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第3話 私たちのやり方 ~We must win, otherwise we'll die.~

「何やってるんですか、小夏。」

城内で響き渡る早見の声に、ビクッとする柚子野。慌てて何かを隠し、頑張って作り笑いをしている柚子野の様子を早見は見逃さない。

「それは…メロンじゃないですか。どうして…。」

早見風華は自分たちの今の現状には存在自体がありえない緑の食べ物を眺めた。まるでラーメン屋で急に寿司が出てきた感じだ。

「違う!違うよっ!、こ、これはメロンなんかじゃないもん、えっとね、えーと、………そう、新しい武器だよ!これでトゥーテーラなんか一発でボコボコのけちょんけちょんにできるんだよ!」

必死に目の前のメロンがメロンじゃないことを訴える柚子野。しかし残念。メロンはメロンであってメロン以外の何物でもないのである。早見は、こちらの様子を伺ってくる柚子野の視線をイナバウアーでかわし、床に手をつき、そのまま後方倒立回転をし、しっかりと着地した後、4本足で、鷹が獲物を見つめるかの如くメロンをじーっくりと観察する。

「というかそのメロンどこから拾ってきたんですか?」

早見は根源的かつ一番気になるところを聞いてみた。

こんな悲惨的な現実の中で高級食材があるのはやはりおかしい。

「えっと、だから、その、こ、これはメロンとかじゃなくて…」

柚子野はメロンの隠ぺいに失敗し、混乱状態に突入した。彼女はパニクったら思考することができなくなる種族の人間だ。学校でよくある生徒会の演説なんて間違っても彼女にはできないだろう。


「だめじゃない、小夏を混乱させちゃ。」

と、どこか大人っぽい、けれどその中にも子供っぽさがある声を飛ばしたのは神坂だ。

「いやだってメロンがここにあるなんておかしいじゃないですか。あったとしてもメロンなんてとっくに腐ってるはずですし.......。」

早見は元の姿勢に戻り、乱れた服を整えながら言った。

「風華、小夏が何をしたかったかわかる?」

純粋な目でこちらを見てくる早見に対して神坂は半分苛立ちながら、何も顧みずに言う。

「もしかしてそのメロンで私を元気づけようとしてくれたんですか。」

「その通りよ。柚子野は最近元気のない風華を心配して、サプライズでメロンを用意して、風華にそれを食べてもらって元気を出してもらおうとしてたのよ。わかっているならわざわざ突っ込む必要なかったのに。」

神坂の表情には変化はない。神坂は自分の後ろに隠れている柚子野を、ほら、しっかりと言うように前に引っ張りだす。

早見は、メロンの出処はつっこむ必要あるでしょ!と心の中で反論しつつも、別に自分はいつでも元気なのに、と思う。でも、柚子野の心遣いには感謝をしたいと思い、お礼を言おうと口を開いた。


が、その口からは言葉が発せられることはなかった。


むしろ、早見の口は震えていた。

原因は爆音とともに少女たちの城が攻撃されたからだ。

鳴り響く轟音。徐々に崩れていく城。早見は全身から変な汗が出ていくのを感じた。震える唇を押さえつけ、一目散に城の外に出た。

「トゥーテーラ…。」

早見は言い慣れたその言葉を噛み締めた。そして、目の前にある事実を否定しようとした。

しかし、否定することができないのが事実というものである。

嗚呼、どうして平和で尊い日々はこんなにも早く消し飛んでしまうのだろう。

これからみんなで頑張ろうって時にこんなのって…

現れた3台ものトゥーテーラは今までにない攻撃力で侵攻を開始している。

地面が震えるほどのレーザー砲。

地表付近は真っ赤に染まっていた。まるで地獄のようだった。

太陽の存在感など、もはや皆無。

城ではいつものように柚子野の魔法で神坂と藍羅が出撃準備を始めている。

そんな3人を傍目で見ながら、早見は震えていた。

果たして勝てるのか。

相手は3台、こちらは2人。それも相手の機体性能は飛躍的に上がっている。今まではトゥーテーラが現れたとしても一台ずつであり、それらを倒してなんとか生き延びてきたが、3台なんて相手にしたことはない。ついにここで終わってしまうのか。そんな思いが駆け巡りながらも、早見は震える全身を無視して冷静を取り戻そうとする。



「じゃあ行ってくる。」

そう言って神坂は勢いよく飛び立った。藍羅は神坂の後に続いた。2人は一台のトゥーテーラに向かって突撃を開始する。相手が3台居ようが片っ端から一台ずつ葬っていけば問題ないはずだ。そう信じ、常にポジティブに考える。箒に乗った神坂は機関銃を取り出し相手の後方へと撃ち放つ。

「くらいなさいっ!」

神坂渾身の弾幕が放たれた。どんな危機が来ようとも、柚子野の魔法で強化されたこの機関銃で全て退けてきた。これで倒れない相手はいないはず。

だが打ち放たれた弾は相手にヒットすることはなかった。別のトゥーテーラがレーザー砲で神坂が打った弾を消し飛ばしたからだ。神坂は嫌な予感がした。

「くっ…こいつら連携してる!?」

機械が連携をするのはいたって普通のことであるが、まさか殊あんなでかいやつに限ってお互い連携を取っているなんて思いもしなかった。


藍羅は攻撃のタイミングを失っていた。いつもなら神坂の攻撃がヒットした後に斬来剣でとどめをさせば終了だった。でも今は状況が違う。神坂の一撃が決まらなかった。藍羅は斬来剣を持つ手が震えているのを確認しながらも、神坂と交戦中のトゥーテーラへと向かった。


城に戻って柚子野と合流した早見は動揺していた。今までにない緊急事態。焦らないわけがない。冷静になりたいがなれない。頭ではわかっているのに体は震えるばかり。もうどうしたらいいかわからない。何もかもが怖くなってくる。

