武器を作ろう
神器、それは付与魔法により技能を付与された物体のことを指し、魔力を流し込むことでそれを使うことができる。
それを用いれば、適性の無い技能を行使することができ、また、限定的な付与をすれば技能の制御を自動化することもできる。
俺が行おうとしているのは限定的な付与。
膨大な魔力を持つ俺にとって、集中して意識することなく技能を制御し、また一度に使える技能の数を格段に増やすことが可能になる。そんな魅力的な武器となりえる。
と言う訳で、いくつか神器を作ってみました。
一つ目。
懐・中・電・灯~☆
魔力を使って光ってるから、正確には電灯じゃあないけどね。
文献を漁った限りでは、付与魔法で付与する対象がほとんどが金属の武器やアクセサリーの類だったが、この懐中電灯は土属性魔法で作り上げた岩の形を整え、それに光属性魔法の付与を施した何とも酷く見た目が残念な物となった。
神器と言うよりも、魔力を通すと光る岩ですといった方がいいような代物だ。
ちなみにこれ、魔力流し込む魔力が多いほど明るくなるから、下手をするととんでもない明るさを発揮してしまったりする。
なので、明るさを一定に調整したランタンタイプの照明具型神器も作ってある。
このランタンタイプは結構便利だ。何せ、月明り星明りのないこの世界において夜間に城の中を歩くことになると真っ暗なのだよ。持ち歩きの照明も蠟燭なので、傾けたりして落とすとすぐに足元を見失う。
そんな、持ち歩きにくい物に頼らざるを得ないので、現代っ子にはとても不便だ。
最も、俺は夜目の技能があるので明かりがなくても問題はないが...人は光があると安心感を得られるのだよ。
二つ目。
蛇・口~☆
コックが無いし、水道にも井戸にもつながっているわけでもないという、もはや蛇口と呼んでよいのかわからない水属性魔法が付与された蛇口。
土属性魔法で材料を作り、水属性魔法、火属性魔法を駆使して作った陶磁器だ。
土属性魔法でつくた物そのままじゃ衛生的になんかいやだからね。まあ、土製だからこれでも不安に思ってしまうが。金属性になれた生活が仇になってる。
魔力を流せば水が出てくる。こいつは出る量が一定になるように調整されている。
最後に。
お・風・呂~☆
これも陶磁器の風呂。先程の蛇口で出した水を温めるために火属性魔法を付与した。一人用だが部屋があまり広くはないのでかなりのスペースを取られている。
排水はしっかりと地面の中にパイプを通して処理するようにしてある。
この世界のでは一般に風呂は普及していない。王族でさえも1週間に1度入るくらいだという。王城にも一応あるにはあるが、王族専用だとか。
よって、この世界に来てからは風呂なんぞ入れていない。毎日入る習慣のある日本人にとって拷問級の事態だ。
だが、今日からそれも終わり。毎日訓練の疲れを湯で癒すことができる。
さっそく入ってみよう。
「おおー、久々の風呂だー、癒されるー」
異世界に来てからの疲れがほぐされる感覚だ。いや、極楽極楽。
風呂という物がこれほど素晴らしいとは思いもしなかった。
失って初めてわかるってやつだな。
だが、俺にはちょっと熱いかな。
元々熱い風呂が苦手で、烏の行水だった俺は速攻で湯船から離脱する。
湯水の処理をして、夜の空気に当たりに外に出た。
風呂に入った後の少し冷えた空気というのは最高だ。今は秋なので、もう少しすると寒すぎてこんなことできないだろうが。
空を見上げる。
うん今日も星一つない純黒の空だ。
街の明かりに阻まれていてもそれなりに星が見えていたあの頃が懐かしい。
さて、実験として照明やら風呂やらの神器を作ることは成功したから、次は武器だ。
素材は何がいいだろうか、やはり鉄で作るかな。この世界には、ファンタジーの定番、ミスリル、オリハルコンがあるようだが、希少な金属のようなので失敗できない。しばらくは練習だろうし鉄でいいだろう。
あとは、どうやって素材を調達するかだが...一応物質魔法か錬金術で作るという手段が可能性としてあるのだが、金属を具体的にイメージすることができず、まだその域まで扱えていない。
物質魔法はその名の通り、物質を生成したり物質を他のものに変えることができる技能で、錬金術は魔力から金属を生成、もしくは物質を金属に変化させることができる技能である。
バーニーかランデルにでも相談するかな。
ふと、誰かがやってくるのが見えた。姿は見えないが、明かりを持っているので一目瞭然だ。
「あれ、六角じゃん、どしたの?こんなとこで」
「笹倉か、ちょっと外の空気にあたりにな、お前は?」
「あたしはちょっと夜の散歩~」
今、やたらと夜を強調された気がする。
こいつ、こんなキャラだっけ?まあいいか。
「あれ、あんたの髪濡れてる?なんで?」
「......」
こいつ、結構目ざといな...風呂のことは隠した方がいいだろうか。
「うーん」
笹倉が俺に近づき、目をのぞき込んでくる。
「へえ、ふーん」
何か納得したような顔をすると、ニヤリとした顔で俺の耳元に口を近づけてきた。
「あたしにも、お風呂、はいらせて」
「!?」
何故こいつが風呂の存在を知っているんだ!?
