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混沌

―――鈴木視点


 あの後、無理やり連れだされた私は、現在、自分の部屋にいる。


「それで、なんで六角と二人であそこに?自主訓練って言ってたわね」


 早速、問いただされる。


「それは...」


 私は六角君が伊丹君たちに襲撃されている件のことを話した。


「...ということなの」


「なるほど、半年たった出来事とはいえ、ずいぶん恨まれてるわねえ」


「うん、だから私が一緒にいれば安全になるかな、と思って」


「へえ、そう」


 零ちゃんが私の顔をじーっと見てくる。


「な、何かな?」


「好きなの、六角のこと?」


「ふぇっ!?い、いやっ...」


 何故だか、顔が赤くなって、落ち着かなくなる。


 六角君の顔が脳裏にちらちらと浮かんでくる。


「え、そうなの?風香ちゃん」


 杏ちゃんが驚きの表情で風香を見る。


「好きなんじゃないの?」


 六角君とのお話は楽しいし、一緒にいるとドキドキするけど...これって恋なの、好きってこういうことなの?


「分からない...」


「ふうん、まあ彼はあなたのこと眼中にないみたいだったけどね」


「え...」


 眼中にない?


 本当に、そうなの?


「あの状況でも全然あなたの方を気にした様子もないし、普通ならあなたの反応が気になって落ち着けないと思うのだけれど、あれはないわね、完全に女として見られてない」


「――っ」


 ショックを受ける。


 そういえば、六角君は私と話すとき、いつも平然としている。


 六角君と話をするのはとても楽しいけど、どこか壁を感じるんだよね。


 はっきりと感じるものでもないけど、私が踏み込むとやんわりと優しく逸らされる。


 一歩踏み出せば、気づかぬように一歩引かれる感覚だ。


 六角君は私を女の子として見ていない?


 六角君にとって私って、女の子としての魅力が全然ないのかな?


 そんなの、嫌。


「そう悲しそうな顔をしないで、『我の対象は、二次元少女だ!』って言ってたでしょ、つまりは現実で好きな人がいるわけじゃないってこと」


「うん...」


 そうだよね、六角君は画面の中の女の子が好きなんだよね、現実にいる人じゃなくて。


「それなら、チャンスはあるのよ」


「チャンス...?」


「うん」


「で、でも六角君は現実と空想の違いをはっきり認識してるみたいだし...そのうえで二次元の女の子が好きだっていってるんだと思う...」


「そんなの所詮は紛い物の女、現実の女に勝てるわけがないじゃない」


「そう...なのかな?」


 それなら六角君は最初から現実の女の子が好きになっているんじゃ...


「毎日、自主訓練というのをしているのでしょう?二人っきりで」


「う、うん、そうだね」


「だったら、そのチャンスを活かしなさい、あなたは今、一番六角と接近できる女の子なんだから」


「そうなの?」


「当たり前でしょ、もともとあいつの周りに誰も女子はいないし、この世界にきてからもそうじゃない、あなたを除いて」


 私が六角くんに一番近い...


 それが事実ならとてもうれしい。


「それで、改めて聞くけど、六角のこと、好きなのよね?」


 今なら自信を持って言える。


「うん、私は...六角君のことが、好き」


 口にするとよりはっきりと自覚する。


 好きという感情が私の中からあふれ出してくる。


 私、六角君のことが好きなんだ。


「それにしても、風香についに男がねえ、学校ではあんなに告白されても断り続けてたのに」


「そういうこと全然考えてなかったから...」


「初恋?」


「うん、これが初恋」


 私にもとうとう初恋の相手ができたんだ。


「まあ、がんばりなさいな、二次元の女とはいえ引き剥がすのは大変だと思うから」


「...どうやったら私に目を向けてくれるのかな?」


 そこがわからないよ。


 そう問うと、にやりとした表情をする。


「現実の女にあって、二次元の女にないものは何だか分かる?」


「えーっと...?」


「実体よ、体、現実のぬくもりを持ってして二次元に向いている目をこっちに、そして風香に向けさせるのよ」


「か、体...」


 い、色仕掛けってことなの?


 何だか恥ずかしい。


 私にそんなことできるのかな?


