訓練開始、初めての技能
「さて、気を取り直して、今日は各人に自分の武器を決めててもらうのと、技能を把握して使用できるようになってもらおう」
影谷が去った後、重苦しい空気の中、バーニーが口を開く。
「まず、武器に関してだが、一級品の装備を大量にかき集めてきた、好きなものを取っていってくれ」
バーニーが指し示す先には大量の武器防具が運び込まれていた。かなり選び放題だからうれしい限りだ。
「勇者3人については、特別な武器を与えます、クラウ・ソラス、デュランダル、カラドボルグ、の3本があるので、この中からお好きなものを手にしてください」
ランデルが大量の武器の中から、豪華絢爛な装飾がなされた剣を3本取り出した。
空見がバルムンクを、速水がホヴズを、四条がカラドボルグを受け取る。
「その3本は神器と呼ばれ、付与魔法により技能が付与されたものです、魔力を流すとその剣に込められた技能が発動するようになっています、何がどう付与されているのかはわかりませんが、クラウ・ソラスは纏う光によって魔を滅ぼす、デュランダルは何物にも滅することかなわず、カラドボルグは雷を纏いそれを操る、と言い伝えられています」
聖剣やら伝説の剣やらが3本もあるのかよ。過去にどんなことがあったのやら。
といっても救済者を抱えてるこの国は帝国との戦争で真っ先に矢面に立つことになるだろうからそういうのが集まるのは当然といえば当然か。
皆が思い思いの武器を手にして、感触を確かめているようだ。
俺も自分の武器を決めなくては。
どれがいいかな、"器用貧乏"のおかげで技能によって武器の選択が狭められていないのだ、どうせなら好きな武器を選ぼう。今まで剣なんて持ったことないからどれが合うかなんてわからんからね。
せっかく剣と魔法のファンタジーな世界に来たのだ。まずは剣だよね。ゲームだと大振りの大剣と遠距離武器を使い分けるスタイルだったから、まずは大剣だ。
両手用の大ぶりの剣を探し手に取ってみる。
おお、ここに来る前の俺だったら持ちあがることもないような鉄の塊が普通に持ててるぞ。やっぱ異世界召喚って素晴らしい。
だが、せっかく"器用貧乏"の才能でたくさんの技能が使えるのだ。戦闘中に両手とも使って1つの武器というのは何とも味気ないな。
片手で持てるくらいの剣を探そう。ただし、大ぶりの方向性は捨てずに、ロマンは大事だよ。もう一方の手は後々考えよう。
「スズトはどんな武器がいい?」
目的のものを探しているうちに、バーニーから声がかかる。
「片手で持てて、かつ大振りの剣を探しています、せっかくの高いステータスなので大ぶりの剣を使いたいのですが、"器用貧乏"おかげででかなりの種類の技能が使えるので片手を余らせて置きたくて」
「そうか、それなら...うむ、これだな」
そう言って一本の剣を持ってくる。
「こいつはバスタードソードって言ってな、片手でも両手でも持てて、かつ斬撃も刺突もこなせる、片手でも持てる長剣だからお前の希望に合うだろう」
むむ、片手の限界はこのくらいか、思ったよりは短いものになったが、斬撃、刺突両方こなせるのはいいな。手札はより多くがゲームでの俺の信条だからな。
剣を受け取り、軽く振ってみる。
うん、ちょうどいい。両手用の剣だと持てないことはないが、片手だと長すぎて手に来る荷重が大きすぎたんだよな。
「ありがとうございます、武器はこいつで頑張ってみます」
バーニーに礼を言って、防具の選定に移る。
防具に関しては...重くないのがいいな。軽戦士くらいの格好でいいだろう。
俺は急所だけ金属で保護されている皮が主体の動きやすい防具を選んだ。
何の皮を使っているのかわからないが、相当頑丈だ。
鎧とか着たことないしこんなので十分だろう。というか、重いものを着たくない。
自分の装備が決まったところで周りを見渡してみる。
小悪党3人組が視界に入った。
伊丹が西洋風の鎧に剣といういかにもな騎士の格好をして、フルフェイスの兜をかぶっていた。