「あ、何故?って顔してるね、教えてあげるよ、あたしは読心術の技能を持ってるからね、心を読んじゃえば隠し事も筒抜けなのさ」
心を読んだ...さっきのは技能を使っていたのか。
「ほら、さっさと入らせてよ、あたしこの世界に来てから一度もお風呂入ってないんだから」
「...何故、俺が、お前に、風呂を恵んでやらねばならんのだ」
「あんただけ風呂に入れてるって言いふらしてもいいの?」
「......」
「この国って王族の人でさえお風呂に入れる機会が滅多にないそうじゃない、私たちが入らせてって頼んでも断られてたし」
「......」
「みんなうらやましがるだろうね~、王様から生意気だって言われちゃうかもね~、そうなったらいろいろと面倒くさいことになるだろうね~」
「......」
「あれ~、だんまり?よくないなー、あたしの口が滑りまくっちゃうぞ?」
仕方ない、言いふらされると面倒なことしかなさそうだ。
「...わかったよ、ご案内いたします」
笹倉を連れて自室へ戻る。
「ちょっと、ここはどこよ?」
疑うような視線を向けてくる。
「俺の部屋だ」
途端に、警戒するように後ずさる。
「...あたしをここに連れ込んで何する気?」
「何もしねーよ、俺が入った風呂はここにあるんだよ」
そう言いながらドアを開けて中を見せる。
「あ、ほんとだ、でもさ、なんで間仕切りもカーテンもなく、丸見えなのよ」
「ここは俺の自室で、俺一人が入ることしか想定していないからだ」
「これだから男は...はあ、まあいいや、あたし入るから、出て行って」
「あ、おい?」
強引に部屋から閉め出される。自分の部屋なのに閉め出されるとは...
「あれが神器だってことまだ行ってないが大丈夫なのか...?」
すると、すぐに出てきた。
「ねえ、どこからお湯を出すのよ?」
どうやら、予想通りのことが起きていたようだ。
「あの風呂は神器なんだよ、蛇口があっただろ?それも神器だ、蛇口は水が出てくるようになっていて、その水を浴槽で温めるんだ」
「へえ、神器って言う割には無駄にショボいねぇ」
「試作品だからいいんだよ、そのおかげで風呂に入れるんだから感謝しろ」
「あっそ、それじゃあ、このドア開けちゃダメだよ」
「...フリか?」
「開けたら手裏剣投げるよ?」
いや、何でその武器がこの世界、というかこの国にあるんだよ...
「わかった、覗かねえよ」
そう言うと、笹倉はドアを閉めた。
中から水の音が聞こえる。
自分の部屋で、仮にも女子が、風呂に入っているのは何とも落ち着かないな...某怪盗三世ならば喜び勇んで跳躍と同時に下着のみになり襲い掛かってるのだが。
うーん。なかなか自分の理性を試される所業だな。
ひたすら自分の部屋の前で悶々としながら待ち続ける。
待ち続ける。
...待ち続ける。
「長っ、どんだけ入ってるつもりだよ!?」
もう1時間は経っているだろうか。風呂を沸かしている時間を入れても結構長時間入っている。
「おい、まだ終わらんのか?」
ノックして問いかける。
「うるさいわね、久しぶりのお風呂なんだからもっと楽しませてよ」
まだ入ってるつもりなのかよ!のぼせないのか?
