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異世界に行きたくない俺は、地球で怠惰に異世界を無双する!  作者: 三浦ユウキ
第一章 俺、二度寝します
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第一章1『俺は異世界召喚に応じない』

 寿ことぶき あらた は平成生まれの十六歳。二ヶ月程前に誕生日を迎えたばかりだから、次に歳をとるのは来年の事になるだろう。

 今現在、太陽は既に天辺を通り越し、山の向こうに消えようとしている。つまりアラタは昼過ぎまでベッドにこもり惰眠をむさぼるだけ貪った挙句、この後に及んで二度寝を開始しようとしている。

 二階建ての家に住み、二階にある畳六畳分ほどの部屋を自分の物としている。進級の決まったアラタは、その部屋で新学期前日まで怠惰の限りを尽くそうという訳だ。


 このコトブキ・アラタと言う少年、見た目だけならば何処にでも居る普通の高校生だ。所々がボサボサとはねた黒髪、高くも低くもない平均的な身長。常にテンションの低い、喋るのですら面倒くさいと言っているかのような気の抜けた声。高校男子にしては少し細めと言える体格で、薄手のTシャツを着ている。

 無理にでも特徴を上げるとするなら”目”だろうか?

 生気の抜けたそれは、史上稀に見る虚ろな目をしていて、除き込めばこの世の闇でも見えて来そうのなほど底無しの深さがある。

 だが、今はそんな目すら布団に隠れて見えない。まぁ、布団を剥いだところで瞑っているのだから、結局は見えないが。


 さて、話を戻そう。


 そんな、大した特徴もないアラタの部屋に、何処ぞの研究所にありそうな電子パネルの様な物が自己主張激しくさわぎたる。正確にはパネルの中に映りこんだ少女が、だが。アラタを起こそうと必死に騒ぐ。

 さすがに煩かったのだろう――いや、煩いなんてものでは無い。工事現場の騒音なぞ相手にならない程の騒ぎよう。いい近所迷惑である。


 この最悪なモーニングコール――いや、ヌーンコール?に、アラタは


「……ぅぅぅ」


 と唸り、布団から顔を覗かせるだけ。


 それで起きないのだ。少女の煩さよりも、アラタの睡眠力が驚きだ。測定機があるなら悠に53万を超えるだろう。

 が、さすがのアラタも耐えかねその身を起こす。


『……**…*』


 まだ頭がハッキリしていないからか言葉が違うのか、アラタには言っている事がサッパリ分からない。そして度々起きる映像のブレとノイズが、通信の不完全さを物語っている。

 アラタは寝起きの脳みそをフル回転させ目の前で起こっている状況を整理し、結論に至る。


 ――なんじゃこりゃ。


 この一言だ。多少なりとも考えた上でこの結論――少々バカに見えるかも知れないが、そもそも、たったこれだけの情報でこの状況を理解するなど不可能に等しい。


 ――えぇ〜と?春休み、起きたら目の前に半透明の画面が有って、その中の女の子が深刻そうな表情で必死に、て…あれ?スゲェ焦ってる?


 と、少女の心境にやっと気付いたアラタは三度寝に取り掛かる。高一の春休み。勉強もせず、一日中寝ていようとしているような者が厄介事に関わろうとするだろうか?いや無い。


『…**…ア…タ*…**』


 今一度、いや今二度、布団を被ろうとするアラタに、少女は叫ぶ。


『…ォ…ます…*タ…さま…』


 ――うるさい。


 こうも煩くては三度寝どころでは無い。アラタの心中を、睡魔以上の不快感が覆い尽くす。穏やかな生活と、静かな安らぎを求めるアラタは思う。寝る前に、この安眠妨害機をなんとかしよう、と。

 だが次の瞬間、その想いは全て打ち砕かれる。


『ア…タさま…ど…か我…の国をお救い下さい!』


 まだ途切れ途切れではあったが、ハッキリと、唐突にその少女は告げる。国を救ってくれと。

 黒雲立ち込める空の下、一人の少年の心はそれ以上に暗くどんよりした疑問に覆われる。

 アラタの心と反するように、少女の声はハッキリとしていく。


『アラタ様、どうか我々の国をお救い下さい!』


 話が見えてこない。この目の前の少女、

 フンワリとした桜髪にティアラを乗せ、大きく澄んだ翡翠ひすい色の瞳に涙を浮べながら叫ぶ。


『どうか、どうか貴方様のお力をお貸し下さい!』


 夢だろうが現実だろうが、今言うべきことは一つ。


「お前、誰だよ」


 ――­­初対面の相手に、お前 は失礼だったか?


 微かに残る人情でそんな事を思っていると、少女が名乗り出す。


『私の名前は、リリオーネ・ファンヴェル・グレンバルト!!グレンバルト王国の姫です。アラタ様、貴方のお力を見込んだ上でお話しします。どうかそのお力で、我々の国を救う勇者になってはくれませか!?』


「…勇…者?」


 勇者。つまり、勇気ある者と言う意味だ。アラタは思う。はて、この何処ぞの姫さんは俺の何を見て勇者だと思ったのだろうか?

