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暁降ちを望む  作者: コウ
魔法使いの集う場所
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「――これ、は……っ!」


 角を一つ曲がった、ただそれだけの事だったはず。しかし、この空気の変わりようは何だ。夏の晴れた空の下、この場所ばかり空気が淀んでいるように感じる。肌にべっとりと貼り付くような嫌な空気だ。腕輪を着けた右手首が激しく主張している。


「凄い……何と言うか、もう手首が痛いレベルですよ」

「面白いものだろう? ここ風見市には、夜になると人通りが極端に減る道がある。そこに一歩入ればこの通り。魔力が尋常ではなく渦巻いているんだ」

「ここでは多分、何度も何度も戦闘が行なわれてるんです。俺も、前にここで戦った事があります。その痕跡が残り続けてる……」


 この流れるような説明。この風見市に住む二人にとって、それは当たり前の事であるようだ。当たり前の事ではあっても、その顔はやはり少し苦しげ。この場所を歩いている人々は何も感じる事なく当然のように過ごしているが、この場所で四人だけがこの重苦しい魔力を感じている。


「クソッ……ちょっと離れねぇか? あんまここにいると腕輪がウザくてイライラしてくる」

「そう、ですね……ちょっと駅前まで戻りましょう。確かにこれはアレですね」


 いい加減この魔力には耐えられない。初めからこういう状況だと理解して足を踏み入れたのならまだしも、真田にとっては完全に不意打ちだ。体力がドンドン削られているような錯覚。不愉快さを隠そうともしない顔の宮村と二人、急ぎ足で駅の辺りまで戻る。その後ろを他の二人も追って来た。


 フッと体が軽くなったような感覚。息苦しさが解消される。まさか酸素も減っていたのではないかとすら思えるほど。駅前ともなると、それもここは都会と呼んでも良い土地だ、人が実に多い。そんな中でも変に目立たないように小さく肩で息をしていると、背後から梶谷が声を掛けてくる。


「どうだい? 私は、普段ここらで行動する際は敢えてできる限り先程のような道を使っている。その方が他の魔力に紛れる事ができるからね」

「……分かりました、僕の考えが至ってなかったです。外に出ない罰ですね」


 日下と梶谷、そしてどうやら宮村もこの事を知っていたらしい。知らなかったのは腕輪を手に入れてからというもの風見には足を運んでいなかった真田だけ。あの夜も先程の道にいたのだが、その時はそんな事を感じ取っている余裕がなかった。自分の魔力と相手の魔力を感じるだけで精一杯。

 こうして探すのに賛同していたのは恐らく、真田もそれを分かった上で何か考えがあると思っていたからだろう。ならば、彼はその期待を見事に裏切った事になる。考えが甘すぎた事を素直に認めるしかなかった。


「はっはっは、これに懲りたらお前は家だけじゃなくて外でも遊ぶようにするんだな」

「先輩、何でそんな偉そうなんですか……で、どうしましょう。さっきの道を行っても良いですけど他の魔法使いが通りかかっても分かりませんよ? 俺や梶谷さんはその目的の相手の顔も知りませんし」


 まったくもってその通り。真田と宮村は探している男の顔が分かるが、日下と梶谷はそれを知らない。魔力から魔法使いと判断して、それを顔を知っている二人が確認するしかないのだ。しかし、通行人の中から魔力で判別する事ができない以上はそれができない。

 ならばどうするのか。考えてみようと思ったが、そんな事するまでもない。もはや選択肢など一つしかないのだ。


「……魔力の少ない道を選んで行きましょう。探すならそれしかありませんし、魔力の多い道だけを選んで生活できるワケがありません。それと、個人的に地図も頭に入れておきたいです。魔力が多い所は夜になると人通りが少ないんですよね? 今後、それを知っておいて損はなさそうですし」


 どこにいけば人が少なく戦いやすいのか、それを把握しておくのは悪い事ではない。どうもメインの目的が変わってしまったように思えるが、仕方がない。それに探せない訳でもない。歩き回れば見つかる可能性は充分過ぎるほどあるはず。


「地図、か……私も行動範囲は固定されがちだからね。歩いて調べるのは必要かもしれないな。いざという時、自分を助けるのは経験だ」

「うえ、めんどくせぇ……」

「良いじゃないですか。俺は少し楽しみです。部活だ稽古だでこんな事してる暇ってほとんどなかったですから」


 探すという目的がフワッとしてしまったせいでまた目的意識の薄い散歩になってしまいそうな事を嫌がり、宮村が肩を落とす。心の底から嫌そうだ。どうも単純な流れ作業などは苦手なタイプと見た。

 対照的に日下は良い笑顔をしている。幼い頃から剣を叩き込まれるという漫画のような出自のせいで遊べなかった反動か。しかし、部活を辞めた今、彼は日下一刀流の稽古に打ち込まねばならないはず。


「日下君はこんな事してても大丈夫なの?」

「ああ、はい。元々、中学三年間は部活を優先で稽古は最低限だったんです。部活を辞める事は父にも認めさせましたし、受験のためとか言って稽古のペースも今までのままにしてもらいましたが成績は良い方なので焦る事もありません。つまり……今の俺は自由なんです、フリーダムです! 物心ついてからこんなに自由なのは初めてかもしれません……っ!」


 本当に、良い笑顔だ。目がキラキラと輝いている。放っておいたらこのまま感動で泣くのではなかろうか。こういった所は思いの外、子供っぽくて良いと思う。遊べる時には遊ばねば。もっとも、真田もこうして外で遊ぶ事はほとんどなく家の中が主であるが。


「楽しそうで良い事だ。宮村君、どうだい? ちょっとした遠足か何かだと思って」

「ま、良いんだけどさ。――そうだ! おっちゃん何か奢ってくれよ。金のない空腹学生に愛の手を……」

「ふっ……仕方がないな。言っておくけれど、少しだけだよ? 夕飯前でもあるからね」

「オッケオッケ。それじゃ行こうぜみんな、食いたい物……じゃなくて、アイツを探さねぇとな!」


 交渉が成立した途端に宮村は元気が爆発している。家計の問題上、買い食いなど久しくしていないのだろう。家庭内での話し合いなどがあった結果、色々とあって普通と言うほどではなくともかなり生活に余裕ができたらしいが、それでも染みついた習慣が自腹での買い食いという行為を押さえつけていたようだ。

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