思わず吹き出す。立派な騎士に見えるのだが、中身がすべてを台無しにしていた。
伊丹がぎろりと睨んでくる。おっといけない。
ああいうのは怒らせると碌なことが起きないからな。面倒だからあまり怒らせたくない。
別のところに視線を移すと、勇者3人が無駄にキラキラした装飾の鎧を着ていた。
派手すぎだろ...あの格好で戦闘したら速攻で汚れるだろうな。
3人の周りで国王たちが勇者の格好を見て満面の笑みを浮かべながら、勇者の格好を褒め称えているようだ。
おそらく奴らの趣味なのだろう。国王も教皇もあほみたいに宝石がはまってる服とか指輪とかつけてるからな。元の世界だったら成金にしか見えねえよ。
つか、奴らは勇者3人以外のメンツは眼中にないようだな。あいつら以外に話しかけようとしてないし。
さらに視線を移すと今度は鈴木とその友人、水瀬澪と山崎杏の姿が見えた。
あいつが学校にいるときは大抵あの3人でいるところを見る。水瀬はクールビューティーといった外見(ただ、身長が低いのが残念なところ)を持ち、山崎は内気な印象を受ける雰囲気がある。
現在、鈴木は魔法使いのようなローブ姿で杖を持っており、水瀬は俺と同じような皮でできている防具に職業が弓術師なので弓を持っている、山崎は職業が結界師で鈴木と同じようにローブ姿で短杖を持っていて、女子によくあるお互いの服装を褒め合うという行為をしているようだ。
次に視界に入ったのは、ダガーを持ったくノ一だった。全身網タイツを着けているようだが、それを除くとかなり露出度が高い衣装になっている。
なんでこの世界にそんな衣装があるんだよ!?
心の中で全力でツッコミを入れる。
くノ一衣装に身を包んでいるのは笹倉理央、職業が忍者で黙っていれば結構かわいいのだが、他人の不幸は蜜の味などと公言している性悪女。
奴はスタイルがいいから、あの衣装を着ていると...エロい。思わず注視してしまう。
すると、あいつがこちらの視線に気づいたようで、視線をこちらに向けてきた。
とっさに目をそむける。目をそむける直前に、あいつの口端がにやりとつり上がった気がした。
どうしたもんかと考えているうちに、バーニーより声がかかる。
「よし、皆。各自の装備が決まったところで次は技能を使ってみようじゃないか」
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「技能についてまずは説明しよう、技能ってのは魔力を使って超常的な現象を起こす神の技のことだ、何故我々がそれを使えるのかはよくは知らないが、我々が神を模倣して作られた存在だからということだ、そんで」
バーニーが誰もいない方向に手をかざす。
「【ウォーターカレント】!」
彼の手のひらの少し前の空間から水流が流れ出す。
おお、すげえ。本物の魔法だ。これが使えるようになってるのか!ヤバイ、ワクワクが止まらないぜ。
「今のは、水属性魔法だ、いまみたいな感じで技能に対応した現象を起こす、やり方としては...まあ、これがしたいってことをイメージすればできるさ?とにかく、ステータスカードにある技能とところに触れればその技能に対する説明が浮かび上がってくるからそれで頑張ってくれ、それと魔法系の技能を使うなら起こす現象の名前を付けておくといいぞ、イメージしやすくなるからな」
一番重要な技能の行使の部分だけ適当になったよこの人...
まずは、そうだなさっきバーニーがやっていたように魔法系の技能にするか。そして最初に使う魔法といえば、火属性魔法一択だ。
ステータスカードの火属性魔法が書いてある部分に触れる。
~~~~~~~~~~
火属性魔法
炎、熱を発生させ、其れを操る
~~~~~~~~~~
うん、想像通りの魔法だね。それじゃあ、やってみよう。
俺は手を前にかざして、集中する。
イメージ、イメージ...火、ライターで発生させるくらいの火...