 アラタは、今まで見た数々のアニメ、マンガ、ラノベを思い出す。


 ――古来より、聖剣を抜いた者や、隠された力を持つヒキニートだったりが勇者に選ばれるはずなんだが…


 聖剣を抜いた訳でも、ヒキニートな訳でもないアラタは何故勇者に選ばれたのだろうか?確かに、数週間前に聖剣を抜いたし(ゲームの中で)今はヒキニート紛いの生活を贈っている。が、もっと凄いのが居るだろう!完全なる勇者候補しゃかいふてきごうしゃが、とアラタは心の中でツッコミを入れる。


 ――ま、分からん事いつまでも考えてるより、聞いた方が早いよな。


 と、決意すると、自称姫に話しかける。


「姫さん。何故に俺を勇者にお選びなすったんですんか?」


 未だ多少混乱気味の脳みそは、でしょうか、ですかをごっちゃにしながら声へと変えた。

 そんなミストークを無視して、姫は答える。


『詳しい事はコチラの世界に無事召喚し終えた時に話しますので、まずはそちらの魔法陣の上に立ってもらえますか?』


 と、姫の指さす方を見れば、光り輝く魔法陣がアラタの部屋の中心で微弱な光を放っていた。


「おい、待てプリンセス」


 寝起きドッキリにしてはタチが悪い。甘いと思って食べたケーキが激辛だった時くらいの衝撃だ。コチラの世界に召喚――つまり異世界召喚と言うやつだろうか?

 コトブキ・アラタの人生、十六年と数ヶ月目にして異世界召喚である。三年前のアラタなら迷いなくOKしただろう。が、三年の歳月は、アラタを大きく変えた。つまり、答えは


「NO。俺は異世界召喚に応じない」


『な、何故です!?』


 ラノベの主人公が異世界召喚に了承する理由は多々ある。例えば――この世界で生きて行くのにウンザリした。チート能力で俺TUEEEしたいから。現代科学で、巨万の富と名声を得て堕落生活。などなど、数え出せば切りがない。

 では、何故アラタは断ったのか。答えは簡単だ。行きたい理由がこれならば、行きたくな理由も単純――得が無い、得られるものが無いのだ。むしろ、今アラタは奪われようとしている。やっと手にした、つかの間のまったりライフを。だから言い放つ、


「ダラダラしていからだ」


『それなら、コチラの世界に来ればそちらに居るよりも』


 と、思う事だろう。姫さんが召喚しようと言うのだ。きっと、役目をこなせば城でダラダラと過ごすことも出来よう。それに、今の生活はつかの間の休息。新学期が始まってしまえば、この様な生活は遅れなくなるだろう。なら何故そうしないのか。決まっている、


「多分――そっちの世界の娯楽じゃあ、俺のスローライフは充実しないから」


 チートがあっても、国があっても、異世界じゃあ手にあいらない。それが、地球の娯楽である。

 聞いたことが有るだろうか?漫画の、ラノベの、ゲームの、その他多くのジャパニーズオタク文化のある異世界を!(有るにはあるけど)

 そもそも、異世界人に助けを求める国の文化レベルが、日本に届いている訳が無い。


 まさかの展開に慌てふためく姫は、何とか気を引こうと話し始める。


『で、ではアラタ様好みの…じょ、女性を…用意しましょう…』


 姫は、苦行に耐える様な顔で言い放つ。国の為に女を差し出す事が、はたまた、アラタのに選ばれた女の成れの果てを考えてか、姫は涙をこぼす。一部間違いではないが、男=女好きという考えは偏見である。そもそも、アラタが欲するのは三次元ではなく、二次元なのだ。


「なぁ、異世界の姫さん。君が俺を異世界に呼ぶ理由はなんだ?」


 己の投げ掛けた提案を完全無視で話し始めたアラタに多少困惑しつつも、問いかけに答える始める。


『え、は、はい!えぇとですね、今、私の国、グレンバルト王国に魔王の手が迫っているのです。そこで、アラタ様を勇者としてコチラの世界に召喚し、我々の国を救って頂こうと思いまして…』


「いや待て。俺を呼ばずとも、そっちの兵か何かが戦ってくれるんじゃないのか?」


『それが、十二人の勇者は殆どが死に、太刀打ち出来るものが居なくなってしまったのです。貴方の望む物ならば全て用意します!ですからどうか、私の…私達の国をお救い下さい!!』


 綺麗な桜髪を振り乱し、澄んだ翡翠色の瞳から涙を零しながら頭を下げる姿は、国民への愛を物語っている。


 ――理由は分かったさ。それを聞いた上で、


「それでも俺は行かないね」


 もう一眠りしたげにあくびをし、涙を流すアラタとは別の、絶望の涙を流す姫は悲痛の叫びをあげる。


『な、何故です!何故なのですか!?』


「聞け、俺が異世界召喚を断る主な理由は二つ。一つ目はメリットだ。俺が異世界に行って得られるメリットが無い」


 アラタは人差し指を立て異議を申し立てる。


『で、ですから貴方の望む物を…』


 尚も食い下がる姫さんに、アラタは続ける。


「俺が望むものは一つ。穏やかな生活と、静かな安らぎだ。魔王?…面倒くさ」


 面倒臭いの一言でまとめてしまうのはなんだが、正直言って面倒臭い。魔王と戦うということはつまり、魔王の手下とも戦うという事だろう。そんな壮大なストーリーを、アラタが歩もうとする理由がない。

 それに、魔の手から国を守るというのはつまり、襲ってくる驚異を跳ね除けるのでは無く、根本から潰すといものだろう。そのためには旅立たねばならない。旅に出れば、アラタの望む穏やかな生活と、静かな安らぎは消え去ってしまう。


 ――超面倒い…異世界召喚?何それ得あるの?


『っ!!面倒臭いだなんて…そんな…』


「悪いが、他を当たってくれ」


 さらっと吐き捨てるように言うと、アラタはベッドから降りる。重々しく立ち上がると、フラフラともたつきながら部屋を出て行った。

 無論、魔法陣を避けて。

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