ。でも、あれは御伽噺にしか思えないんだけどなあ……」

「氷の人形に命を吹き込むんだろう? その魂は死者の者でも可能なんだろう? ……まるで人が生き返る、そんな夢みたいな話があるとは思えないんだけどなあ」

(……何だ、その話?)

 キーアは、そんな話を聞いた事が無い。このカミラ国では、御伽噺になっているみたいだが、セレス国にはそんな御伽噺は無いからだ。

(……天空の姫君、氷の人形……)

 ササラは天空の城と呼ばれる王宮を持つセレス国の姫。そして、ササラは、産まれた時から氷を操る力を持っている。

(……偶然の一致? ……いや、でも……もし、それが真実だったら? 真実では無くても、それを信じ込んだ者がいたら?)

 湧き出す疑問は尽きない。

(……まずは、その御伽噺とやらを探すとしようか)

 御伽噺で割と有名の様だから、上手くいけば絵本なり児童書なりあるかもしれない。

(とりあえず、本屋に行ってみるか)

 新しい目的地を見つけたキーアは、街に戻る事を決めた。



(とりあえず、これとこれ、かな。机上で調べるのは良いんだけど……)

 図書館の資料室から何冊か書物を選んだコウは、調べ物をしている人達がいる机を見渡す。ここには貴重な図書もある為、司書を兼ねた兵士と思われる人間が何人も目を光らせている。多くは、盗難を防ぐ為なのだろう。……勿論、それが全てだとは思わない方が良い。今は、何もかも疑ってかかるべき状況なのだから。

(ここは、堂々といくかな)

 コウは、司書達の目が届く場所に席を取る。怪しまれない行動を取る方が、却って相手を欺く事が出来るからだ。勿論、失敗のリスクも十分ある事には間違いはないのだけれど。

(……ただ、これで何が分かるかって言われると自信は無いんだけど)

 コウが集めて来たのは、かつてセレス国やカミラ国などが、元は同じ国だったという歴史関係の史実と、キーアが言うササラ姫に関する何かを得られそうな可能性のある神話や逸話関係。

(稀に、真実が混ざっていたり、実話が元になっていたりするから侮れない所なんだよね。とはいえ、その中にササラ姫に関する可能性があるものがあるかどうか、もしあっても見極められるかどうかは微妙な所だけど……)

 しかし、殺さずに生け捕りにしようとしている事を考えれば、彼女に生きていて欲しいという事である。それは、きっと氷を操るササラの能力と何らかの関係があるに違いない。

 ……そう、特別で、恐らく想像を逸する何か。

(気になるものを、とにかく書きだしていこう。後は、キーアとレイメイと相談しながら進める事も出来る)

 コウはノートを開くと、とにかく出来る限りの情報を書き記す事に専念した。



「おい、何でここに居るんだ?」

「いや、それは僕が言いたいんだけど」

 街で一番大きな本屋で、キーアとコウは顔を合せた。……お互い、何故ここに相手がいるのかが分からない。特に、コウからすれば、キーアが本屋に居る事自体が不思議なのだ。

「……その顔、俺が本屋に居る事が可笑しいって思っているだろう?」

「え? そ、そんな事はないよ!?」

「……声が裏返っているぞ?」

「……あ」

 ジト目で見てくるキーアに指摘されて、コウは苦笑いを浮かべた。

「……うん、似合わないなーなんて。それも、このコーナーに」

「それは、お前もそうだろう?」

 キーアとコウがいる場所は、本屋の一角にある子供向けの本が並ぶコーナー。ここには絵本やら童話やらが色々並んでいる。そんな所に、何故、余り縁が無さそうな二人の青年が居るのは、他の人から見ても違和感があった。

「僕は、絵本や童話関係を探しに来たんだ」

「何だ、お前もなのか?」

「え、何でキーアがそれを探しに来たの?」

 コウの言葉に答えるキーアに、驚いてしまう。コウは、調べた事を元にして、一番簡単に話が得られそうな本を探しに来た。それが、子供向けの本という訳だ。

 しかし、キーアは、どこに行ったのかは知らないけれど、この関係の本を探す事になったのかは、見当がつかない。

 そんなコウを見て、キーアが苦笑した。

「俺は、関所の方を見て来たんだよ。お前が行っていた事を自分の目でも見ておきたかったからさ。んで、そこの兵士が俺は聞いた事が無いけど、この国ではポピュラーらしい『御伽噺』とやらを知ろうと来た訳だ」

「……僕達が知らない話?」

「ああ、聞いた事が無い。でも、『天空の姫君』やら『氷』とか言っていたからな。ササラに関係している可能性が高いと思ってさ」

 キーアの言葉に、コウも納得する。これは、コウが調べた事と同じだ。

「僕も同じ理由だよ。だけど、不思議なんだよね……」

 コウの言葉に、キーアは頷く。

「何で、隣りの国で有名な御伽噺……しかもセレス国に関係していそうな話を、住んでいる俺達が知らないんだ?」

「……そうなんだよね」

 そう、知らない。

 この国には記されているセレス国と思われる話が、自国では知られていない。

 王国騎士であるキーア達すら知らない。

 何故。

 一番にそう思うが……まずは、その御伽噺とやらを知らない事には話が始まらない。

 キーアとコウは、一通り、関係のありそうな本を買う事にしたのだった。



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