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才能を利とするか枷とするか

「おらおら、どうした?もっと頑張れよ、せっかく自主訓練につきあってやってるんだからさ」


 剣を振る音がすぐそばで聞こえた。どうにかそれを盾で防ぐ。


 この盾は片手持ちの盾で、最近装備し始めたものだ。


 視界が闇で覆われていて何も見えない。感知系の技能で相手の位置は大方わかるのだが、何をしているのか把握できない。


 俺のステータスがついに追い抜かれた。そのことが判明して以来、伊丹たちは隙あらば襲撃してくる。


 宮本の闇俗世魔法がかなり上達して、俺の体のみに作用させつつ俺の急速な動きに対応するまでになっていた。奴ら曰く黒いビッグフットのように見えるのだとか。


 瞬足、縮地、空中跳躍を駆使して逃れようとしてものがれられない。時間がたつほどに、自分の力が闇に奪われていくのを感じる。


 そうして闇から逃れようとあがいているうちに、伊丹が縮地で距離を詰めてくる。


「なんだよそれは、踊りの練習じゃねえんだからよぉ」


 俺は逃げようとして、縮地を使おうとするが―――


「なにっ!?」


 両足が何かに掴まれたように動かない。足から冷たさを感じる。おそらく伊丹が氷属性魔法を使ったのだろう。


 腕をクロスさせてやつの攻撃を防ぐ。


「背中がお留守だぜ?」


「...っ!?ぐあっ!」


 いつの間にか背後にいた清水にダガーで背中を切りつけられる。


 対応できずにまともにくらってしまった。闇から逃れることに必死になって感知系の技能の使用を怠っていた。


 今装備している防具は背中の部分が皮になっているので、まともに攻撃を防ぐことができないので、背中がざっくりと切られる。


 急いで、足を拘束している氷を溶かす。


 空中跳躍で上空に逃れ、念力魔法を使って浮遊する。


 そして、高速思考を使い、急いで回復魔法による治療を行う。それと同時に周囲に高威力の炎を撒き散らした。


 温度を高過ぎたのか訓練場の一部が溶けだす。


 魔法系の技能で威力の高い攻撃を繰り出すことは魔力をつぎ込みさえすれば可能なので、魔力の有り余る俺には簡単なことだったが、何せ"器用貧乏"が才能なのでうまく操作できずに、今のように周りへの被害が及ぶ場合が多い。


