第一章9『これが、伝説のエクスカリバー』
アラタの部屋の中心。またも天井に広がる魔法陣。下にはなんと、神々しく輝く一本の剣が。
「これが、伝説のエクスカリバー……なわけないか。……………ん?」
アラタは部屋の真ん中に突き立った輝剣ではなく、それが刺さった一冊のマンガ雑誌に目を見開く。
「お、俺の……俺のジェンプーがぁぁ」
アラタの愛読雑誌。”月刊まんがサンデー ジェンプーA”詰め込みすぎだろ!と思うのは気のせいなのでスルーしてもらいたい。そんな漫画雑誌に、例の輝剣が突き刺さっているのだ。それの何処に目を見開いたのか。それは、
「まだ……まだ読み終わってないのに」
寝てばかりいるアラタは、漫画雑誌を買っても読むのに時間がかかる。その為か、読みかけだったジェンプーに、おそらく異世界から召喚されたであろう剣が突き立っていたのだ。もちろんページはめくれない。つまり、読めないのだ。
「クソ、恨むぞ召喚魔法。フンッ」
アラタは剣の柄に手を掛けると、力を込め引き抜――こうとしたのだが…
「クッ、フンッ……抜けない……だと」
力を抑えているとはいえ、アラタが抜けなかったのだ。この剣、ますます不思議である。
「なら、1%」
アラタはどうしてもジェンプーから剣を抜こうと、柄に手を回し完全に1%の力を出して引き抜く。いや、引き抜こうとしたのだが、やっぱり抜けない。この剣、アーナフィルマを屠った一撃以上の力で引張ているのに抜けないのだ。アラタはこれを、相当の業物と思った。思ってしまったから、やってしまったのだ。
「ご、5%……出しただけなんだけど」
アラタが5%の力で抜こうとしたところ、剣身の根本からポッキリいってしまったのだ。つまり、雑誌に刺さった剣は抜けることなく、刃だけが残ったまま折れたのだ。
ちなみに、5%は簡単に星を吹っ飛ばせるしくらいの力である。
「…………折れちった、テへ」
折れた。それはもう綺麗に、ポッ〇ーを折るより簡単に折れてしまった。
――〇ッキーだけに、ポッキリね……
どうやら、今年はまだまだ冷えそうだ。と、アラタがそんな事をしているうちに、魔法陣から新たに何か見えてくる。まるで、少女のお尻のようだ。もちろん服は着ているし、なんなら甲冑的なものまでみえている。ただ、そのまま落ちたら、剣に刺さりそうである。
「あ、落ちてきたらやばくね?」
刺さったらなのか、折ったのをばれたらなのか知らないが、アラタは剣を放り込む――ノアのいる押し入れに。アラタはそのごすぐに落ちてきた少女をラピュタキャッチすると、ベッドに寝かせた。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
あれから数分後、少女は目を覚ます。
黒髪黒目で首筋まで届きそうな長さのポニーテール。身長162cmくらいで、凛々しい顔立ちの可愛い少女だ。黒服の上から手には籠手、左肩に大袖、胸には胸当、腰のサイドに草摺、足には脛当。そのどれもが赤色で揃えられている。腰には刀が二本。そんな少女は起き上がるや否や、アラタに切りかかる。
「甲殻琉剣技、参の形。甲波振動剣!!」
少女は踏み込み剣を抜く。刀身が薄い緑色で、根本に行くにつれ色が濃くなっている。そんな刀を、秒速三万八千七百九十回振動させる剣技。だが、アラタにとっては所詮三万八千七百九十回。振動速度と同速度で腕を動かし、人差し指と綾指で摘み刀身の揺れを止める。
「な!?」
自らの剣技を軽々と止められ、多少驚きはするもののすぐに当たり前か、といった顔で剣を離す。そのまま両手を上げ、降参のポーズをとる。
「お前がまお…アーナフィルマを倒したというとは本当らしいな。私の剣技をアッサリと止めるあたり、流石だな。試すような真似をして申し訳ない」
手を横に回し頭を下げると、床に正座で話し始める。アラタは床に刀を置くと、胡座を組む。それも超怪訝な顔で。
「今日、私が参上したのは他でもない」
一息
「お前を、異世界に連れていくためだ」
アラタに向けてビシッと指を指し、少女は続ける。
「リリ……グレンバルト姫に頼まれ、お前を連れてこいと言われたのだ」
一方アラタはというと――
――誰だこいつ。
アラタには珍しく、何時もの無表情ぶっ壊れで眉を潜め、露骨に嫌な顔をしている。それもそうだ。自分の部屋にいきなり来て、切りかかってきたのだ。その後に、行きたくもない所に連れていこうと言うのだ。怪訝にもなる。
そんな事を思っているとは梅雨知らず、少女はなおも食い下がる。
「さあ、今すぐあの魔法陣に入ってくれ。お前なら、ジャンプで届くだろう?」
「おい待て。そもそもお前は誰だ」
初対面の相手を、お前呼ばわりは失礼だろうか?いや、相手側も言ってきているのだから、そんなことは無い。と、心の中で思い、目の前の少女をタメ語認定する。
「私の名前は、テイン。テイン・テトラクラブ。魔王と――魔王軍と闘う勇者の一人だ!勇者アラタ」
少女の名はテイン。異世界では珍しい黒髪黒目で、甲刀の勇者と呼ばれている。以前は、水盾の勇者、エリアース・アークアインを含めた五人で魔王軍と敵対していた。
「何で俺の名前知ってんの?」
「リリ……グレンバルト姫に色々聞いてきたからな。お前のこと、この世界のこと、色々とな」
アラタは、ふ〜んと軽返事で理解すると、テインに刀を渡す。そして、
「うわわわ!!なな、何をしているんだお前は!!」
アラタはテインを持ち上げる。正座したままの状態を軽々と。
「おおおい、離せ!」
「うるさい暴れるな。お前を送り返す」
そう。アラタは、天井に広がる魔法陣にテインを放り込んでやろうというのだ。部屋に知らない人が、無許可で入ってきたらどうするか。簡単なことだ。そりゃもちろん、追い出す!
「おいやめろ!私を降ろせ馬鹿者め!うわぁ何処を触っている!」
「黙れ。不法侵入及び、銃刀法違反者め。察に突き出されるか、本国に送還されるか選べ」
完全に正論である。今のアラタを、誰が止められ用ものか。いやまあ、何時止めようとしても返り討ちであろうが。そんな訳で、魔法陣に放り込もうとしたのだが。
「あ、あれ?何か、光り弱くない?」
よく見ると、陣の光が弱まり点滅を始めていた。数秒間弱々と光ると、キラキラと光の粒子に変わり消えていく。
「お、おいポニーテール。魔法陣消えてないか?」
「おいアラタ。魔法陣が消えてしまったんだが、何かしたか?」
「「…………」」
アラタはテインを持ち上げたまま、テインはアラタに持ち上げられたまま、呆然と立ち尽くす。そんな中、アラタはテインをゆっくりと降ろすと二人は顔を見合わせる。
「おいアラタ」
「なんだ、ポニーテール」
テインは、ニッコリと笑うと一言。
「帰れなくなってしまった」
「出てけ」
アラタも笑顔で返すと、テインを部屋からつまみ出したのだった。




