全ての始まり
「ガルルルウウウウウ グヮッ!」
その狼のような魔物が、右左と変則的な動きをしながら、俺の首筋に向かって飛びかかってくる。
到底人間が目で捉えうることができないであろう速度だ。“普通の人間”であれば、致命的な怪我を負うことだろう。
が、今の俺にとっては簡単だ。
今、空中を飛びこっちに向かってくる様子はまるでスローモーションに見えるのだ。
魔物が顔の目の前に近づいた瞬間、ゆらりと横に踏み込み、魔物の胴体を捉える。
その魔物は、目の前から消え去った俺を見つけることは叶わず、すれ違い様に首に大きな衝撃を受け同時に意識を刈り取られた。
首がゴトリと地面に落ちる。首を失った体は、光と共に消え去った。
(今回のドロップは…はあ…108回連続肉か…。)
いらないなあ。魔石が良かった。
俺にとってはゴミ当然のもの。
しかし、一応この肉は最高級の肉であり、市場に現れるのは、十年に一度。
Sランク ウインドフェンリルの体は、小柄で見た目は狼と変わりない。
しかし、疾風の如く襲うため、討伐が非常に難しい。
そのためなかなか市場に現れないのだ。
その肉を108個も確保してしまった。
(この肉、どうしよう 売ったら街を壊しかねないし…) とりあえずアイテムボックスにしまう。
まあいい。そこの木の根元で休もうか。
ふと、空を見上げる。
緑に茂る木々、鳥のさえずり。葉の隙間から見えるのは青く透き通る空だ。
こんな景色、「地球だったら」なかなか見れなかっただろう
ここは、剣と魔法の世界、アルカディアであり故郷の地球ではないのだ。
(この世界に呼んでくれた女神には感謝しなきゃな。そして、女神に報いるためにも絶対にあのクエストを完遂しなければならない。そのためにも俺は強くならないと!)
この世界に訪れたのは全てあの時がきっかけであった
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重い瞼をそっと開くと知らない真っ白な天井だった。
病院の天井にも似ているが、蛍光灯が見つからない。
とりあえず、不思議と軽い体をむくりと起こすとそこは、永遠と続く真っ白な空間だった。
材質は大理石に似ている。
いやそんなことを考えている場合じゃない、ここはどこだ?俺はベッドで寝ていたはず。ここは夢…?
と、その時。
「起きましたか?サトウハジメさん。」
美しく澄んだ声が後ろから聞こえたきた。
反射的に振り返ると、
銀色に輝く長い髪、白い肌、青く輝く眼、そして美しいドレスを纏った美女がそこに立っていた。
「初めまして、アンネ=クローネと申します。魂を次の生へと導く者。そちらの世界では女神という表現があっているでしょう。」
案外強いメンタルを持つ俺でも、この状況には混乱せざるを得なかった。