その時早見は何か包まれるような感触がした。混乱しすぎて感覚神経がおかしくなったかと思ったが、そうではないことにすぐに気づいた。

「大丈夫。ぜったい大丈夫だよ。凛ちゃんとおーちゃんならぜったい倒してくれるよ。だから信じよ?」

早見は柚子野に抱きつかれていた。柚子野のハグは想像以上に力強く頼り甲斐があった。あの、すぐ混乱しがちの柚子野が冷静であることに早見は驚きを隠せなかった。ついさっきまでは、確かに柚子野はパニック状態だった。しかし、今の彼女は混乱などしてない。いざという時にはしっかりと戦況を捉える。仲間を信じる。そして自分のすべきことを遂行する。早見は柚子野の偉大さに気づいた。あぁ、強いとはこのことだったのかと。

早見は何か心にこみ上げるものを感じた。そしてそれは水として自分の目から溢れ出ていたのに気づく。柚子野は思っていた以上に強く、そして自分は思った以上にもろかった。今までのみんなとのやりとりが走馬灯のように早見の脳裏をよぎる。

「ご、ごめんなさい…、うぅ…わ、わたし…うぅ…っ…わたし……っ‼」

後悔の念がこもった涙はしっかりと城の床に落ちる。

早見は自分の力の無さを恨んだ。

みんなが協力して戦闘準備をしている時に、1人ただ動揺していた自分を憎んだ。

一体自分は何をしているんだろう。

もっと、みんなの役に立つようなことができたのではないか。

早見風華はそんな思いで溢れかえった。

「ごめんなさい…ほんとに…わ、わたし…役に立たずで……っ!!」


トゥーテーラの激しい攻撃により少女たちの城は次々に砕けていく。


その小学生のような手で顔を覆って泣いている早見をみて、柚子野はそっと、早見の真っ赤になった耳に、囁いた。

「何言ってるの?ふーちゃん。わたしたちはふーちゃんなしでは今頃生きてないよ。だから、役立たずなんてありえないよ。」

柚子野が、お世辞ではなく、本心でそう思っているのだと、早見は感じた。そう感じると、より一層涙が込み上げてくる。

後悔の念がこもった涙は、少女たちの住む城にしっかりと染み込んでいった。



自分の攻撃を無力化された神坂は高度を上げ、上から狙いを定めた。だが空気が薄くそんなに長い時間持たない。チャンスは一度きり。息を整え、先ほど自分の攻撃を邪魔してきたトゥーテーラに向かって最大火力で弾を放出する。トゥーテーラは横に長い楕円形であるので真上はガラ空きである。上にいれば、地上にいるよりもトゥーテーラからの攻撃も避けやすい。よって真上はトゥーテーラにとって最大の盲点である。


直後、ボゴっ‼という音が聞こえた。神坂は自分の放った弾がトゥーテーラの装甲を破る音だと思っていたが、そうでないと気づくのに時間はかからなかった。

「そ、そんな…あいつアームなんて持っていたの…ッ‼」

爆音とともにトゥーテーラの上部からアームが出てきて、自らの上面を覆い、神坂の散弾の嵐をすべて受け止めたのだ。

今まで盲点だと思ってた上部はトゥーテーラの弱点ではなかったのだ。

前提が崩れる。

今までとは違う何かがある。

(これはちょっとやばいかも…)

神坂は相手の能力を分析するが、対抗策が思いつかない。


瞬間。


ゴワッ‼と。


またも下からの急な爆音に、警戒心マックスで音源の方を見る神坂。その小さな手で汗をぬぐい、次は何が来るのかと構える。そろそろ息が辛くなってきたが今地上に降りるのは危険であると判断し、じっとする神坂。

しかし、その音の正体は意外にも彼女にとっては良いものだった。

神坂が下をよく見ると、トゥーテーラ本体とそのアームとの接続部分が藍羅の斬来剣によって斬られているのが見えた。

「りーん‼こいつのアームぶっちぎったぞ!」

声を張り上げる藍羅に、安堵する神坂。そしてもう一度銃を構える。1人では倒せない敵だって、2人なら倒せる。この時神坂は強く、本当に強くそう感じた。

「サンキュー相棒!」

言った瞬間神坂はトゥーテーラに向かい急降下しながら最大火力で弾を放つ。トゥーテーラの上部に弾幕が生じる。その弾幕とトゥーテーラの間にはもう隔てるものは何もなかった。神坂の攻撃はしっかりと命中し、一台のトゥーテーラは内部爆発を始めた。

神坂はこの瞬間藍羅と心がシンクロしているのを感じた。まるで共鳴しているかのような、言葉にしづらい謎の気持ち。これをきっと一体感というのだろう。神坂は全身から湧き出る幸せを体で感じていた。

「おい凛!早く城に戻って来い!自爆の巻き添いをくらうぞ。」

喜びに浸っていた神坂は藍羅のこの一言で目をさます。そうだ。早く戻らなくては。もしかしたら、この自爆で他の二台もぶっ飛ぶかもしれない。神坂は城だけを、みんなのいるところだけを見つめて箒を走らせた。もしかしたらそれが仇になったのかもしれない。


ドバッ!!と、急に全身が砕け散るような一撃が神坂を襲った。


華奢な少女の体は比喩抜きで100m以上飛ばされ、地面に叩きつけられた。


残りの二台のうちの片方のトゥーテーラのアームが神坂を襲ったのだ。


茶髪でセミロングの少女はぐったりとして動かない。


「りぃぃぃぃぃんッッッ!!!!!!!!!!」


叫ぶ藍羅の声は神坂には聞こえなかった。。


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