 ゆえに俺は普段から高威力の魔法を使うことを控えている。もっとも、今みたいに戦闘状態ではなく落ち着いた状態ならうまく制御できるようになってきたが。


 炎から逃れることに必死で集中が途切れたのか、宮本の闇から逃れることに成功する。


 伊丹と清水がそれぞれ氷属性魔法と風属性魔法を使って自分たちの周りの火を消していく。


 それにより安全地帯を確保した宮本が再び闇属性魔法を行使しようとする。


 俺はそれを許すまいと新たに技能を使う。


「なんでだよ、どうしたんだよ、技能が使えない!?」


 宮本が錯乱しだす。


 俺が使ったのは魔力阻害。魔力の働きを妨害する技能だ。現在は宮本の魔力の働きを妨害するように発動させている。


 魔力阻害を解き、隠れ身と気配操作を使って宮本の背後に移動する。そして、身体強化と剛力を使って思いっきり蹴り飛ばした。


「ぐぁっ」


「宮本!?くそっ」


 飛ばされた宮本は訓練場の壁に激突すし、動かなくなる。


 すぐに俺は残りの二人に向かう。


 まず狙うのは清水、こういうときは各個撃破が基本だ。


 水属性魔法を使って霧を発生させる。


「くそ、どこだ?」


「はっ、気配が隠れてないじゃないか、そんな隠れ方が通用するかよ!」


 伊丹が必死に俺は探しているようだが、気配感知を持つ清水は俺の位置を正確にとらえてくる。


「もらったぁ」


 ダガーで斬りつけてくる。


 だが、そこには俺の気配(・・)しかない。


「なっ!?気配があるのに...なんで?」


 清水が驚愕の声を上げる。


「気配操作は気配を消すだけじゃないんだよ、別のところに気配を置くこともできる、そもそも気配を消せる俺がそれを使わない時点で罠だと悟れよ」


 そう言って、再び身体強化と剛力を使い、清水を蹴り飛ばす。


 伊丹を探してみると、とっくに霧の範囲外に逃れていた。


 縮地で一気に接近する。


 すると、伊丹は自身と俺を取り囲むように、氷の壁を作りだした。


 空間が直径10メートルほどにまで限定される。


 さほど気に留めることなく突っ込み、バスタードソードを逆袈裟に振る。


 伊丹は臆することなくそれを自分の剣で受け止める。


 二撃目を叩きこもうとする。


「っ!?」


 突然、握っていた手に強烈な負荷がかかり、スポンッと抜けるように剣を手放してしまう。


 伊丹が俺のバスタードソードを狙って、剣を打ち付けてきたようだ。


「うまくいったな。おらっ」


 体勢を崩した俺は次の攻撃をうまく避けきれず、一瞬の内に腕、脇腹、足に斬撃によるダメージを受ける。


「ぐぅ...」


 脇腹が少し深く斬られていた。思わずうめき声が出る。


 普通なら体が反応しきれるはずのない動きだ。剣術による型を使ったのだろう。剣術は剣での攻撃の際に型のイメージをすることでその動きを実現してくれる。


 かなり頑丈な皮の防具でよかった。普通の皮だったら俺はもっと深く傷を負っていただろう。


 氷の中に閉じ込めたのはこれを確実に当てるためだったのか。


 この中にいるのはまずい、剣術で一瞬のうちに肉薄し攻撃される。


 炎属性魔法で氷を一瞬で溶かす。


 氷の外ではとうに清水と宮本が動ける状態になっていた。


「めんどくせえ、またやるか」


 風属性魔法で酸素を分離していく。


 こちらのやろうとしていることに気付いたのか、伊丹と清水が全力でこちらに接近してくる。


 接近されると俺が吸う酸素までなくなりかねないので技能を解く。


「ちぃっ、仕方ねえ、逆境超越!」


 逆境超越は莫大な魔力と引き換えに自分の身体能力を爆発的に高める技能。使った後の反動がものすごく重い。


 これでステータス上はこいつら全員を上回ることができるが、こんな早期に見せてしまうとあとがなさそうなので、出来れば使いたくはなかった。


 一気に仕留めるべく、高速思考を発動し、技能をどんどん使っていく。


 まずは強い光、防ぐにしても目を隠す必要があるので一瞬こちらの姿を見失う。


 その隙をついて、隠れ身と気配操作を使う。


 隠れ身と気配操作は、自分がはっきりと認識されている状態で使っても効果は薄い。今のように俺を認識する手段を一瞬奪う必要がある。


 清水と宮本が、ありがたいことに固まるようにして周囲を警戒している。


 こちらの姿を認識されないうちに二人の顎にアッパーを決める。


 これで伊丹には認識された。隠れ身と気配操作を解く。


 魔力阻害で伊丹の技能を封じる。そして縮地を使って一気に接近した。 


 その時、視界の端に見知った人物が現れた。


 戦闘中にも関わらず、そちらに気を取られてしまう。いつの間にか魔力阻害を解いてしまった。


「よそ見てボケっとしてんじゃねえよ!」


 剣術を使った攻撃を仕掛けてくる。


 急いで金剛を使い防御するが、咄嗟だったため防御が甘く、体の数か所にかすり傷をもらいつつ、派手に吹っ飛んでしまった。


「っ、何してるの!?六角君、大丈夫?」


 先程の姿は鈴木だった。ガチの交戦状態に驚いて駆け寄ってくる。


「こいつの自主訓練に付き合ってやってるんだよ、なんて親切なんだろうなぁ俺たち」


 平然とシラを切る。


 その言葉に、反応して鈴木が伊丹に食ってかかる。


「俺たち?...清水君と宮本君も...六角君をこんな傷だらけにして何が訓練よ!」