「私から言えるのはここまでね、何かあったら相談して、力になるから」


「私も応援するから、頑張って」


「うん、ありがとう」


 頑張って六角君に振り向いてもらわなきゃ。


 ...二次元の女の子に負けないように。


 六角君にとって私は空想の女の子より下っていう事実が少し悔しいよ。


「ところで、澪ちゃんずいぶん自信満々に言ってるけど、そういう経験、あるの?」


 杏ちゃんが澪ちゃんに尋ねる。


「ないわ」


 きっぱりと否定する。


「じゃあ、さっきまでのアドバイスは...?」


「少女漫画での仮初の経験によるものよ」



===============



―――空見視点


 最近、訓練後に部屋を訪ねても風香がいない。


 城の中を探してみると、訓練場の中に風香の姿を見つけた。


 六角と一緒に。


 最近はずっとここにいたのか?


 何なんだよ、あいつは。


 なんで風香はあんな奴に構うんだよ。なんで、なんで。


 思わず物陰に隠れて覗き見てしまう。


 なんでこんなことをしてるんだ?


 そう思いつつも、聞き耳を立てる。


 しかし、距離がありすぎるのか会話の内容までは分からない。


 今の二人は地面の砂を風で巻き上げて何かをを作っているようだ。


 六角と何かを話しながらそれを行う風香は眩しく輝いているようで、とても楽しそうに見えた。


 なんで、あいつと一緒に居てそんな顔をするんだ?


 俺といた時はあそこまで楽しそうにしてたことなかったのに。


 あんな、いつも適当に過ごしている、人に暴力をふるっておいて平然としているようなオタクといて楽しいのか?


 イライラする。


 非常に腹立たしい。


 もしかしたら、あいつにに何か変なことをされているんじゃないのか?


 オタクというのは一般の人からすると何をするかわからない存在だと聞いている。


 テレビによれば、変な作品に触れることで、それを模倣した犯罪に手を染めることがあるのだとか。


 それに、あいつの持っている技能なら...あるいは洗脳くらい簡単にできてしまうんじゃないのか?


 あの笑顔は洗脳された影響じゃないのか?


 だとしたら、俺はあいつを許さない。


 あいつを倒して洗脳を解いてやる。


 って、いやいや、そう考えるのはまだ早い。


 全ての技能が使えるとはいえ、あいつの"器用貧乏"の才能でそれほどの洗脳ができるとは思えない。


 ダメだな、俺は。


 風香のこととなるとすぐにヒートアップしてしまう。


 気が付くと風香と六角が無言で見つめ合っていた。


 何をしているんだ?


 まさか本当に洗脳を!?


 早く止めないと!


 そう判断し、駆けだそうとする。


「あら風香、こんなところに...って、六角?」


「あわわ」


 思わぬ第三者の登場により足を止める。


 水瀬と山崎だ。


 短いやり取りの後、二人は風香を連れてどこかへ行った。


 ちょうどいい、六角に問いただそう。


 六角はしばらく一人で技能を使って何かしてた様だが、そろそろ夕飯の時間のころにようやく切り上げた。


 部屋に戻ろうとしているのかこちらの方にやってくる。


 六角は俺に気づいたようだが、見て見ぬふりをしている。


 そのまま俺の横を通り過ぎようとしていたので、六角の正面に回り込む。


「待てよ、六角」


「なんだ?悪いが少しばかり急いでいるんだ、手短に頼む」


 面倒くさそうに言い放つ。


 それにイライラしつつも、聞きだしたいことを問う。


「最近、この時間は風香と一緒にいるみたいじゃないか」


「ん?そうだが」


 六角が嫌そうな顔をする。


「何故、二人だけであそこにいるんだ?」


「一緒に自主訓練をしましょう、とのお誘いを受けたから」


「風香から誘ってきたのか?」


「ああ、そうだな」


 何故、こいつがそんな誘いを受けるんだ?


「お前は風香の何なんだ」


「俺の認識ではクラスメイトだが?」


 本当にそうなのか?


