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これまでの人生の中で最も短い下校所要時間で辿り着いた真田の部屋。電気を点けると部屋の隅には箱が置いてあった。腕輪を着けて満足し、隅の方に追いやった小さな段ボール箱。
それを部屋の中央まで移動させて、手紙を読む覚悟を固めるためか居住まいを正して正座する。箱を開けると中には白い封筒一つ。
恐る恐る封筒を手に取り、開ける。中には数枚の手紙が入っていた。
パソコンで入力されたらしい明朝体のフォントの字。それ自体は読みやすい。数秒だけ固く目を閉じ、何が書かれていてももはや動じない覚悟を決めて手紙の内容に目を通す。
しかし、その内容は真田の覚悟を上回るような突飛な内容であった。
『おめでとうございます。あなたの心の内に秘めた《一番の願い》を叶える機会が訪れました。
人が願いを抱いた時に発せられる力、願いを叶えたいと思う、いわば《意志力》を私が感知し、大きな強い意志力を発している方にこのお手紙と腕輪をお送り致しました。
あなたは選ばれました。腕輪をその身に着け、素晴らしき魔法使いとなる資格を得たのです。この腕輪によってあなたは遥か昔に滅んでしまった奇跡、魔法を行使する事ができるようになります。
しかし、その魔法も万能ではありません。あなたに相応しい魔法が一つだけ与えられるのです。風、土、雷、水、火……どれがあなたの力となるのかは分かりません。あなたは自らに与えられた魔法を用いて、自らの一番の願いを叶えて下さい。
叶える方法は一つ。あなた以外にも腕輪を持った人間がいます。そんな人々と戦うのです。もちろん、魔法を使って。あなたが最後の一人となった時、願いは叶えられます。
ご心配なく。戦闘によるあなたの肉体への被害はすべて腕輪が請け負います。当然、ご自身の限界を超えた、致死量の痛みを負った場合は腕輪は壊れてなくなってしまいます。
それによって、あなたの戦いへの参加資格は失われる事となります。
また、一度身に着けた腕輪は壊れるか、願いを叶えるまでは外す事はできません。
装着した腕輪に触れて意識を集中させれば、偉大な魔法の力があなたの物となります。
それでは、ご健闘をお祈りします。』
「……はぁ?」
夜も更けゆかんとする午前三時過ぎ、その素っ頓狂な声は誰にも聞かれる事なく部屋の中の空気に溶けて消えてしまった。