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暁降ちを望む  作者: コウ
魔法使いの集う場所
99/333

「魔法使いの……って事は、このサイトに出入りしてる奴らは全員が魔法使いって事か!?」


 宮村が目を剥く。真田も少なからず驚いていた。他にも魔法使いが沢山いる事は想定の範囲内だが、それがこうしてインターネット上で寄り集まっていたとは。最上部のサイト名の他には二つほどのリンクが白い背景に配置されているだけのシンプル過ぎる内容だったが、その中には一体何が潜んでいると言うのだろう。


「その通り! ここが魔法使いが集う、魔法知識の図書館。あらゆる情報がここにはあるわ」


 仁王立ちして腰に手を当て、堂々たる口調で宣言する篁の背後から、グラスを乗っけたお盆を持った店長が口を挟む。


「祈ちゃんは芝居っぽい言い方が好きだねぇ。お待たせしました、アイスティーとアイスコーヒーです。それとオレンジジュース。そんな話し方するなら格好つけてコーヒーでも飲んでみる?」

「い、良いの! 好きじゃないのを好きじゃないと認めるのも大人なのよ!」


 テーブルのど真ん中に置かれたパソコンを包囲するように配置されたグラスの中から濃い黄色の物を篁が奪うように取り上げてストローに口を付け凄まじい勢いで吸い上げる。苦手なのだろうか、コーヒー。

 その姿を見ているのもまあ面白いのかもしれないが、そういう訳にもいかない。真田達をここまで連れて来た真意、それを確かめなければならない。


「で、でですね……その、結局どういう事なんでしょう」

「前髪クン!」

「はっ?」


 質問をしたら急に大きな声で呼ばれた。自然に自分の事を呼ばれているのだと理解できてしまった事も嫌だったが、会話が成立しないのはもっと嫌だ。会話はできる限りスムーズに手早く済ませてしまいたいのだ。真田自身が喋るのに少し時間が掛かるので、相手には分かりやすい会話を求めたい。この場合、一番スムーズに進める方法は、相手に全てを任せて身を任せる事なのかもしれない。


「キミが初めて戦ったのは五月の上旬よね? 次はその翌日に、《白息しらいき》と……」

「ちょっ、ちょっと待って下さい。その、何で知ってるんですか。というか、白息……?」

「ええ、白息。渾名あだな

「あ、渾名……」


 いきなり知らない人物を渾名で呼ばれても反応に困る。いや、どうもその人物自体は知っている相手のようだが。以前戦ったホスト風の男。どうやら彼を指して白息などと呼んでいるらしい。由来不明。

 その渾名文化に対して真田が疑問を持った時、彼女の口角がクイッと上がった。どうやら、まんまと話の前フリに使われてしまったようだ。


「このサイトのメインコンテンツは掲示板。ここでは日々、色んな魔法使いの目撃情報が書き込まれるわ。『あの魔法使いを見掛けた』『初めて見る魔法使いがいた』……そんな情報がね。でも、その魔法使いの名前なんか知るワケがないじゃない? だから適当に渾名を決めて呼ぶのよ」


 一番上にあるリンク、単純に掲示板と書かれたそのリンク先では魔法使いによる魔法使いの目撃談が飛び交っている。説明を聞いて少しだけその渾名文化に合点がいった。確かに、戦闘前に名前を把握していたのは元から赤の他人ではない宮村と名乗りを上げてやたら正々堂々と戦おうとしていた日下くらいのものだ。


 当人ですら相手の名前など知らないのに離れた所で観察している人々が知っているはずがない。そして、恐らくこのサイト上での渾名なのであろう呼び名が一つ頭の片隅にある。


「じゃあ、もしかして《海坊主》ってのは……」

「キミが初めて戦った相手ね。結構強くて有名だったんだけど調子に乗ってるって話だったのよねぇ……そんな海坊主が初めて見た魔法使いに負けたんで話題になったのよ? いきなり注目度も急上昇!」

「へぇ、凄いじゃん、真田! 俺と会う前の事ってそういや知らねぇんだよなー」


 宮村が背後で呑気に感心しているが、真田はと言えばそれを誇るような気にはなれない。坊主頭の水使い。大きなものどころか小さな怪我すらろくにしない生活を送っていた真田にとって初めて訪れた死の恐怖。あの時の事を思うとどうも背筋がヒヤリと冷たくなる。トラウマのようなものになっているようだ。


 しかし、知らない所で注目を集めてしまっていたらしいが、イマイチ気分が悪い。自分に対する陰口を聞いた事のある彼は、自分に対する陰口を叩かれている可能性があるのだと再認識させられた。それ故に与り知らない所で行なわれていたらしい会話が不安になって気に入らない。

 まあ、そんな個人の心境はこの際どうでも良いとして。


「白息ってのは……」

「ああ、すっごい風吹いてるから」

(……あー、ホワイトのブレス……)


 頭の中でガンガンと音楽が流れ始めたような気がする。自分としては必死に風に抗って戦ったつもりだったのだが、由来も込みでこの渾名を知っている人々からすればさぞや滑稽な光景だったろう。自分でも少し笑ってしまいそうだ。


 納得している様子を見て質問の終わりを悟ったのか、パソコンの淵を指でなぞりながら篁が口を開く。


「さっきあらゆる情報があると言ったけど、それは嘘じゃないわ。貴方達四人が手を組んだ事は……正確には知られていないけど、これまでの事実から考えるに、戦って決着がついた後でも腕輪が壊れていない場合は手を組んでいる可能性がある」


 彼女は淡々と話しながら四人の顔を順番に眺める。一巡したところで、何度か頷いて何故か真田の目をジッと見ながら話が続いた。


「あたしはね? この四人に期待してるの。真っ先に手を組む選択肢を思い付いて実行したこの四人は今、誰よりも多くの戦力を持っていて、誰よりも早く地盤を固める事ができる……つまり、この四人の誰かが最終勝者になる可能性が極めて高い」

「だから、君は私達にコンタクトを取ろうとしたと?」

「ええ、その通りです。良ければあたしも一枚噛ませてもらえたら、と思いましたの」


 言葉を引き継いだ梶谷の声は少しだけ威圧的。自分を利用しようとしている事が気に入らないのか、それとも試しているのか。仮に後者だったとした場合、恐らく彼女は合格だっただろう。真正面から目を見詰め返しながらバチバチと火花を散らさんばかりに堂々と返している。取り繕うでもなく、素直すぎるくらいに。

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