プロローグ
星球大賞2への応募作です。只今、連載中。少しずつ、更新していきますので宜しくお願い致します。
前章
「姫様、こちらです! お急ぎください!」
「レイメイ、ご心配には及びません。私も戦えます」
銀色の長い髪をなびかせた女性騎士が、小さな手を引いて駆け抜ける。風の魔法を使っているのでその動きは高速だ。
しかし彼女に手をひかれた金色の髪をした小さな姫君は凛とした声でそう告げる。
「ったく、姫君は言いだしたら聞かないからな。まあ、傀儡共にやられる訳はねえけどっ!」
最後尾についていた赤い髪の青年が大振りの剣に炎を纏わせる。振り払うだけで紅蓮の炎が舞い踊り、後続から着いてきている様々な形の傀儡達を飲み込んだ。
「炎だけでは倒しきれませんわ。援護致します」
小さな姫君は、振り向きざまに氷を放つ。その結晶が次々と舞い踊り凍らせていった。
「俺が居るんだけど! ちょっと凍ったぞ!? ……黙って逃げてくれれば良いのにさ」
「巻き込まれる様では敵など倒せませんわよ、キーア」
「ああ言えばこう言う……。レイメイ、ササラ姫をさっさと連れて行ってくれ!」
「分かっている! 姫様、行きますよ!」
何か言おうとしているササラをレイメイは問答無用で引っ張っていく。
「……はあ、面倒な姫君だ。さて……残った奴らを片づけますか」
追って来る傀儡はあと僅か。一先ず、これを全滅させれば暫くは安全だろう。
「終わりだっ!」
キーアは再び炎を生み出すと振り払う。それは大きな炎の渦となり、巻き上がる。その炎が燃え尽きたときには、そこにはもう何も残ってはいなかった。
「さて、追い掛けるとしますかね」
羽織っていた外套を翻すと、キーアもササラ達の後を追ったのだった。
パチパチ。
炎に木の弾ける音がする。
あまり目立たない場所にその焚火はあった。周囲には三人の人影。
「今日は野宿になりますがお風邪を召されませんよう」
「大丈夫です。……それに、これだけ着込まされていれば……」
心配そうに言うレイメイにササラはそう答えてから、自らに被さっている外套やら毛布やらを持ちあげて見せた。
「だからって熱いとか文句言うなよ? そして、温度を冷まそうとかするんじゃねえぞ」
そう言ってキーアはササラの頭をわしゃわしゃと撫でる。それにササラは手をどけようと頑張るが力が違いすぎて抵抗にもならない。
「わ、分かりました! だから、その手を話して下さい!」
「……キーア、姫様にその態度はどうかと思うけれど?」
じろりとレイメイはキーアを見る。
「別に良いじゃねえか。どうせ、こいつを過保護にするのはお前なんだし」
「過保護じゃないわ。側近として当然の事をしているだけよ」
からかうように笑うキーアにレイメイは冷たい声で答える。
「大体、貴方はどうしていつもいつも……」
「……もう、レイメイもキーアもいつも同じ話ばかりで飽きませんの?」
呆れたようにササラに言われてしまった。
ササラの言うとおり、キーアとレイメイのやり取りはいつも同じ事を繰り返す事が多い。同じ側近同士の二人は性格が対称的だ。だが、キーアの姫を相手に砕けた口調はどうなのか。それに関しては他の人間にも言われたりはするのだけれど。
「……コウとはどこで合流するの?」
「あ、話を逸らしたな、お前」
「そ、逸らしたんじゃないっ。この先だという話だったじゃない!」
レイメイの態度にキーアは苦笑する。彼女は本当にササラには甘い。だから、話を逸らしたのだろう。
「はいはい。……確か……この先の街の……ああ、ここだ」
キーアは広げた地図の中にある街の所で指をトントンと叩く。
「……明日には着ける距離?」
「まあ、多少急ぎ足にはなるかと思うけどな。……邪魔さえ入らなければ」
「姫様が不安になる様な事は言わなで欲しいんだけど」
ぴしゃりとレイメイが言い放つ。だが、そんな事を気にする様子もなく、キーアは笑う。
「はいはい、過保護なお姉様」
「……もういい。姫様、私共がお守りしますから、ゆっくりお休み下さい」
キーアを相手にするのが嫌になったレイメイは、傍にいるササラにそっと身を寄せる。
「ありがとうございます。……明日はコウと合流するのですね? ふふ、彼が入ってくれれば、少しはあなた達の喧嘩も減るかもしれませんね?」
「ひ、姫様!」
くすくす笑うササラにレイメイの頬は紅く染まる。
(あーあ、姫さんにもからかわれてるし。って笑ったら駄目だ、怒られる)
キーアからすると、ササラとレイメイのやり取りの方がずっと面白い様な気がする。
真面目なレイメイは側近としての振る舞いはしっかりしているし、気の配り方も上手だ。そして、身を呈してでも彼女を守る。しかし、同時にササラを非常に甘やかしているのだ。だから、ササラにからかわれたりすると対応に窮してしまう。
「さて、じゃあ見回りに行って来るか。レイメイ、姫を宜しくな」
「分かっている。警備は抜かるな」
「はいはい、分かってますって」
そう言って手を振ってキーアは焚火から離れる。後ろから何かレイメイが言っているが、恐らく文句だろうから聞こえないふりを決め込んだ。
「……まあ、さっきの連中も倒したし、あんまり心配しなくても良いと思うんだけど……何かあったらじゃ遅いからな」
キーアは空を仰ぐ。そこには満天の星が輝いていた。
「本当に、こんな夜空をのんびり見たいもんだ」
状況的に出来ないのが残念で仕方が無い。寝っ転がって星空を見上げたらそれはとても美しいに決まっている。
「……本当に面倒事に巻き込まれたもんだ」
大きくため息をつく他ないキーアだった。