それよりも、まだ俺を締め出す気か!?
自分の部屋に気兼ねなく入れなとは、なんて理不尽な。
あれだよ、これは少しお灸をすえる必要があると思うのだよ。
神器の作成練習のついでだ。あれをやってやる。
今身に着けている衣服に技能を付与していく。
よし、準備は整った。行くぞ!
勢いよくドアを開ける。
「さ・さ・く・ら・ちゅわぁ~ん!」
跳躍とともに衣服が消えて下着のみになる。そして、そのままダイブ。
俺は衣服に空間魔法による転移を付与した。魔力を流せば、ちょっと後ろに転移するようになっている。
ちなみに、俺自身の空間転移はまだ使えていないんだよな。せいぜいもので手一杯だ。
そして、これぞ俺の再現した、怪盗三世ダイブ!!
「キャー!!」
宣言通り手裏剣が飛んでくる
「甘いっ、甘いぞっ、ハーッハッハー!」
念力魔法で軌道を調整し回避する。
「っ、この変態!」
手裏剣とは違う何かがすっ飛んでくる。
って、あれじゃん。お約束のボクサーグローブが先端に付いたばね。どうやって調達してんだよ。
「なんでそれがあるのーー!?」
そんな叫びをあげて、俺は壁に激突しそのまま気絶した。
翌朝、床の上で目を覚ます。
あの後、俺はそのまま放置されたようだが、部屋の片づけはちゃんとやってくれてたみたいだ。
デスクの上に書置きがあった。
『明日からもお風呂は使わせてよらうわよ。P.S.変なことしてきたら次はない 笹倉』
...うん、絶対に成功しないのが怪盗三世ダイブなんだよ。
分かってたけどなんか物悲しい。
まあ、せめてお灸がしっかりと効いていえばよいが。
そして、これからずっと部屋が占拠され閉め出されるイベントが発生するのだな。
そんなことよりも、武器の素材の調達の相談をしにランデルのところに行こう。
訓練の前に、ランデルの元へ行き、神器の素材の相談をすると、簡単に手に入ることになった。
相談を受けたランデルが王様に掛け合ってくれたのだ。
王様は目を輝かせ、神器というのは長い間新しいものが作られていない、素材を提供するから神器を作って欲しい、とむしろお願いされた。
よっぽど珍しいんだな、付与魔法持ちというのは。
何を作ろうかな?武器なら飛び道具が欲しいから、出来れば銃が欲しいが...構造がいまいちよくわからんからボウガンを作ってからそこから改良していくのがいいかな。
それと、防具にも何かしらの付与をしようかな。あと、アクセサリーの類で何か作ろう。
現代知識があればいろいろと面白いのが作れそうだ。
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自主訓練の時間となった。
いままでは襲撃者こそいたものの、1人だけでの訓練だったが、今日からは鈴木も参加することになる。
「今日からよろしくね、六角君」
「ああ、よろしくな」
「それで、六角君はいつも何をやっていたの?」
「いつもは技能の練習だ、何の技能とは決めずに思いついたままにやってるな、一緒に訓練をするとはいったが、技能の練習をするつもりだし、各々自由にやるってことでいいか?」
「そっか、うん、いいよ」
今日は何を練習しようか、そうだな...あ、物質魔法もしくは錬金術がいいかな。いずれはそれで素材まで作れるようになりたいからな。
手始めに錬金術かな、目的は金属を作りだすことだし。
イメージとしては...アルミなんかいいかな。武器にはできないが、アルミホイルなんかよく使ってて一番見慣れてるからね。
アルミのキューブをイメージする。
銀色のキューブが生成された。
軽い。ちゃんと成功したようだ。
さて、出したのはいいけど、どうしよっか。
あ、そうだ。物質の生成と並行してあれも練習するか。
俺が使おうとしている技能は魔力変換。
魔力変換は物質やエネルギーを魔力へと変換することができる、物質魔法や錬金術とは対の魔法となっている。
魔力変換を使って作りだしたアルミを魔力へ戻す。
ふむ、うまくいってるな。
次は錬金術の真骨頂、土塊を金塊に変えるというのをやってみようか。
まあ、金塊じゃなくて今度もアルミの塊なんだけどね。
