第一章幕間
「俺の名はリュウガ。白雷神リュウガ・ライキリだ。人囲を越した、人ならざる人よ」
白雷にと共に現れたのは、自らを神と名乗る少年だった。
濃い青色の短髪に赤い目。首元には青に近い紫色、桔梗色のマフラーを巻いている。身長は157cm程で、腰にはバツ印にクロスした50cm位の長さの刀をさしている。まだ幼さの残るキリッとした顔立ちで、アラタの顔を覗き込む。
「コトブキ・アラタ。君がアーナフィルマを倒したのか?」
自称神、リュウガは少年のような声で問いかける。
「何時ぶりか、神をも凌駕する強い力を感じたんだが。まさか、アーナフィルマを倒せる人間がいるとは」
ゆっくりゆっくり歩み寄ってくるリュウガに、右腕に青色のレーザーソードを装備したノアが切りかかる。
「四神戦闘機構モードブルー.ソードウエポン壹式【青光剣】」
白髪を青く染めたノアは、サイドステップを取りながら距離を詰める。
「はぁー、古代兵器か。懐かしいな」
己の白雷を使い、何かしたの?という速度でノアを拘束する。
「………っ。速いな」
アラタから見ても、速いと言わせる程のスピード。テインは全く捉えることが出来ず、ただ唖然とするのみだ。
「マス、タ……おにげ…くだ…さい」
「少し静かにしていろ、ノア。……コトブキ・アラタ……君、今の俺の動き、見えていたな」
腰の刀に手を回し、少し身構えるリュウガ。テインは、二本ある刀を既に一本抜いている。ノアはもう、機能停止寸前だ。
「今日は不法侵入者が多いな」
アラタは脳内で力の制御を外し、20%を解放する。多少腰を落とし、姿勢を低くする。
「アラタ、あいつは何なんだ?お前の知り合いか?」
「いや、知らん。ただ、アーナなんちゃらなんて相手にならないくらい強いだろうな」
数秒の睨み合い。その瞬間は、静かに訪れる。腰を落とし、刀を超振動させテインが下段切りを仕掛ける。遅くはない筈のその斬撃を、リュウガはアラタ同様指二本で止めパッと離す。
「クッ!甲殻琉剣術、伍の形。甲殼幻影斬!!」
伍の形。残像を作るほどの高速の剣技。その追加効果として、普通は防御不可能な筈なのだが…
「諦めが悪いのは、人の特徴の一つだな」
またも簡単に止められ、今度はこちらの番だなと左腕を上げるリュウガ。次の瞬間には、当身を喰らいテインは気絶する。
「仲間が挑んできているのに、君は何もしないんだな」
先程から変わらぬ姿勢で動かないアラタに、リュウガは語りかける。
「そうだな。それでも俺は、お前とやり合いたくないね。それに、そいつらは俺の仲間じゃないし、お前が何もして来ないなら俺も何もしない」
またも部屋を包み込む静寂の中、二人は睨み合う。
「「………」」
家の外で、カサカサと散りが転がって行く気がする。バチバチと白雷を垂れ流すリュウガに、アラタは表情を変えず対する。
緊張の線が最高長に達した時、リュウガは腰の刀から手を離すと雷を抑える。
「ふん!流石だな。俺では勝てない。いやなに、ちょっと試したくなってな」
完全に戦意の消えたリュウガは、警戒を解いてアラタに近づく。アラタはというと、己の力を1%未満まで抑え、コチラも警戒を解いていた。
「今の無礼を許してくれ、コトブキ・アラタ。繰り返すようだが、俺の名はリュウガ。白雷神リュウガ・ライキリだ。リュウガと呼んでくれ!」
そう言って右手をこちらに伸ばし、握手を求めてくる。それに対し、あっそといった態度で手を握りアラタは握手を交わす。と、気がついた時にはもう遅く――アラタでも反応出来ない速度で、その姿を白雷に変えると身体中を駆け巡る。
「なっ」
だが、アラタにダメージはない。いや、そもそも攻撃ではない。
バチバチと身体中に電気が走ったようになっているアラタの黒髪は、前髪の一部が青く染まっている。
「これは……?」
何が起こったのか分からないと、頭をハテナで埋めるアラタにリュウガは答える。
『いま、俺は君の中にいる。入らせて貰ったぞ』
そのセリフの通り、リュウガの声はアラタの体内から聞こえてくる。
「どういうことだ?何が目的だ?」
警戒心を顕にし、力を10%解放しながらアラタは問いかける。そんなアラタに、軽いノリでリュウガは答える。
「神はな、殆ど永遠に生きるんだ。そうなると、暇で暇でしょうがないんだ。そんな時、この世界から強い力を感じてなぁ。君の――コトブキ・アラタの中に居れば、退屈しなそうだったものでな」
見た目は少年だが、中身は大人――いや、超が幾つ付くのかって程歳を重ねているのだ。神は不老長寿。長い事生きていると、何をやっても退屈になって来るものだ。そんな中、アラタを見つけたリュウガは、今この瞬間に憑依を成功させたのだ。憑依とは言うが、意識は完全にアラタのものである。そんなアラタは、相変わらずの無表情で文句垂れる。
「おい、出てけ。お前が憑依して、俺に何の得がある」
『お前ではなく、リュウガと呼んでほしな』
アラタの眉が、ピクッと動く。どういう反応なのか、イラッと来ているのだろうか?
「リュウガ、俺の得はなんぞ?」
『俺の力が使えるようになるぞ』
「要らない」
アラタが異世界に行きたくない理由の九割が、これ以上強くなりたくないと言うもの。それなのに神の力を得てしまっては、もともこもない。
『髪の色を変えられるぞ』
「必要ない」
アラタは目立ちたがりなパリピーでも、印象づけたい動画投稿者でもないのだ。髪の色を変えられても得がない。
『電気代が浮く』
「いら……責めて俺から出てけ。家に置いてやるから」
今のアラタは一人暮らしである。電気代が浮くのは嬉しい。
そんなこんなで、リュウガが家に住むことになったのだが……
「マスター、危険です。四神は人類の殲滅対象です」
「アラタ、こいつらがいいなら私もここに住むぞ!」
「お世話になるよ、アラタ」
目の前の光景を前に、アラタは思う。
――どうしてこうなったんだ……
騒ぐ三人――いや、一人と一機と一体を置いて、アラタは部屋を出ていくのだった。
第一章はこれで終わりです。
第二章は、明日になるか、明後日になるか……
ですが、必ず投稿しますので
お楽しみに!!




