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第2話 私たちの生活 ~This is real.~

楕円型の謎の黒い金属の浮遊物体―トゥーテーラと呼ばれている―はこちらに向かってくる少女二人に向かって容赦なく極太のレーザー砲を打ちまくる。神坂はそれをひらりとかわすと同時に機関銃をぶっ放す。幸い相手は機体がでかいだけあって動きは鈍い。柚子野の魔法で強化された機関銃は威力が桁違いであり、神坂の体の100倍以上もあるトゥーテーラの後方部を一気に破壊する。その破壊された部分に藍羅の斬来剣が突き刺さり、トゥーテーラは内部爆発を始める。ターゲットを倒した二人は急いで城内に戻り、相手の自爆に備える。よくわからないが、トゥーテーラは機能停止になると自爆する機械らしい。


轟!!と。


大音量で自爆したトゥーテーラは多くのビルの残骸や木々を巻き添えにしていく。そして少女たちのいる城が少女たちの生存を象徴するかのように残る。

「ふぅー。いっちょあがりー。」

そう叫んだ藍羅朧の手に握られている斬来剣はもうすでにただの竹刀に戻っていた。脚力も普通の人間並みには戻っている。

いつものようにトゥーテーラと戦っている少女たちは一息ついた。

とりあえず危機は去った。


先の自爆で静まりかえった空間で、一人の少女は小さな声で、しかし、確実に聞こえるように言った。

「・・・一体いつになったら私たちは元の生活をとり戻せるのでしょうか。」

普段弱音など一切吐かず、しっかり者の早見風華が急にそんなことをいうのが珍しかったのだろうか、神坂がすぐにこたえる。

「そんなの明日かもしれないし、まだまだ先かもしれない。今倒したのが最後の一体だったかもしれないし、そうでないかもしれない。とにかく今は目の前の敵を倒す以外道はないわ。」

セミロングで茶髪の少女にそういわれると、早見は少しうなずき、自爆したトゥーテーラの元に何も言わず歩いていった。


藍羅は早見が城の外に行ったのを見計らって、神坂に話しかける。

「風華どうしたんだろうな。急に。トゥーテーラが出現したくらいで弱音を吐くようなやつではないのに。」

話しかけられた神坂はうまく考えがまとまっていなかった。けれども、振り絞って喉の奥から言葉を出そうとする。

「まあ、あの子、ちょっと働きすぎではあるからね・・・。少し休ませた方がいいのかもしれない。」


少しの間静寂が空間を支配する。

みな、それぞれに思うところがあるのだ。

どうしてこうなったのか。誰もがずっと考えてきては答えが出せないまま考えることを放棄してきたこの問題について。


太陽は今日も輝いている。どうして太陽はあんなにも輝いていられるのであろうか。少しくらい弱気になることはないのか。


あのとき。


平和という幻想は一瞬にして崩れた。


公園ででっかいあくびをしているおっさん。友達と二人で洋服を買いに来てテンションが上がりまくってる女子高生。自分の夢をかなえるためにひたすら努力を続けている受験生。とにかく何の変哲もない、平和な日々だった。


突如現れた謎の飛行物体に人々は興味を示し、ついにUFOが現れたと騒ぎ立てられたのは一瞬であり、謎の飛行物体がレーザー砲で町を、市を、破壊し始めると、人々は恐怖で震え上がった。


日本の最新兵器は無力だった。


日本は安全な国ではなかったのか。


人々の怒りの矛先は政府に向かったが、抗議する人も、それに対応する政府の役員も次々にトゥーテーラに殺されてしまい、だんだんとその数を減らしていった。


まるで先の戦争のような。


でもどの国からも戦争は仕掛けられてはいない。


あいつはなんだ。


そう思う人は減少し続け、ついには4人だけになった。


生き残った4人は、どうして自分たちが生き残ったのか、またあの飛行物体の正体は何なのか、それからまだ前のように平和に暮らしている地域はあるのかを考えたが結論は出なかった。肉体的には生き残っているが、精神的には殺されていたのかもしれない。助けを求めて移動する日々が続いた。食糧は倒壊したスーパーから食べることのできるものだけをとってきて何とかしのいだ。お互いに赤の他人であった4人はその危機感から仲間意識が芽生えるのに時間はかからなかった。そしてある日、一人の少女―柚子野小夏―が不思議な力を持つことに気が付いた。その少女は他の二人の少女-神坂凛と藍羅朧-に魔力的なものを送ることで、自身は直接戦えなくても二人が代わりに戦ってくれた。こうして、ようやく自分たちの手で未来を切り開けるのかと思い、一気にみな元気になった。


―できるだけ明るく過ごそう―


そう思って日々暮らしてきた。だが、その日々が長すぎると人間のメンタルというのは弱いもので、あっという間に衰弱してしまう。それがいま早見の身に起こっていることなのだろう。


「ただいまー。」

静寂は早見の一言で居場所を失った。

「ふーちゃんおかえりー!」

柚子野はできるだけ元気な声でさけんでこの重い空気を吹き飛ばそうとした。

「小夏は元気ですね。まるで太陽のようです。」

感情の判別ができないような笑みを浮かべる早見に、柚子野は少し戸惑った。

「トゥーテーラの正体を探るためにまたいつものようにパーツを集めてきました。でも今のところ全く手掛かりはつかめていませんが・・・」

早見は淡々と言葉を放つ。深刻そうに語ってはいるがその表情は変わらなかった。むしろ、余裕さえ感じる。早見風華という少女はつかみどころのない少女なのかもしれない。

その余裕さとは逆に藍羅は、どこかお互いに理解していない部分が自分たちの中にあることを感じ、はたしてこのままで大丈夫なのかと不安になる。



この何の城だったのかもわからない城には一応そこそこ広いリビングの代わりとなるものがあって、個室もいくらかはあり、畑まである。(あるといっても、彼女たちが自ら作ったものだが。)しかし、城のすべては使えず、ぐしゃぐしゃに砕かれた城の残骸があちらこちらに広がっており、事の悲惨さを心に訴えてくる。城の周りのお堀だったところには今まで倒してきたトゥーテーラの残骸が並んでいる。


その残骸を踏みつけ、遠いものをみるような眼差しをしている者がそこに立っていた。


見た目30代くらいのその男性は少女たちの住む城へとゆっくり、しかし、確実に足を運んでいく。


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