プロローグ
この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
主人公のセリフは、「!」が付いているもの以外全て感情を込めずにお読み下さい。
世界が白き衣に包まれるころ、人々は温もりの悪魔に唆され時の迷宮に迷い込む。
一度外界に踏み出せば、氷雪の風が熱を奪い身体の自由は消え去る。
聖水満ちる泉は氷に閉ざされ、天から降り注ぐ恵みすら命を摘み取る流星に変える。
既に時は命を芽吹かせる恵と旅立ちのころ。草花は芽を伸ばし、強き魂は新しい命を紡ぐ。
と、大袈裟に言ってみたものの、要するに季節は春。今年はまだまだ寒いようで、三月になったにも関わらず度々雪混じりの雨が降る。水溜りなんかが出来ようものなら次の日には凍り付いているだろう。
ここに有るベッドに、一人の少年が寝ている。この少年、名を 寿 改 と言って現在高校生だ。今年で高二になるアラタは、今持てる全てを使い戦っていた。寒さが呼び出す温もりの悪魔、睡魔と。
「……っ」
体に掛かった布団は安らぎと安心を与え、起きる気力を奪う。目覚まし時計の呼びかけすら、その意識を呼び覚ます事は叶わない。
だが、そんなアラタを覚醒させようとする声が、部屋の空気を震わせる。
『**…*……』
アラタは寝返りをうちさえすれど目を覚ますことはしない。既に日は天高く登り(と言っても曇りだが)窓から差す光がアラタの顔をチラチラと照らす。
『……***!!』
未だ起きないアラタに、謎の声は大きさを増す。ついに耐えかねたのか、幻想の世界から戻ってきたアラタは目を覚ます。まだまだ寝足りないと言った顔つきで目を瞬かせ、寝ぼけ眼でそれを見た。
「……」
夢でも見ているのかと目を擦り体を起こす。が、部屋を流れる空気の冷たさが、風に揺れる窓の音が、鮮明になっていく意識が夢でない事をアラタに教える。
「……ぁぁ」
それでも現実感のない光景に思考が止まりそうになる。今、アラタの眼前に映っているのは、見慣れた天井、壁、家具、そしてその中で異質を放つ物、物体?なのだろうか。光を集めて構成された様なそれ、印象だけを述べるならこうだろう――
” 空中に浮かぶテレビ画面 ”
空気中、ベッドの上に存在しているそれは、言ってしまえば電子パネルだった。映写機で空中に立体映像(テレビ画面の)を映し出しているような、半透明な立体画面だ。
ただ、それだけならばアラタもここまでは驚かなかっただろう。(これだけでも相当の衝撃ではあるが)
「…えぇ…あのぉ……」
アラタの思考が止まりかけた主な原因。それは、そのパネルの中に何とも美しい...いや、まだ可愛らしいという表現の方がただしいのであろう年齢の少女が映っていたのだから。
「――何とファンタジーな」
アラタは再び目蓋を落とし布団を被ると、二度寝の体制に入って行くのだった。
第一章は書き終えましたので、毎日更新されます。これから、長くも短くも、この作品をよろしくお願いします!!