「風香に何かするつもりなのか?」


「はい?なぜ俺をそこまで警戒するんだ?」


 ムカつく、その惚けた顔が。


「知っているぞ、オタクってのは犯罪者になりやすいって、お前もそうなんだろう?事実、伊丹たちに暴行を加えたことがある」


 そう言われて、六角があきれた表情になる。


「あのなあ、伊丹の件は完全に向こうの自業自得だろうに、何故犯罪者呼ばわりされねばならんのだ?」


 あの事件の後からだ。


 風香が六角に話しかけるようになったのは。


 クラスのみんながあいつを避けてたのに。


 そんなの絶対おかしい。


「風香に何かしたら許さない」


「アッハハハハハ、馬鹿かよ」


 突然笑い出したと思えば、馬鹿にされた。


「何だと!?」


「あいつのこと、好きなんだろ?」


 突然、そんなことを確認するように聞いてくる。


「何故!?...ああ、そうだ、風香のことが好きだ」


 隠すようなことでもないので正直に答える。


「そうかそうか、あいつ可愛いもんな、体つきも結構いいし、俺の好みでないといえば嘘になる、いやむしろ好みだ」


 六角が悪人のようないやらしい顔をする。


「っ!?」


 こいつ、やっぱり。


 風香に何かするつもりなんだ。


「しかも俺に少なからず好意があるみたいじゃないか、本気で俺のことが好きなら、俺のコレクションの一人として可愛がってやるのもよさそうだ」


 風香がお前に好意?


 そんなことあるはずがない。


 絶対にお前が何かしているんだ。


「お前っ!」


 思わず六角の胸倉を掴む。


 やっぱり、こいつは、最低なやつだ!


「風香に手を出したりしたら許さないぞっ!」


 冗談じゃない、こんな奴に風香を奪われてなるものか。


 六角が胸倉を掴んでいる手を引きはがす。


「だったら、お前が頑張ってあいつの心をつかんで見せろよ、俺に奪われる前にな、出来なければあいつは俺の玩具だ」


 その言葉に俺の中の何かが切れる。


 もう我慢できない。


「ふざけるなっ!」


 言葉とともに拳を飛ばす。


 しかし、あっさりとそれは躱された。


 自棄になってなおも殴りかかる。


 だが、それも単調な攻撃なためか余裕で躱される。


「親密になれるかもしれないちょっとしたチャンスを提供しよう、明日からお前も自主訓練に参加しろ、鈴木にお前が参加する旨を伝えにいくといい、まあ、せいぜい頑張りたまえ」


 避けながら余裕の笑みを浮かべて言ってくる。


 どういうつもりだ?


 俺は攻撃の手を止めた。


 まあ、いいさ。あの時間にこいつと二人っきりにするのは危険だ。


 それを防げるのなら。


「...わかった、風香は俺が絶対に守る、お前なんかに渡さない、渡すもんか」


 提案に乗っかってみるのも悪くはない。


 そうとなれば居ても立っても居られない。


「おい、ちょっと待った、焦って変なことをしないようにしろよ、あとその顔で行くのはまずいぞ、鏡を見ておけ」


 六角が何やら忠告のようなことを言ってくる。


 だが、今の俺にそれを聞き届ける余裕はない。


「分かってるさ」


 速足でその場を後にする。


 向かうのは六角に言われた通り、風香の部屋。


 部屋の前に着き、少し乱暴にノックをする。


「風香、今大丈夫か?」


「どうぞ」


 扉を開け中に入る。


 中には風香だけでなく、水瀬と山崎もいた。


「...」


『だったら、お前が頑張ってあいつの心をつかんで見せろよ、俺に奪われる前にな、出来なければあいつは俺の玩具だ』


 その言葉が頭の中に蘇る。


 あいつは風香を弄ぼうとしている。


 絶対、させるものか。


「どうしたの勇斗?」


 風香が俺のことを心配そうに見ていた。


『しかも俺に少なからず好意があるみたいじゃないか、本気で俺のことが好きなら、俺のコレクションの一人として可愛がってやるのもよさそうだ』


 再び頭の中に六角の言葉が蘇る。


 風香が六角に好意を持っている?


 そんなことあるはずがない。


 だが、万が一、そうだったら...