土属性魔法で作りだした岩に錬金術を行使する。
徐々に岩が銀色に変化していく。
今度も成功。
ふむ、面白い。次は何を作りだそうか。
次々と物質の生成と錬金、魔力への還元を繰り返していく。
「何してるの、六角君?なんだか楽しそう」
突然声がかかる。
「うぉっ!」
近い...集中してて気が付かなかった。
「...物質の生成と魔力への変換をやっている」
「へえ、すごい、そんな技能があるんだ」
「まあ、"器用貧乏"だからなもっと別の才能でこのこういう技能を持っていれば、今よりもっと複雑な生成や物質への干渉ができたのかもしれんが」
「そんなことないよ、全部の技能使えるなんてすごいよ、それに君が言うほど扱えてないって感じでもないよ」
やけに褒めてくるな。
「そうか?まあ継続は力って言うからな」
「これ、ずっとやってたんだ」
「ああ、そうだな」
「六角君ってこんなに努力する人だったんだね、学校だといつもやる気なさそうにしてる...というか寝てたから、ちょっと意外」
鈴木が柔らかい笑みを浮かべる。
それに見とれて、どくんとと心臓がなった。
「...興味のあることに対してならこれくらいするさ、せっかく技能が使えるようになったんだ、いろいろやってみたくなるさ」
「授業には興味がない?」
鈴木がいたずらっぽい目で尋ねてくる。
「ない」
俺はそう断言する。
「そんで、お前は何をしてたんだ?」
「私?私は風属性魔法、こんな風にね」
地面の砂を少しさらって、渦を巻くように指先でくるくる回し始める。
「すごいもんだな、小さいから制御が大変だろうに、俺がやるにはもっと量を増やしてやっとだ、やはりそこは才能の差が表れるんだな」
「ふうん、そうなんだ、結構簡単にできるのに...あ、忘れてた、そろそろやめにしない?」
「ん?ああ、もうこんな時間か、そうだな、切り上げよう」
気が付かぬ内に少し暗くなっていた。かなり没頭してたようだな。
「んじゃ、また明日」
「うん」
そう言葉を交わして、俺たちは訓練場を後にする。
さっそく、素材を受け取りに行くとするか。
俺が向かっているのは王城内にある倉庫。そこに王宮で雇っている鍛冶師のために用意された鉄やミスリルがある。
王様からはそこにある素材を好きに使ってよいと、言ってくれた。
その中の鉄が入った箱を一つ取り出し、自分の部屋に運び込む。
さっそく始めたいが、もうそろそろ夕食の時間だ、行かないと。
みんなと一緒に食事をとり、部屋に戻る。
さあ、始めるぞ。
箱を開けて中身を取り出す。ご丁寧にいかにもな形のインゴットが中に入っていた。
まずはナイフでも作ってみるか。
錬成術を使い。インゴットをいくつかくっつけ、適当な大きさにした後、刀身の形を作る。
うん?ちょっと失敗。
修正を試みる。
うーん、なんか形がいびつになるぞ。
そこは練習するしかないか。
そこから、サイズを水増ししてサーベルや刀を作ったりロングソードを作ってみたりといろいろ試す。
それに、没頭していると、ノックとともに笹倉が入ってきた。
「六角ー、お風呂入るから出てけー」
開口一番にそんなことを言い放つ。
「あ、あのー、ここ一応俺の部屋だからね?ノックしたのはいいけど異性の部屋に入るんなら返事くらい待つべきだと思うんですよ」
「そんなのどうでもいいからさっさと出てけ、あたしは今すぐにお風呂に入りたいの」
俺の言葉は無視され、また部屋から閉め出される。
ここ、俺の部屋なのにな...なんでこんなことになってるんだろ。
これはきっと、ディケ...いや妖か...それとも神様のせかな?
あいつは自分の部屋で同年代の女子が風呂に入っているという状況の中にいる俺の心の葛藤を理解しているのだろうか?
いいやきっとしてない、してたとしてもお構いなしに風呂のために俺の部屋に押し掛けるだろう。
はあ、どうせ長風呂だろうし剣作る練習でもしておくか。
追い出されるときに手に持っていた鉄塊を錬成術でいじくりまわす。
しばらくはこれの練習だな。すくなくともいびつな形がとれるまでは他のことはお預けだ。
昨日のお灸は全く意味をなさなかったようで、その日も長時間部屋を占拠されたのだった。