「おいおい、六角の心配はするのにあいつらの心配はなしかよ」


「っ、あの人たちは気絶してるだけみたいだし心配いらないでしょ!」


 鈴木が若干顔を赤く染めつつ言い返す。


 一応、結構強く殴ったから、顎の骨が砕けてる可能性もあるとは思うのだがなぁ。


「それで、なんでこんなことになってるの?」


「ああ、めんどくせえ。ほらお前ら行くぞ」


「あ、ちょっと」


 伊丹は取り巻き二人を無理やり起こして、そそくと去っていく。


 鈴木と伊丹がそんなやり取りをしている間に、俺はのほほんと傷の治療をしていた。


「六角君、怪我は?大丈夫?」


 かなり心配そうに尋ねてくる。


「ああ、問題ねえよ、ただ1ヶ所結構傷が深くて治癒が遅れているがな」


 脇腹の傷を見せる。


「任せて、これくらいなら私が何とかできる、【ヒール】!」


 あっという間に傷が治っていく。


「助かった、ありがとな」


「ふふっ、どういたしまして」


 直前まで笑顔だった顔が、真面目な表情になる。


「...いつもあんなことやってるの?」


「ん...そうだな、大体この時間にいつも、な」


「あの時のことそんなに根に持ってるのかな...?」


「そうじゃないのか?じゃなきゃ毎回きつい仕返しされるのを構わずに向かってくる理由がないだろ」


「きつい...仕返し?」


 冷たい眼差しで聞いてくる。


「ああいうのには、ちょっと痛い目に合ったくらいじゃどうにもならんだろうからな」


「何をしたのかわからないけど、それも一因にあるんじゃないかな!?」


 ぷりぷりとした表情で怒られる。


「...そう言えば、お前はどうしてここに来た?」


「あっ、話題をそらしてる!ここに来たのはなんかすっごい大きな炎が見えたから、それよりも、君の仕返しというのは毎回毎回やりすぎなんだよ、だからあんなことしてくるの!」


「うーん、そうか?でも今更スタンスを変えろというのもなぁ...」


「じゃあ、あの人たちと仲直りしなさい」


「俺が?あいつらと?そもそもあいつらの方が俺につかかかってきてるんだ、そんなことをしたところで変わらんよ」


「うーん...でもこのままだと六角君、今日程度の怪我じゃすまなくなるんじゃないの、"器用貧乏"だからどんどんステータスの差が開いてるんでしょ?」


 本気で心配してくれるのはうれしいが、無理なものは無理だろう。


「まあ、せいぜい対応策を練っておくさ、それじゃあな、助かったぜ、ありがとな」


 さっさとその場を後にしようとすると――


「あ、ま、待って、それなら、明日からはこの時間に私と一緒に自主訓練しようよ」


「はい?」


 ...何ですと!?いつ、どこで、何故、どうやって、そんなフラグが立ったんだよ。


 思わず鈴木の顔を凝視する。


「私、"治癒師"だから怪我してもすぐに治せるから、怪我してもすぐに治すことができる、私がいたほうが安心でしょ?」


「まあ、そうだが...」


「じゃあ、決定ね、ダメとは言わせないよ」


 やけに押してくるな。


「......了解」


「うん、それじゃあまた、明日からよろしくね」


「おう」


 強引に約束を取り付けて、鈴木は訓練場から去っていく。


 鈴木のことは、今は一旦置いておくとして、伊丹たちへの対処を考えねば。


 このままいくとステータスがどんどん離されていくばかりだ。そうなれば、簡単にボッコボコにされてしまうだろう。


 そろそろ、以前より考えていたことを実行に移すとするか。


 この世界には神器と呼ばれる、付与魔法で技能を何かしらの物体に付与したものがある。それを使えば、適性の無い技能をも使うことができる。


 そして、この付与には限定的な付与ができる。あらかじめ技能の制御が決められた、プログラム実装するかのような付与だ。


 現在の俺は、技能は腐るほどあるものの、一度に発動できる技能には限りがある。通常時に一つ、高速思考を使って四つほどが限界だ。それ以上はイメージに集中することができない。


 技能の数はあるのに同時に複数使うことができないないとは、悲しいものだ。


 だが、限定的な付与をすれば、魔力を流し込むだけでそれを使うことができる。


 そして、付与魔法を持つものは極めて貴重で、付与できるのは、自分が適性を持つ技能のみという制約がある。


 "器用貧乏"の俺にとって、ここが一番の強みだろう。これを使えば一気にいろんなことができるようになりそうだ。


 何せ、技能を付与するときは落ち着いた状態ですることになるからな、本来戦闘中には出すことのできない精度で技能を使うことができることになる。


 高威力の魔法系技能を行使しても周りの被害を抑えることができそうだ。あれは周囲への被害が枷になってなかなか使うことができないからな。


 その問題がクリアできるのなら遠慮なく使わせてもらう。


 それに、そろそろ一時的に装備していた盾を替えたい、と思っていたところだ。新たに武器を作ってしまおう。


 次は飛び道具系の武器が欲しいな。銃なんか作れるかな?そこは努力次第として、とりあえずやってみよう。


 異世界で元の世界の知識を利用して、武器を作るとか心が躍るぜ。どんな面白いものが作れるのか楽しみだ。

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