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暁降ちを望む  作者: コウ
魔法使いの集う場所
95/333

「なんとまぁ現金な……」


 宮村がやたらと元気に大きく腕を振りながら先頭を切って歩き始める。そして、その斜め後ろを揚々と日下が追う。そこから少し離れて真田と、右隣に梶谷。二つのグループに分かれたような形になった。

 この状況は割と喜ばしい事だ。梶谷は積極的に話し掛けてくる方ではないので、考え事に集中できるし、梶谷には用もある。


(問題は見付かるかどうかより、見付からないと判断するタイミングだな……今日から連続で三日探して、それでも見付からなかったら次の案を考えないと。でも、今はそれよりも……)


 あまり人には聞かれたくない話をするため、わざと少し歩くペースを落とす。さらに少しだけ前を歩く二人との距離が離れた事を確認して、少し抑え目の声を発した。


「……梶谷さん」

「うん? どうしたんだい?」

「こっそり、良いですか」

「――聞こうか」


 内緒話を察したのだろう、彼もまた歩くペースを落とした。再び真横に並んだ梶谷は軽く腰を曲げて、小さな声でも聞き逃さないようにしてくれている。


「一つ疑問がありまして……僕達は怪我しても腕輪で治せますけど、魔法使いじゃない人が例えば僕の火で火傷とかしたらどうなるんでしょう」

「火傷を?」

「はい。普通に治るものなのか、それともやっぱり何か特別なものなのか……普通に治るなら良い……とはまぁ、言いませんけど。それでも、もし魔法使いじゃない人を巻き込む事になった時に少し行動が変わってくると思うんです」


 真田が話しているのはもちろん、吉井の事だ。彼女の火傷が普通に治るのか、それとも治らないのか。あくまで例え話として、肝心な所は片っ端から伏せて。

 真田は事情を全て知っているからこれだけでも何を聞いているのか、どのような答えが必要なのか理解できるが、それを知らない相手にとって充分だった説明かどうかは分からない。しかし、梶谷はちゃんと理解してくれたようで腕組みして頷いている。


「なるほど……魔法に何か特別な作用があるなら普通の人達にとって危険極まりない。確かに、気になるところではあるね」

「でしょう? 梶谷さんなら何か、知らないにしても調べたりできないかなと思いまして」


 これは人に知られたくない悩み事だ。しかし、梶谷にだけは相談した事にはもちろん理由がある。彼ならば長く生きている分だけ多くの知識を持っているだろうという事。そして、知らなくともそれを調べられるだけの人脈を持っていたり、難しい本なども手に入れたり理解したりできるかもしれないという事。人脈という点においては宮村も日下も真田を圧倒するだろうが、総合的に考えるとやはり相談する相手は梶谷しかいない。


 色良い返答が得られなかった場合は他に相談する事はせず、独力で何とかするつもりだったが、どうやらその必要はなさそうだ。


「ふむ、良いだろう。早ければ明日にでも連絡をしよう」

「え、マジで当てがあるんですか」


 正直驚いた。ありがたい返事ではあるのだが、まさか最短で明日と言い切れるほどとは。自分で思っていたよりもこの悩みは小さいものだったのかもしれないと思うほどアッサリである。


「その当てが当てになるかどうかは分からないけれど、ね。当てが当てになったら明日には分かるだろう。責任を持って調べてみるよ」

「あ、ありがとうございます。助かります!」

「んー? 真田ぁ? どうかしたかー?」


 勢いよく頭を下げながら感謝の言葉を。思わず、その声は大きくなってしまった。こんなに人がいる所で大きな声を出してしまうなんて。吉井の火傷に関する事が分かりそうな事がよほど嬉しかったのだろう。そんな声を聞いて前を歩いていた宮村が振り向いている。


「あ、いえ。何でもないです。問題ないですからー」

「そっか? じゃあ良いけど。あ、おっちゃーん? ハンバーガー食いたいんだけどー」


 真田が大きな声を出した事は気になったが、その顔が(あまり見えてはいないが)暗いものではなかったため、返事を信じて追究はせずに話題の矛先を梶谷の方へと移す。指差す先にはMの字が燦然と輝くハンバーガーレストラン。軽い気持ちでテイクアウトして食べるには少々遅くなる気もするが、真田も嫌いではない上に値段の面でも人の財布となると気が大きくなる。これは悪くないチョイスだ。


「はいはい……じゃあ、真田君。何があったのかは知らないけれど、頼まれておこう」


 苦笑いしながら少し歩く速度を速めて追い付こうとする。その直前に、梶谷は真田の肩に手を置いて耳に顔を近付けて囁いた。ただの例え話を聞いた後にしては、その言葉は少し不自然だ。


(隠し事があるって事には気付かれてる、か……良い人だけど、嫌な人だ)


 去り際にわざとらしく言ってくる所が特に。意外と性格は良くない……と言うよりも、これは彼の会話術か。完全に見透かされた気がして自分が風下に立っている気分になる。好々爺然としているが、流石は野心溢れる若い総合商社を動かしていた人物だけある。


 だが、味方であるその背中はむしろ頼れると言うべきだ。気の良い友人、可愛い後輩。そして優しくも恐ろしい大人。


 なかなか、良い仲間に恵まれている。そう考えながら、真田もまた前方を往く三人に追いつけと歩調を速めるのであった。

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