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真夜中のミッドナイト  作者: 電池
2/2

吸血鬼はヴァンパイア

 「え、ちょっと、何言ってんのよ......」


 瞳に星をたくさん浮かべて、田中は私に言い放った。それはまるで、私を含むこの世への宣戦布告のよう。俺の言ってることを理解してみろ、とぶつけているみたいだった。いや、無理でしょ。いきなり「俺吸血鬼!」って言われて、ハイハイそうですか、ってなる人間を私は見たことがない。

 ぽかんとする私を他所に、田中は話しを続ける。


 「だから、俺は吸血鬼なんだって。同じことを何度も言わせなきゃいけないなんて、人間ってやっぱアホだな。いや、お前がアホなだけか」

 「受け入れられないのがアホなら私はアホでいいよ! 突然どうしたのよ、田中。もしかしてまだ具合悪いの?」


 そこまで言って、はっとした。田中はさっき、日光に当たるのを異常に嫌がった。それだけではない。田中の瞳の色は赤い。言われてみると、中学生の頃に私がハマっていた、「ヴァンパイア☆Love」っていう少女漫画に出てきた吸血鬼のキャラに似ている。まさか。

 私はブレザーのポケットから、十字架のネックレスを取り出した。念のため洗面台から持ってきた、私の今日のラッキーアイテム。たしか、吸血鬼って、十字架が苦手じゃなかったっけ?


 「田中、これ!」

 「わっ、うわぁあああっ!! 何すんだよ、バカ!」


 お父さんの私物である、十字架のネックレス。多分サンキューマートとかで買ったやつ。私から見てもちゃっちぃデザインのそれを見た瞬間、田中は目の色を変えた。そして、凄まじい力で私の手からネックレスを奪い取り、線路の方に投げ捨ててしまったのだ。


 「あっ、ダメだよ田中! 電車が脱線したらどーすんのよ! あんた往来危険罪って知ってる!? 電車に置き石して逮捕された例もあるんだよ!?」

 「うるせーな!! おまえ目の前に刃物向けられた時頭の中に法律とか出てくるか!? ほんっとあぶねー人間だな!」


 反論する田中を押しのけて、私は小さな無人駅を飛び出した。電車が来るまではまだ十分ある。私は急いでホームから線路に降りて、十字架のネックレスを拾う。今までもスマホを落として線路に降りたことが五回くらいあったので、もう移動も身軽なものだ。

 まだ私に向かってぎゃーぎゃー騒いでいる田中を横目に、私はネックレスをゴミ箱に捨てた。吸血鬼を自称するのはいいけど、田中はリアクションがオーバーすぎるのだ。もうこれ以上問い詰めるのも面倒だから、田中のことは「自分のことを吸血鬼だと自称する、遅れて中二病を発症した痛いヤツ」くらいに思っておこう。ていうか、今更だけど、田中って苗字の吸血鬼なのか。ダサいな。


 「......はぁ、朝から疲れた。田中、ジュース買ってきて」

 「俺も喉渇いた。お前のせいだろ」

 「なんでよ......」


 優雅に午後の紅茶を飲んでいる田中を、私はただ眺めている。私の分も買ってきてくれたらいいのに。


 「あ、そういえば田中。吸血鬼って設定なんでしょ。何型の血が好きなの」


 暇だから、私は田中に話を振ってみる。どうせまた、「B型だな」的な答えをドヤ顔で返してくるだろう。田中の行動パターンが読めてきてしまった。

 田中は「設定」のところで露骨に嫌そうな顔をしたものの、「その質問、待ってました」とばかりに話しだす。


 「B型だな」

 「やっぱり?」


 あまりにも予想通りの答えに驚く。田中って、根本的にはわかりやすい奴なのかもしれない。ちなみに私はAB型で、血を吸われる心配はないので安心だ。いくら設定とはいえ、田中は自分のことを吸血鬼だと信じてしまっているから、これからどんな行動に出るかわからない。


 「じゃあ、なんでここに居るの?」


 次。田中はどんな設定で通してくるだろうか。

 私の読んでいた「ヴァンパイア☆Love」に出てきた吸血鬼は、フランスかどっかの吸血鬼だけ隔離された村から、社会勉強のためにわざわざ留学しに来ていた。最終的には主人公の女に惚れて日本に残ることになったのだけれど。


 「えっ......そ、それは言えないな、お前には」


 田中は慌てたように言う。それに私は、少しがっかりしてしまった。設定を考えていないのがバレバレだ。もう少しちゃんと決めてから自称して欲しいものだな。

 このテンパりっぷりを見ていると、さっき私のお母さん相手にあんなに好青年だったのが嘘のように思える。私の前での田中は、喜怒哀楽が激しくて、なんでもすぐ出るわかりやすい奴だった。


 「そんな目で見るなよ! どうせまた俺が変な事言ってるとか思ってるんだろ!?」

 「はいはい、静かにして。電車来たから行くよ」


 こんなすっとぼけた奴が、ちゃんと学校生活を送れるのだろうか。私は心配になるけれど、結局他人事だし、田中は田中で、なかなか面白いキャラをしているから、友達の居ない私とは違って助けてくれる人もいるだろう。二分遅れでのろのろとやってきた、がたつく電車を見ながら、私はそう思っていた。

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