嘘
「冗談だよ」僕はその先を言う事が出来ずにそう呟いた
「そうなの?」振り向きながら君は笑った
「そうだよ、困らせてみたかったんだ」初めて君に嘘を付く
「でも、刺激になっただろ?」精一杯だった
もう、彼女の目は見てなかった
街を彩る明かりをその瞳に一人締めして
その人は俺の傍らにいる
「そうなんだ、ただの冗談さ」
つくづく損な性格だと俺自身思う、奴に知られるとまた馬鹿にされるだろう
「チャンスもモノに出来ないお人好し」
そう言われるに決まってる
けど、それでも良かった、一瞬だけ見た彼女の顔が困惑の表情に見えたから
「そうだ、最近明るくなったね、何かいい事でもあったのかい?」
いつも話題を変えるのは俺の役目らしい
「そうね、ここだけの話だけど、プロポーズされたの」
残酷な言葉を平気で吐かれるのは、きっと俺が気を許されてる証拠だろう
そう思う事でなんとか気持ちを整理できたようだった
「え?そうなのかい?いやあ、君なら誰もほっとかないよね」
「嘘よ」
「ん?嘘?」
「そう冗談よ、刺激になったかしら?」
彼女は少しの間黙って、一つため息をつく
「さっき言ってくれた事、あれ冗談じゃなくならない?」
俺はその誘いに乗るかどうか迷った、たった一言で俺の人生が変わってしまうからだ
しかもそれは俺が望んでやまなかった、最高の誘いだった
『俺でいいのか?・・・』
沈黙が永遠に続くかと思えるほどに、俺は心臓の音だけを聞いていた