表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界に行きたくない俺は、地球で怠惰に異世界を無双する!  作者: 三浦ユウキ
第一章 俺、二度寝します
9/25

第一章8『この心で、この魂に誓ったのだから!!』

 寿ことぶき あらた は平成生まれの十六歳。二ヶ月程前に誕生日を迎えたばかりだから、次に歳をとるのは来年の事になるだろう。このコトブキ・アラタと言う少年、見た目だけならば何処にでも居る普通の高校生だ。そう、見た目だけならば。

 この黒髪黒目の少年は、いわゆる超人と言うやつだ。それも、超人から見ても超人と言われる程の。と言っても、この世界にアラタ以外の超人がいるかと聞かれれば、それは知らない。

 このアラタの力。山をも切り裂くアーナフィルマを、一撃で倒せるほどに強い。それに使った力が、全体の1%にも満たないのだから恐ろしい。本人の感覚曰く、2%も出せば月を砕けるらしい。そんな力、普段制御して日常生活を送るのが大変そうだ。

 そんなアラタの力は、日に日に大きくなっている訳で。アラタは弱くなるために、ダラダラと過ごしている。身体が鈍れば弱くなるとい発想だ。いや、ほとんど本人が怠惰なだけだが。

 そして、アラタが異世界に行きたくないもう一つの大きな理由。それが、異世界行ったり転生したりしたら、何か能力得ちゃうじゃん?これ以上強くなりたくない。というものだ。正直言って、テレビの見過ぎ、小説の読みすぎた。


 さて、超人とは言ったものの、アラタの出来ることは多くない。空は飛べないし、瞬間移動も出来ない。念じるだけで人を殺せたり、死んだら時間を戻ったりも出来ない。水中や宇宙で呼吸できるわけでもなく、炎を出したり雷を出したり、植物を操ったりも出来ない。

 が、空は飛べずとも、大気圏を悠に越せるジャンプ力。瞬間移動なんか相手にならないほどの俊敏性。念じなくとも軽く腕を震えば星ごと吹っ飛ばせるし、死んで発動する能力があったとしてもそもそも強すぎて死なない。それに、アラタには呼吸も食事も必要の無いことだ。流石に、炎や雷はどうしようもないが。

 どうだろうか。即死チート持ちや、物理攻撃フルカウンターがある相手ならいざしれず、そこら辺の戦闘民族は相手にならない。


 では、アラタは何時からこうだっのか。それは、今から十五年と二ヶ月ちょっと前。寿ことぶき アラタ一歳の誕生日、前日の夜までさかのぼるる。


 その日は雨が降っているわけでも、雪が降っているわけでもなく、ただひたすらに星が綺麗な夜だった。外には涼しいくらいの風が吹き、酔っ払った大人なんかがふらふらしている。そんな夜道から、とある親子の声が聞こえてくる。


「父さん、寿司メッチャ美味かったね!共食いしてるみたいだったけど……」


「待ってくれツカサ。て、夜道を走ると危ないぞ」


 寿ことぶき つかさ六歳と、寿 りょう二十九歳である。

 今現在、二人は回転寿司屋で夕飯を食べたい帰りなのだ。


「ねえ、父さん。母さんは今日も夜勤なの?」


「ん?あぁそうだよ。あ、でも明日は休みとるっ言ってたよ」


 寿家の母は、夜勤務めが多い。今も家族のために、一生懸命に働いていることだろう。と、もちろんリョウも働いているぞ!


「で、父さん……鍵、あった?」


「…………無いです」


 寿司屋の帰り、家に着いたところで鍵が無いことに気が付いた二人は、夜道で失せ物探しをしているのだ。


「父さん寒い…」


「ツカサ……父さんも寒い」


 冬空の下、男二人は寒さに震える。別段寒い格好をしているわけではないのだが、何せ五時間も外にいるのだ。体温が下がるのも無理ない。


「ねえ、父さん」


「なな、何だ、ックション!」


「家にアラタ一人だけど、大丈夫かな」


 二人が寿司を食べている時も、こうして鍵を探している時も、アラタは家にただ一人でいる。と言っても、まだ一歳にも満たないアラタは、さく付きのベビーベットで寝ているわけだが。


「心配することはないさ。なんせ、父さんと母さんの息子で、ツカサ弟だからね」


「そっか、そうだよね!」


 瞬間、空が光り雷鳴が轟く。どうやら近くに落ちたようで、爆発音が聞こえてくる。


「と、父さん!」


「あぁ、家の方だな。一旦戻ろう!そろそろ母さんが帰ってくる」


 急いで家に向かう二人。数分後、家に着いた二人は目にする。粉々に吹き飛んだ家と、燃える地面。その中心で泣いている、アラタの姿を。



 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 家が吹き飛ぶ直前。寿家のベビーベット内。


「………」


 コトブキ・アラタは寝ていた。いや、そろそろ日付が変わろうとしているのだから、寝てないとおかしい。

 この頃のアラタは、色々な事に興味を持ち、今よりも表情豊かだった。他の赤ちゃんよりも活発で、やんちゃな子供だった――のだが……


 アラタは、真っ白な光に包まれる。熱く冷たく、明るく暗い。そんな、心の光り。


『君は…誰なの?』


 幼いアラタの魂は、目の前に映る消えかけの魂に問いかける。


『俺の記憶は、届かなかった』


 消えかけの魂は、質問に答えることなく話し始める。


『俺の心は、届かなかった』


 吐き出すように、絞り出すように――消えかけの魂は、残りある力を、掠れ行く意識で繋ぎとめる。


『それでも俺は、守り抜く』


 ――この世界を


『それでも俺は、守り抜く』


 ――あいつらを


『俺の全てをお前に託す』


 ――ここに届いた、俺の全てを


『お前の人生はここで終わるだろう』


 ――それでも


『お前の未来は辛いものになるだろう』


 ――それでも


『お前はこの先、沢山のモノを失うだろう』


 ――それでも


『それでも、俺は』


 ――お前は


『この世界を、救ってやると――この心で、この魂に誓ったのだから!!』


 ――そうだ


『俺はもう、無力な俺じゃない。お前はもう、無力なお前じゃない。貰って、奪って、培って――今度こそは、次こそは…』


 サラサラと零れる砂のように、キラキラと消える光のように――魂は力と変わり、言葉は心に刻まれる。消えかけの魂は時に消える。ただ一つ――幼き魂に、未来を託して…


 ――どうか……次こそは…………


「………」


 アラタは見る。粉々に吹き飛んだ家と、燃える地面を。当たりには、パリパリと微弱な電気がはしる。

 アラタには、何が起こったのかは分からないし、何があったのか覚えていない。ただ、時々夢に見るのだ。自分にまとわりつく力が、自分自身を削るのを。


 ――俺が物心ついたのは、確かあの時だったなぁ。あの日、何があったんだろう。家が吹っ飛んで、地面が割れて、当たりは炎に包まれていた。親父や兄貴は、雷が落ちたとか言ってたけど……まあ、いっか。


 今現在、十六歳のアラタは家に向かって歩いていた。

 働きっぱなしの社会人には羨ましい話で、寝るのに飽きたのだ。そこで、家からい1㎞と少し行った所にあるコンビニ。ホーリープレイスに言っていたのだ。今日の品揃えは、溶接系の物やらテープに包帯だ。今のアラタにはどれもいらないし、お金も無いので何も買わずに帰った。と、そうこうしているうちに家に着いたアラタは、家に入ると階段を上り自室の扉を開ける。


「ん?」


 部屋に入ったアラタは、目の前の光景をただ呆然と見つめるのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