レスティナ家の秘密
二話です!いつも読んでくださりありがとうございます!
こうして望み通りにリリア嬢となったカイトは、しばらくは優雅な生活を楽しんだ。朝は天蓋つきのベッドで目覚め、猫足のついたバスタブにバラの花びらが浮いた浴槽に身を沈める。豪勢なブランチを堪能した後は、バイオリンのレッスン。休憩には屋敷つきのパティシエが作ったケーキと南国のフルーツの数々が並ぶ。そうこうしているうちに一日が終わる。酒が飲めないのだけは残念だったが、その他は申し分ない生活と言えた。
ただ、リリア(偽)には一つ気になることがあった。時々家に出入りしている男たちの存在だ。本物のリリア嬢ならいざ知らず、リリアの中身であるカイトほどの歳にもなれば、その男たちの身のこなしが相当「経験」を積んでいることがすぐに分かった。しかしリリア(偽)の目的は楽に愉しく暮らすことだ。レスティナ家が裏稼業に励んでいようが、どこかの海に誰かが沈められようが、興味がなかった。
しかし、そうも言っていられない事態になったのはカイトがリリアのボディを手に入れてからたった一週間が経つある月夜のことだった。
「そろそろお嬢様生活にも退屈してきたな、酒とタバコが恋しいぜ。お嬢ちゃんでなくて大人の女にするべきだったかな。体もすっとんとんで面白みもないし」
リリアは自由になる金を持って夜の街にでも繰り出そうと思い、屋敷を抜け出した。外は肌寒く、リリアは身震いした。
「ああ、寒いな。一杯引っかけてからくりゃよかった」
そこまで言った時、後ろにただならぬ気配を感じた。振り返ると
カイト自身のボディなら逃げ切ることもできただろうが、リリアの小さな体では抵抗も空しく、麻袋を覆い被せられそうになった。その時、リリアの耳に聞き覚えのある、いや、ありすぎる声が聞こえた。
「全く、様子を見に来てみればこんな事に」
声の主は、音もなく男達を蹴散らしていく。月の光に横顔が見えた。そこには、見間違うはずもない、二十数年来付き合った愛しのマイボディの姿があった。
「ええ。私はリリア・レスティナですわ。誘拐計画があったのを知って、少しの間ボディを留守にして色々調べていたんですの。怪しまれないように、ぼんやりとお嬢様暮らしをしてくれそうな人を探していたのですが、下請けに任せたのが間違いでしたわ。入れ替わりは自分で探すべきでしたわね」
「やっぱりそんな事だろうと思った。こんなに割りの良い話が転がってるわけねえもんな。あと、俺の体でその口調は止めてくれ。気持ちわりい」
「その言葉、そっくりそのままお返しいたしますわ」
リリア(中身はカイト)はつんと口を尖らせた。
「しかし、お前の家も中々に汚い金を動かしてるみたいだぞ、嬢ちゃん」
「これはビジネスですわ。口出しと詮索は無用ですの。海に永遠に漂いたくないのなら、ですが」
「お前、まさか」
「ご挨拶が遅れましたわね。私はリリア・レスティナ。正式な当主は父ですが、色々な仕事を任されておりますわ」
月明かりの中、男(中身は少女)は怪しい笑みを浮かべたのだった。