.........
しかし何も起こらない。
ん、あれ?どうしたんだ、何故だ、何故なのだ!?これじゃあただの生物をデータ化してボールの中に閉じ込めるという驚異的な科学力を誇る世界にいる跳ねることしかできない魚型のモンスターみたいじゃないか!
ふう、ちょっと興奮しすぎた。
落ち着いて、周りを見てみるが、皆も同じ様子。
「...団長、先程の説明ではやはり無理ですよ」
ランデルから助け船がでる。
「まずは己の中の全身めぐっている魔力を感じ取ることが大切です、そしてそこに先程団長が申し上げた通り、イメージを流し込むと技能が使えます」
魔力...今までそんなものなかったからなあ、どうやって感じ取ればいいんだ?まあ、やるだけやってみるか。
巡っている...全身を巡り巡るといえば血が真っ先に来るよな。試しにやってみるか。
俺は再びライターの大きさの火をイメージする。
―――ボッ
おおーっ、できたぞ!
「すごいね六角君、それどうやったの?」
鈴木が目を輝かせて聞いてくる。もっと褒めてー。
「全身を魔力が巡っているって言ってただろ、だから血を意識してみたんだよ、そんでそこにイメージを流し込む感じでやってみた」
「へえー、そうなんだ、私もやってみるよ」
鈴木が杖を突き出して集中する。
「【ウィンド】!」
突如、風が吹き始めた。どうやら成功したようだな。
「うむ、うまくできたようでなによりだ」
「えへへ、ありがとね」
「どういたしまして」
さて、今度はもっと大きな炎を作ってみるか。
―――ボンッ
うお、びっくりした。イメージをはるかに超えた大きな炎が作りだされた。
むう。いきなり制御するのは難しいのかな。
次は一度成功しているライターくらいの火を飛ばしてみるか。
「【ファイアボール】」
ふよふよと、ゆっくりと移動していく。むむ、飛ばせてない...
もっと速い速度でイメージする。
「【ファイアボール】!」
―――ゴォォオオ
あ、今度はかなりの大きさの炎の塊がとんでもない速度で飛んで行った。
難しすぎる...
周りをみてみるとみんな一応は使えるようになっているようだ。俺よりちゃんと制御できてるみたいだし。
皆、球状の炎だったり、水だったりを思い思いに操作している。
ぐぬぬ、これが"器用貧乏"の代償だというのか。
よし、次はよくある火を纏うというのをやってみよう。
全身から炎が出ているイメージで...
―――ボッ、ジューーー
「ぎゃぁぁぁぁぁ!!!???」
熱い熱い、燃やされるー!!
すぐに、水属性魔法で大量の水を出して鎮火する。ちゃんと制御できてないから出す量多すぎたな。
そうだよねー火を纏おうとしたら普通はこうなるよな。俺はなんで馬鹿なのだろうか。物語の人物は何らかの特殊補正で纏う火の暑さに耐えていたのだろう。
「何やってんだ、スズト!」
「大丈夫、六角君!?」
「大丈夫か、六角?」
バーニー、鈴木、北上の3人が駆け寄ってくる。
「大丈夫...ちょっと制御に失敗しただけだから」
「【ヒール】!」
鈴木に覚えたての回復魔法をかけてもらう。
火傷がまるでそんなもの最初から存在しないとでも言い張るかのように、消えていく。
「ありがとうな、鈴木」
「うん、どういたしまして」
さすが回復魔法。俺も練習しなきゃ。戦闘中に自己回復ができるのは非常に便利だろう。何せ俺には莫大な量の魔力が備わっているからな。他のやつに比べたらいくらでも魔力の浪費ができる。
その後、みんなの魔力が切れるまで技能の練習が行われた。