「風香は、六角のことどう思っているんだ?」


 思わずそう聞いてしまう。


「ふぇっ!?それは...その...えへへ」


 突然の質問を受けて、照れるしぐさを見せる風香。


 その反応だけで十分だった。


 あいつへの怒りが湧き上がってくる。


「あいつを信用しちゃダメだ」


 強い口調でそれを伝える。


「え?いきなりどうしたの?」


 風香が戸惑いの表情を見せる。


「あいつは最低なやつだ、風香を騙しているんだ、あいつと関わらないほうがいい」


 絶対に、信用しないでくれ。


 俺の言葉を信じてくれ。


「ねえ勇斗、何かあったの?」


「...」


 伝えるべきなのか、何も言わず納得してもらうべきなのか迷ってしまう。


 いや、風香は何も知らなくていい。


 すべて俺が何とかすればいい。


 風香の心を俺に向けてることが出来れば、風香は救われるのだから。


「訓練の後、いつも六角と自主訓練をしているのだろ?明日から俺も参加する、それを伝えに来た、それじゃあ」


「え?あ、ちょっと、勇斗!?」


 呼びかけを無視して部屋から出る。


 今は誰かと話す気にはなれない。


 一人になって頭をすっきりさせよう。



===============



―――水瀬視点


 風香の想いを確認した後、他愛ない会話をしていると空見がやって来た。


 彼は普段とは明らかに違う雰囲気で風香に対して六角を警戒しろと言って去っていった。


 その後、部屋の中が重苦しい空気で包まれる。


「どうしちゃったのよ勇斗、何があったの?」


 風香は戸惑いと心配の表情をしている。


「さあね、ただ事ではないような雰囲気だったけど」


 あの表情といい言動といい、普通じゃなかった。


「六角君を信じるなって...一体どういうことなのよ」


 そういえば、やけに強く言ってたわね。


 一体何があったのかしら。


「さあ、本人に聞いてみるのが一番だと思うわよ」


「本人、勇斗に?あの様子だと話してくれるかわからないよ?」


「違う、空見じゃなくて、六角の方」


 今、空見に聞いても何も話してくれないでしょうし。


「六角君に?」


「そう、あんな言われ方されるのは多少なりともあいつに原因があるはず」


「確かにそうだろうけど...勇斗は前から六角君のことをよく思ってなかったみたいだし、六角君が原因とは限らないよ」


 好きな人を悪く言いたくないのだろう。


 その気持ちは理解できるが、六角が風香と付き合うに足りるか、親友の私が確かめなくては。


「六角に原因がないようなら、空見に直接確かめる、でも今のあいつじゃまともな返事は期待できないと思うから」


「...」


 風香は気が乗らないようね。


 それなら、風香ぬきで六角に確かめるのみ。


「まあ、いいわ、気が進まないのなら私たちだけで確かめに行くから」


「うん...分かった」


 これが妥協ラインなのだろう。


 風香はしっかりとうなずいてくれた。


 夕食後、杏と合流し六角の部屋へと向かう。


 着いたところで、部屋のドアのノックする。


「なに、六角?あたしまだ入ったばっかなんだけど」


 ......え?


「えええ...?」


 杏も口をぽかんと口を開けている。


 誰、これ?


 女の人の声がするけど...


 扉を開ける。


 すると、湯気が顔を覆う。


 何故、こんなところに湯気が?


「うわ、ちょっ、開けんじゃないわよ馬鹿」


 再び女の人の声。


 でも、これって...


「笹倉さん?」


 声の主は笹倉さんだった。


「ん、六角じゃないの?誰?」


「水瀬よ」


「なんだ水瀬か、あたしは今お風呂入ってるのどっか行ってちょうだい」


 お風呂!?この部屋にお風呂あるの!?


 というかそれって、まさか...まさかよね?


 ああ、もう何が何だか分からない。


 隣にいる杏も顔を真っ赤にして固まっている。


「あのさ、いつまでも扉開けたままでそこに立たれると迷惑なんだけど」


「ご、ごめんなさい」


 急いで扉を閉める。


 何これどいういうこと?


 まさか、もうすでに六角は二次元から脱却してて、笹倉さんと付き合っているの?


 その笹倉さんが六角の部屋でお風呂に入っていてということは、つまりそういうことをした後ということで...


 これは面白...いや風香にとっては面倒なことになってきたわね。


 で、でも私、親友としてどうすればいいの?


 このこと風香に言うべき?


 でも、そうなれば風香は悲しむよね。


 どうしよう、どうしよう...


 あ、あきらめるのはまだ早いわ。


 笹倉さんは確かに男からすれば魅力的だろうけど、風香だって負けてないはず。


 こうなったら略奪よ。


 全力で私たちがサポートしなきゃ。


「れ、澪ちゃん...」


 杏は何とか意識を取り戻したようだが、まだぼーっとしている。


「杏、気をしっかり持って」


「六角君、笹倉さんと付き合ってるのかな」


「そう決めつけるのはまだ早いわ、それにあの二人が付き合っているという確かな証拠があるわけでもない」


 そうだよ、あの二人が付き合っている何て証拠はまだ見ていない。


 まだ風香に希望はあるのよ。


 まずは、何が何でも六角に確認しなきゃ。

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